契約
俺は転生者だ。
どこにでもいるパッとしない男だった。
そんな俺はこの地球に生きる意味を持てなくなり、自殺した。その俺を救ってくれたのは、自身を悪魔と名乗る男だった。
「ねぇ、君。面白い人生送りたくない?」
「え……?」
悪魔が提案したのは、特殊な力を与えて、異世界に送るから、魂を集めて来いということだった。
俺は少し考えた後、頷いた。
「悪魔様……私に、力を下さい」
「契約は成立だ、良いよ……与えよう。それと悪魔様っていうのは少し……情けない、名前を教えておこう。サタナキアと呼んでくれ」
「サタ、ナキア……様」
サタナキアと名乗った男は笑みを浮かべ、頷いた。
「君に魂を集める方法を授けよう」
「は、はい!」
「殺せ」
「っ……」
「ありとあらゆる者を殺して殺して、殺せ。君が間接的にでも関わればそれは僕への供物……魂となる」
「間接的に……?」
「ああ、君が殺しをすることはあまり期待していない。だから君が間接的に関われて、僕の力が与えやすい能力を決めた」
「能力……」
サタナキア様はより一層笑みを深くし、嗤った。俺は唾を飲み込み、一挙手一投足に目を配った。
「君に授ける力は魅了の力。生物学的に考えて、性別がメスの生き物の価値観や思考を完全に書き換え、君と言う存在を魂に書き込む。能力の発動条件は簡単、君と言う存在を相手に理解させればいい。それは君の声や姿、そして感触のようなものから伝わる。君と言う存在を察知した時点で魅了の力は発動する」
「そんなに強力な……」
「ああ、ただし――」
サタナキア様は笑みを止め、無表情で俺を眺めるように言った。
「魅了の力は、ゲームで言う状態異常やバフ、デバフって言うんだっけ? それに似ているんだよ。ええっと、これだ」
何もない虚空から画面のようなものを表示したサタナキア様は整ったその顔に笑みを浮かべ、画面をチラリと見た。
画面には0から100までの数値が描かれている。
「この数字、好感度って言うのを簡単に表したものでね。0を他人とするなら100は離れたくても離れられない、盲愛とでも言うべきかな。そんなものでね、君に与えた魅了の力は……ここ!」
90、と言う数値を叩いたサタナキア様はニヤリと笑った。
「一度で大体ここまで進む、でもこれは基本値であって魅了にも強度っていうのがあるんだよ。君が文字を書いている姿を見せるのと、君の書いた文字を見て君の姿を想像するのでは好感度の上がり方に差が出るんだよ」
――じゃあ、とここで区切ったサタナキア様は悪魔らしい笑みを浮かべた。
「ふふ、ここから……何度も魅了の力を受けた相手はどうなるのか……100と言う上限に大体1度で達した、90と言う好感度を持った相手に、もう一度90の好感度を叩き込むとどうなるのか……100から上に行かないのか、それとも180になるのか、気にならない?」
「気に……なります」
俺の言葉に嬉しそうに頷いたサタナキア様は画面を消して俺を見た。
「100を超える好感度になった場合、その相手は壊れる。そして魂に書き込まれるんだ……101と言う数値が、永遠にね」
「……え、どういう……ことですか?」
「魅了の力は状態異常みたいなものだけど、100を超えたら状態異常じゃなくて、通常になるんだよ。魂に書き込まれちゃうからね。どんな手でも君に対する好感度を下げようがないし、君に対する想いや好意はその魂が生まれ変わっても、記憶が消えても覚えているんだ。これはこの魅了の力が魂を元に他の魂に働きかける特殊な行動に基づく力なんだけど――君に言っても分からないか、分かりやすく、分かりやすく、分かりやすく言うとね」
「好感度が100を超えても君への好感度っていうのは上がっていくもので……いや、特に変わらないよ」
ニヤニヤとした笑みを浮かべたサタナキア様に曖昧な返事しか返せなかったが、それでも満足したようだ。サタナキア様は笑みを浮かべて言った。
「魅了の力に振り回されるんじゃなくて、君が振り回すんだよ、忘れないでね」
その言葉を最後に俺の意識は途絶えた――