シガーキッス~ロマンチックなキス~
どうも、三笠 宏生と申します。
CHERRY。惜しい煙草をなくしましたね。吸ったことないんですが。吸えるのなら味わってみたい煙草ではありました。
まぁ、吸えないんですが。
「……はぁ。火が着かないってどうなってんのよ、マジで」
寒空の下、煙草をくわえ、禁煙スペースに女が一人いた。
「折角、仕事終わりの一服を楽しみたかったのに。おまけに寒いし」
しかも今日はお気に入りで特別な一本なのだ。それなのにそれを吸えない。誰に言うわけでも無く、一人愚痴が零れる。
持っていたライターが着かないのだ。近くのコンビニに買いに行く、という手もあるがそれも面倒臭い。しかし、このまま帰ると言うのは何だかスッとしない。
だから彼女、三澤 遥は留まっていた。
何をするでもなく、ただボーッと雲の多い青空を煙草と一緒に見上げた。
何分ぐらいそうしていただろうか。体感的には大分時間が経ち、気持ち的に帰ろうかとしていた頃、声をかけられた。
「――あれ、はるちゃん?」
「ん?……おぉ、三谷」
声をかけてきたのは知り合いだった。知り合いというか喫煙仲間であり、幼馴染みでもある三谷 薫。
黒髪で所々ぴょんとはねていて、何処と無く犬を彷彿とさせる。黒縁眼鏡を掛けており、それが凛々しいようで人懐っこい印象を与える。
「どうしたのはるちゃん、こんなところで。寒くないの?」
「いや、寒ぃよ。これ、火着かなくてな。どうしようかと思ってたが帰るところだ。三谷は?」
ポケットに入れていた手を出して煙草を仕舞おうとしたが寒かったので手をポケットに入れ直した。
「僕はほら、図書館からの帰り。はるちゃんはバイト帰りだよね」
数冊の本を見せ、そう問うてくる。「あぁ」と生返事しながらまたボーッとしかけたとき、カチリと音が聞こえた。見てみると案の定思った通りだった。
「――当て付けか?」
「……え?」
「私への当て付けかコノヤロー!吸わせろ、この際それでも良い」
「ちょっ!?はるちゃん、落ち着いて!」
両手が上手いこと使えないせいか手ではなく、煙草をくわえている口をクイッと上へ上げる。ちくしょう、届かねぇ。
「何だお前、背ぇでかすぎなんだよ!180㎝にもなりやがって、私に10㎝くらい寄越せ」
私の身長は150㎝ちょっとしかなく、悲しいかな背伸びして手を伸ばしても届かないのだ。
「……あはは、身長はあげられないよ。ん?」
何かに気が付いたように体をぐいっと曲げる。言うなればキスをするような感じになった。 突然顔が至近距離に来たのだから軽くパニックに陥る。
「(……へっ?う、うわぁ!?)」
咄嗟に目を閉じて、次に来るであろう感触に備えた。
しかし、来たのは感触ではなく「あれ?」と言う声だった。
突然のことに私が硬直しているがそんなことは知らないとばかりに問い掛けてくる。
「お、おまっ……」
「はるちゃん、それってチェリー?」
「……あぁ、そうだよ」
「……いいの?吸って。もう本数少ないんじゃなかったけ」
確かに三谷の言う通り私の持っているCHERRYの本数はもう数本しかなく、製造が中止になってしまった為買うことも出来ない。文字通り貴重なのだ。
「いいんだよ、今日は。特別な日だからな」
「特別な日?」と考えてから三谷はハッとそれを思い出す。
「ああ!今日ははるちゃんの誕生日か、おめでとう!」
「……ん、ありがと」
こいつに祝われるのも何回目だったかなと思い出しながら、やっぱり何処と無く嬉しく感じてしまうのは何時ものことだった。
「んー、じゃあ折角だから……」
いきなり、いきなりだ。さっきと同じようにまた顔を寄せてきた。
「また!?」と思って身を固くしたが、触れたのは唇ではなく煙草。
シガーキス。煙草と煙草で火を着け合う行為。
それをいきなり行って来たのだ。
「ふぅー……あぁ、やっぱりチェリーはいいなぁ。ねぇ、これと交換しない」
自分のくわえている煙草を指差しながらそう言った。
「――――!。バカッ!」
着けてもらった煙草を一回大きく吸い込んでから吐き出し、悪態を付く。自分の動揺を隠すように大きな声で。
――初めてのキスは甘くて何処か苦かった。
イメージとしては女性の方がCHERRY、男性の方がPeaceと思っていただければ。吸っている銘柄がそうです。




