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chapter 3 バッドラック?ノーサンキュー! side:M

「ナンダ、ヨワイジャナイカ、ツマンナイノ。」 


 心底興味なさそうに、そいつ……ソルヴィを後ろから刺した奴はつぶやいて、その大きな刃物をソルヴィから引き抜いた。もはや座っていることもできなくなったソルヴィは、地面に倒れこんだ。


「ソルヴィ!しっかりしなさいよ!ねえ、ねえったら!」

 近寄って必死に声をかけるけれど、目を見開いたままもう反応はしない。彼女の周りには、「システムエラー」という単語が次々と浮かびあがってきている。続いて「深刻なエラーが発生しました。今すぐ修理をしてください」という文字。


 それらを見ればはっきりわかる。彼女はもう自力で動くことはできないのだと。しかし頭で理解しても、なかなか心は受け入れられない。


「しっかりしなさいよ!寝てるフリなら悪い冗談よ!本気で殴るわよ!」

 それでもダメだった。私の大声を聞いて、周りのナビたちも一体何事だ、と集まってくる。「大丈夫ですか?」と声もかけてくる。でもそんなの気にしてられない。今はそんな場合じゃない。


「起きろって言ってんのよ!ねえ、ねえソルヴィ!」

 起きない。そろそろ目を覚ましてほしい。ドラマなら、「わりぃ、寝てた。」とか、「そんなに大声出さなくても、聞こえてるわよ。」って言って目覚めるのに。聞こえるの体の異常を訴えるシステム音だけ。しかもどんどん大きくなる。


 システムエラー。システムエラー。システムエラー。システムエラー。


 違う、私が聞きたいのはそんな声じゃない。


 システムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラー 


 私の願いは届かない。もうその音しか聞こえなかった。周りの音も全部かき消された。


 なんで?私達、普通にお茶してただけじゃない?それでいつもみたいに愚痴を散々言い合ったら、渋々自分たちの家に帰るんじゃないの?それで数日後にまた顔をあわせるんじゃないの?ねえ、ソルヴィ?


 システムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラー


 なのになんであなたは今目の前で倒れてるの?なんで動かなくなっているの?おかしいじゃない。こんなことっておかしいじゃない。理不尽だ。あまりにも唐突で、あまりにも理不尽だ。頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。心を何かが支配していく。こんな感情は、経験したことがない。


 システムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラーシステムエラー


 うるさい。もうその音を聞きたくなかった。周りで騒いでる声も聴きたくなかった。静かにしてほしかった。そんなにうるさいと、ソルヴィの声が聞こえない。今日は少し面倒くさかった彼女の声が聞こえない。


 そしてようやく彼女が動かなくなったことを心が理解した。親友が、少なくともこちらは親友だと思っていた人が、動かない。ドラマではよく見たシーンが、実際はこんなにも悲惨で、理不尽なものだとは知らなかった。今自分の心を支配している感情も理解した。これが悲しみか。これが絶望か。友を失う喪失感か。


 もう周りの音は区別が付かなくなっていた。自分のことも良く分からなくなっていた。どうでもよくなっていた。このままではいけないと思っているのに。体は動かなかった。動いてくれなかった。

 

 しかし聞こえた。声が聞こえた。騒音にかき消されて聞こえないはずの声が聞こえた。


「…………ツマンナイノ。サッサト、チガウトコロ、イコ。」

 その声ははっきり聞こえた。私の耳に届いてしまった。それは間違いなく、ソルヴィを刺した奴の声。彼女を刺した後だというのに、全く声のトーンは変わっていなかった。さもつまらなさそうに呟いていた。そして何事もなかったかのように立ち去ろうとしていた。


 そんなソイツの様子を見ていたら、私の体に異変が起こった。


 体の奥から熱くなってくる。周りの声はもうよく聞こえない。警察に通報を、みたいな声も聞こえるが、それどころではない。私の視線は今立ち去ろうとするソイツにしか向けられていなかった。体はもう勝手に動く。自分が考えるよりも先に動き、ソイツへと歩み寄っていく。悲しみはどこかに消えてしまっていた。


 こんな感覚は今まで感じたことがない。だがだいたい予想はついた。主人の不甲斐ない姿を見ている時もいつも感じてはいるけれど、今はその時の比ではない。もっと熱い。もっと激しい。


「……………ちょっと待ちなさいよ。」

 急に声をかけられ、ソイツ……マントをはおり、フードを被っていて顔も姿もはっきりしないナビは、歩みを止め、振り返りながら自分に声をかけた奴を見た。


「……………ナンダヨ、ナニカ、ヨウ……!」

 いや、見ようとした。見ようとしたが見れなかった。

 

 何故なら、振り向くと目の前にあったのは、私の拳だったから。


「人の親友襲っておいて、タダで帰れる、道理があるかあああああああああああああああ!」

 相手の振り向きざまに、すべての力を込めて、その顔面に、何の慈悲もなく、おもいっきり、私は拳を打ち込んだ。体の動くままに。熱い感情に突き動かされて。


「ガッ………!」

 さすがに予想外だったか、フード野郎も対応できなかった。もろに拳をくらい、そして、吹っ飛んだ。その後ろにあった建物に壁を壊しながら突っ込んだ。


「ごめんね、いきなり殴って。でもね、私さっきから人を殴りたくてしょうがなかったの。……だからね、あなたがいて、助かったわ。」

 

 体が熱い。そう、今私の体を支配している感情は………怒りだった。

 普段は感じないほどの怒り。悲しみさえも上書きしてしまうほどの怒り。親友を傷つけられたことに対する、激しい怒り。


「まあ、ソルヴィが感じた痛みはこんなもんじゃないでしょう、許しなさい。」

 本当はソルヴィの手当てだとか、警察だとか救急車だとか、いろいろしなくてはならないことがある。


 でも彼女はもう動かない。素人でも見ればすぐわかる、致命傷。

 ならば私は何をすればいいのか?友人の悲劇を泣き叫んで悲しむこと?何も考えられなくなって放心すること?いや違う。それはこの殺人鬼を逃がさないこと。警察が来るまでの間逃がさないこと。

 

 なにより、ソルヴィを刺した奴を許さないこと。彼女の仇を、討つこと。


「ふふふ……ふふふふふふ……おもしろいおもしろいおもしろいなあ!」

 殴った感触からして、壊れてはいないだろうなと思っていたら、やっぱり瓦礫の中から出てきた。出てきたと思ったら早口で話し始めた。さっきは片言で話していた所から推測するに、どうやら言語を話すプログラムは安定していないらしい。攻撃特化型といったところか。どうでもいいが。


「今のは痛かったぞ久しぶりに痛かったぞこんな感覚はいついらいだろうなあ!」

「あんたが殴られて喜ぶマゾってことは分かったから黙りなさい。ついでにもう喋らなくてもいいわよ。ていうかもう喋れなくしてあげるわよ感謝しなさい。」


 こっちは別に強敵とバトルすることに何のワクワクも感じないし(戦闘民族ではないからね)、むしろ犯罪を犯しておいてぬけぬけと笑ってられるやつを見てつくづく腹が立っている。


「そうか今度はお前が遊んでくれるのかそれはいいぞさっきよりはたのしそうだ!」

 ……まただ。こいつはとことん私の親友を刺したことを軽く見ているらしい。せっかく殴って少しすっきりしたのに、再び私の心は怒りに支配されていく。


「ええ、遊んであげる。でもね、私が相手になることを今から後悔しなさい。運命の神を恨みなさい。あんたには遊ばせない。一方的に遊ばれなさい!」

 我慢の限界。怒りの爆発。敵が完全に起き上がっているとかファイティングポーズをとっているとか名乗っている途中だとかは関係ない。私の怒りは収まらない。地面を蹴って、一気に間合いを詰め、握った拳でその顔を再び殴ろうとした。


 しかし止められた。がっちりつかまれた。


「なっ………マジで?」

 ほぼ不意打ちの全力パンチは受け止められた。しかしパンチの衝撃は中和しきれなかったのか、フードがゆっくりと脱げていく。そしてあらわになったその顔は……


 女だった。ショートカットの白い髪の毛は、ボーイッシュな雰囲気ではあるが、その顔や目元を見ればわかる。普通にしていたら可愛い女の子だろう。しかしその赤い目は狂気に彩られていて、その口はありえないほどに歪められている。心底楽しそうに。


 怒りに支配されていた私の体に、強烈な寒気が走った。


「ならこっちもホンキ出さないとなあああああああああああああ!」

 そう叫ぶと掴んでいた私の手を引っ張り自分のほうに引き寄せた。まずい、体勢が……!

「マズハおかえし、駄亜ああああああああああああああああああああ!」

 体勢を崩して前のめりになったところに、敵の正拳突きが腹にクリーンヒットした。

「がっ……!」

 体に走る衝撃は予想以上。体全体が悲鳴を上げ、そして吹き飛ばされた。さっきとは逆に、私はカフェの壁に突っ込む。


「痛いっ……やってくれる、わね……」

 何とか体が分裂することや、プログラムが損傷することは防げたようだ。だがこの威力は想像以上。やはり攻撃に重きを置いているようである。正直まともにやり合うのはやばい。ていうかもう後一発モロにもらえば体に何かしらの不具合が起きるだろう。そうなったらほぼ負けである。傷ついた状態で勝てる相手ではない。


 追撃を許さないために、すぐに立ち上がる。

「でも……おかげで頭が冷えたわ。そうね、やっぱりクールにいかないと。私は落ち着きのある女性ですもの。」

「へえ……全然ヘイキみたいだね、よかったよかった。」

 敵はそう言って笑っている。ものすごく余裕を感じられる。正直ムカつくわね。

 とはいっても少し冷えた頭で考えてみても、この勝負はかなり分が悪い。敵はソルヴィを一撃で貫いた恐ろしい奴だ。戦えばこちらも無事では済まないだろう。なにか作戦が必要かもしれない。応援を呼ぶ?というかやっぱり警察が来るまでは防御に徹するか?そして法で裁いてもらったほうがいいか?まあ、デリートだろうけど。そっちの方が楽だろうなあ。


「スグに斃れられると……コッチモつまんないしねえ!」

 しかし色々考えていると、敵は面白そうな顔をしながら、あるものを実体化した。

「……っ!」


 ソレを見ると、私の頭の中は再び何も考えられなくなる。また怒りが沸き上がってくる。

「ヤッパリ勝負するならこいつじゃないと!なあなあなあ!」

 ソレは剣。いや、その不格好さと大きさを見るに、でかい包丁か。なんにせよ、殺意をむき出しにした武器、奴の得物。純粋なる暴力の化身。


 そして何より……ソルヴィを刺したもの!彼女の命を奪ったもの!

「そうね……小賢しい考えは必要ないわね。やることは単純。」

 私も武器を具現化する。甘い考えは捨てる。冷静になっても弱気になっては意味がない。もう作戦なんて必要ない。


「一つ聞くけど、あんた、最近悪さをしてるっていうナビなんでしょう?いろんなところでいろんなナビを襲ってるっていう?」


 問いかけてみる。すると敵は、ニンマリと笑う。

「ソウそうだとしたら?」

 私は武器を手に取る。私の得物。それを敵に向ける。躊躇なく。

「なら一石二鳥。話は単純。ソルヴィの仇を討って、ついでに悪を討つ。ね、簡単でしょ?」


「……なんでもイイよ。理由なんて。戦えれば、それでいい。」

 敵も得物を構える。戦闘態勢。

「気が合うわね。私も理由は二の次。今はあんたをボコりたい。それだけなのよ。」

 空気が緊張する。プレッシャーを感じる。正直怖い。でも退けない。退くわけにはいかない。今は不運を嘆く時じゃない。

「ナラオモイッキリ、死合おうぜeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!」

「だから思いっきり、いたぶられなさいっ!」

 戦いは、もう止まらない。





















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