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chapter 14 最初の気持ち、ホントの心 side:H

 家に帰ってきたが、誰もいなかった。ブレイブがいないということは、ラブはまだ捕まっていないのか、それとも捕まえたから、もう僕を監視する必要はなくなったのか。後者なら勿論嬉しいわけだが、まあそういうわけにもいかないのだろう。そうであるならば連絡ぐらい来てもよさそうである。

 それに外の様子を見れば、とても終わったとは考えづらい。もうひどいものである。変える間にも、段々と騒ぎが大きくなってきている。前回の車の暴走のように大きな不具合ではないようだが、今回は色々なものの不具合が出ているらしい。数が多い分、町のざわつきも大きかった。

 これが全てラブのせいだと思うとぞっとする。あいつはどこまで化け物になっているのか。こんな事件が起きると、色々なものが機械化されたこの世界がどれほど脆いものなのかを嫌でも実感させられる。とにかく早く何とかしなければならない。


 帰ってきてからはずっと対ラブ用のプログラムを制作していた。一度ラブを消すためのプログラムは作ったが、今の彼女にそれが効くかどうかといわれると微妙なところである。なので更に強力に、跡形もなく消せるようなものでないといけない。

 また、彼女にこれを打ち込むための策も必要だった。遠くからではおそらく駄目だろう、直接プロテクトを破って打ち込まなければならない。ならどうすればいいのか、敵は強力なハッキング能力を持っているので、慎重に考えなければならない。

 などと色々考えて作業をしていると、気づけばもう夜になっていた。いったいどうなったのであろうか。やはりラブは逃げ延びたのか。ならば次はだれを襲うのか。ある程度予測はできるが、今の僕の作戦だと、一つに狙いを絞る必要がある。どっちみち、警察を待つつもりはないのだが。

 その時、つけていなかったテレビが突然ついた。リモコンにうっかり触ったか、それとも見逃しがないように予約していたのか、と思ったがそんなことはなかった。家のセキュリティは先日最高にしてあるので、外部からこんなことができるのは限られたやつだけだ。

 そしてソイツが、画面に姿を現した。


「……何も言わずに出てくるなんて、珍しいな。」

「……ふん、こっちだって姿なんか見せたくなかったわよ。」

 出てきたのは、メルトだった。ブレイブが来てからは、ほとんど家にいることもなかったと思う(姿を見せていないだけかもしれないが)。なんだかとても懐かしいような気がした。心なしか疲れているように見える。

「ラブと会ったのか?」

 彼女はラブを追っているようだった。詳しい理由は知らないが、今回の戦いにも参加したのかもしれない。

「ええ、勿論。逃げられたけれどね。流石にしぶといわよ、誰かさんの作ったナビは。」

「悪かったな。」

「あら、やけに素直ね。というかアンタ、だいぶひどい顔をしてるわね。この世の終わりみたいよ、その顔。何かあったの?不甲斐ない自分のせいで誰かを傷つけたとか思って反省してるの?」

 いつもの挑発するような態度だ。言ってる内容からして、学校の事件は知っているようだ。でも今日は彼女の相手をする気分にはなれない。

「そうかもしれないな。」

「……ずいぶん落ち込んでいるみたいじゃない。で、落ち込んでいるアンタは何をしているのよ?見た感じ穏やかじゃないみたいだけれど。」

「お前ならすぐにわかるだろ。」

 パソコンを使う作業で彼女に隠し事はほぼできない。そんな無駄なことをするぐらいなら作業を進める。

「ええ、ええ、筒抜けよ。どうやらまだ英雄気分が抜けていないってことはよく分かるわ。全く嫌になる。うじうじ虫が一転して悪を倒す勇者になったつもりなの?やめときなさいよ。そんなことしなくてもそのうち事件は終わるわ。」

 口調に変化はないが、どことなく彼女の言葉には勢いがない。疲れているのか、それとも心配でもしてくれているのか。まあこっちもいつもと違う態度をしているから、やりにくいのかもしれない。

「そんなのじゃない。警察ができないのなら、僕も手伝いをしなくちゃいけない。それで少しでも早く事件が終わるのなら、やるしかないだろう?僕は完全に関係者なんだし。お前だってそうだろう?ラブに執着するのは、無関係じゃないからだ。ソルヴィを襲われたってだけじゃない。」

 沈黙。メルトがこんな風に黙るとは珍しい、図星だったのだろう。誰が考えても分かるようなことだが。

「そうね、ラブはあれでもアタシの姉になるわけだし、無視するのもアレだしね。何より誰かさんのおバカな計画の犠牲者でもあるわけだし。」

 その言葉が、少しだけ心に刺さる。そう、今は少しだけ。確かに原因は僕だ、疑いようもなく僕だ。そのことについては反省するしかない。今までのナビ達には悪いことをした。でも今は後悔する時ではない。


「やれることはやる。お前も好きにしろ、もう止めたりしないから。」

「あら、あたしのことを心配して必死に引き留めてくれたのが嘘みたいじゃない。」

 勿論心配している。あの時、メルトが列車に向かうといった時に感じた不安は嘘じゃない。彼女と一度ゆっくり話さなければならないとちゃんと思っている。でもそれ以上に、ラブをこのまま放置することに対する不安の方が大きい。

「あいつを放置することは、お前にも危険が及ぶってことだ。最終的には助けになるはずなんだ。だから僕はやらなくちゃいけない。」

「……。」

 再び沈黙。もう彼女は行ってしまうかと思った。でもメルトは動かない。

「……なるほど、英雄気取りではないようね。好奇心とかワクワク感もない、少しだけ安心したわ。でもそうね、ならアンタはやっぱり怖いわけだ、他人が自分のせいでどうにかなってしまうことが。」

「そうだよ。怖くて怖くてたまらない。」

 正直に答えた。だって事実だ。確かに最初は自分が狙われて恐怖を感じたし、警察と行動を共にする、謎のロボットに襲われるなど、普通ではない体験に酔っていた気もする。でも今は、誰かが傷つくのを見たくない気持ちでいっぱいだ。

 メルトは僕が素直に返すとは思っていなかったのか、それとも何か思う所があったのか、再び黙った。なら今度はこちらからだ。

「で、お前は何をしに来たんだよ?」

「えっ、ああ、そうね、こんなことを言いに来たんじゃないわ。ラブについて聞きに来たのよ。」

「ラブについて?今更何を聞くつもりだ。」

「今更?アンタには何も聞いてないわよ。プリティのことだって、色々あってうやむやになっているぐらいじゃない。まあプリティのことは今はいいわ。ラブのことを教えなさいよ、どんな風だったのかを。」

 メルトは問い詰めてくるが、そんなことは死んでも言いたくない。言ったところでまたボロクソに言われるだけだし、ラブを倒すことにためらいが出てくる可能性も十分にある。大体こいつはそこら辺のことは知っているのではないのか、今までの言動から察するに。

「それくらい分かってるんだろう?それとも僕にわざわざ言わせることで、懺悔でもさせようって言うのか、それともいじめたいだけか。どっちにしろ忙しいんだよ、僕は。」

「ええ、大体は知っているわよ。何故かは教えられないけれどね。ただ私が知っていることは、あくまで彼女の目線からの事実に過ぎないわけ。色んな立場になってみないと、本当のことは分からない。だからアンタから話を聞く必要があるのよ。分かる?」

「全然分からん。」

「鈍い。でも怒ってる暇はないの。さっさと話しなさい。詳細はいいわ、かいつまんでだけでいい。もし話してくれたら、あなたの邪魔はもうしない。好きにしなさいよ。」

「話さなかったら、全力で邪魔をするのか?」

「そこら辺は想像に任せるけれど。いい返事を期待するわ。」

 どうやら引き下がるつもりはないらしい。仕方ない、彼女が本気になれば作業どころではなくなる可能性が非常に高い。かいつまんで、なるべく意識をせずに話をするしかないだろう。


「で、何から聞きたい?」

「素直でよろしい。先ずはラブの人格やら設定について聞きましょうか。つまり彼女が生まれる前の話よ。」

 いきなり軽蔑されるような内容だったが、全部話すしかなった。隠してもばれるだろうし。

「ふんふん、まあ気持ち悪いのは置いておきましょう、その話をするときりがないわ。つまりラブは、アンナを愛することが仕事の一つ、使命みたいなものだったぅてわけね。」

「そんなたいそうな言い方をしないでほしいが、まあそうだな。僕を愛するように設定されていた。」

「で、それがだんだん過激になっていったってわけね。」

「そう言うことだ。」

 その後もいくつかのことを聞かれた。後半の彼女はどんな風だったのか、どこかおかしなところはなかったかなどなど(どう考えてもおかしかったが、そういうことではないらしい)、思い出したくないことだったが、正直に話した。

「最後の方はかなりぐいぐいきたというわけね。ヤンデレって感じだわ。」

「なあ、もういいだろう。これ以上は話したくないよ。」

「自分のせいでそんなことになったのに、何贅沢なこと言ってるのよ。肝心なところを聞いていないわ。最後よ、最後。アンタはどうやってラブを始末したのか。」

「……。」

 

 やはりこの質問になってしまうのか。そこは一番思い出したくないところなのだ、でもここまで話してしまったのだから、もうあまり変わらないような気もしてきた。

「ラブはアタシほどではないにしても、アンタに変にいじられないように警戒していたんでしょう。でも最終的には消えた。アタシを消せていないのだから、その手段はラブにしか通じないものだった。そうでしょう?予想するだけでも嫌な感じなんだけど、聞くしかないわ。」

「なら聞かずに立ち去ってほしいんだけどね、お互いのために……分かったよ、いえばいいんだろう。そんな怖い顔で見るな。お前は姿形は僕好みの塊だから困る。」

「はぐらかすなこの変態野郎。」

「ああ、答えは単純。プレゼントだよ、プレゼント。」

「プレゼント?」

 我ながらなかなかにヒドイ手段だと思うが、あの時はそれぐらいに追い詰められていたのだ。

「愛する人……本当に愛していたかは知らないが、取り敢えず愛している人からプレゼントを貰うとする。するとどうなると思う?」

「リアルではロクにプレゼントを送っていないと思われる奴が言うのを見るととっても滑稽で悲しくなるのは無視して、それは喜んで受け取るでしょうね……ああなるほど分かったわ。もう言わなくていい。ああ本当に最低な女の敵なのねアンタ。」

「どうとでも言ってくれ、僕だって罪悪感がないわけじゃないんだ。彼女のあんなに喜ぶ顔は、あの時始めて見た。最初で最後って奴だよ、クソッたれ。」

 言ってしまったが最後、記憶はよみがえってくる。僕からのプレゼントに、顔を輝かせたラブ。あんまりにもまぶしいその笑顔に、僕は胸が張り裂けそうになった。なにせ彼女が持っているのは、パンドラの箱だったのだから。

「まんまと彼女はその箱を開けた。自分を壊すものが入っているとは知らずに。アンタは計画通りだと内心喜んだ。」

 そう、計画通り。彼女の笑顔を見て、引き留めようという気持ちに一瞬なったが、もう手遅れ。計画通りに彼女は箱を開け、中のウイルスとプログラムによって、崩壊した。

 いつもそうだ。最後になって後悔する。最後の彼女達は色々な表情を見せるけれど、そのどれもが心にくるものだった。そしてその全てを僕は守れない。毎回後悔して、それなのに毎回繰り返した。本当にダメな男だ。


「にしても、初めて最高の笑顔を見せた、ねえ。アンタ、日頃からラブにどんな態度をとってたのよ。そんなに嫌いだったの?」

「違う、そんなことはない。確かに怖かったし、消そうとしたけれど、彼女を嫌ったことはない。冷たい態度をとっていたのは事実だけれど。」

 そう言うと、メルトは少し意外そうな顔をした。きっぱりそんなことを言うとは思っていなかったのだろうか。メルトは少し考えるように目を閉じたが、すぐに長いため息をついた。

「それは意外。でもね、そのことをちゃんと彼女に言ってあげたの?言葉に出さないで、冷たい態度をとっていたなら、相手は嫌われていると思っても仕方ないんじゃない?」

 メルトは痛いところを突いてくる。勿論、彼女がこれ以上暴走しないように、甘い言葉をかけたことはほぼない。それ故に彼女が更に暴走したかもしれないが、どちらにしろ彼女を止めることはできなかっただろう。

「なるほどね。何となく分かった気がするわ。いや、ほぼ分かったわ、彼女のことが。簡単なことだったのよ。どっかの誰かさんがしっかりしていれば、こんなことは起こらなかったでしょうね。」

「何が分かったんだよ?ここまで話したんだから、教えてくれてもいいだろ?」

「嫌よ。自分で考えなさい。すぐにわかるわよきっと。こんなに長く話して私も疲れたし、そろそろ行かなくちゃいけないしね。」

 まあ正直にこいつが話すとは思っていなかったけれど。確かに意外と時間がたっている。こちらも作業を進めなければならないだろう。そろそろ、ラブも最後の行動に出るはずだ。


「で、最後に聞いておきたいのだけれど、後悔しているご主人様は、いったいどんな作戦を立てているのかしら?ラブを倒すのは、それなりに大変だけれど。遠距離からの攻撃は駄目だろうし、そんなものを作っている余裕もないでしょう。それとも必殺のウイルスやプログラムがあるのかしら?」

「……。」

 答えたくはない。メルトと話している間に思いついたが、これはメルトを必ず怒らせるだろう。

「調べればわかるんだけど?」

 でも彼女に隠し事はできない。悲しいことに。

「突撃用のナビを作る。ウイルスでもプログラムでも、構造が単純だと彼女にすぐ迎撃される。それはナビでも変わらないが、しっかりと対策をして上で、更に自身ではハッキング妨害をさせる。ラブに近づいて自壊プログラムを打ち込めれば、それで決着だからな。」

「ふうん。それは素敵ね。」

「一応言っておくが、性能はお前のデータを流用するから高いものにはなるけれど、感情とかそういうものはなしだ。総合的に見ればダブルネームぐらいだよ。」

「それでもナビを弾みたいに使うんでしょう?そして相手を壊す。嫌な感じだわ。」

「……じゃあ、じゃあどうしろって言うんだ!お前は駄目だのいやだのばかりで、何も具体的なことは言わない。それは文句をいうだけの奴と同じだ。大体あいつを倒すためにはこれぐらいしないといけないんだ、お前が不快に思うかどうかなんて、気にしている暇はないんだよ!」

 メルトの言葉に苛立って、思わず怒鳴ってしまう。そうだ、元からコイツは僕のことを見下している。僕がどんなことをしても、文句を言うに決まっている。真面目に話を聞く方が馬鹿らしいのだ。

 メルトはしばらく黙っていた。怒るか、それともあきれるかと思ったが、そんなことはなく、こちらをじっと見つめて、言った。

「そうね。適切な距離が必要と言われたもの。アタシも反省すべき点はあるわ。なら少しだけ言ってあげる。一つ、思いってのはしっかり伝えないと届かないの。相手も感じ取ってくれるはず、なんて考えは甘えでしかないわ。」

「それが何だっていうんだ。」

「後は、ナビにとっては使命というものはとても重いということよ。すぐに捨てられるわけじゃない。それぐらいかしらね。じゃあそろそろ行くわ。次が恐らくラストゲームですもの。アンタも乗り遅れなければいいわね。」

 

 そう言って、メルトはとうとう姿を消した。もう行ってしまったのだろう。最後の彼女の言葉は正直良く分からなかったが、今までだって良く分からないことばかり言われてきた、。今そはそれを考えるよりも、自分のことをしなければならない。

「やるしか、ないからな。」

 これが、最後になることを祈りながら、作業を続けるのだった。

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