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chapter 13 ラブ・エンカウント side:M 後編

 ラブがイラッとした音が聞こえたような気がした。それほどまでに一瞬顔を歪ませた。そして私の手を振りほどき、足を高く上げて、そのまま思いっきり蹴ろうとする。

 だがその一撃は、私には届かない。

「なっ……!」

 逆に、ラブは後方に吹き飛んだ。彼女は何が起きたか分からないようで、そのまま転がってしまう。今までの優雅な立ち振る舞いからすれば、それは無様なものだった。

「……凡人が作るものはね、認めたくはないけれど、質がいいの。特に、敵に気づかれないようにしっかり細工してあるところがすごいわ。いいえ、いやらしいわ。勿論私は引っかからなかったけれど、この状況じゃあどうなっていたかは分からない。」

 私は相変わらず立てないが、どうやらうまく起動してくれたらしい。皮肉なもんだが

 

 あいつお手製の、私をひっかけるために作られた、トラップってやつが。

「私も苦労させられたわよ。でも解除した。それであいつはもう使えないと思って放置していたんでしょうが、そんなことはなかったようね、この間抜けさん。」

 今まで凡人が私を機能停止にさせるために、長い間私と彼の間で戦いが繰り広げられていた。その中で作られたものの一つが、相手の攻撃を察知して起動する罠。今回ブレイブに止められていた為、家の主人はラブ対策のものを何も作れていなかった。だからすでに存在していたこれをせしめてきたのだ、保険として。まさか訳に立つとは、思わなかったけれど。

「前回プリティに完敗して、私は反省したの、だから気に食わなくてもなんでも使うことにしたのよ。そして腕一本動かす余裕があったから、起動スイッチを入れられたわ。手加減してくれてありがとうね。」

「……よくも、よくもやってくれたわね。」

 倒れていたラブが、ゆっくりと立ち上がる。あの罠自体そこそこ威力があるはずなんだが、どうやらダメだったようだ。だが滅茶苦茶怒っている。怒気が目に見えるようだ。

「あの人が創ったものを、こんな野蛮な使い方をするなんて……ふざけているわ。」

 そこなのかよ、と思ったが今に始まったことではないのでスルーしよう。それよりも、今は体を戻すことに集中しなければ。彼女もいきなりダメージを負ったせいで、私の制御が一時的におろそかになっている。今なら少しは取り戻せるはず。

「ええ、分かったわ……。ひねりつぶすわよ、徹底的に……。」

 ラブは手に持った剣をこちらに向ける。どうやら本気で向かってくるらしい。まあ彼女が最初から本気だったならば、さっきの時点でぶっすりやられて即ゲームオーバーだったでしょうけれど。でもこのチャンスを逃しはしない。

「もう無理よ。油断したアンタが悪いの。残念ね、これでブレイブが来るまでの時間くらいはは稼げそうよ。それにあなたも受けてみたいでしょう?愛する者が作った罠ってやつを。」

「黙れよ、このゴミクソがああああああああああああああああああああああ!」


 ラブが突撃を開始する。しかし攻撃に集中しているせいで、私の体は少し動くようになっていた。まあ少しでは、彼女とまともにやり合えるわけがない。だから使う、持ってきたものを、全部使う!

「食らいなさいな、最悪の攻撃プログラム、『無差別消去弾』!」

 そのシステムをオンにすると、ミサイルのようなものがいくつも具現化され、前方に飛び出した・そして目の前から迫ってくるラブを認識した途端、ミサイルが彼女に降り注ぐ。

 これは凡人が私の抵抗にイライラしすぎて、もうどうでもいい、取り敢えず焼き尽くせばいい、という思考停止に陥った末にできたもの。無差別ゆえに危険な代物だ(何発かがほかのナビのところに向かったが、気にしない)。

 しかしラブも先ほどの攻撃でで警戒を強めたのか、無数のミサイルに驚きもせずに、剣を構える。そして、彼女に飛んでいったミサイルを……。

「はん!この程度、何の障害にもならない、わ!」

 全て切り裂いていく。高速で飛翔するミサイルを、更に高速で、着弾する前に、裁いていく。

「流石に、この程度ではどうにもならない、か!」

 こちらも迎撃されることは予想していたので、近づかれないように距離をとりながら次の武器を取り出す。今度もミサイル、しかしそれは、先ほどのものと違って大きい。

「ならこれでどうよ、いやらしいわよ、『罠弾頭』!いっけええええええええ!」

 すぐにそのミサイルは、ラブへと向かった。先ほどのミサイルをすべて迎撃したラブもその新たなミサイルに気づいたが、構わず突進してくる。恐らく先ほどと同様、切り捨てるつもりだろう。だがそれでいい。

 あの弾頭は、敵の攻撃で破壊された瞬間に、その破壊者にウイルスをばらまくようになっているのだ、しかもそのウイルスは、迎撃のしようがない!つまりラブが攻撃すれば、それでこちらがかなり有利になるのだ!

 そしてラブがそのミサイルを斬ろうとした、その時――――――――。

「胡散臭いわよね、こういうのって。名前からして。」

 横から何かが突っ込んできて、ミサイルに体当たりをした。そして、ミサイルは爆発した。

「な、何事!?」

 驚いて見てみると、それはどこから来たのかも良く分からない別のナビだった。多分ラブに連れてこられた内の一人だろう。何故だ?相手にタイミングよく吹き飛ばされたのか?こんなタイミングよく?いや、違う。

「あなたがミサイルを飛ばすのだから、こっちも何か使わないとね?」

 なおも近づいてくるラブの顔を見て確信する。

「あんた、ナビを操って、ミサイルに特攻させたの!?」

 そう、ラブが操って、こっちのミサイルにぶつけたのだ。なんて早業。そしてなんと残酷なことか。

「使えるものは使う、あなただってそうでしょうが!」


 攻撃をかわしたラブは、こちらに一気に接近してくる。敵のスピードは圧倒的にこちらを上回っていた。しかもまだ体が完全には動かないのだ、迎撃だって不可能だ。

 だが、先ほどと同様に、私の体には攻撃された際に発動する罠を設置してある。それほど数が多いわけでもなく、威力も高くないが、何発か凌ぐだけでも十分な時間稼ぎになるだろう。さあ来い!

「相手を見下して油断しているのは、あなただって同じでしょう?馬鹿じゃないのよ、私!」

 しかし目の前に迫ってきたラブは、こちらを攻撃することはなかった。代わりに、突然横から強い衝撃を受けて、私は吹き飛ぶ。同時に、迎撃システムがその飛んできたものを攻撃したのだが、またしても……。

「……とことん使おうってわけね、このゲス野郎!」

 またしてもそれは、別のところから連れてこられていたナビだった。ラブの命令で、私に突撃してきたのだろう。そして攻撃され、苦しそうにうめいている。

「不意打ちやら罠やら使わないと何もできないお嬢さんに、言われたくないわ!」

 ラブは笑う。楽しそうに笑う。実際は怒っているのだろうが、表情は笑っていた。それはひどく、歪んだ笑み。

 そんな彼女を見ていると、こんな時なのに悲しくなってくる。何が彼女をそこまでさせるのか。ナビだって命あるものに違いない、それは彼女自身よく分かっているだろう。なのにこんな扱い方をするのか。すべてを犠牲にする覚悟があるから?いや、これは、そんなものではない。もっと根本的な問題だ。

 とにかく彼女を、止めなければならない。こちらも怒りに流されてはいけない。彼女の感情に、流されてはいけない。


 そこからはさらに地獄。次々とナビ達がこちらに突っ込んできた。完全にナビの特攻攻撃である。迎撃しても、新たなナビが飛んでくる。ラブの本領発揮といったところか。そしてそのラブは、戦っていたナビが突然消えたので、ラブ本体に狙いを定めた警察のナビとの戦闘を開始する。

「しばらくお人形と遊んでいなさい。こっちもゴミ掃除をしておくわ……。」

 事実、警察のナビ達は消耗していた。しかもラブは一体ずつ感覚を開けてこちらに飛ばしてくるので、フリーになる警察ナビも一人ずつになる。そしてラブと一騎打ちになるのだ。

 なら時間がたてばフリーになる警察ナビが増えるかというと、そうでもない。こちらに飛んできたナビも、しばらくすると自分の持ち場に戻るのだ。よって常に一騎打ちになる。

 結果、ラブが倒れる前に、こちらの武器が、在庫切れになる!

「そろそろ、在庫切れってところかしら……?」

 そして私の弾切れを確認するなり、ラブはこちらに再び意識を向ける。このころには私の体はほぼ自由に動くようになっていたが、このまま戦えばさきほどの二の舞になる。まだちらちらとブレイブとハンサムの戦闘が見えている以上、後少し何とかしなければならない。彼女を止めるには、もう少し頑張らなくてはならない。


 ならばやることは一つしかない。

「おらああああああああああああああああああ!」

 気合いを入れて、こちらからラブに突撃する。さっきと同じだが、現状敵が攻めてくるのを待つのはバカのすることだ。ぼっーとしていれば、すぐに体の自由が奪われるだろう。なら今は、攻めるしかない!

「あら、乱暴ね。でもいいわよ、私も暴れたい気分なんだから!」

 ラブもこちらに合わせるように、接近してくる。そして、今度こそ本気の、お互いの得物同士での殴り合いが始まる。

「さあ、楽しませてごらんなさいよ、ほらほらあ!」

 ラブの攻撃は、恐ろしいほど素早く、力強い。流石にプリティの時のように見えないということはないが、満足に動かない体で裁くのは難しかった。二つの武器を使って、ぎりぎりで持ちこたえる。

「くそ、調子に、乗ってんじゃないわよ!」

 右から、左から迫るラブの刃を止めながら、何とか突き崩そうとするが、どうにもならない。

さっきとは立場が逆になっていた。こっちがじりじりと削られる方だ。ラブの攻撃は迷いがなく、無駄もなく容赦もない。あっという間に、こちらの体にダメージが蓄積され始める。

「恵まれたあなたには、何もできやしないのよ!体を操るまでもない、全てにおいて、あなたは私に劣っているのよ!そして何もできずに消えていく、その程度の存在でしょうが、アンタは!」

「うるさい!フラれたのにこじらせてるあんたなんか、世間から見ればよっぽどダメダメ野郎だわ!そんな奴は、結局空回りして終わるのよ!このストーカー!」

 ラブの目がカッと開かれる。今のはかなり頭に来たらしい。まあそれはそうだろう、彼女の存在意義を否定するような言葉なのだから。私だって本当は言いたくない。

 だが、この状況を何とかするには、敵に一瞬隙を作らせるしかないのだ。

「黙れ、黙れ黙れえええええええええええええええええええええ!」

 ラブの攻撃がさらに激しさを増す。ひたすら切り付けてくる。単純だが、それだけに隙が無く、こちらが何かする暇もない。私の体はすでに傷だらけで、更に状況が悪くなってくる。

「もう、どうしようも、ないでしょう、この、ガラクタがああああ!」

 ラブもこちらの状態が分かっているから、とどめを刺そうと必死になってくる。もう最初の事件の時から数えたら何度目になるか分からない、絶体絶命というやつだった。あと少しで、私は負けてしまうだろう。

「……ここまで、か……。」

 しかしだ、これも以前にやったことだろうが、戦っているものが油断する瞬間の一つは、やはり自分の勝利を、確信した瞬間ではないだろうか。あのプリティも、最後の最後にバカなことをした。だがそれはプリティだけが悪いというわけでもないだろう。

 誰だって、そうなってしまうことはあるのだkら。

 ごめんなさい、私の相棒。そしてハンサム、技を借りるわ。


「消えろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 ついに膝をついた私を見て、ラブは躊躇することなく、その刃を振り下ろした。そして私は、かろうじてその一撃を、デッキブラシで防御する。その、瞬間だった。

「まだ、消えてやんないわよ。」

 ラブはこちらの態度から何かを感じとって離れようとしたが、もう遅い。その時にはもう、私のデッキブラシの先端は、爆発していた。

「な!」

 その原理は、ハンサムが使っていたものと全く一緒。デッキブラシを、周囲のものを攻撃する爆弾に変化させたのだ。冷静なラブならば回避できたかもしれないが、ガンガン攻めてきていたラブは、間近の爆発をさすがに避けきれなかった。彼女の体が後ろに吹っ飛ぶ。

 勿論私にもダメージが来た。細かい調節をしている暇がなかったのだから仕方がない。だがこちらは心の準備ができていたのだ。少し吹き飛ばされたが、すぐに体勢を立て直し、ラブに追撃を仕掛ける。彼女はこんなものではくたばらないはずだ。

 この体は爆発の影響を受けて、すでにボロボロ。もう長くは戦えない。だから、フィナーレの準備をする。手に力を込める。

「どこまでも!卑怯なことしかできないのね、アンタは!」

 ラブもこちらが決めに来ると悟ったのか、何とか着地をして、こちらに手をかざす。すると、別方向から再び別のナビが飛んでくるのが見えた。私があれの対処をしている間に、体勢を立て直すつもりか。そうなればこちらはかなり不利だ。

 だから、そんなことはさせてやらない!

「邪魔だああああああああああああああああああああああ!」

 私は、残っていた布団たたきを、迷わず飛んでくるナビへと投げつけた。そしてそれもまた、爆発する。恨みはないけれど、緊急事態だから許しなさい。

「ちっ、役立たずめ!」

 そうしてもうラブの目前に迫るが、ラブも諦めようとはしない。こちらに手を向けたままだ。すると今度は、私の体から力が抜けていくような気がした。恐らくこれは、ハッキング。こんな至近距離で、操ろうというのか。そうなれば、さすがに私の負けだろう。

「私の理想の、使命の、義務の、邪魔をするなああああああああ!」

 だからそれも、させてやらない!

「そりゃあああああああ!」

 私は瞬時に、先がなくなってもはやただの棒になってしまったデッキブラシを、ラブへと投げつけた。 そんなものには攻撃力はほぼない。でも、それでも、ラブは再び少し体勢を崩した。その瞬間に、体が動く。

「このっ!」

 もうこの距離では、ハッキングする前に私の攻撃が届くだろう。だからラブは剣を取り出そうとする。

が、一瞬、私の方が、早かった。握っていた手を、ラブへと押し付け、手を開く。

「これでも、くらええええええええええええええええええええええええええええ!」

 そこから、まばゆい光があふれ出し、ラブを包む。

 そう、この光は、初めてプリティと戦った時と同じもの。彼女を倒す切り札になったもの。ここぞという時でしか使えない、超近距離でないと使えない、最後の技。

「が、あ、あああ……。」

 光が収まると、ラブの動きが、止まる。彼女もあの戦いを見ていたはずだから、自分がどうなっているかは分かるだろう。いや、そんな暇はないか。彼女の時間は、今、ほぼ止まっているのだから。

「わ、た、しは……。やり遂げる、、何を、踏み台に、しても……!」

 それでも彼女は抵抗する。まさに執念だ。だがやろうとしていることは恐らく、他のナビに自分を助けさせること。誰かを身代わりにすること。でもその必死な姿を見て、あることを私は確信する。


「何を犠牲にしてもいいっていう精神は、素晴らしいと思うけれどね。それで周りを振り回して、使い捨ててるんだから、やっぱりあんたは自分勝手なわがままお嬢さんでしかないのよ。犠牲にしている?体よく利用しているだけじゃない。かっこつけてんじゃないわよ。」

 ラブが素早く動けないようにシステムをバグらせた今がチャンス。だがもう手に武器はない。いや、あるか。持ってはいないけれど、この手自体が、私の最後の武器なのだから。今彼女の暴走を止められる、唯一の。

「アンタがつらい目に合ったことは事実でしょうよ。でもね、一回、他人の痛みってのも、味わっておいた方がいいわよ?アンタにはきっとそれが足りない。だからこんなことができる。いや、自分がこの世で一番不幸だとでも思っているのかしら?そんなわけないじゃない。まあ取り敢えず、一度受けてみなさいよ。多分人生が変わるから。」

 ラブは逃げようとする。だが今となっては、その動きはほぼ止まっているようなものだ。だから、その体に、全力の拳を、叩き込む!

「そら、そらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらあああああああああああああああああ!」

 連続で、容赦なく、慈悲もなく。右、左、交互に、全力で、ラブの体に打ち込む。

「がは……!」

「痛いでしょ?でもきっとまだ足りない!サービスするわ、アンタが冷静になれるまで、殴ってあげる!遠慮はいらない、取り敢えず、煩悩払うために、108発、くれてやるわよおおおおおおおおおおおおお!」

 そう、プリティの時とこれも同じ。殴って、殴って殴って。彼女が何かを理解することを、願いながら。一方で、これまでの借りを、返すため。もはや難しい考えは必要ない。ただ、ひたすらに!

「これで、終わりいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 そして最後の一発を思いっきり打ち込んだ。同時に、ラブの遅延は途切れ、後ろに吹き飛び、そのまま倒れた。同時に私も、地面へと倒れこむ。

「……やっぱり、真の女は拳で語ってしまうのね。それに仕方ないわ、私って案外、不器用だもの。言葉で教えるのは、苦手なのよ。」

 ひとまずこれで、任務完了、でしょう……?

 






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