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アレスクの街


 アレスクの街


 引っ越すのは簡単だった。母親であるシェルにお願いすれば簡単に了承してくれた。

 代わりに夜、一緒に寝ることになって少し自由になる時間は無かったが、美人の母親なので役得とでも考えている。



 リーフは僕にべったりで俺が母さんと寝ると言うと膨れっ面になりベッドに一緒に入ってくる。

 母さんが買った家は割と大きく、部屋も複数個あり三人家族にしては少し多すぎる、大きすぎるくらいだが母さんは物置が増えると喜んでいた。



 結局ダブルベッドの中に僕と母さんの二人な筈だったがリーフが懐に潜りこんでくるか、もしくは背中に抱き着いて眠る所為で母さんが困った顔をしながらトリプルベッドを買うかどうかを考えているのを見た。


 街での生活は非常に快適で母さんは役所のような場所から仕事を貰ってきたらしく意気込んで仕事に出て行っている。

 僕やリーフはその間に街を散策して遊んでいる。



 僕の魅了の力の効果が出始めたのは引っ越しを終え、僕とリーフが散策を始めてから3日ほど経ってからのことだった。


「フィル君……とリーフちゃん、おはよう!」

 カラカラとした笑みを浮かべる野菜売りのおばさんがニコニコと話しかけてきた。

 2,3回程度しか会ってないけれど僕の魅了の力によって記憶に残るのだろう、間違えることなく名前を呼んできた。



「おはようございます」


「おはよう……ございます」

 人見知りの気があるらしいリーフは僕の後ろに隠れるようにして小さく挨拶した。それを見て気分を良くしたおばさんは大量の野菜が入った籠を手に取り、僕に渡してきた。



「え……あの、これ……」


「ふふ、いっぱい採れたからね。お裾分けだよ」

 そう言ったおばさんの頬が少し赤らみ、恥ずかしそうにしている。


 美男美女が大量にいるこの世界の住人であるこのおばさんも昔は美人だったのだろうが今は流石に年相応と言う感じで頬を赤らめられても反応に困る。


 僕はそれに気づかないふりをしながら感謝を述べ、頭を下げて籠を受け取った。

 この世界の金の価値と言うのは何だったか……銅貨、銀貨、金貨……


 銀貨2枚分程度の価値だろう。


 正直な所僕は全くと言っていいほどに使わないのでお金の概念が分からないのだ。


 村の中ではアレが欲しいと言えば母さんが買ってくれるか、タダでくれるかのどちらかだったからだ。

 勉強不足だなと少し戒めつつ、籠を持って家に向かって帰り始めた。



 その道中、僕の隣を横切る人がいた。


 男だ。


 金色の短髪、碧眼、それなりに整った顔。

 この世界の標準の髪や瞳であるがそれ以上に目を引くのが来ている鎧や背中に背負っている剣だった。



 僕の斜め後ろにいたリーフが僕の不思議そうな顔を見てボソッと耳元で呟いた。


「あれは冒険者だよ、お兄ちゃんがどこかに行ってる時に一度チラっと見たくらいだけど」


「冒険者?」

 人波の中に消えて行った何でもない男を見送るように眺めていた。


「冒険者、何でも迷宮を探索したり増え始めてる魔物の駆除をしたりしている傭兵……みたいなものって言ってた」


 何で小学3年生程度の妹に知識で負けているんだ……僕が割と真面目に落ち込み始めている時にギュッと僕の手を誰かが握った。



「え?」

 リーフだった。リーフは不安そうに僕の顔色を窺っている、まるで怒られた子供のようなその姿は無条件で僕の嗜虐心に火を点けそうになる。


「お兄ちゃん、ごめんなさい。私……良い子じゃなかった?」

 彼女は僕の気分が変わったのは分かったのだろうが僕がどんなことを思っているかなどはどうも分かっていないみたいだ。


 でも取りあえず悪いことしたのは私のせいだから謝っておこう、と言うことだろう。

 何も言わない僕を見たリーフは目に涙を浮かべ、プルプルと震えている。



 取りあえず僕はリーフの頭を撫でて嬉しそうに笑みを浮かべたのを見てからまた家へと向かって歩き始めた。


 しかし冒険者に迷宮、魔物と。魔法もあるようだし悪魔、恐らく天使と。それこそファンタジーな世界だね。

 帰り際、わざと肉屋や雑貨屋のある道を通って帰った所見事に僕の事を発見したらしいおばさん達が僕に大きくなれと言いながら肉や食料品、ほかにも諸々くれた。



 凄い大量の荷物をリーフと一緒に持ちながら家に帰ることとなった。



 リーフが家に帰ってくると僕に尋ねてきた。


「お肉屋さんとか、雑貨屋さんの近くを通ったのはこれのため?」


「うん、そうだよ。良く分かったね」

 そういうとリーフは誇らしげに胸を張って頷いた。


「うん! 私はお兄ちゃんの事なら何でも分かるの!」


「へぇ、じゃあ今僕が何を考えているか分かる?」


 意地悪な質問をすると途端にリーフは困った顔に、僕がそれを笑ながら眺めていると涙目になったリーフがブンブンと顔を横に振った。

 人見知りな妹だけど僕の前だと快活な少女に変わる、人見知りって言うのは色々と大変だね。



「分からない……」


「そっか、まぁ気にしてないから別に良いよ」

 僕の答えにどこかホッとした表情、怒ってないことを察したのだろうリーフは荷物を置くと嬉しそうに僕に飛び込んでくる。


 リーフを少し甘やかしつつ、母さんが帰ってくるまでの数時間待つことにしたのだった。

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