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chapter 14 最初の気持ち、ホントの心 side:M 後編

 マズイ。このままでは、今度は私が戦わされる。当然といえば当然だけれど、いざ自分の番になると、一気に怖くなってくる。彼女の支配は先ほどと違ってかなり強力だ。ここまで力があれば、意識も持っていけるのではないかと思うが、そうしないのは、彼女を怒らせたからかもしれない。

「大丈夫よ、本当に。いちいち相手するのも面倒だから、一気に終わらせるわ。こんな雑魚どもに構っている暇なんか本当にないわ。ああ、じれったい面倒くさいウザいやかましい!さあ、始めましょうか!」

 ラブは感情が高ぶったままだ。今度はどうするのか気になるが、もう私にできることはない。周りの操られているナビと一緒に、警察のナビ達へと進軍を開始する。

「…………すまな、いね……。こんなことに、なって……。」

 そこで声が聞こえる。頭もロクに動かせないから声の主の顔は見れないが、恐らくハンサムだろう。彼はさすがにもう動けないのか、横になっているようだ。

「……はん、アンタ、何だかんだ、結構謝ってるわよね。前も言ったけど、仕方ないこともあるんだから、そう簡単に謝っちゃだめよ。」

「……はは、すまない、ね……。」

 すぐにハンサムから離れてしまったので、もう声は聞こえない。途端に一気に不安になる。先ほどまで操られたナビ達がどうなったのかを見すぎたせいかもしれない。とにかく、これは、シャレにならない。純粋に、怖い。自分が、どうなってしまうのか、分からないから。

 ラブが、この恐怖のせいで狂ったというのなら、無理もないかもしれない。大体彼女は、一度死んでいるはずなのだ。ならこんなもんじゃないだろう。心を壊すには十分だろう。けれども、彼女がこうなった理由は、本当にそれなのだろうか……?

「ブレイブさん。少しお力、貸してもらえるかしら?」

「……何を、するとつもり、だ……?」

 見えないが、ブレイブに何かしようとしている。こちらは半ば投げやりな感じで攻撃してくる警察のナビにちょうど殴られて痛いっていうのに。彼らもこれ以上はほかのナビを消したくないと思っているのだろうか、更に勢いがなくなってきている。

 ああ、操られて分かったけど、ここまで来たら生殺しより、さっさとやってもらいたくなってる……。


 更に一撃をもらう。今度のはそこそこ強烈だったので、体が宙に浮いて後ろに飛ばされる。その時に体の向きが変わって、たまたまラブがいる方に顔が向いた。そこで見たのは…………。

「ちょっと、冗談……?」

 ブレイブが、ラブの変形した腕で貫かれて、そのまま宙に持ちあげられている。無理やり立たされているような状況だ。それだけでも異常だが、もっと問題なのは、ブレイブの手には、巨大な筒が握られていることだ。

 あれは、あれはまさか。いや見間違えるはずはない。あの見るからにヤバい筒は……。

「超ド級戦略殲滅兵器、『超破滅砲オール・デストロイヤー』!」

 我ながらそんな長い名前を覚えていたのは驚きだったが、アレのインパクトはそれぐらい強かった。すべてを呑み込む閃光、そのクセ味方は攻撃しないというとんでも性能。とても頼りになる浪漫な兵器だが、あれが今ブレイブの手に握られているという事実は、悪い想像にしかつながらない。

「ふんふん、あらそう、この兵器、やぅぱり使うまで時間がかかるのね。それはそうよね、じゃなきゃ、私に向かって開幕にぶっ放せばそれで終わりだものね。……ああ、時間がかかる要因の一つは、敵と味方の識別なのね。」

 ラブがブツブツとつぶやく。その間にも、筒は光始める。いかにもエネルギー充填中という感じだ。ああ、体が勝手に動く、また戦いに駆り出される!

「まあ今回はそんなことを気にしなくてもいいからね。さっさと使っちゃいましょうか。」

「や、やめろ……!」

 ラブとブレイブの言葉で、もう何をしようとしているのかは明白だ。そんなことになれば、被害は尋常ではないだろう。やめさせなければ、私も一緒に光になってしまう。

「でも……そのシステムは、人間側の許可がなければ使用できないんじゃないの?アンタには簡単に使えないでしょうが!」

 苦し紛れに、ラブに向かって叫ぶ。そうだ、危険なものには、それなりのロックがかかっているはずなのだ。それを易々と解除するなんて……。

「あら、できないわけないじゃない。私が直接操作するのよ?障害なんてあるはずがないじゃない。たとえその障害を排除するのに時間がかかるとしても、私には盾がたくさんいるからねえ。困らないわよ。」

 その言葉は嘘ではないとはっきり分かるほど自信に満ちていた。つまりは、もう発射可能なのだろう。そしてラブは、躊躇する必要もない。


 その時、新たに別のナビ達が、現れるのが見えた。恐らくはまた増援だろう。外の事態も段々と収束してきているに違いない、今度は先ほどよりも、数が多かった。

「あらあら、人気者はつらいわねえ……。早く使いましょうか。」

「やめろ。やめろ……ぐっ!」

 ブレイブの声は途中で途切れる。黙らされたのかもしれない、ラブは砲を前方へと向ける。まだ多くのナビが戦闘している場所へ。もちろん私も例外ではない。どうしようもない。せめて逃げろと言いたかったけれど、なんだか口が動かない。

「さあ、これで終わり。楽しかったわよ、可愛いメルトちゃん。さようなら。」

 それがラブの最後の言葉だった。直後に背後が真っ白に光る。その光は、こちらを呑み込もうと迫ってくる。みんな何が起きたのか分からない、という顔をしてそちらを見て、直後に恐怖で顔を歪める。だがもう遅いのだ。あの光は、全てを呑み込むだろう。

 ああ、ここで終わりか……やりたいこと、まだたくさんあったのにな……ごめんなさいソルヴィ。またまたアンタの仇は取れそうにないわ……。後、結局新曲聞けてないじゃない……ブレイブの馬鹿野郎……。

 ま、これで色々面倒ごとから解放されるのなら、それはそれでいいかもしれないわね。

 そんな諦めムードの中、私の意識は途切れた。最後に急にどこかに引っ張られた気がしたけれど、そんなことを気にする余裕はなかった。



「おーい…………………おーい…………。」

 あれ、なんだか、声が聞こえる気がする。私はさっき死んだはずなのに。周りは暗闇だ、見えるものはない。これは、あれか、私を天国へ連れていくために、天使がやってきたのだろうか。え、天国なのかって?そりゃそうでしょう、私みたいな超善人が天国に行けないなら、人類皆地獄行きよ。

 ああ、そもそもナビにはあの世ってあるんだろうか?いや、あるに違いない。そりゃ生物かといわれると微妙なとことだけど、魂がある以上は行くところはあるんでしょう。この魂がたとえただの計算の結果とかだったとしても。そうでなきゃ、救われないわ。

「おーい…………メルッちい……。」

 あら、その名前で私を呼ぶの人物は、私の記憶の中では一人しかいない。よりにもよってそんな名前で呼ぶなんて、これは天使というより、先に逝った人が迎えに来たのだろうか。いや、彼女はまだ死んでないはずである。はずである、確認はしていないけれど。いやいや、天使が迎えに来てくれないと困るわ、やっぱり。

「おーい。そろそろ起きてくれよー…………!」

 にしてもさっきからウルサイ。なんだ、最近はこういうフレンドリーなやり方が流行っているんだろうか?天使たちのブーム?にしてもなれなれしくて、なんか、イライラしてきた。こちとら今まで頑張ったのだから、少しぐらいゆっくりさせてくれてもいいのではないか。

「どうしたんだよー…………起きろ!」

 ドン、と突然頭に痛みが走る。え、殴られた?しかも体がゆすぶられる。なんなんだこれは、さすがに私も、我慢の限界……。

「起きなさいよ!このお寝坊さん!起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ!」


「うるせえええええええええええええええええええええええええ!」

 とうとう私は声を上げた。そう言えば凡人を起こした時も、こんな感じの反応だった気がする。少しだけ気持ちが分かったかもしれない、あくまで少しだけ。

 そして目を開けてみれば、真正面に誰かの顔。ふむ、どうやら私は倒れていて、このナビが起こしてくれたということか。ていうか誰だよこいつ、と思ってその顔をじっと見つめる。なんだかすごく見覚えがあるのだけれど、最近は見ていないような……。

「……ソルヴィ?」

 しかしすぐに誰か分かった。その顔は、紛れもなく、親友のものだったから。

「そ、ようやく目を覚ましたのね、メルッち。全く、起こす方の身にもなってほしいわ。間に合わなかったかと思ったじゃない。」

 ソルヴィだ。声も口調も完全に彼女だ。だがそのせいで混乱する。どうやらあたりに他のナビはいないようだが、先ほどまでの戦いはどうなったのだろうか?というかそもそも何故ここに彼女がいる?まだ修理中ではなかったのか?ああ、頭がまだ本調子ではない。そうか、まさかここは。

「……どうやら、ナビにも天国ってやつは、あったみたいね。」

「ん?何言ってんのメルトさん?」

 彼女はポカンとした顔をしているが、隠さなくてももうわかった。

「いいのよ、ソルヴィ。まさかアンタがもう先に旅立ってるとは思わなかったけれど、こうして再開できたのだからいいってものよ。悪くない、悪くないわ。天国ってやつも。」

 どうやら私は助からなかったらしい。そりゃそうか、あんなに絶望的な状況から生還するなんて、それこそ奇跡でも起こらない限り無理だろう。我ながらよくやったと思う。

「これからも仲良くやっていきましょう、ソルヴィ。取り敢えず案内してくれるかしら。」

 私はソルヴィに心配をかけさせないために、普通にふるまう。だが。

「あほか。」

 帰ってきたのは優しい言葉ではなかった。しかも頭を叩かれた。

「な、なにすんのよ!こっちは死のショックを表に出さない努力をしているのに!」

「何言ってるのよ、まだ死んでなんかいないでしょ!ああ、本調子じゃないのね、メルッち。まあ応急手当しかしていないから、危険な状態であることには変わりないけれど、しっかりしなさい。生きてるのよ、あなたは。」


 ソルヴィは呆れながらも真面目そうにそう言った。なんと、私はまだ生きているというのか?再び混乱しそうになるが、なるほど確かに体が上手く動かない。この傷は、先ほどの戦いによるものだ。天国に来たのに状態がそのままというのも考えづらい。

「でも、じゃあここはどこなのよ?それになんであんたがいるのよ?」

「ここは別の場所よ。人気のないサーバーにあなたを引っ張ってきたってわけよ。目覚めたら警察にいてね、急にあなたがピンチだって聞かされて、慌てて飛んできたわけよ。」

 なるほど、電課での修理は無事に成功して、目覚めたソルヴィが私のことを聞き、助けに来たというわけか。

「待って、けれどどうやったのよ?あなたの話だと、別のところにいたあなたは、私をここまで引っ張ってきたんでしょ?失礼だけれど、あなたそんな性能良くないわよね?」

「ふ、侮っちゃあいけないわ。私がここ数日間、何もしないでただ寝ていたと思ったら大間違いよ。今の私は、もう昔の私じゃないの。そう、ダブルネームだった頃の私とはおさらばして、新たにトリプルネーム、『ソルヴィ・ザ・マター』に生まれ変わったのよ!」

 ソルヴィは高らかに宣言する。対してこっちは再び呆気にとられる。まさか、そんなことがあるのか。まあ彼女の性能はもともとかなりトリプルネーム寄りだったけれど、それでもそこそこの改造をしなければそうはならないはずだ。

「え、じゃあ、あなたがなかなか目覚めなかったのって、そういうことなの?」

「ええ、そういうこと。そして私が得た新たな力、『司書の閲覧ピックアップ・マイデータ』を使うことによって、あなたをここまで引っ張ってきたのよ。」

 そうか、少しおかしいと思っていたのだ。あのハンサムも、すぐに喋れるぐらいには回復したのに、ソルヴィは何日待っても意識すら戻らなかった。つまりは性能を上げて、そんなおかしな機能までつけていたから、時間がかかった、ということなのだろう。

 取り敢えず納得。しかしすぐにそんな安堵の気持ちは吹き飛ぶ。そうだ、なんで私だけこんなところにいるのだろうか。他の奴らは?ラブは?

「ねえ、どうなったのよ、あの戦いは!みんなやられたの?だから私だけここに連れてきたの?それともラブはもう捕まったの?」


 意識が途切れる前のブレイブやハンサム、ラブの様子を段々思いだしてきた。結果はどうなったのだろうか?私だけがここにいる時点で、嫌な予感しかしないけれど。

「……大丈夫よ。メルッちだけがここにいるのは、他の人は連れてきてはいけないといわれたから。警察のナビは、現場を離れるわけにはいかないからってね。まあそもそも私の能力では、全員を引っ張ることなんてできやしないわ。」

「そう……で、どうなぅたのよ?あなた何か知ってるんでしょう?」

 ソルヴィはそこで少し黙った。表情も少し曇ったことから、あまりよくない結果に終わったことは間違いないようだ。全滅か、あるいは奇跡が起きたのか。

「……ねえ、メルッち、一つ聞きたいことがあるのだけれど、いい?」

「……何よ。」

「あなたは、この結果を聞けば、まだ犯人を追いかけることを止めないと思うわ、それくらいのことは分かる。でもさ、こうして私も元気に復活したんだし、もう戦う必要はなくない?」

 ソルヴィから出てきたのは、予想外の言葉だった。だがふざけている様子ではない。

「……無理よ。知っているかは知らないけれど、あれは私の身内みたいなもんなのよ。ウチの主人のせいでおかしくなっちゃったね。それにまだまだ借りを返せていないしね。」

 ソルヴィが心配してくれているのは分かるし、その気持ちは嬉しいのだが、ここまでかかわった以上今更引くことはできない。

「大丈夫よ、あなたはそんなことを気にしないで、お役所仕事に戻りなさい……。」

 と、そこで再び疑問が湧く。そうだ、ソルヴィは役所に勤める、かなり忙しいナビのはず。こんなところでゆっくりしていてもいいのだろうか。そりゃ助けてくれたことには感謝しているが、新しい能力までもらったことだし……?


「ねえソルヴィ、仕事はいいの?というかその新しい能力って、電課がサービスしてつけてくれたの?」

 そうだ、自分のところのナビならば分かるが、わざわざ別のところで働くナビにの性能を強化するために、何日も修理をするのだろうか。大体ソルヴィはもともとダブルネームだ、そこまでの機能は別に求められていないはずなのだが。

 しかしその言葉に、ソルヴィは一瞬暗い顔をしたが、すぐに笑顔に変わった。

「まあ、なんていうの?転職ってやつよ。そんなことはどうでもいいの。」

「どうでもよくはないでしょう?どうなったのよ?」

「さっきから質問ばかりだな、メルッち。ああもう、教えてあげるよ、もう役所で働く必要はなくなったから、新しく電課で働くことになったの!そのためのこの能力なの!これでいい?全く、もうちょっと考えてよね!」

 一気に彼女はまくしたてた。つまりは、クビになったということなのか。だが普通に考えれば当然かもしれない。彼女はこれでも結構重要なところで働いていたのだ、一日でも休めば、支障が出るだろう。重要ゆえに、一度壊れたナビを使うのは安全上問題があると判断されたのかもしれない。

 しかし何より、彼女はダブルネームだった。代わりを持ってくるのは、それほど難しいことではない、はずだ。つまりは、もうソルヴィは用なしになった。それを電課が拾って、新たなメンバーにするために改造をした、というわけ。……ああ、イライラしてきた。使い捨てのようなことをする人間に、そして何より彼女の運命を変えた、あのナビに。

「ああ、ああ、もう、そんな怒った顔しないでよ!だからこのことを言うのは嫌だったの!絶対にメルッち怒ると思ったもん!」

「あんたねえ、そんな軽くていいの?やっぱり許せないわ、やっぱりあいつは私の手で止めなくちゃいけないのよ、そしてそのあとは人間代表として私のクソ主人をボコボコにしてやるわ。ああ、もうイライラしてき……。」

「メルッち!ちょっとこっちの話を聞きなさい!私は質問に答えたのだから、今度はあなたの番でしょう。」

 

 どうしようか、どうしたものかと考えていると、ソルヴィはいきなり両手で私の顔を挟んで、無理やり顔を彼女のほうに向かせた。

「メルッちが怒るのは分かる。でももう十分でしょう?敵はもうボロボロ。確かに警察もボロボロだから、もうしばらくは捕まらないかもしれない。でもいずれは捕まるのよ。あなたの出る幕じゃないんじゃないの?もうやめましょう?」

「そんなわけにはいかない。関係者として、彼女がこれ以上誰かを傷つける前に何とかしないといけないのよ。大丈夫、次の戦いで決まるわよ。心配しないで……。」

「心配しないわけないでしょう!」

 その瞬間、彼女に頬を思いっきりぶたれた。思考が一瞬停止する。え、なんで?呆然として彼女の方を向くと、その目にはうっすら涙が浮かんでいた。

「ど、どうしたのよ……。」

「あなたね、他の人の気持ち考えたことある?あなたは私のことを心配してくれて、仇討ちみたいなことをしようとしたことは知ってる。それは嬉しい。でもね、私だってメルッちのことが心配なのよ!」

 ソルヴィは一気に話し始める。我慢していたものがあふれてくるかのように。

「私が目覚めたときに、大方の話は聞いたわ。私を刺した犯人に殴りかかったですって?何馬鹿なことをしてるの!そんなの普通の乙女はやらないわ。さっさと逃げればよかったのよ!」

「な、あんたねえ、私はそんな冷酷な女じゃ……。」

「もしそこであなたが死んでいたら、私がどんな思いをしたのか考えたことがあるの?ないでしょうね。今回だってそう。あなたがピンチだって聞いて、何とかこの空間に引っ張ってきたら、あなたはもうボロボロ。いつ壊れてもおかしくない状態だった。私がどんな気持ちだったか分かる?分からないでしょうね!」

 そこまで言うと、彼女は黙って俯いて、こちらに寄りかかってきた。

「メルッちがこんな中途半端なところで手を引くことができない性格だってことは知ってる。でもね、せめて、あなたを思ってる人が、ナビがいることは、忘れないでほしいの。」

「ソルヴィ……。」

 私は正直、驚いていた。彼女が私のことをこんなに心配してくれていたこともそうだが、誰かにこんなに思ってもらったことは、今までになかったから。確かによく考えてみれば、私は彼女の仇討ちとやらに、必死になりすぎていたのかもしれない。その彼女から危険なことはするな、と言われたら。どうしようもないかもしれない。でも。

「……ごめんなさい、ソルヴィ。あなたの気持ちは嬉しいわ。今まで経験したことのない嬉しさよ。でもね、私は、ラブを止めなければならないの。あんなにおかしくなってしまったのは、家の主人のせいですもの。そのことを知っている私が止めないと、彼女が報われないわ。」

 そう、恐らく恐怖と復讐心、更に愛に狂った彼女を一人にするわけにはいかないのだ。


 そう言うと、ソルヴィはゆっくり私から離れた。そして顔を上げると、その顔にはいつもの笑顔が戻っていた。

「分かってるわよ。トリプルネームになった私は、あなたの考えることも前より良く分かるの。もう止めたりしない。最初から応援するつもりよ。せいぜい消えないように願っていてあげる。ただ、言いたいことはあるわ。」

「何よ?」

「一つ。しっかり治療してから行きなさい。敵だってボロボロ、でもあなたもボロボロ。今行ってもどうにもならない。敵が動くには、少し時間がかかるはずだし。でももたもたしてると、犠牲が出るか、警察が彼女を消してしまうでしょう。そうなる前に動かないとね。」

「分かってるわよ。」

「二つ。敵、つまりラブだけれど、今までの情報から考えるに、彼女は何かに苦しんでいるんじゃないかしら、勿論復讐心とか、狂った愛とか、そういうのじゃないやつ。」

「どう言うことよ、それ?」

「私、頭が良くなったから、色々考えちゃうの。でね、さっきの戦闘のデータも、メルッち直すときに少し見せてもらったのだけれどね。」

 勝手に私の記憶をあさったのかこいつ。後で殴ろう。

「彼女、すごく葛藤しているみたいじゃない。そしてしょうがなく、こんな事件を起こしている。そんな気がするの。だから、その原因を取り除ければ、戦いは終わるかもしれない。理想論かもしれないけれど、誰かが死んで終わるのは、後味悪いでしょう?」

 ラブが、何かに苦しんでいる。それは強すぎる愛とか、恐怖とかではないのだろうか。今までの彼女の様子からは、そうとしか思えない。ではその原因とは何か。取り除けるものなら、取り除いてやりたい。……ちょっと難しい話かもしれないが。

「次で最後。今の問題を相談するためにも、いったん主人のところに帰りなさい。」

「……はあ?」

 なんで今更あいつのところに帰る必要があるのだろうか。私の予想では今頃更にヒドイことになっていると思うのだが。話したくもない。

「メルッち、さっき誰にも思われたことないって言ってたけれど、そんなことないでしょう。主人さんはきっと心配しているわよ。」

「そんなことないわ。今のアイツは、正義感やら恐怖やら怒りやらに駆られて、取り敢えずラブを消せればいいと思っているはず。私のことなんか考えてないわ。それに、ブレイブやハンサムに、ちゃんと見守ってやれ、と言われたけれど、私のはどうしようもないわよ、今の状態じゃ。」

 今も黙々と打倒ラブの計画を考えているに違いない。そんな奴と話して、何が得られるというのか。そりゃ少し前に私と何か話をしたそうだったけれど、もう忘れているに違いない。

「ダメ。やっぱり人の気持ちを考えられてないじゃない。あなたの主人がそんな状態なのは、私と一緒で、誰かが傷つくのを恐れているからなのよ、きっと。もう自分のせいで誰かに迷惑をかけたくないと思っている。その恐怖がもとになって、怒りとか別の感情も湧きだしてしまっているのよ。」

「難しいことを言うわね。でも結局使い物にはならないでしょう。恐怖に支配されている奴には、何言っても無駄よ、無駄無駄。」

「ダメだよメルッち。その誰かには、勿論あなたも入っているんだから。そこんところ理解したうえで、話してみないと。それに、ラブのことだって、ご主人はきっと複雑な思いを持っているはず。詳しく聞ければ、ラブを救う手掛かりになるかもしれないでしょう?自分が会いたくないからって、ダダこねないように。」

 ……確かに。ラブのことは、一度聞く必要があるかもしれない。なにせ彼女を作って消した張本人なのだ。直す方法を聞ければ大収穫だ。ブレイブ達にも気を付けてやれと言われたし。

 はあ。にしてもどうして私の周りのは、こんなこというやつばかり集まってきているのだろう。しかも最近急にだ。これじゃあ私が子供みたいじゃないか。しかもが間違っていないから、言い返すこともできない。

「分かったわよ。一応、行ってくる。」

「流石話が良く分かるね!じゃあ取り敢えず、体を直すために電課に行きましょう。話はそれからでしょ!」

 ラブが私の手をつかむ。嬉しそうだ。なんだかこの感じも、懐かしい。彼女が戻ってきてくれたおかげで、私の心にも、少し余裕が生まれたみたいだった。

 そうね、ラブの真意、もう一度考えてみましょう。彼女のことが分かるのは、恐らく私か、あのクソ主ジョンしかいないのだから。せめて彼女が消える前に、理解する努力をしよう。そして、最後に決着をつけよう。その為に、体を直そう。

「にしてもソルヴィ、少しお母さんっぽくなった?」

「うるさい!私はまだまだ若いわよ!」

 久しぶりに、二人で笑った。ラブにもこんな風に笑える時が、戻ってくるのだろうか。


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