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chapter 10 消したい記憶と消せないデータ side:M

『では会議を始めましょう。』

 会議室には、前回と同じく織上、桃田、後顔は見えないけれどスクリーン越しに他の面々、という感じだった、しかし前回と違うところもある。この部屋にいる人間は一人多くなっていた。まあウチの野郎は勘定にいれないとして。

 それは、スーツを着ている男で、そこまで年はとっていなさそうだが、しかし頭はぼさぼさ、顔は疲れが出ているという、なんとも苦労の多そうな人だった。ちなみにランク的には普通の顔、むしろ頼りなさそうで、私の好みではない。

 そう、この男が、先ほどから桃田に怒られまくっている男、麻次あさつぎ成矢なりやなのだった。今回は状況の説明を詳しくしてもらう、という名目で連れてこられたが、まあぶっちゃけ怒られるためにきているのだった。


『では麻次、今一度今回のことを説明しなさい。二秒で。』

『そ、そんな!いや、人間に聞こえない速度で話したということにすれば、内容が分からないうめき声でも逃れられるか?大体言わなくてもみんな分かってるだろうから、許されるに違いない。俺は生きるんだ!』

『二秒たったわ。炙る。』

『バカなっ!』

 随分とバカなところはあるようだが、この建物の管理やら監督やらはこの男がやることが多いらしい。仕事の面では優秀なのかもしれない。ハンサムみたいな感じ?今回は、うまくいかなかったらしいけど。

「で、アタシはこの場にいてもいいわけなの?一応犯人の元主人に仕える現役のナビなのだけれど。まずくない?」


 そう、この会議が始まる前に、凡人はもれなく個室に連れていかれたのだった。もちろん事件に関与している疑いがあるため。当然である。ではそのナビの私はどうかというと、ここに残れと言われたのだった。

『ああ、別に構いませんよ。凡人さんのことは疑っていませんしね。』

 質問に対し、織上はさらっと答える。さも当然だというように。

『あいつがこんな事件を起こす理由も見当たらないし、自分だって襲われている。まあ襲わせたのかもしれないけれど、それにしては命懸けだしね?そんなことをするほど度胸がある奴には見えないわ。演技できるとも思わないし。』

『桃田さんもこう言っていますしね。』

 彼女がそう言うならそうか。この女の勘の怖さはもう思い知っている。まあそれ抜きでも、様々な面、特に精神面的に考えて、こんな事件を起こすとは思えないしね、やるならもっと小さいことだろうさ。爆破予告とか?十分大罪だけど。

『ただし、彼の作ったナビなのです。彼がこんなことをするように育ててしまった、あるいは意図的に、自分でこのようなことをするナビを作っていた、というのなら、話は別ですが。』

 それはもっともだ。まあ私のことを考えると、そんなことはしてないだろうけど。ただの馬鹿だし。


『では麻次さん、現状報告を』

『了解しました。やりますよ。やればいいんでしょ。』

 さっき炙る代わりに右ストレートをくらった麻次が、拗ねながら説明を始める。この建物が乗っ取られたこと、警備ロボが暴走したことなど、とりあえず事件の出来事を大雑把に説明する。そんなことはみんな把握しているだろうが。

 問題は、その先である。

『で、なんで逃がしたのか、については、なんか言うことあるの?』

『桃田さん、そこは取り敢えず置いといて、詳しい話を聞きましょう。では、どのような結果になったのでしょうか?』

 取り敢えずなので、後はどうなるかわからないようだ。誰も彼の未来なんて気にしてなさそうではあるが。

『はい。ナビが何体か戻ってきてくれたおかげで、こちらは攻勢に出ることが出来ました。しかも相手は油断していた様子だったので、特に最初の攻撃はダメージを与えられたと考えられます。現に敵の動きは鈍くなりました。』


『で、調子にのって一気に終わらせようとしたわけね?』

 桃田のじとっとした目線にびくびくしながらも、麻次は頷いた。というか頷くしかない感じだったのだが。

『……そうですね。敵が弱ってると思い、更に合流したナビ達とともに攻撃をしようとしたのですが、次の瞬間には仲間で殴り合いが始まってしまい、気づいたらシステムを奪われていて…。』

 しょぼしょぼと話すが、聞いていてこいつに同情できるところがない。どうして男はこう短絡的なのだろうか。それがいいところかもしれないが、こういう時にはただの馬鹿でしかない。

『まあ誘導されたんでしょうねえ、そうするように。わざともう負けそう、って感じにしてさあ。バカな警察をだますためにさあ。』

『負傷していたのは事実でしょうね。ただそれでも、敵は戦える自信があった、だからあえて不利な状況にして、攻撃を誘ったんでしょうね。形勢逆転、という風に。』

 確かに、ここ電課のナビは強者揃いらしい。ハンサムとブレイブほどじゃないにしても、何人かになればそれは脅威になるはずだ。無傷とは考えにくい。だからこそ危険な策をとらざるを得なかったのだろう。


『で、ですが、私もただで見逃したわけではありません!』

 桃田にガシガシ蹴られながらも、麻次は少し誇らしげに言う。見逃した、の部分に反応した桃田にさらに強く蹴られているが。

『奴のデータを少し解析することが出来ました。これで網を張りやすくなります。さらにナビ達は奴の姿のデータを持ってきました。町中のナビ達に指名手配犯として知らせておけば、もう自由に動くことはできないでしょう!どうですか!』

 なるほど、それはいいかもしれない。最近のウイルスなどはかなり複雑で気づきにくいものが多いので、ネットワークでは、今の時代特定のウイルスに対抗して対策ソフトを作ることも珍しくない。敵のデータが取れたなら、それに合わせて対策をすることができるだろう。

『さらに、敵のハッキングを十分に体感した私達なら、ハッキング対策もすぐに進むでしょう!奴が捕まるのも、時間の問題ということですな!』

『まあ、ウチに喧嘩を売ったんだから、すぐに捕まえてやるわよ。そして苦しみを味合わせるのよ!』

『痛いっ!なぜ僕が蹴られるんでしょうか!?ねえ!』


 テンションが上がる桃田に苦しみを味合わせられている麻次はいいとして、そこまで簡単にいくものだろうか。何か嫌な感じがプンプンする。

 それは、横でずっと黙っていたナビも、同じようだった。

「楽観視はできん。敵も、こちらが対策することなど、分かっているだろう。だからその対策の対策をしてくる。しばらくは、警戒が必要だ。」

 ブレイブが声を出す。私も同意見だ。ハッキング野郎のほうは一度しか会ってないけど、白い、プリティとは別の意味で、ヤバそうである。

『むっ、ブレイブ、水を差すな!それとももしかして、怖いのかしら?』

「別に何もしないでいいというのなら、そうするんだがな。」

『ちっ、分かってるわよそんなこと。』

 口論はあまり長くは続かない。口ではブレイブを抑えられないことが分かっているようだった。桃田は咳払いをして、皆の方を向く。

『敵はまだ何かしてくるでしょう。そして、狙いは凡人、あるいはその周りの人物、と考えられる。早急に対策しなさい。そしてさっさと捕まえるのよ。それまでは気を抜くな。全力で動きなさい。以上。』


 その言葉を聞くと、モニターが消えていく。会議は終了ということだろう。具体的な指示は何もなかったような気がするが、誰も何も言わないところを見ると、いつもこんな感じなのだろう。

『では、メルトさんはどうしますか?まだ完全な状態でないのなら、精密検査をしますが?』

 織上がそう言ってくれたが、事件現場で一応手当はしてもらっている。後は自分で治せるだろう。

「ありがとう。大丈夫よ。で、凡人は何をしているのかしら?」

『彼なら、部屋にいると思いますが。様子を見てきてはいかがです?』

「うーん、そうねえ……。」

 さすがにショック状態からは抜け出していると思うが、まだ何も考えていなさそうだ。どうすればいいかわからない、と思っているのだろう。今行けば、私を頼るに違いない。それは面倒だし。あいつに考えさせなければ意味がない。色々と。

「あのプリティはどうしてるの?」

『彼女は解析中です。まだ喋れないようですが。何か気になるところでも?』

「いえ、まあいいわ。じゃあ適当に休ませてもらおうかしら。」

『わかりました。』

 そして桃田と織上も部屋を出ていった。一人男が床に倒れているけど、まあ気にしないでいいでしょう。今日は色々あって疲れた。ブレイブもいつのまにかいなくなってるし。


 しかし、プリティ、か。また厄介な話になってきた。敵がまさか、一応は家族のようなものだったなんて。いやまあ、薄々は気づいていたけれど。構造が似ているから、という話だけではない。もちろんそれも重要だが、それ以外にもあるのだ、そう考えられる理由が。

 

 そう、あれは、私が色々と考えられるようになって、凡人が学校に行って暇になった時のことだった。世話をしろ、といわれて、学校にも腕時計に入ってついていくことはできるが、そんなに話す機会はない。だから授業中なんかは、ネット経由で家に戻ってきていた。

 何かすることはないか、と考え、パソコンの中がごちゃごちゃになっていることに気づいた私は、整理をすることにしたのだ。なにせ家にいるときはほぼパソコンをいじっている主人なのだ。その中身は整理されずに、どこに何があるのかも分かりにくくなっている。

 勝手に触るな、とは言われていたが、この時の私にはちゃんと好奇心というものがあった。だから禁止されると見たくなるというもの。掃除しながら、色々みることにした。まあ見なけりゃ良かった、と思うものも多かったけれど。


 そこで、見つけたのだ。ファイルの下層の下層、巧妙に隠されていて、しかもアクセス制限があるものを。普通の人間、いや、こういうのに強い人でも、見つけるのが難しいところにそれはあった。

 まるで宝を探し当てたような気分になった私は、ワクワクしながらそのファイルを開いた(それくらいの能力はある)。主人が隠しているものならば、よほど大事なものに違いない、と思いながら。

 しかしそれは予想していたようなものではなかった。いくつものテキストが保存されており、読んでみると日記のようなものだったのだ。しかも主人のものではないらしい。テキストは七つのファイルに分けられていた。

 では誰のものなのか?それは、読み進めるとわかってきた。


 一つ目のファイル。その中の文章は、最初は単語を並べただけの、文章とは呼べないものだった。だが内容は、楽しかった、うれしかった、怒られた、などなど。そして読み進めると、少しは日記らしくなってくる。

 今日は何を教えてもらった、とか、何を覚えたとか、そんなことだった。他愛のない内容だったが、書いているものは毎日を楽しんでいることは分かった。

 しかしその内容は、段々とまた最初のように、単純なものになっていく。書いてあるのは、アレを壊した、楽しい。コレを壊した、つまらない、そんなことばかりだ。

 そしてその日記は、唐突に終わる。最後の一行は、いきなりだった。


「カラダガ コワレル コワイ タスケテクレナイ ドウシテ コワイ」


 そんな、一行だった。そこで終わりだった。

 最初見たときは、よく分からなかった。だがその文章に、なんとも言えない恐怖を感じた。寒気も感じた。見たくない、と思った。感じてはいたのだ。これは、誰かの最後のセリフなんだ、と。

 残された、後六つのファイル、見るかどうか、迷った。見てはいけない、と本能が言っていた。だが、見た。このままにしてはおけない、とも思ったから。

 そして、知った。それが、今までに生まれて、消された、いや、殺された、ナビ達の、記憶と、思いを綴ったものであると。

 そして驚愕した。そのどれもが、最後の一行に、恐怖、悲しみを、綴っていることに。

 その時に悟った。自分が、どのような存在であるかということ。そして、自分の主人が、どのようなことをしてきたか。その、消えないデータが、そのことを、私に、突きつけたのだった。


 だから彼女が一人目、プリティであると分かったのであった。

 それからの私の態度は知っての通り。もちろんそれが理由ってわけでもないけど。内側が本格的ダメダメ野郎なのは事実だし。やだやだ、なんでこんな運命なのかしら、私……。

 そんな風に、他にすることもないので、自身の修復をしながら、昔のことを思いだしていた。ハンサムもいないし、ソルヴィも眠っているので、話す相手もおらず、静かだった。そんな状態がしばらく続いた後、不意に、ブレイブが現れて声をかけてきた。

「こんなところにいやがったか。」

「あら、あなたから話しかけてくるなんて、意外だわ。惚れた?」

「……。何も気にせず話せる奴が周りに少ないのは、もはや俺の宿命だな。招集だ。」

「招集?」

 なんで警察に招集されるんだ、いつから私はお前らの仲間になったんだ、会議は出たけどさ、とか思って首をひねると、それを感じ取ったようで、

「織上がお前を呼べといった。お前の主人もだ。まあ確かに、関係のない話ではない。早く来いよ。」

 そう言ってすぐに姿を消す。一体何事だ?最近色々あったから、大抵のことでは、少なくとも私は驚かないはずだけれど。まあ行くしかないか。


 そして再び会議室へ。そこにはみんないた。もちろん凡人も。

『どうしたんですか、急に呼び出して。』

 どうやらあいつも話は聞いていないらしい。まだ少し蒼い顔をしている。

 その質問を受け、織上は、ゆっくりと凡人の方を向いた。いつものクールな顔だが、心なしか焦りが出ているように見える。

『凡人さん、落ち着いて聞いてください……。』

 ゆっくりと話す織上。聞かなくても、いいことがあったようには見えない。ウチの主人もそれは分かっているようだった。そもそも場の空気が重かった。それほどのことが起きたのか?この短時間で?まさか町が滅茶苦茶に?そんなことを考えた。

 しかし違った。そんな大事件ではなかった。

『先ほど帰った晩地凱大納信吉さん……バンさんが、事故に遭いました。』

 だが、私たちに衝撃を与えるには、十分の言葉だった。






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