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chapter 4 紅茶でも、飲みませんか? side:M 後編

一瞬何が起きたか理解できない。


 敵を本気で仕留めようと放った一撃は、確かに敵にあたるはずだったのだ。しかしいざ振り下ろしてみると、そこに敵の姿はなかった。そして間髪入れずに体に走る衝撃。

 そう、全く皮肉なことに、先ほどまでとは立場が完全に入れ替わっていた。今度はこちらが驚かされる番になっていたのだ。もっともそんな悠長なことをいっている場合では全くないのだが。


「ちょ……なに?何なの?」

 おそらく殴られたのであろう腹部にダメージを感じながら、状況を整理しようとした。幸いナイフでぶった斬られたのではないので、致命傷ではない。とにもかくにも、敵から攻撃されたのは確か。つまり敵はまだ動ける。しかもこちらの予想をはるかに上回るスピードで。


 吹っ飛ばされて倒れてしまったが、隙を見せないためにすぐに起き上がった。すると敵はアタシを殴った地点で停止している。やっぱり壊れた?と思ったが、ただ立っているだけではない。その手には先ほど布団たたきで腹を貫かれた時に手放した大型ナイフが、新たに具現化されていく。

 つまりこれは……。


「つまり、腹に穴を開けて、最後の力を振り絞ってせっかく私に一矢報いることができたのに、まだやり足らないワケ?」


 無表情の相手に問いかける。相手は黙々と武器を実体化していく。こちらの問いかけには答えない。いや、聞こえているそ素振りもない。ただただ無である。

 一方私は内心かなり焦っていた。


「もうホント、やめましょう?これ以上やっても意味ないって?ねえ?おとなしくスリープしましょうよ?」

 

 余裕そうな口ぶりで話すが、頭には最悪の考えしか浮かばない。

 そしてついに敵の手にあの禍々しい大型ナイフが完全に握られた。

 え?最悪の考えって?そりゃもちろん、相手が今からホントに本気になって。


 さっきのスピードで、攻撃してくることよ!

 

 そしてその考えは的中する。次の瞬間、敵が視界から消えたと思ったら……。

「ちょ……!」

 もうすぐ目の前に現れた。そしてすぐに攻撃。さらに攻撃。敵のラッシュが開始する。

「ちょっ……何なのよそれ!聞いてないわよ!」


 敵の動きは先ほどとは比べ物にならない。もはや瞬間移動しているようにしか見えない。振り下ろす、そして次の瞬間にはまた振り下ろす!

「冗談じゃ、ないわよ!」

 本当に冗談ではない。何なんだこれは。もちろん相手が瞬間移動しているわけでも、時間を止めているだけでもない。まさに目にも止まらぬスピードで攻撃を仕掛けてきているのだ。

 その動きはぎりぎりで目視できるレベル。性能が低かったら、まさにワープしているようにしか見えないだろう。それほどの動きだ。とても防ぎきれない!

 

 しかし攻撃のヒット数の割には、私の体がばらばらに刻まれることはない。少しずつ、でも確実に小さな傷ができていく。

 なるほど。要はスピードにすべてを捧げる代わりに、攻撃力を殺すという戦法なのね。理解したわ。理解したけど。


「頭で理解しても、どうにかなるってもんでもないわよね!」

 敵の攻撃は容赦なく続く。対応しているこちらもオーバーヒートしそうになる!しかも他の助けを求めることは難しい。まさに絶体絶命。本当に。

 だが、まだまだ負けるわけにはいかない。


 敵の攻撃をかろうじて見極めて、攻撃と攻撃の僅かな隙にシステムを発動する……!

 次の瞬間、敵の攻撃は、私の体を確かに切り裂いた……が、その体は泡となって消える。

 「ふ……それは、残像よ!」

 そして本物の私は敵の真後ろに現れる……!


「かかったわね!そう、これこそが日々陰湿な嫌がらせに付き合いきれずに、いっそのことニセモノと遊んどいてもらおう、という素敵な考えを元に編みだした、変わり身の術よ!」

 そう、まさに変わり身の術。敵は完全なニセモノを切ったわけだ。そして本物は気づいたら自分の真後ろ。驚かないはずない!痛恨の三発目を打ち込んでやる!

 

 しかし打ち込めなかった。敵の反応は先ほどまでとはまるで違った。

 ニセモノを切ったと判断すると、驚きもせず、すぐに私の方向に顔を向け、そして……

 「ちょ…………!」


 振り向いたと同時に、体をひねった遠心力に乗せて、横なぎの一閃をくりだす!

 そしてもちろん私は自分の攻撃を当てることなどできない。咄嗟に一歩下がり、そこからはまた敵のラッシュの時間が始まる。

 

「ちょっとアンタ、なんでそんなに……冷静なワケ!?」

「……………………………………………………………………………………。」

「そんなんじゃ面白くないんじゃないの!?もっとアゲてきなさいよ!」

「……………………………………………………………………………………。」


 なんだコイツは。さっきと違いすぎないか。あれか、二重人格ってやつか。なら始めて見る。いやそんなことではない。ナビに二重人格なんてあってたまるか。作ろうと思えば作れるかもしれんが、そんなことはマジで無駄だからしないだろう。

 ならいったい何なのか?…………………まあだいたい予想はついている。急に戦闘狂から亡者のようになり、代わりに爆発的な戦闘能力の増加。死にかけから復活したら強くなるような戦闘民族でないならば、答えは簡単。


 つまりは、感情とか、自分を修復することとか、そういう機能をすべて停止させ、すべてを目の前の敵を排除するために使う。つまりはそういうシステム。いわば、今この目の前にいるナビは、ナビというより、あらかじめ目的をもって生み出された、いわばソフトのようなもの。ただ一つの作業しかこなせなくなっている状態。

 なら様々な作業をこなせるナビのほうが当然高性能で強いんじゃないか?なんて思うかもしれない。もちろんそこら辺のウイルス対策ソフトなんかには負けるはずはない。(負けるならとっくに私はクソ主人に負けている。)しかし今回は事情が違う。


 どういう事情か?それはもちろん、いま目の前にいる奴は、ナビとしての高性能な機能のほぼすべてを、敵を排除するためだけに使っているということ。その力は、普通のソフトと段違いになってもおかしくないというわけ!


「これは、本格的に、マズイ、かもね…………………………!」

 そう、マズイ。先ほどまでは、いわば(いいたくないが)不意打ち戦闘。不意打ちというのは、相手の意表を突いてこそなのだ。だからもちろん、考えることをやめたあいつに、効くはずがない。

 幸いステータスは速さ重視にされているようなので、一撃一撃は痛くない。しかしその攻撃力を補う手数!命中率!


 まさにすべてを捨てて、戦うことだけに己のすべてを捧げる!


「『戦の境地』ね…………。なるほど、言い得て妙、絶妙ね。必殺技みたいで、かっこいいじゃない………………………………………………。」

 事実、もう対抗手段はあまり残っていない。いや、いくらでも技があるといったばかりでアレだけど、不意打ちできない、攻撃の準備をする時間が全く与えられない、そして何より、ダメージを受けているせいで、不具合が生じ始めている。いつも通り行けるかといわれると、まあもう無理だろう。


 やまない攻撃。受け止めきれない攻撃。確実に私の体をむしばんでいく攻撃。

 そろそろ限界みたい、ソルヴィ。私、もう戦えそうにないわ。悔しいけれど、あなたの仇は取れそうにない。すぐにそっちにいくわ。ひとりぼっちは、さびしいもんね……。

 

 奇跡でも起こらないと勝てない。もちろん電脳世界でそんなことおこってたまるか。あるのはただただむなしい現実だけ。

 あいての隙をつくことができなければ負けなのだ。……まあ、敵が無表情で良かったかもしれない。あのソルヴィを刺したときのような、心の底からムカつく顔で斬られるのは、あまりにも腹立たしい。


 そう、あの顔。すべてをバカにしたような顔。自分はほかとは違うと思っているような顔。よく考えれば、ベクトルは違うけれど、その顔は家のクソ野郎に似ているかもしれない。ナビを自分の人形だとしか思っていない顔。非常にムカつく。これから死ぬところだってのに、なんでそんなもの思いだしちゃうのかしら。

 

 そういえば私が死んだら、あのクソ野郎はどうするだろう?たぶん喜んで新しい自分のおもちゃを作るに違いない。許せない。女の子を何だと考えているの?屑なの?いや、屑か。

 そうよ、まだ倒れるわけにはいかないのよ。やることがたくさん残っているの!仇討ちも、女の敵のの排除も、ブロウクンハートロケッツの新曲を聞くことも!神よ、力を貸して!


 しかしやはり電子世界に神はいないようだった。私の相棒のデッキブラシは、虚しく手からはじき飛ばされる。丸腰。もう戦えない。

 そして、敵はその顔に満面の笑みを浮かべながら、ゆっくりとナイフを振り上げて、そして…………。

 

 ………………………………笑み?ゆっくり?


 そこで、諦めかけていた私の意識が覚醒する。


 その邪悪な笑みを見て、覚醒する。体に力が入る。あの笑みに負けてはいけないと。屈するなと。


 それになにより、まだだ、まだ、終わっていない、と………………………………!


 大型ナイフを、振り下ろしてくる…………………………!


 ガキィン!


 そして鳴り響いたその音は、今度こそか弱い少女が斬られた音……………………ではなかった。またしても。


「……………………………………………………っ!」


 そう、その刃は、少女の体に届くことはなかった。何故ならそれは、止まっていたから。掌の間に挟まれて、動かなくなっていたから。

「そんな……トメタ!?そんなバカな話が!」


 そう、そのナイフは、いわば……真剣白羽取りされていたのである。

 そして狼狽する相手を無視して、さらにその手に挟んだナイフを、思いっきり投げ捨てた。「…………………………………………な、な、ナ、な…………。」


 すると、少女の顔に生気が戻ってくる。

「…………はあ、意外に疲れるわね、全機能を一か所に集中させるのって。あんた、よくやるわね。」

…………ああ、肩が凝った。マジで死ぬかと思った。やっぱり自我があるのって素敵。私視点じゃないと、やっぱり話は面白くならないわよね。

「さあて、お次は……。」

 そこでようやく、敵は我に返ったようだった。そしてこちらを睨み付けて、

「ふざ…………ふざけんじゃねえよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 いっきに殴りかかってくる。怒りにまかせて。

 しかし、もうその攻撃は…………。


「遅すぎる!」

 敵が繰り出してくるパンチのすべてが遅すぎる。まあ先ほどまでが早すぎたのであって、決して遅いわけではないけれど、こちらはもう学習している。あたるわけがない。

「アンタってつくづくバカよね、もう少しでアタシを倒せるところだったのに。」

 避けながら悠々と語り掛ける。

「まあ理屈はわかるわよ。アンタの強化モード、一撃の重さがかなり軽くなっていたものね。アタシに決定打を与えようっていうなら、元に戻った方が手っ取り早いもの。アタシが動けなくなった頃に元に戻って、本来のウリである滅茶苦茶な破壊力で木っ端みじんにしようと思ったんでしょう?」


 こちらも満身創痍だが、それは相手も同じこと。やはり敵の攻撃はあたらない。

「でもそれ以上に、アンタの欲張りが出ちゃったんでしょう?相手を屠る時の快感を忘れられなかった。」

 右手に力を込める。フィナーレの準備をする。


「でも本当に惜しかったわよ?アンタがあの時無表情のままさっさと終わらせてれば、確実にアンタの勝ちだった。アンタの大きな大きな敗因、それは……。」

 

 準備完了。敵の右ストレートを交わした瞬間、こちらの右手を相手に押し付ける!

「笑った顔が!なんだか知らないけど!クソ主人に!異様に似ていた、ことね!」

 右手からあふれ出した光は、相手を覆い、そして………………。

「あっ……………………あ?」

 

 敵の動きはのろのろとしたものに変わる。

「どう?プログラムにちょっと細工をして、動作をのろのろにするこの技。アンタにはまあ大して効かないでしょうが、一秒でもゆっくりになるのなら………………。」

 相手は状況を呑み込めていない。しかしそんなの関係ない。まだ攻撃は終わらない。再び右手に、そして今度は左手にも、力を込めて握りしめる。


「アンタには悪いけれど…………戦闘力未知数の相手に手加減できるほど、アタシも甘くないのよねえええええええええええええええ!」

 

 そして、避けようとしているようだがのろのろとしか動けない敵に、問答無用の拳を浴びせる!連続で!

 「そら、そら、そらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらああああああああああああああああああああああああ!」

 

 慈悲はもう完全にない。怒涛のラッシュ。今までやられた分を倍返しにすかの如く、痛む体も気にせずに、目の前の相手に拳を打ち込む!

 当然吹っ飛ぶのでは?と思うかもしれないが、吹っ飛ぶ動作さえのろい。だから吹っ飛ぶ前にすべてを打ち込む!

 「ぐふ……げは…………………………。」

 「痛いかしら?でももう同情する余地は全くないわ!アタシはエイト、だけど八発なんてケチなこといわないわ!108発、煩悩払うまで、そのイカレタ性格直るまで、打ち込んで、あげる!」

 女に二言はなし。無慈悲、しかし煩悩を払う108の拳を、叩きこむ。


 そして108発目が入ると同時に、敵の遅延の効果が切れたらしい。つまりは……。

 思いっきり吹き飛んで、後ろの建物に突っ込み、建物を倒壊させた。

 

「……真の女は拳で語るものなのよ。ステゴロで、勝てると思った?」

 完璧に決まった。もう再起不能だろう。ようやく、ようやく、終わったわけだ…………。非常に長くて、苦しい戦いだった………………。

 でも、アンタの仇は、討ったわよ、ソルヴィ。安心して、眠りなさい………………。


 途端に力が抜けていく。まあ自分でも立っていられるのが不思議なほどのダメージだ。そこから相手を殴りまくったとなると、体の消耗は半端じゃないだろう。ちょっとぐらい休んでも、いいよね………………

 

 そう思って倒れこもうとした。だが神はやはり無慈悲だった。

「…………すごいすごい。まさか本当に倒しちゃうなんてねえ……びっくり。」

 突然聞こえてきたその声は、目の前から聞こえてきた。やはり人をバカにしたような声。しかし先ほど殴った奴の声とは違う。

 瞬時に自分の体に緊張が走り、再び戦闘態勢をとる。あまり意味はないかもしれないけれど。そして声の主の姿を見ようと顔をあげると………………。

 そこに立っていたのは、やはり先ほど倒した奴と同じようにフードで顔を隠していて、どんな奴かはわからないが、それでもこいつは危険だ、と本能が警告するような雰囲気を醸し出している奴だった。


 背は…………かなり高い。髪も長いようだ、フードから出ている。胸は…………いうまい。まあ声からして女性型だろう。体型もまあそれっぽい。まあね。まあ気にしてないけどね。うん、全然。

 しかし異様なのは、その右手に、先ほど私が倒した白髪野郎を抱えていることだった。(まだ原型は保っていたか………………。)先ほどのセリフからして、関係者、仲間みたいなもんか?

 

 こちらが黙って観察していると、相手はくすっと笑う。

「あら、そんなに警戒しないでよ……今日は挨拶に来ただけだから。ああでも、あなたがこの子にやられてたら、墓参り?になってたかもしれないけれど。」

 笑えねえ冗談だなオイ。


「でも無事に勝てたみたいだし、安心したわ…………いくら魔改造されているとはいえ、世代が離れているこの子に負けるようだったら、私が楽しむ余地はないものね。」

 勝手にべらべらとしゃべりやがる。まあこっちはしゃべる余裕もあんまりないんだけれど。

「満身創痍ね?ダメよ。もっと強くなってくれなくちゃ。今度会う時までに怪我もちゃんと直しておいてね?」

 

 そう言って立ち去ろうとする。流石にタダで帰すわけにはいかない。

「ちょっと……………………待ちなさいよ……こっちはまだ、何も言って、ないわよ……。」

「あら?まだしゃべる元気があるの?でもやめておきなさい、無理は体によくないわよ?」

「別に、アンタに興味はないわよ…………ただ、その右手に抱えてる奴は、おいていきなさい……。。」

「この子?ダメよ、一応とはいっても家族なんですもの。ほおっておけるわけないでしょ?頭は良くないけれど、役には立ってくれるしね?」

「置いていかないのなら、アンタも動けなくするだけよ…………。」


 武器を再び握りしめる。正直戦っても勝ち目はないが、ソルヴィの仇をみすみす見逃すわけにはいかないのだ。気合いを入れる、あなたはやればできる子でしょう、メルト!

「どうしてもっていうなら、相手してあげるけど…………私、手加減はできないわよ?」

「それはこっちのセリフね。」


 敵も戦闘態勢に入ったようだ。さてどうするか、やはりここは先手必勝だろうか?一撃で決められなければ勝ち目がない気もするのだが。

 そう考えているとどちらも動かない状態になった。しかしどちらかというと敵はこっちの出方をうかがっているというよりは、ボロボロな私を見て楽しんでいるような気がする。ムカつく。


 やはりこちらから仕掛けよう、そう思って一歩踏み出そうとした、その瞬間…………。

 

「ストッーーーーーーーーープ!」

 

 知らない声が横から聞こえてきた。ええい、またか、また知らないやつか、知らないやつを一度に大勢相手するのはしんどいのだ。さっさと消えてくんないかなまじウザいとか思って声の方を見てみると………………。

 

 そこにいたのは、イケメンだった。

長身、整った顔立ち、緑の瞳…………体にはゴテゴテしたアーマーのようなものを装着しているが、それさえも彼の魅力を引き立たせるために一役かっているように見える。

「やめるんだ、そこのかわいいお嬢さんたち!君たちに争い事なんて似合わない!どうか落ち着いて!」


 かわいい、だと…………!異性からそんなことを言われたのは初めてである(クソ主人は異性にカウントしません。そもそも人間と呼んでいいのか…………やめておこう)。もしかして私……………………

 

 モテ期!?


「あら、意外に早かったのね、もうちょっと時間がかかると思ってましたわ。」

「これはどうもお気遣いありがとう。可愛いお嬢さん。」

 私が興奮している間に、何やら話し合っている。目の前の謎の女とイケメンは知り合いなのか?とか思うかもしれないけれど、イケメンの前にはどうでも良かった。

 いや、イケメンだからといって油断してはいけない。最近はナヨナヨしたやつが多いのだ。はっきり喋らないやつなど言語道断。そこを見極められてこそ、真の女というやつだ。

 

 なんて考えていると、謎の女は私に顔を向けて、


「邪魔が入っちゃったみたい。やっぱり今度のお楽しみにしておきましょう、バイバイ♡」

 とか言って気づいたらいなくなっていた……………………はっ!しまった、逃がした!なんて足の速い奴だ、追いかけなければ!


「待つんだ、君!」


 しかしそこでまたイケメンに声をかけられる。これは立ち止まらずにはいられない。

 「なんだ……何でしょうか?」

 

 おしとやかに答える。流石私。

 「君には少し待ってほしいんだ………………。」

 そう言いながら近づいてくる。やだ、積極的。いやでも、このくらいじゃないと駄目ね、やっぱりあっちから来てもらわないと。

 そして私の目の前に立ち止まり、私の手をとって、そして愛の告白を……………………。


 ガチャン。


「へ?」


 思わず間抜けな声が出た。恐る恐る自分の手首を見てみると………………。


 そこにあったのは、まぎれもなく、紛れもなく……………………。

 

 手錠だった。


「署までご同行願えるかな、お嬢さん?まあ連行するのだけれど。」

 

 何が何だかわからない私に向かって、イケメンはイケメンの顔をしてこう言い放った。

「詳しい話は、紅茶でも飲みながら、お話しますよ?」


 恐るべし。イケメン恐るべし。




























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