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chapter 15 カットバック・マイターン side:M

「で、どうだったの?何か得られるものはあったわけ?」

「残念ながらあったわよ。まあ確信が持てたって感じかしら。でもやっぱりあいつのことを見ているとイライラしてしまったわ。ただでさえまだ体が痛いのに。」

「素直じゃないなあ。ちょっと楽しかったんでしょ?」

「それはないわ。あんた相変わらずね、ソルヴィ。」

 凡人と話した後、私は再び電課に戻ってきていた。何のためかというと、情報収集と体の修理のためである。戦闘後、応急処置をして凡人のところに行ったわけだが、中身はまだまだボロボロだった。話しているのも実はしんどかったのである。

 時間をかければ自分でも修理することはできるレベルだったが、如何せん時間がない。ラブもあの滅茶苦茶な体が上手く動かせるようになるまでは時間がかかるだろうが、多少の無理はしてくるだろう。修理もしてくれて情報も入ってきやすい電課にいることは、なかなかいい選択だと思う。

「で、そっちはどんな感じなのよ。ブレイブとかはどうなってんの?」

「ああ、あの人達はしばらく駄目ね。というか今回の作戦にはこの町にいる強いナビが多く参加したけれど、大体が何かしらのダメージを貰っちゃったからね、被害は甚大よ。ラブを倒しに行けるのはごく僅かって感じかしらね。」

 この町はあまり大きな町ではないが、それでも高性能なナビは多くいる。でもそういうナビ達はたいてい重要なところで働いているので、自由に動けるものは少ない。その自由に動けるナビ達も、多くがラブにやられてしまったということだろう。なんとも情けない。というかラブが強すぎるのか。

「電課にはほかにもナビがいるでしょう?どうなってるのよ。」

「まあいるにはいるんだけど、それぞれ役割があるからね、戦いに特化していたのはハンサムさんとブレイブさんぐらいなものよ。後は私みたいな事務系とか、防御や捜査に特化した人が多いからね、大きな戦力にはならないでしょう。」

「でもこれだけ騒ぎが大きくなれば、他のところから応援とかがくるんじゃないの?」

「そう簡単でもないのよねえ。私は前には役所にいたから良く分かるけれど、上と下との繋がりはあんまりよくないから、迅速に動いてくれるなんてことはまずないでしょうね。ラブが動く方が早いと思うわ。それに、こんな時のための電課だろ、って言われると反論しにくいみたいでねえ。」

 確かに、こんな犯罪を止めるためにわざわざ作られた組織なのだ。麻次が頭を下げまくっている様子が簡単に想像できる。それにこの事件、責任を誰がとるか、なんて話になってくるとまたややこしくなるから、手を出しにくいのだろう。


「じゃあ結局、かなりピンチってことなのね。」

「そうね。いっそのことドカンとやってしまいたいところだけど、そんなことをすればこの機械化社会は大打撃を受けちゃうからね。全く、面倒くさいってものよ。」

「あんたもアタシもこんな時代じゃないと生まれてこなかったわよ。人間様には文句ありありだけど、この時代を恨んでも仕方ないわよ。」

「あらら、なかなかロマンチックなこと言うのね、メルッち。」

 ソルヴィは楽しそうに話しているが、それじゃあラブに対する手段は何もないというのか。それはかなりまずいんじゃないのか。

「といっても、本当にやばくなったら、上は何でもするんでしょうね。データが傷つこうが、みんなに迷惑が掛かろうがお構いなしでしょ。取り敢えずネットワーク遮断ぐらいはやりそうよね。」

 この時代にそれをするのはかなり無茶な行為だ。どれほどの被害が出るか分かったものじゃない。しかしそれでも、人の命には代えられないのかもしれない。

「その遮断で、他の人が命を落とすようなことがなければいいんだけれどね。まあそもそもそんなことをする勇気は政府にはないんじゃないの?」

「そんな時こそ上の出番でしょう。そんな時だけはしっかり連携しそうだしねえ。被害を抑えろ、ただし実行するのはお前たちだ!ってね。あれ、でもこれじゃあ結局うまくいかなさそうだわ。やだやだ。」

「ああ、やだやだ。」

 と、そんな感じでソルヴィとためになっているのかなっていないのかという話をしばらく続けた。何だかんだ言ってやはり彼女とは話しやすい。リラックスした会話は最近していなかった気がするし。


 そしてしばらくして、体の調子がようやく戻ってきたので、本題に入ることにした。

「さあ、そろそろそっちがどんな作戦を立てているのかを教えてもらいましょうか。」

「お、ついにその話しちゃう?まあそろそろしないダメか。私としてはもっとメルッちと話をしていたかったのだけれど仕方ない。といっても、敵さんに対してはもう待ち伏せをするしかないわね。そして何とか動きを止めて、攻撃プログラムを打ち込むのよ。」

「どっかで聞いたような作戦だけれどまあいいわ。でもさ、簡単にそう言うけれど、今までも同じようなことをして失敗してるじゃない。大丈夫なの?」

「さあ、詳しくは分からないわ。でも今回は敵についても大量の情報をもとにして有効なやつを作ったから、叩き込めれば勝ちよね。今までと違って、触れば勝ちよ。勝利へのハードルは思いっきり下がってるんじゃない?」

「でも今までラブに触れたのは私ぐらいじゃないの?」

「ま、そうなのよね。だから待ち伏せして、一気に奇襲するなんていう汚い作戦になるわけだけれど。」


 結局はあの凡人と同じような作戦になるわけだ。数で襲い掛かるか、特攻覚悟で襲い掛かるか。敵が高性能だと、攻撃手段が限られてしまうのが難点である。派手にやると周囲にも被害が出るし。

「待ち伏せした所で、なかなかうまくいかないんでしょうけどね。」

「ラブの性能を考えるとね……。」

 奴の『愛の置き土産ラブ・トラップ』はかなりのチート能力だ。一体どこにどれだけあいつの爆弾が仕掛けられているのだろうか。待ち伏せするということは、彼女が行きそうなところというわけで、彼女が行きそうなところは、爆弾だらけな気がする。

「なるべく気を付けるつもりなんだけどね。そこら辺は、実動隊の皆さんに期待するしかないわ。」

「でも一体どこで待ち伏せするのよ?」

「それはいろんなところよ。でもね、特に警戒するのは、入院している人たちのところね。」

 入院している人たちといえば、クラスメイトのバンさんと、確か日和って言うほんわか少女も入院しているはずだ。後挙げるとすれば……。

「なるほど、唯一の親族が危ないのでは、ということね。」

「正解。」

 凡人の両親は遠く離れたところに住んでいるが、彼の祖母はこの町に住んでいる。といっても体の調子が近年では悪いらしく、今ではずっと入院している。

「ラブももはやボロボロ。次の襲撃が正真正銘の最期になるだろう、だから最後は親族を狙ってくるんじゃないか。そう上は考えたわけね。」

「まあ筋は通ってるわね。ただ一人に絞るのは案外難しい。彼女の攻撃基準は結構あいまいだからね。凡人が気にしている人ってだけなら誰にでも当てはまるし。」

 そうなのよね、とソルヴィは今日何度目か分からないため息をつく。前線に出ないとしても、彼女もそこそこ仕事をこなしているはずなので、もう嫌になっているのだろう。

「そういえば桃田の勘はどうなったの?あれがあればどこにくるかなんてすぐ分かるでしょう。」

「ああ、あれもダメなの。何だかんだで仲間思いの人だから、ブレイブさんとハンサムさんのことでショックを受けたみたいで。ぼやっと見えてはいるんだけれど、確信が持てないというか、自信がないというかで。」

 そもそも勘なんてものはいつでも頼れるものでもないし、簡単に信じられるものでもない。信じようと思わなければ、それはただの推理になってしまうのだろう。いや、良く分からないけれど。つまりは今回桃田に頼ることはできないというわけだ。

「どのみち、もう時間はないわね。メルッちも、そろそろ覚悟決めた方がいいんじゃない?」

「そうね……。何ができるかなんて、全然分からないけれどね。」

 今回の作戦は、失敗しようが成功しようが、最後にラブは限界を迎えて壊れてしまうだろう。大体、彼女の本心を引き出したところで、彼女が止まることはない。結局は私が彼女をぶっ壊すことになってしまうだろう。しかし、それでも。

 誰一人彼女のことを理解しないまま、彼女が消えるというのは、あまりにあんまりではないだろうか。


「ところで、ご主人の方は大丈夫なの?ほおっておくと何かしでかすんじゃないの?」

「ああ?ああ、あいつなら大丈夫よ。細工してきたから、簡単には家から出られないし、何もできないでしょうよ。」

「ああ、そう。まあ私の方からも少し手は打っておいたから、メルッちは安心していいよ。」

「?」

 ソルヴィの言葉は気にかかったが、ともかく話もひと段落。落ち着いたかと思った瞬間に、その時は、来た。


『連絡~。とうとう奴さんが動きだしたみたいだよ~。』

 誰の声かは知らないが、その間延びした声とは裏腹に、電課全体に緊張が走る。

『ついに動いたわね。現状報告!』

 これは桃田の声だ。ここに来てから一度も声を聞いていなかったが、確かにかなり焦っているように思える。いつもの彼女とは大違いだ。

『各地で色々不具合が起きてるね……ナビ達もいきなり暴れ出しているみたい。でも前回ほどではないね。恐らくこれは混乱させるのと人を分散させるのが目的。』

『今更そんなのどうだっていいわ!重要なのは敵が今どこにいるかということよ!』

 どうだってよくないですよ、ほっといたら上になんていわれるか分からない!という麻次の悲痛な叫びが聞こえるが、誰も気にしてはいない。

『ふむ、どうやら素直におばあさんを狙ったみたいだ。病院のネットワーク入口にて本体を発見。むふふ、私のレーダーからは逃げられないのだよ……。』

 やはり親族を狙いに来たということか。警察の予想は外れてはいなかったらしい。

『ビンゴ!そこにはリジットがいるわ!足止めには十分すぎるってものよ!後は奴に痛いのぶちかましてやればそれで終わりってやつね!』

「リジットって誰?」

 聞かない名前が会話に出てきたので、ソルヴィに聞いてみる。

「ああ、まだリジットさんにはあったことがなかったのね。主に防御面を担当している電課のナビよ。リジット・ザ・サンクチュアリ。その特殊能力は、超強固、超鉄壁な防御であらゆるものを跳ね返す『絶対守護領域パーフェクト・プロテクション』!」

 そう言えば前回ラブとブレイブが戦った時、ブレイブが強力な盾がうんたらかんたらと言っていた気がする。それのことだろうか。

「あれ、でも前回は、その強力な守りは突破されてたような……。」

「いくら強力でも、永遠に守れるわけでもないのよ。前回は物量にやられたらしいわ。後、守る以外はそこまでの人だから、戦える誰かと組んで初めて真価を発揮する、みたいな……て、メルッち、早く行かないと、ラブがやられちゃうよ?」

「やばっ!」

 そうだった、呑気に話を聞いている場合ではなかった。リジットがどうであれ、ラブがやられてしまえばもうそこで終わりなのである。場所が分かっているのであれば、すぐに向かうべきであろう。

 と、出発しようとした、その時だった。


『おや、この反応は……ちょっ、マジですか。』

 先ほどから解説をしている女の声が、少し焦ったものに変化した。

『何?どうなってるの、説明しなさい!』

『この反応は……間違いないっす……『超破滅砲』だ!なんてこった!』

『なっ……!』

 その名前を聞いて、一瞬全員が沈黙するが、それはそうだろう、またここでその名前を聞くなんて誰も思っていなかっただろうから。

『撃たれる前に何とかしなさい!できるでしょう!』

 桃田が沈黙を破る。しかし帰ってきたのは、救いのない返事だった。

『ダメだ……。もう、撃たれてしまった、様子……。』

 その力のない返事を聞いて、あの時の惨劇が思い出される。いや、正確には私はそこにはいなかったのだが、簡単に想像することができる。多くのナビ達が、何もできずに、ただ光の中に飲み込まれていく様子が。

「ソルヴィ、一体どうなってんのよ!ブレイブはここにいるんでしょう?なのになんでラブがあれを使ってるのよ!」

 ソルヴィも先ほどまでの余裕そうな感じは一切なくなり、かなり混乱した顔をしている。それほどまでに予想外の出来事なのだろう、電課の面々にとっても。

「ええ、確かに、ブレイブさんの持っている『超破滅砲』のプログラムは完全になくなっていたわ。でもね、あの時は安全も何も考えずにラブがぶっ放したのだから、壊れていて当然だ、という話になったのよ。」

 あの時のラブは問答無用だった。しかもあの時はラブが撃ったわけではなく、正確に言うとラブが操っているブレイブが撃ったのだ。

「それがまさか、根こそぎ奪われてました、なんていったい誰が考えるんだっていうのよ……!クソ、せめてブレイブさんがもう少し直っていれば、そんな痕跡も見つけられたかもしれないのに……!」

 根こそぎ奪う。あの無茶苦茶な、しかもブレイブ個人では使用が許可されていない武器をラブが単独で使ったというのか。普通はできない。そう、彼女以外ならできないだろう。並外れたハッキング能力と、あの悪魔のような力がなければ。

「『自己犠牲愛フォール・イン・ラブ』か……!もう何から何まで最悪ね!」

『ちょっと、被害状況はどうなってるのよ!リジットはどうなったの!』

 桃田が叫ぶ声が聞こえる。すると、外部からの通信で、消えそうな声が聞こえてきた。

『こちら……リジット。状況報告。すまないが、もちそうに、ない。』

 完全に消耗している。今も交戦中なのかもしれない。

『ちょっと、何とかならないの!?』

『努力はするが、敵が出鱈目すぎる。現れたと思ったら容赦なしだ。何とかプロテクトは守ったが、私の盾はもうもちそうにない。現在味方が交戦中だが、敵も一人じゃない。なかなかのメンツだよ、こいつは。』

 流石に鉄壁ということなのか、いきなりあの攻撃をくらったのに、やられていないどころか味方まで救っているなんて。だが彼女の話が本当なら、もう一刻の猶予もない。


「……行くわ、ソルヴィ。」

「……ええ。もう今更止めはしないわよ、メルッち。思い切りやってきなさい。でも、気を付けてね。本当になにがあるか、分からないんだから。」

 その通りだ。ラブの行動はいつでも私の斜め上を行く。今回はどうなるのか、さっぱり全く予想もつかない。

「ええ、でもここまで来たら、次はなにがあるのか楽しみになってきたわよ。それにあたし、やっぱりこういう展開の方がいいわ。少し不謹慎かもしれないけれど、負けて消えそうになってるラブに向かってしみじみ話をすよりは、殴り合いながらの話の方が絶対に弾むもの。」

 そう言うと、ソルヴィはいつものように笑った。

「いいね、そういう所、実にメルッちらしいよ。できる限り応援するから。ラブちゃんの閉じた心を、何とかして来なさいよ!」

「あんたねえ、あたしを誰だと思ってるのよ。」

 さあ行こう。これが本当に最後の、殴り合いだ。

「メルト・ジ・エイトよ。どんなに凍った心でも、あたしの前では意味をなさない。この拳で、全部、溶かしてきてやるわよ。」




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