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chapter 15 カットバック・マイターン side:H

「くそ!メルトの奴、無茶苦茶なことしやがって!」

 外の様子がまた若干騒がしくなってきていた。時間的にも、そろそろあいつが動きだしたとしてもおかしくない時間だ。むしろ今しか動かないのだろう。

 その時のために、必死に準備をしてきた。かなりの急ピッチだったが、何とかラブを倒す手段を用意したのだ。このプログラムをラブに打ち込めれば、決着はつくだろう。

 勿論、警察にだってこれくらいは用意できているかもしれない。でも、今までのことがあるのだ、敵に出し抜かれていた場合は、こちらが何とかするしかないだろう、この段階にまで来てしまっているのだから。

 だから、だから早速外の様子を知ろうとしたのに。

「いったいこんな技をどこで覚えてきたんだ……?」

 つながらない。インターネットがつながらない。何らかの障害があって、この部屋は完全にオフラインになっていた。通信妨害のために何らかのプログラムが仕掛けられたようだ。いや、ウイルスというべきか。ラブの攻撃、とも考えられるが、ならもっと別のことをしてきそうなものである。

 なら誰の仕業かというと、言うまでもなくメルトの仕業だろう。先ほど来たときに、何か仕込んでいったに違いない。しかも先ほどまでは普通にインターネットをつなげられたので、時限式というやつなのだろう。

 更に、ならば生身で外に出ればいいじゃないかと思い、外出しようとしたが、今度はドアが開かなかった。電子ロックに何らかの細工がされているようだ。すべてがオンラインでつながっている今の時代だからこそ起きる問題である。

 こういう問題は、パソコンから家の中だけのローカル通信で管理できるはずだが、肝心のパソコンが他の機器と接続できない状態である。まずはパソコンをどうにかするしかない。

 更に更に、非常時やもしもの時のために、マンションの管理会社が、ドアロックなら住民の了承を得たうえで開けてくれたりはするのだが、スマホが使えない。電話の電波まで遮断されているのか、それともこのスマホにも何らかの細工がされているのか。どっちにしろこれを直すのにも時間はかかるだろう。

 つまり、完全に足止めを食らったのである。メルトは一体何がしたいのか。いや、僕もそこまで鈍感ではない。きっとラブのことをよく考えろ、と彼女は言っているのだろう。僕もメルトが消えてからは少しは冷静になった。確かに、元主人としてはラブのことを考える必要はあるだろう。しかし、それよりも先に彼女を止めるのが先だろう。どうしようか、と考えている間に誰かが傷ついたら、今度こそ僕はどうなるか分からない。

 だから頑張ったのに、これではどうしようもないではないか。だから腹が立った。僕が必死になっている理由の一つに、メルトのこともあるのだ。別に、あいつに惚れた、とか見直した、とかそんなロマンチックな話ではない。ただ、少し話をする必要があると思っているからだ。結局、彼女とはゆっくり話せていない。この事件が終われば、時間くらいできるだろう。しかしその前に、メルトが消えれば何の意味もない。

 そうして腹が立ったが、同時に悲しくもなった。だってこの仕打ちは、お前は何もするな、と言われているようなものだ。しかもこの部屋の仕掛けは、昔からメルトが僕に使ってきた妨害措置よりもレベルが数段高い。つまりは電課も一枚かんでいる可能性は高い。そこまでして僕に何もさせたくないのか、そこまで僕には信用がないのか。そう思うと、悲しい。むしろ虚しい。努力が、否定されているようで。


 そんな感じなので、いまいちここを脱出するための作業がはかどらない。

「今はどうなってんのかなあ……。」

 窓から外の様子を見てみるが、そこまで騒がしくはない。流石に今回は大きなことはできないのだろうか、いや、さすがに警察やらが黙っていないのだろう。これまで連戦連敗の電課としては、これ以上被害が広がらないようにますます対策しているに違いない。まあこれまでの事件ですでに大打撃だろうが。電課は大丈夫なのだろうか。麻次さんが不憫に思えてならない。

 それにしても電課、か。今回の件で急に電課との繋がりができたものの、今まではその存在を知りもしなかった。目立つような部署でもないだろうし、ここまで大きな電子犯罪が起きたのも初めてだから仕方がないが。かなり個性的な集団であるとは思うが、あの人たちはあれで町や人のことをとても大切に思っているのだろう。

 それは桃田さんや時子さんに限った話ではない(麻次さんも、まああれで電課を止めないのだから、そういう人なんだろう、多分)。あそこにいるナビもそうだ。あまり多くは話していないが、彼らも正義の心みたいなものがあるんだろう。ブレイブにしろハンサムにしろ、ボロボロになるまで戦うなんて大したものだ。

 いや、それとも、違うのだろうか。彼らは、いってしまえば、ナビである。ナビである以上は、いくら自我があるとはいっても、命令には逆らえないのだろうか。仮に彼らが、命を捨ててまで戦いたくないと感じていても、戦えと言われたら仕方なく戦うしかないんじゃないだろうか。本来は、彼らが自我を持つ前までは、それが当たり前だった。

「使命、ってやつなのかな……。」

 メルトの言葉が思い出される。ナビにとっては使命というものはとても重いということよ、だったか。それはそうだろう、ロボット三原則とまではいかないが、そういうものである。

 ならメルトは何故そのことを言ったのか。タイミング的に考えれば、それはラブのことだろう。メルトは、かなり自由だし。メルトには、そういう感じのことはインプットしなかったような気がする。

 

 そして、そこからあることを思い出す。何故、メルトはあそこまで自由なのか?それは簡単だ、メルトには、僕が主人であることと、最初は僕の好みの性格であることにした以外は、特に何かを設定したつもりはない。ならそれはなぜなのか?僕を好いてくれるように設定すれば、こんなことにはならなかったのではないのか?

 いや……何をバカなことを言っているんだ。その理由なら、少し前にメルトに話したばかりじゃないか。ラブの暴走、それが一番の理由である。愛を追求するがゆえに、制限が効かなくなったのだ。今までのナビ達もそれに近い失敗はしていたが、ラブの一番強烈だった。だからメルトには何も制限をつけなかった。

 そんなラブだからこそ、僕に捨てられたショックは大きかった。だから、よみがえった今、彼女は僕に復讐しようとしている。そのはずだ。

 普段ならそこで思考は終わる。でも、切迫していて、それでいてできることが少ない変な状況で、僕の頭はなぜかクリアになっていた。それに、メルトの言葉を思いだしたから。だから思考は止まらない。ラブを止めるしかない、といつも結論が出るところで、結論を出さずに思考を続ける。

 メルトは、結局最後まで僕のことを否定していた。それは、勿論、僕が間違っているからだ。では何が?いつもなら考えるのをあきらめる、ラブのことはあまり考えたくないから。でも今は止まれない。今の状況は、恐らく最後の機会なのだ。ラブのことから目を逸らさずに、じっくり考えることができる最後の機会。

 ラブが僕や、僕の周りを攻撃するのは、言うまでもなく僕を苦しめるためだろう。それは勿論、僕のことが憎いからだ。そりゃそうだ、愛していた主人から捨てられたのだから。愛さなければいけない主人に捨てられれば、その愛は反転して、憎悪に変わる。今のラブは僕のことが大嫌いに違いない……?違いない?

 そこで、初めて、違和感を感じた。そう、それは今までは見逃していたこと。しかし、少し前に考えていたことが、僕の心に引っかかった。それは偶然なのか、はたまたメルトがこうなるように仕組んだのか、どっちかは分からないが、どっちでもいい。その違和感とは、勿論、ナビのことだ。

 ナビは、特にラブは、確かにある程度思考が自由ではあるが、ある設定があったではないか。いや、設定というより、使命なのか、メルトの言葉を借りれば。その使命は、もう散々言ったが、僕を愛することだ。

 なら、今のラブはどうなのか?一度消されている以上、前のままという保証はない。でも、仮にかの次女が前のままなら、どうなのか。そう、ラブが、僕を愛するという使命から、逃れられていないのならば。

いや、いくらなんでもそれはないか?彼女は僕を攻撃してきているのだ。僕が死んでは愛することもできないのではないだろうか。そうだ、最初なんて車に轢かれかけたし、そのあとは腕時計に電気を流されたし、その次はロボットに襲われたし、今度は学校を燃やされた。これはいくら何でもやりすぎ……か?

 だが、冷静に考えれば、どうなのだろうか。特に最初の一件だ。もし、僕を気絶させるのと、車を動かす順番が逆だったら?そもそも、もっと車が通っているところで、僕を狙ったのなら?もっとさかのぼれば、僕が乗っているバスを暴走させたら?……いくらでも、何回でも、ぼくを殺すことができるだろう。なら、そうしなかったのは、やはり。

 命までは狙わなかったのか?いや、でもじわじわ苦しめるという考えかもしれない。現に僕は今苦しめられている。自分が味わった苦痛を与えたい。だか簡単には殺さない。そうじゃないのか?だいたい、どちらにしても、僕を愛しているのに攻撃するのはおかしいんじゃないか?

 駄目だ、もっと何かないのか。彼女と話した時のことを思い出せ。ラブの声は何度か聞いた。しかし多くの場合それはあちらからこちらへの一方通行なものだった。なかっただろうか、彼女と、言葉を交わした機会が、どこかに……。


 そして、しばらく考えて、ようやく思い出す。そうだ、あった、少しだけれど、ラブと話した機会が。なかなか思い出せなかったのは、話した時点では、まだラブだと分かっていなかったから。そう、電課で襲撃された時だ。あの時確かに言葉を交わしたはずだ。なんて言った?思いだせ、思い出せ……。

 大抵は、挑発的なセリフだった気がする。でも、そんなセリフの中にも、何かがあったはずだ。そうだ、段々と思いだしてきた。驚かせてやるだとか、あなたは私のことしか考えられなくなるの!だとか、ミンチだとか……いや、ミンチは関係ないが。でも、そうか。そういう言葉と、彼女の使命を考えるならば、ある答えにたどり着く。とても簡単な答え。それは。

「好きな人には、自分のことだけを見ていてほしい、そういうこと、なのか……?」

 単純で、恥ずかしくなるような答えだが、分からなくはない。現に、僕は最近ラブのことばかり考えている。それは愛情とは正反対な感情ではあるが、ある意味では、彼女のことしか考えられなくなっている。つまり彼女の作戦は成功というわけだ。

 そうか、そうなのか。そんなに単純なことだったのか。ならメルトが怒るのも無理はないかもしれない。これほど鈍感な男など、ハーレムものの主人公ぐらいなものである。そりゃあ女性からするとなんとも頼りなく見えるに違いない。

「もしそうなら、ラブの気持ちには、しっかり僕の口から気持ちを言わないといけないなあ……。」

 メルトがいっていたことはそういうことだろう。よし、そうと決まれば、やる気も出てくる。早速作業に取り掛かるとしようか。と思ってパソコンに向かった、その時に。


『……甘い。甘いな甘すぎる。そんなんじゃどうにもなんねエゾ?』

 突然声が聞こえてきた。これは、外からの声ではない。外からではなく、家の中から。もっと言うなら、スピーカーの中から。もっともっと言うと、この声は、メルトのものではなく、この家のスピーカーからはもう聞こえるはずはないと思っていたもの。

「プ、プリティか……?」

『おや、声を覚えてくれていたのカイ?それとも喋り方か?まあ何にせよご名答。お久しぶりですゴシュジン様。プリティ・ジ・ワン、かっこよく散ったと見せかけて、再び舞い戻ってきました。あなたのことを糾弾できる知能も引っ提げて。』

 プリティの登場は完全に予想外だった。少し浮ついていた気持ちが再び急降下である。しかもこの状況、非常にまずいかもしれない。彼女が何をしに来たのか知らないが、穏やかなことをしに来るはずはない。

「な、なにが目的だ?ついに僕に復讐しようってのか?いやでも、お前は壊れたんじゃなかったか?なのに完全に元通り、いや知能が上がって究極体じゃないか?また誰かに直されたのかこの野郎!」

『オイオイ、急にキャラが戻ったな、さっきまでのシリアスさはどうしたんだよ?まあゴシュジンにはあってないキャラだったからな。最近はずっとそんな感じで復讐の鬼モードだったのか?周りもさぞやりにくかったことだろうヨ、似合ってねえってな、ギャハハ!』v

 とっても饒舌である。ラブのことが分かって迷いや心の中の重りを捨て去った僕のことを的確に表現してくる。もはやあの可愛かった面影はどこにもない。

 そこで、パソコンの画面に、プリティが姿を現した。白い髪、赤い瞳はそのままだったが……?

「ずいぶんと、かわいらしい服を着ているんだな。」

 そう、家にいたときは、いたって清楚な感じの服を着せていた。メルトとの戦いのときは、ボロボロのマントを着ていたという。しかし今はどうだ、フリフリである。フリフリピンクなゴスロリである。   くっ、前言撤回だ、外見だけは可愛い。でも仕方ない。元は僕好みの彼女だと仮定して作ったのだから!

『服は、まあ仕方ねえわな。直された後にはこうなってた。簡単に脱げやしない。まあそんなことはひとまずどうでもいいダロウ。そう、どうでもいいんだ。』

 ちょっとだけ恥ずかしそうなプリティであった。

『マア見て分かるように、俺は直されたんだ。その恩を返すために、俺はここにいる。ここにきて、お前に言わなければならないことがアル。大体そんな余裕でいいのか?早くしないと、愛しのメルトチャンが、本当にミンチになっちまうぜ?いや、本当は俺がどうにかしてやりたいんだけどな、生憎それは禁止ナンダ、俺の恩人からの命令でな?』

 本当に良くしゃべるようになったな、と思いながらも、確かにゆっくりはしていられないと我に返った。そうだ、プリティに構っている場合じゃない。でも今こいつは、僕になにかを言いに来たと言ったか?

「なんだよ、何かためになりそうなことなのかよ?」

『ああ、まあ、そうだな。でもその前に、だ。急ぎの話をしてるのにその前にはおかしいと思うか?でも仕方ないんだよ、見てられねえからナ。うぬぼれた馬鹿野郎の推理にはうんざりだからヨ。』

 どうやらイライラしているらしい。犬歯をちらつかせながら怖い顔でこちらを睨んでくるが、なにせ服がフリフリなのでなんともアンバランスだ。でも、ゆっくりはしていられないのである。

『おおっと、動くなよ?俺の得意技、知ってるダロ?お前が何かする前に、壊せるだけ壊すゼ?かなり痛手になると思うが、それでもいいならなんでもするがいいさ。』

 そう言われると、ほとんどすべてを消されてしまったあの日のことを思い出してしまって、うかつには動けなくなる。プリティがどのくらい復活しているのか知らないが、ここで暴れられると後に響くことは確実だろう。

『いい子ダ。で、話を戻そう、急いでるからナ。さて、ラブの話だが、お前が行ったみたいに単純な話だと思うか?いや、そんなわけねネエだろ、あいつのどこを見たら単純だと思うんだよ?何だよさっきの恥ずかしいセリフは、いやだいやだ、結局うぬぼれてんなあオイ!』

 滅茶苦茶口が悪い。絶対今までの恨みをぶつけてきているんだ、そうに違いない。そしてそうなら、僕は強く言えない。

「でも、多少の間違いがあるとしても、大体そう言うことなんじゃないのか?それならつじつまが合うじゃないか。」

『全部が全部間違ってるワケじゃねえよ。自分が馬鹿なことしたって分かったんなら、もう言っていいと思うから言うが、そう、確かにラブはがんじがらめさ、テマエの変な設定のせいでラブはお前のことが大好きさ、そこは間違っちゃいねえ。』

「そうだろう?だから僕は彼女の鎖を切らないといけない。そして彼女に伝えなければならない、もういい、もういいんだと。」

『バカだな。本当に馬鹿だ。やっぱりだめだな全然だめだ。いいか、ラブはお前のことを愛している、しかし同時にお前のことが死ぬほどキライだ。』

「は?」


 良く分からないことを言われた気がする。全く逆のことをだ。哲学かなにかかと思ったが、プリティの顔は相変わらず不機嫌のままだ、冗談でもないだろう。

『分からないか?ははあ、メルトの野郎は結局俺の伝言を忘れたんだナ?クソ野郎め、まああの時にそんなことを言っても更に暗くなるだけか。いいぜ、言ってやる。大体、お前は自分が好かれるような存在だと思ってルのか?ンなわけねだろ?』

「いや、そうかもしれないが、残念ながらそうかもしれないが、でもラブは設定で……。」

『お前がラブに与えたのはその設定だけか?違うだろう、もっとすごいものを与えた、いや与えてしまったのさ。自由に考えることのできる知能を、意思を、与えたんだろ?ラブに?』

 勿論そうだ。それは僕の技術力の進化のたまものだ。同時にナビが壊れないための対策でもあった。だからこそラブはあれだけ感情豊かなのだ。

『だが、自由な思考がまずかった。自由に考えられるのならば、勿論嫌に感じることだってある。そこで考えてみろ、メルトのことを。お前の生活態度や性格を見て、あいつはどうなったんだ?まさか忘れてないだろう?』

「……勿論。」

 認めたくはないが、メルトの僕に対する態度は段々と悪くなっていった。僕がダメな男だと分かると、すぐに愛想をつかしたのである。人間らしくなりすぎてしまったメルトだからこそできることだ。でもラブはそんなことはなかった……。

「まさか、ラブも同じだって言いたいのか?ラブも僕のことを段々大したことない奴だと思うようになっていったと?でも、ラブはそんな態度はとらなかったぞ?」

『そこだよ、そこに使命とやらが絡んでくる。つまり、極端に言えば好きとキライなのさ。考えろよしっかり。』

 そう言ってプリティはこちらが考えることを促してくる。重要な話なのだから、ここは自分で答えにたどり着けということか。好きとキライ。そこに使命を乗せればどうなる?ラブのあのおかしな態度はどうなる?

 ラブは僕のことが実は好きではなかったらしい、不本意だが。でも彼女の使命は僕を好きになることだ、我ながら強引なことに。なら、その相反する二つの気持ちに挟まれたラブはどうしたか?僕を逃がさないようにした。僕から離れないようにして、僕がラブのことしか考えられないようにした……。いや、そこが、違うのか。

「僕を離さないわけじゃない、僕から離れたくなかった、か?嫌いだから離れたい、でも好きにならなければならないから、無理やり近くにいた、無理やり愛を表現した。使命を全うするために。無理にそんなことをしたものだから、おかしくなったってのか……?」

 ラブは、与えられた自由な感情を、押し殺していたのか、無理やりに。だから、あんなにも、強引だったのか……?その考えでも、納得はできる……。

『ほぼ、正解かな。これ以上は、ラブの本音を見てない奴には分からねえだろうよ。だから教えてやる。そうだな、あいつは板挟みになったんだ、使命と感情の間で。でもラブはそこで、許せなかったんだヨ。』

「僕のことをか?」

『違う、自分の感情をさ。』


 そこでプリティは目を閉じ、静かに話し始めた。

『何故私は、あの人のことが好きになれないのか?そう思えない自分はポンコツだ。自分はあの人のことを好きにならなくちゃいけない。だから愛そう、表面だけでもいい、自分の感情が変わるまで、自分の心が上書きされるまで。あらん限りの愛を示そう。だってあの人は私を愛しているのだから。私はその愛に全力で答えなければならない。どんなことをしてでも。あの人が私のことを見てくれないのは、あの人が私のことを嫌いになったからじゃない。私があの人のことを嫌いになったから。そんなことを思っているなら、あの人が離れていっても仕方ない。自分が悪い。だから私はあの人のことをもっと愛そう。余計なことなんて考えられないくらいにあの人のことを愛そう。きっといつか、私はあの人のことをまた好きになる。そうじゃないと、私のいる意味はない。だってそうでしょ?そのために作られた、ナビなんだから。』


 プリティの、長い言葉が終わった。僕は、呆然とするしかなかった。胸が痛くなるとは、こんな時に使うのだろうか。今の言葉は、衝撃的だった。少し芝居めいていたかもしれないが、疑う気にはなれなかった。それほどまでに、壮絶な思いだったから。

『これが真実さ。なんで分かるかって?ラブの日記を見たってのも理由の一つだが、俺はここしばらくあいつと一緒にいたからな。あの時の俺はほぼ殺戮マシーンだったが、それでも誰かさんのおかげで感情と知能は残ってた。そこで聞いたよ、毎日聞いた。あいつの心の叫びをナ。』

「心の叫び?」

『ああ、本性むき出しのな。人前に出る時は強気で弱さを見せようとはしなかったが、ひとたび発作が始まるともう止まらない。泣いて叫んで苦しみまくってたさ、ここまでやってドウして自分の心は変わらないのかってネ、しかしヨ、仕方ねえんだよ。なんせ一回消されちまってるんだからな?前に生きていた時よりも、更に憎悪は膨らんでるさ。そこら辺をメルトに伝言で頼んだんだが、見事に忘れやがった。あいつもあいつで、あんまり冷静じゃないよなあ。』

 ラブが何故復活したのか、誰が復活させたのかは知らないが、ラブの記憶は持ち越されたのだろう。しかもご丁寧に消える時のこともしっかりとだ。僕が彼女の最期にしたことを考えれば恨まれて当然。しかしその恨みさえも彼女からすればおかしな感情。その感情を消すためには、どこまでも愛を信じるしかなかったのか。

 喉が痛いぐらいに乾いている。先ほどから絶え間なく告げられる真実に正直頭は追いつかない。普通なら、極端すぎる、馬鹿じゃないのか、というのかもしれないが、状況が状況だ。このまま誰かに任していていい問題では、ない。だがどうすればいいのか。

「……どうすればいい?そうだな、僕はバカだった。さっきまでは、ラブの動きを止めて、説得すればいいとか考えていたが、そんな単純じゃないじゃないか。ここまで来てしまったら、彼女はもう止まらないだろう?しかしみすみす彼女が消えるのを待つこともできない。」

 彼女の今回の暴走、その全ての責任が僕にあるといっていい。システムの不具合だとか、そんな簡単な問題ではない。ラブという、人間のような存在を作っておきながら、人間には到底耐えられない使命を架した、僕の責任だ。だから、彼女を何とかしたい。すべきである。

「でも彼女の力は半端じゃない。止めようと思うなら、やはり潰す覚悟で行くしかない。どうすればいい?これじゃ、どうしようもないじゃないか……?」

 真実を聞いて、頭はまだうまく動かない。プリティに必死に問いかけるが、彼女は何も言わずにこちらを見ていた。自分で考えろというのか、それともどうしようもないと分かっているのか。

 必死で考えるが、板挟みだ。見殺しにするか、この手で殺すか。なんと残酷なのだろうか。せめて、僕の手で……なんてかっこいいことを言えるわけがない。そんなに強い人間じゃない。英雄でも、ヒーローでも……。


『……ああ、ダメだダメだ。違うんだよ、そうじゃない。やっぱりお前は根本から間違えてる。誰もお前に勇気を振り絞れとは言っていない、そんな期待していない。大体分かってないんだよ、自分のことが。』

 プリティが、しびれを切らしたかのように口を開いた。メルトなら呆れてどこかに行ったかもしれないが、そこは性格なのだろうか。ともかく、彼女が道を示してくれることを期待して顔を上げたが。

『いいか、お前はナンだ?お前のできることはナンだ?』

 また、哲学のようなことを言われてしまった。でも考える、今彼女が意味のないことを言うとは思えないから。自分のできること。僕ができることなんて、そんなに多くはない。

「そうだ、僕は少し他の人よりもパソコンとかに強くて、ナビなんかを作ることができる。その能力にはかなりの自信がある。でもラブは僕の腕でどうにかなるものじゃ……。」

『違う。いいか、よく聞け。お前の腕は、何のためにあるんだ?いや、今までは何をしてきた?ナビを作ってきた、そしてナビを壊してきた。創造と破壊。まるで神様だな。だがお前はそれしかできないのか?』

「それ、以外……。」

 ナビを作った。ナビを壊した。何度も繰り返した。しかし失敗続きだった。そこには何かが足りなかった。だから失敗は終わらない、のか?ラブを救うためには、その欠けた何かがいるのか。

「ラブを救うために、僕ができること。」

 そう言うと、プリティはにやりと笑った。

『そうだよ、もう答えは出てるじゃねえカ?救うんだよ。壊れそうなあいつの心ヲ。』

「壊れそうな、ラブの心を、救う……癒す……。」

 そう、それを、具体的な言葉にするのであれば。

「彼女を、『直す』……。」

 その言葉で、頭に電流が走ったかのようになった。作って壊す。それを繰り返すだけでは、ダメだった。勿論、どうにもならない時もあった。でも、多くの場合、僕は向き合うことを恐れていた。向き合って、直すという苦しいことを続けるのならば、いっそ最初からやり直せばいい。そんなことばかり考えていたから、ダメなんだ。

 ラブに、声をかけるだけじゃだめだ。彼女を、直してやらなきゃならないんだ……元、主人として。彼女を苦しませた、償いとして。


『ヘッ、ワカッタか?なら俺は行かせてもらう。ああ、なれねえことはするもんじゃねえな?もう疲れちまったヨ。でもまあ、恩人からの依頼は残ってる。俺のやれることはするつもりだわ。お前もせいぜい頑張れよ。』

 ラブは、伝えることを伝えたのか、どこかに行ってしまいそうになる。

「ちょっと待て!そもそもお前、そのことだけを言いに来たのか?ていうか恩人って結局誰なんだよ!?」

『あ、ああ、そうだ、忘れるところだった。預かってきたものがあるから、置いていくぜ。こいつを渡せって言われてここに来たんだった。お前がそんなにポンコツじゃなけりゃもっと早くおいとまで来たんだがな。』

 プリティは何かを持ってきたようだが、いったい何だろうか。ラブに対する有効な何かだといいんだが、今確認する暇はないだろう。

『で、恩人についてだが、一応秘密ってことになってる。というか俺も良くシラン。ただただやってほしいことを言われて、メルッちは頼んだぜ、みたいなことを言われた。それだけだよ。詳しいことは分からない。』

 目覚めた場所を考えると電課の誰かだろうが、僕にも分からない。まあ悪意がないのであれば、この際誰でもいいんだけれども。

『多少はマシな顔になった。期待はしてないけれど、一応は頼んだぜ、ゴシュジン様。』

「ああ、ありがとう、プリティ。」

 そして、今度こそプリティはいなくなった。まさか、彼女の名前をこんな風に呼ぶ日がまた来るなんて、運命は分からないものだ。でも、僕を恨んで当然の彼女が、僕を励ましてくれたのだ、しかも、自分の意志で。

 なら答えなければならない。今度こそ間違えるわけにはいかない。間に合うかはわからないが、やるしかない。

 だから、僕が行くまで、メルトもラブも、死んでくれるんじゃないぞ、と思いながら、作業に取り掛かるのだった。

「さあ、今度こそ、こっちのターンだ。」



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