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chapter 14 最初の気持ち、ホントの心 side:M 前編

 私の体も、完全に限界だった。そのままばったりと倒れる。だがまあ、いいじゃない。時間を稼ぐどころか、なんと敵を倒してしまったんだから、十分役割は果たしたわよ。

 周りの騒がしさも段々と落ち着いてきた。戦いが徐々に終わりつつあるのだ。残念ながらこちら側も被害甚大、というか誰も元気そうではないが、まあいい。相変わらずこっちの増援は来ないようだが、ラブはいったいどんなことをしたんだろうか。あれほど警戒されていたのに、またこんな大がかりなことをして。底が知れない。

 でもそんな悪の親玉も、今では向こうでばったりと倒れている。誰でもいい、彼女を捕まえれば、やっとこの事件は解決するのだ、こんなにうれしいことはない。

「…………………………まだ……。」

 彼女の方から、声が聞こえる。目を凝らすと、彼女は少しもぞもぞと動いているように見える。あれだけ殴られたのに、機能は停止していないらしい。流石にプリティよりは頑丈のようだが、それで何かできるというものでもないだろう。安心して見ていられる。

「……………………まだ、まだ、よ……。」

「……アンタも、大分、タフなのねえ……。」

 まだ何か言っているので、聞こえているかは分からないが、声をかけてみる。私も動けないので、ぶっちゃけ暇だった。相手が話せるなら、ちょうどいい。

「…………まだ、こんなところで、終われない、のよ……!」

 段々と言葉がはっきりとしてきた。どうやらまだ諦めていない様子である。

「やめときなさいよ……この状況じゃ、さすがのアンタでも、無理でしょ……。」

「やめる、ですって……?」

 

 ずる、ずると、ラブは這いながら少しずつ移動を始める。逃げようとでも言うのだろうか。そんな状態では、どこにも逃げられないというのに。ずる、ずるとラブは動き続ける。その姿は、惨めではあるけれど、なんだか不気味でもある。

「……諦める、訳ないじゃない……ここで死んだら、何のために……。」

「やめときなさいよ。もうすぐ、ブレイブが、来るわよ……逃げられない……。」

 なんだか不安になってきた。このまま彼女を放っておいたら、とんでもないことをしそうな気がしてならない。それほど彼女は必死そうなのである。ああもう、ブレイブは一体何してるのよ、あんだけ恰好つけておいて、全く……!

「……逃げられ、ない……?」

 私の言葉で、ラブは動きを止めた。そして、顔を上げて、こちらを見る。その顔は、悲しみにまみれたもの……ではなかった。

「……うふ、ウフフ……本当に、馬鹿で、お気楽なのね、おバカさん……。」

 その顔は、笑っているのだ。しかもこの上なく楽しそうに。歪んだ笑い。見ているこっちが思わず震えてしまうようなもの。何故?何故彼女はこんな状況で笑える?おかしくなってしまったのか?いや、そんな感じじゃない。ともかく震えが止まらない。嫌な予感しかしない。ブレイブはまだ…。


 その時、ラブの目の前に、どさっと何かが落ちてきた。同時に私の前にも、何か落ちてきた。いや、何かではない。これは、ナビだ。一瞬分からなかったが、これは、ボロボロのナビだ。

「…………ちょ、ちょっと……。」

 そしてそれは誰なのか。こんなにタイミングよく落ちてくるなんてまさかとは思いたいが、こんな時のまさかは的中する確率が極めて高くなるのは、仕方のないことなのだろう。

 だってそれは、ブレイブとハンサムだったのだから。

「ちょっとブレイブ!あんたあれだけでかいこと言っておいて、何なのよそのザマは!」

 ブレイブはボロボロだ。ハンサムの方がひどいが、ブレイブも十分だった。とても元気に動ける感じではない。何故。ハンサムは病み上がりだったはずだし、彼らの間にそこまで大きな戦力差があるとは思えない。何故こうなった?

「ああ、甘い……そんなだから、あなたは駄目なのよ、ねえ……。」

 そして動けないブレイブを見ながら、ラブは再び動き始める。ブレイブの目の前を。ブレイブもまだ意識はあるようなので、そちらを恨めしそうに見ているが、動くことはできない。

「おい、ブレイブ!さっさと起き上がって、そいつを何とかしなさいよ!」

「分かって、いる……。」

 ブレイブはようやく返事をして、立ち上がろうとするが、それもうまくいかないようだった。ダメージはかなり大きいように見える。立てない、と判断したのだろう。ラブと同じように、這いながら進み始める。

「……あなた達なんかに、構っていられないの……私は、私の、使命を……!」

 まるで芋虫の競争である。そしてどちらも同じようなスピードだから、ブレイブは追いつけない。むしろスピードが落ちている。普段のブレイブから考えると、それはかなり痛々しい姿だった。そのうちラブは、倒れている別のナビのところに到着する。そのナビも、もう動けないようだった。

 周りはそんなナビばかりだ。だから誰もラブを捕まえられない。しかしよく考えてみると、このままここにいれば、いずれは誰かが来て彼女を捕まえるのだ。そこまで焦る必要はない……のか?

「……私は、どんなことをしても、生き延びるのよ……絶対に、必ず!」

 そんな甘い考えを吹き飛ばすように、ラブが声を上げる。周りの目線がラブに集中する。なんだあの覇気は。あんな自信が、どこから溢れてくるのか。ラブの間近にいるナビは、恐怖しているように見えた。体を動かして、彼女から離れようとする。

「ああああああああああああああああ!」


 ラブはそこで、いきなり声を上げる。それは、苦しんでいるような声だった。とにかく聞いていられるものではない。何をしているのかは分からないが、ラブはしばらく叫んでいた。そしてブレイブが追いつきそうになったところで、叫ぶのを、やめた。

「ああ、素晴らしい、素晴らしいわ……。」

 そこから、ラブはいきなり立ち上がった。立っただけではあるが、それは異様な光景であった。なんせさっきまでは這うことしかできなかったのだ。しかもその体はボロボロのままである。腕なんか、なんだか変形して、物騒な形になっている。どうしてそんな状態で立つことができるのか。

 更にラブは、近づいてきていたブレイブの方を向き、その体を踏みつけた。

「ぐっ……!」

「ああ、無様ね。口では何とでも言えるのに、実際はこのざま。本当にだらしない。」

 ラブはブレイブの体を蹴る。ブレイブは為す術もないようだった。そして今度はこちらを向く。やはり楽しそうだった。

「ねえ、馬鹿なメルトさん。そんな間抜けな顔をしないで、少し考えてみたら?なんでこのナビは、そこの警察の坊やに勝つことができなかったんだと思う?」

 急に話しかけられて、少し驚く。いきなりわけのわからないことがたくさん起きて、呆然としてしまっていた。変な顔をしていたのだろうか、恥ずかしい。いや、それよりもラブの言う通りだ。一体どうしてこうなっているんだ?考えられる可能性はそう多くはない。

 一つは、ハンサムが強すぎたこと。ラブが何かあした可能性も十分ある。現に彼女はボロボロのはずなのに元気そうにブレイブをいじめている。何か仕掛けがあるのは間違いない。

 二つ目は、あまり考えたくないが、現実的ではある。感情の問題だ。端的に言えば……ブレイブが本気で戦わなかった、という可能性。こちらの方が有り得るかもしれない。

「ブレイブが、ハンサムに対して手加減したって言うの?馬鹿な。だってそいつは、戦う前に手加減しない、覚悟はできている、みたいなことを言っていたのよ?それなのに結局は何もできなかったっていうの?」

 ブレイブは答えない。答えられないのか、答えないのか。しかしその答えは、すぐにばらされる。彼を痛めつけている人物によって。

「うふふ……だから甘いのよ。アンタは。確かに、個人的な感情は押し殺しているでしょうよ、この不愛想なナビは。勿論そこのハンサムちゃんも。でもね、問題はそこじゃない。彼が遠慮してしまったのは、ハンサムちゃんの、パートナーに対して、なのよねえ……。」

「なっ……!」

 ラブは得意げに答える。そこでブレイブは初めて感情的な声を上げた。あの様子は、図星、ということなのか。ハンサムのパートナー、ということは、つまり。

「織上、のことを言っているの?それこそ有り得ないわよ。彼女、確かにハンサムのことを大切に思っているみたいだけれど、それでもちゃんと冷静な判断を下せる奴よ。それにブレイブは人のことを考えるような奴じゃないわ。失礼だけど。」

「あは、あはははははははははは!随分よく知っているようなのねえ!本当は何も分かっていないのに。ああ無様。だからゴミ屑なのよ、あなたは!何もできやしない!」


 ラブは笑いだす。何がおかしいのか。いや、それ以上に、彼女はなにを知っているというのか。

「ああ、分からないなら教えてあげるわ。あの織上ちゃんはね………とおってもハンサム君のことを大事にしているのよ。なんせ、捨てられそうになっているところを、自分で引き取って無理やり仲間にしたんですものね。」

「なっ……何故それを知っている!」

 ブレイブは今度こそ動揺した声をはっきりと出した。更に今まで動かなかったハンサムさえ、少し動いた気がする。完全には止まっていないのだ。この反応はつまり、また図星、ということなのか。

「知ってるわよ……私の能力忘れたのかしら。事前の準備は念入りにする方だから、色々と調べたわよ。使えそうなものは、何だってね。今回それが役に立ったのだから、無駄じゃなかったってことね……。」

 今回の事件を起こすために、どれほどの準備を重ねたのだろうか。恐らく並大抵のことではないだろう。警察内部まで、侵入しているとは。彼女の愛は、そこまで、こじれているというのか。あのブレイブでさえ、うろたえてしまうほどにまで。

 ともかく、ブレイブとハンサムをぶつけたのも、彼女の作戦通り、というわけなのか。

「まあ、細かい話はどうでもいいわ、後で勝手に本人たちに聞いておいて頂戴。今は、そうね、やることをやらないとね。」

「あ、アンタ、大体なんでそんな自由に動けるのよ!大ダメージだったはずでしょう!」

 ラブがまた何か始めそうだったので、取り敢えず話を振ってみる。時間稼ぎになればいいし、それでなくともこの状況を何とかする糸口にはなるかもしれない。とにかくあいつに主導権を握らせたままなのはマズイ。ブレイブ達ももうあてにできないし。

「うーん……まあ作業しながらなら教えてあげるわ。私は妹に対して優しくありたいと思っているしね……。うふ、コイツでいいかしら。」

 ラブは倒れているナビ達に近づきながら、話し始める。何度見ても、その体はボロボロだ。あれじゃまるでゾンビみたいだ。

「確かに、私の体はもうボロボロ。あなたに殴られたせいもあるけれど、ここのところ無理ばっかりしていたからね……。大切な部分にもエラーが生じているから、普通は動けない。でも、動かないわけにはいかない。だからね、動かしてるのよ。」

 ナビのシステムは複雑だ。頑丈ではあるが、その分どこかにエラーが出れば、それだけで動かなくなることもある。まあたいていの場合は、これ以上動かすとシャレにならなくなるから、という理由で壊れる一歩手前で、安全のためにシステムが停止することが多い。それを動かしているというならば、それは自分の体をいじっているということだ。

 ハンサムの『限りある栄華リミテッド・エンハンス』やプリティの『戦の境地ハイ・コンセントレーション』もその類だ。自ら安全装置を外す。なら彼女の場合は。

「動かしてる……そう、操っているのね。自分の体を。無理やり動かしている。」

「正解。本当にダメな部分は、他の所で無理やり補う。安全装置も無理やり解除する。」

 無理矢理補う、か。その腕が歪に変形しているのは、そういうわけか。無茶苦茶だ、相変わらず。

「何かを犠牲にしてでも、手に入れなければならないものがあるのよ、私には。勿論、他の人もだけれどね。」

 

 ラブがふっと別の方向を向く。そこには、また新しいナビが現れていた。一瞬ラブの手先かと思ったが、どうやら違う。あれはそう……味方の増援だ!あまり数はいないけれど、動けるナビが何体かいるだけで、戦局は一気にひっくり返る!

「ラブ、少しのんびりしすぎたみたいね。これからもっと増援がくるわ。流石のあなたでも、もう無理でしょ!」

 だがラブは全く動揺していない。予想通り、といった感じだ。

「あら、そんなことはないわよ。私には、全てを犠牲にして戦ってくれる兵士がいるもの。」

 そして彼女の言葉とともに、倒れていたナビ達が、再び起き上がり始める。みんなもうボロボロだ。まともに戦うのは難しいように見える。ということは、これは彼女のハッキングか。なら彼女のやろうとしていることは、一つしかない。

「……無理だ……本当に壊れちまうよ……。」

「これ以上は……取り返しが……つかない……。」

 見れば警察のナビも立ち上がっている。言葉を聞く限り操られているのは体だけのようだが、そのせいでみんなの声が聞こえる。全員が、もう戦うことを望んでいない。システムが止めているのだ。これ以上は、修復できなくなる、と。そんな彼らを。

「ラブ!アンタ、何しようとしてるのよ!さすがに限度ってもんがあるでしょう!」

 彼女の考えはすぐにわかる。だから止めないといけない。でも、体が動かない。声を上げることしかできない。じれったい。歯を食いしばっても無駄だった。こんな時に、また動けない!

「限度……?」

 ラブは、一瞬動きを止める。しかし次の瞬間には、とても冷たい声で言い放った。

「そんなもの、とっくに突き破ってるわよ。」

「ラブッ!やめろ!」

「突撃!戦いなさい、その体を武器にして!その体が朽ちるまで、敵がひれ伏すまで!」


 ナビ達が、一斉に動き始める。それは突撃なんて威勢のいいものではない。そう、ゾンビの行進のようなものだ。やってきた警察のナビ達も、その異様さにうろたえている。

「怯むな!攻撃開始!対象を捕らえればすべて終わる!」

 それでも隊長らしきナビは指示を出す。先ほどのブレイブと同じだ。違うとすれば、敵は瀕死の元味方だということ。

「嫌だ、消えたくない、壊れたくない!」

「攻撃、しないでくれ!もう限界なんだ!これ以上もたないんだ!何とかしてくれ!」

 そして、操られているナビに明確に意識があることだ。必死に命乞いをする。もしかしたらのちの修復でもとに戻れるかもしれないが、本人たちにはそんなことは分からない。もしかしたら、ここで終わりかもしれないのだ。必死にもなる。

 そんな声を聞いているせいか、敵は死にかけ、しかもボロボロなのに、警察部隊は苦戦をしているようだ。それはそうだ、誰だってあんなことを言うナビを倒したいとは思えない。

「このっ!」

 警察ナビの一人が、銃で敵のナビを打ち抜く。

「どうだ、大人しくして……なに!」

 だがそんなことでは、止まらない。ハッキングされたナビは、痛かろうが限界だろうが突撃を止めない。痛みや恐怖を感じない戦士と何ら変わらない。そして油断していた警察ナビは、突進をもろにくらう。

 そう、ブレイブと一緒に来た警察ナビ達が、ハッキングされた寄せ集めのナビにほぼ壊滅させられたのも、ここが原因だろう。死ぬことを恐れず、怯みもせず、絶え間なく攻撃してくる敵は、ある意味とても強い。無理やりやらされているのだが。

 

「さて、でもあまり時間はないわね。私もやることをやらないと。」

 そんな地獄絵図には目もくれず、ラブは倒れている一体のナビに近づいていく。何かするつもりだ、ここから逃げるための何かを。もうあまり驚かない。あいつは何だってやってしまうのだ。でも、できるなら誰か、彼女を止めてほしい。これ以上何かする前に。

「クソッたれ!武装制限解除!『濃密爆撃クロウス・ボマー』!吹き飛べええ!」

 警察の隊長はとうとう腹をくくったようだ。ブレイブと同じように宣言すると、その肩にキャノン砲のようなものが現れる。そしてそこから、砲弾を連続発射した。砲弾は着弾と同時に爆発していき、ゾンビ軍団を蹴散らしていく。流石にブレイブほどではないが、なかなかの威力だ。

「よし、今だ!突撃!」

 警察のナビ達も、ひとまず吹き飛んだ仲間のことは考えないようにしたらしい。一気に距離を詰めようとするが。

「あら、乱暴。でもまあ、まだ何とかなるわね。」

 ラブは余裕そうに、腕を振るう。するとまたまだ操られていなかったナビ達が、新たに立ち上がらされて、相手の方に向かっていく。

「ふふ、沢山で私のことを捕まえに来てくれたから、まだまだ駒は沢山あるのよねえ。」

 そこからはまたさっきと同じような戦いが始まる。隊長のナビも再び吹き飛ばそうとするが、何体かに絡まれて上手くいかないようだ。

「さあ、今度こそ始めましょう。そうね、あなたでいいわ。一番似ていそうだし。」

 

 またラブは自分の作業に戻る。倒れているナビの一体に近づき、その横に立った。見降ろされているナビは、まだ意識があるのだろう、とてもおびえた表情をしている。抵抗しようとしているが、今はラブの方が力が強いようで、どうにもならない。

「ラブ!今度は何する気なのよ!これ以上ゲスなことをすると、本当に凡人に嫌われるんじゃないの?それじゃあ意味ないわねご愁傷様!」

「黙りなさいこのゴミが。そんなことで揺さぶれると思っているの?まああなたは自分の無力さを呪いながらそこで見てなさいよ。すぐ終わるから。」

 そういうと、ラブは変形した腕を振り上げて、そして、倒れているナビの体に、突き刺した。

「がああ!」

 刺されたナビは苦しそうな声を上げる。ラブはそのまま動かない。何をしているんだ?まさか痛めつけるのが目的ではないはずだ。なら何を?

 だが変化はすぐに表れ始めた。刺されたナビは、すぐに動かなくなった、代わりに、ラブの体が少しずつ、変形してゆく。片腕は更に変形、巨大化して、アニメとかで良く見るような、かぎ爪のあるものへ。もう片方の腕は逆に少し細く。足はなんだかごつく。要するに外見がかなり変化していっているのだ。これは、普通ではない。

 ハンサムのように、強化時に追加アーマー(追加プログラム)が付くことはたまにあるかもしれないが、あそこまで不規則な変形は、有り得る話ではない。アレではまるで、体の構造が変わっているような……。

「まさか……。」

 とんでもない考えが頭をよぎったその時に、ラブはその手を引き抜いて、ゆっくりと顔をこちらに向けた。その顔は、半分が、黒く染まっていた。あんなことになるということは。

「ああ、あまり気分のいい、ものではないわね……体に馴染むまでには、少し時間がかかりそう……。でも、元気にはなったわ。」

 にやっと彼女は笑う。先ほどまではどことなくやせ我慢している感じがしたが、今は違う。本当に体が動くみたいだ。こちらとは大違い。

「あなた……。他のナビのプログラムとかを抜き取って、自分のものにしたって言うの?」

「あらあら、察しのいいことで。そうよ、このナビさん、動けないけれど、割と体の状態は良かったみたいだから、抜き取らせてもらったわ。」

「そんな……全くの同型ナビならまだしも、全然違うナビのシステムやプログラムを、取り込んだって言うの?有り得ない、体に合うはずがない。動くはずがないじゃない。下手をすれば壊れるはずよ。」

「ふふ……そうね、普通のナビなら、こんなことは不可能でしょうね。でも私は違う。合わないなら、無理やり合わせる。普通ならつながらないところを、無理やりつなげる。それが私の最後の能力。自分の体ですら、無理やりに動かす。無理やりいじる。禁忌の領域まで。それを可能にするのが、この『自己犠牲愛フォール・イン・ラブ』よ。」

 彼女は高らかに宣言する。無茶苦茶だ、ここにきて新たな能力とは。いや、そんな格好のいいものじゃない。あんなのはただの自殺行為だ。それにあの体。彼女はとてもうれしそうなのに、見ているこっちは、虚しくしかならない。


「アンタ、自分の体がどうなっなってんのか、分かってんの?もう怪物と一緒よ。そこまでしなくちゃならないことなの?もう、いいんじゃないの……?」

 思わず語り掛けるような口調になってしまう。それほどに、痛々しい姿だ。それほどの価値が、あの凡人にあるというのか?私には分からない。分かりたくもない。

 するとラブは一瞬、黙った。だがすぐに口を開く。

「姿に関しては、代償だから仕方がないわ。大体ね、私は思うのよ。人間じゃできないことをするような、人間じゃない外見をしているのが化け物なら……ナビなんてただの化け物じゃない?」

 きっぱりと言い放った。彼女には、外見などもはやどうでもいいことなのだろう。誰もが、大切にすることなのに。

「それにね、この愛、叶えるためには、もう手段なんて選んでられないわよ。最終的に、あの人が私のことを見てくれればいい。それさえ達成できれば、満足……。」

「何が満足だってのよ……黙って聞いていたけれど、アンタの思考回路は、やっぱり理解できない。なんでそこまでするの?復讐のためじゃないなら、なんのため?あんたがやってことは、愛なんかじゃない。愛してもらうのが、愛じゃないの?愛し愛されるのが、恋愛じゃないの?それなのに、自分の体は、愛し愛されるための体がどうなってもいいなんて、そんなもん愛じゃないわ。無償の愛?片思い?いいえただの自己満足!」

 ラブの言葉を聞いていると、段々憐れみより、イライラが高まってきてしまった。ラブも突然私が怒鳴り始めたことに驚いているようだが、そんなことはどうでもいい。

「何が愛の力よ、馬鹿馬鹿しい。そうよ、アンタってただの馬鹿だわ。仮にアンタが本当にあいつのことを愛しているなら、もっと別の方法があるはずなのに。こんな方法しか思いつかないなんて、馬鹿よ!少しは考えろ!」

 吐き出す。溜まってたものを吐き出す。すると段々ラブの顔も変わっていく。怒り始める、と思ったが、なんだか苦しそうにしている。

「……うるさい……うるさい五月蠅いウルサイ!あなたに何が分かるのよ?自由に思考することが許された、恵まれた八番目のナビ。あなたには分からない、分かるはずもない!私の心がどれだけ縛られているか?私の精神がどれほど疲労しているか!馬鹿ですって?他に方法がないのかって?はん、実にあなたらしいわね。なんでもできるあなたらしい!だから私の気持ちは理解できない!このねじれた感情を、曲がった恋を、歪んだ愛を、理解できるはずもない!」

 そしてラブも、吐き出した。これは、恐らく本心だろう。だって、彼女が自分の愛をけなすような言葉を、今まで言ったことがあるだろうか?いや、ない。有り得ない。だからこそ、これは彼女の本心。なら。

 なら、彼女自身も自分の行動が間違っていると気づいているなら、何故こんなことをするのか?何が、彼女を、動かしているのか?


「ああ、ああ、本当にゴミ屑ね、あなた。いいわ、やっぱり消して上げる今すぐに!」

 向こうから、警察ナビが近づいてくる。どうやらハッキングナビ達をすべて片づけたらしい。更にその後ろには、新たなナビ達の姿が見える。これで、何とかなるだろうか?

 しかしその時、私は体に違和感を感じる。なんだか、変な感覚。自分のものじゃないような、というか、勝手に立ち上がろうとして……ってこれは。

「他人事だと思っていた?そんなわけないじゃない。まあ安心しなさい。そんなに苦しい重いはさせないわ。すぐに終わる。すぐに、ね……?」




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