chapter 9 休息なんてありはしない side:H
『……まだよ、まだ。まだ何も終わっちゃいないわ。』
ひとまず勝利できたことに喜んでいたバンと僕の耳に、スピーカーから、不穏な声が聞こえてきた。先ほどまでとは違う、明らかに激しい怒りに満ちた声だ。
「へっ、負け惜しみかい?そういうのはかっこ悪いから、やめた方がいいぜ。」
『ああ。負けたなら素直に認めて去るべきだ。それが喧嘩の美学ってもんよ。』
大してバンとトッコは勝ち誇ったようにスピーカーに向けて言う。作戦が上手く行って上機嫌なのだろうが、玄関のありさまを見ると、きっとただでは返してくれないだろう。そもそも不法侵入してる時点でマズイんだが。
『調子に乗らないで。あなた達が壊したのはたかだかお掃除ロボットでしょう?そんなものが壊れても、痛くもかゆくもないわ。こっちにはいくらでも手段があるもの。そちらを翻弄する手段がね。』
確かに、このナビの言っていることは正しい。町で車を平気で暴走させているのだ、こちらを攻撃する手段はいくらでおあるだろう。この機械にまみれた現代では、あちらが明らかに有利だろう。
『別に私はいつでもいいのよ?ゆっくり、またこんないい条件がそろう時を待ちましょう。いくらでも機会はあるもの。この、自分達で何かをすることを面倒くさがる人間の社会は、いつだって私の見方よ。ふふ。』
段々と言葉に余裕が戻ってきている。だが一度車に轢かれかけている僕としては、全く笑えない言葉だ。この先もおびえながら生活していくのかと思うと、絶望的な気持ちになる。
『それは、無理だな。』
しかしここでスピーカーから別の、力強い声が聞こえてきた。先ほどまでとはこちらもまるで違う声だが、電課の人のものだということは分かる。ずいぶん自身に満ち溢れた声だ。役立たずで不満たれまくりな人にしては。
「まさか、何とかしてくれるんですか?この件に関しては邪魔でしかなかったあなたが!?」
『凡人君、言葉は選びなさい。傷つくんだよ私でも。まあそれはいいとして、その通りだ。もちろん、私個人ではなく、電課としての言葉だがね。』
『今更どうしようというのかしら?いまだに施設のコントロールすら取り戻せていない人が何を言っても、怖くはないけれどね。』
『確かにそうだ。しかし、これは我々の本気ではない。そしてお前は、我々の本気を甘く見すぎているのだよ!』
そこまで言うと、ハックナビの舌打ちが聞こえてきた。目で見ることはできないが、何かが始まったらしい。余裕そうだった敵の不意を突く、何かが。
『……あいつ、時間もちゃんと稼げないのか。旧型だからどうなることかと思ったけれど、いくら強化しても所詮は旧型の役割しか果たせないということか。しくじった。』
その声から察するに、何か攻撃を受けているのだろうか。見えないのがもどかしい。
「そうだ、トッコ、何が起きているのか、わかるか?」
『うーん、この建物のシステムにアクセスできないんでなんとも言えないんですけど、敵の力を考えるに、セキュリティではどうしようもないでしょう。なら考えられるのは、敵とやり合えるナビが、ここに戻ってきた、ということなんじゃないでしょうか。』
なるほど、外に出ていっていた人たちが、ここに戻ってきたということか。ということは。
『そう、我々の行動力を甘く見たな!ついさっき事件が解決したみたいでな!その報告をこちらによこそうとした仲間が、こちらと連絡が取れないことに気づいて、ナビを先に帰還させてくれたのだ!これでこちらも反撃できるというものだ!』
事実、スピーカーからは敵の声は聞こえない。どうやらしゃべっている暇もなくなったようだ。
「でも、ここを乗っ取るくらい強いナビなら、簡単には勝てないんじゃないすか?」
バンが素朴な疑問を口にするが、
『舐めるんじゃない!ウチにいるナビ達は残さずトリプルネームなのだよ!訳アリ連中だがな!しかも一人来てくれれば、後は異変を知らされた仲間がどんどんと集まってくるのだ!』
勝手に説明してくれる。よほど嬉しかったのだろうか。まあ先ほどまでは、完全に敵にしてやられていたのだから、テンションが上がるのも無理ないかもしれない。
というか、事件が解決したということは、電車の事件も決着したのだろうか。結局何が起きたのかも分からない。電車が暴走したのかすらわからないが、そんなことは正直どうでもいい。
問題は、メルトがどうなったのか、それだけだ。
「おい、電課の人!結局事件はどうなったんだよ!メルトは、メルトはどうなったんだ!ついでにハンサム達もどうなったのか教えてくれよ!」
カメラに向かって叫ぶ。今ナビ同士の戦いが繰り広げられているのだろうが、生身の自分には何もすることがない。だから問いかける。自分でいうのもあれだが、かなり焦っていた。先ほどまでとはまた違う、嫌な汗が出てくる。自分のことに精一杯で、メルトの安否を考えることは忘れていた。
『あん?事件は解決、としか聞かされていないね。ただ、被害はなかったといっていた。この被害が、事件による被害者がいなかった、ということを示すのか、こちら側に被害がなかったということなのかは、聞く暇がなかった!』
最後まで使えないやつ、と思ったが、この状況でこんなことを聞くこっちもどうかしてるのかもしれない、とも思う。全く、なんだってんだ。
『ふはははは!ゆっくりしすぎたな、このハッキング野郎!いくらお前が強くても無駄だ!この施設の環境はさっきまではお前に味方していたかもしれない!だが攻守が逆転すれば、今度は貴様が圧倒的不利に陥ることを示しているのだ!まいったか!』
まだ攻防は続いているらしい。というかこいつ、スピーカー切るの忘れてるのだろうか。さっきから声がうるさくて仕方がない。状況は把握できるけれど。
「まだ捕まんねえのかよ。やっぱ警察ってのはあてになんねえぜ。大体最近のサツはひ弱なやつが多すぎる。テクノロジーに頼りすぎなんだよなあ。骨のある奴いねえのかよ。」
『愚痴はそれぐらいにしとけ。とりあえず今はこのバイクを回収するぞ。ここに置いといたらまた持ってかれるぜ。夜中に忍び込むのは嫌だろう。』
暇なバンとトッコは不穏な会話を始めている。まあ内容に関しては僕の知るところではない。
それよりも、今は外の状況が知りたかった。どうなったのか。だがうかつには建物の外に出れない。もし車が襲ってきたら、ここでの頑張りは無駄になる。だkらじっとするしかない。何もできずに時間だけが過ぎていく。
そしてしばらくして、戦闘は新たな局面を迎えたようだった。
『追い詰めたのか!?ようし、完全には消すなよ。聞きたいことが山ほどあるからな。ついでに色々証言してもらってうちの課の濡れ衣を着せてやる……。』
これまた不穏な言葉が聞こえたが、やはり知らないところだ。そんなことよりさっさと捕まえてほしい。捕まえて状況を聞かせてほしい。待ち時間が、とても長く感じられた。時計を見ると、そんなに時間は立っていないのに。とにかく早く終わらせてほしかった。
だが、そういう願いはなかなか敵わないものだった。
『なっ!何してるんだ!それは味方だ!おい!聞いてるのか!どうにかなっちまったのか!?』
威勢がよかった声が一瞬で焦ったものになり、それからも似たような内容が叫ばれる。どうした、だの、何やってるんだ、だの、聞くだけでよくないことが起きているのが良く分かる。これはもしかして、まずいんじゃないだろうか。
「ちょっと、大丈夫なんですか!?なんだか大丈夫じゃなさそうですけど!」
呼びかけるが、返事はない。その代わりに聞こえてきたのは、またしてもあの声だった。
『……ふふ、今回は少し危なかったかもね。確かに甘く見ていたわ、警察の力ってやつを。どうやら撤退するしかないみたい。』
ハック野郎の声だ。ということは、また主導権が握られたのか。さすがに何やってるんだ警察、とこの僕でも言いたくなる。優位に立てたのは一瞬じゃないか。
『でもね、私は今かなり怒ってるのよ?感情は表に出さない女だから、わからないかもしれないけれど。そしてね、ここではいったん退くけれど、必ずまたあなたを驚かせてあげるわ。』
「待てよ!いい加減理由ぐらい説明したらどうだ?これじゃただの嫌がらせだろう!?」
『嫌がらせ、ねえ。結局はそうなのかもしれないわねえ。でもね、あなたがこの嫌がらせの意味を知るのは、そう遠くない未来でしょうよ。というかもうすでに、薄々わかってるんじゃない?頭だけは優秀なあなたなら。』
わかっている?確かにそうかもしれない。でも肝心なところで思いだせない。何かが頭に引っかかっているのは確かなんだけれど。
『まあ私も、そろそろあなたの鈍感具合には飽き飽きしてきたところなのよ。さっき言ったように、機嫌も良くない。だからね。今度からはちょっと方法を変えてみるわ。』
「方法を変える?どういうことだいったい?」
まさかなり振り構わず殺しに来るとか、現実の刺客を差し向けるとか、そんな感じだろうか。さすがにリアルファイトができるほど特別な力には恵まれていないんだが。いや、ここは電脳世界、つまり異世界に飛ばされるとかそういう流れか?そこでメルトたちとともに戦い勇者になるとか、そんな話になってしまうのか!?
『あなた自身でなく、周りから、責めてみるわ♡』
バカな妄想をしていた僕など一切気にせずに、ハックナビは言った。先ほどまでとは違ってとても楽しそうに。しかしその言葉は、僕の予想を別の意味で超えていた。
「……は?それって、どういう……?」
『恋路には邪魔ものが多い。それを通り越していきなり本人にアタックするなんて、私どうかしてたの。だからね、周りから落としていくことにしました。』
それはつまり、周りの人間から……?
『時間が来たわ。また会いましょう、愛しい人!』
「ちょ、待てよ!おい!」
咄嗟に呼びかけたが、反応が返ってくることはなかった。代わりに聞こえてきたのは、
『逃げられた?嘘だろおい、敵を目の前にして逃げられたって、俺の評価がだだ下がりじゃないか!もともと無いようなもんだけどさあ、それでもさあ、いい加減桃田さんからちゃんと人間扱いしてほしいというかさあ、なあ……。』
というなんとも情けない声だった。やっぱり頼れない奴、ということだろうか。立場には同情しなくもないけれど。
「逃がしたのかよ!使えねえなあ、全くこれだからサツってやつはよお!」
バンもあからさまにやれやれ、といった風に肩をすくめる。その様子を見ていたのだろうか、それとも普通にショックを受けて立ち直れないのだろうか、しばらく沈黙が続いたが、やがてスピーカーから弱弱しい声が聞こえてきた。
『別によお、俺だけのせいじゃないじゃん?君らには見えてないだろうけど、ここには何人か人いるんだし?そもそも負けたのはナビ達だし?俺は何もできなかったというか、この結末になるべくしてなったというか、そんな感じ?そうだな、運命ですもの、俺は何も悪くないね!そうに違いない!』
『完全に開き直ってるじゃねえか、しかもうぜえし。最悪だ、あんな男だけは友達になっちゃいけねえぜ、バン。』
「分かってるよ、トッコ。」
こちらがあきれているのも目に入らないのだろうか、まだブツブツと男は愚痴をこぼし続けてている。立場には同情するが、これは見てられない。あんな男にはなりたくないね。なっちゃうのかもしれないけれど。
「まあそれはいいとして、僕が今聞きたいのは……。」
ハック野郎の言葉もかなり気になるが、それよりもまず外の事件がどうなったのかを聞こうとした、その時。
『……ぐだぐだぐだぐだ、さっきから聞いてれば、ムカつくことばかり言ってるわねえ、麻次。』
急にスピーカーから別の声が聞こえてきた。まさかハック野郎が戻ってきたのか、とも一瞬思ったが、どうやら様子が違う、というかこの声は聞いたことがある。これは……。
『ひいっ!ももももももももももももも桃田さんっ!?聞いておられましたか!?』
男がまた違う感じの弱弱しい声を上げる。そうか、この声は、身長は子供、しかし胸は暴力的、ついでに性格はまさに鬼の、あの桃田茂紅絹さんの声だった。
『むっ、失礼なことを考えてるやつがいるみたいね!まあそれは後でいいわ。』
……ついでに直観もずば抜けているらしい。今回は逃れられそうだけど。
『麻次!そこの監督は今アンタでしょうか!アンタの指示が間違いだったのなら、アンタの責任になるのは当たり前でしょうが!このクソミジンコ!』
『そ、そんな!ひどすぎです!大体敵には逃げられましたけど、あんな性能の奴、今のうちの戦力じゃ敵いませんよ!ハンサムも、ブレイブもいないってのに!』
『それでも引き留めるぐらいはできただろ!大体相手がハッキングを得意としていることを知りながら、なぜ一斉に突撃させた!?そりゃ何体かは操られてもおかしくないでしょうが。このクソコックローチ!ホイホイされろ!』
「生物的に格上がってませんか?兄貴?」
「バカ野郎、プランクトンも重要な存在なんだぞ、格の違いなぞあるか、それに何より嫌われ度では格段にGが上だ。」
こんな話をしている場合じゃないのだが、口を挟める雰囲気でもないので、バンの相手をしておこう。
『で、でも、凡人君は守り通せましたよ!奴の狙いは彼だったんです!しかし彼はほぼ無傷!これは評価に値するんじゃないんですか!』
『テメエは何もしてねえだろうが!適当なこと言ってんじゃねえぞゴラァ!』
『ひいい!君からも何か言ってくれないか、凡人君!僕のアドバイスは役に立ったよね!』
「残念ながら何も言うことがありません。」
『ひどいっ!』
本当のことだから仕方ない。まあ情報はもらったけれど、アドバイスはしてもらっていない。つまり嘘はついていない。
『桃田さん、ひとまずそれくらいにしておきましょう。まずやらなければならないことを先に片づけましょう。麻次、後五分ほどで到着します。会議を開けるように全員に声をかけてください。後すぐにナビのメンテナンスもできるようにしてください。』
『織上さん!救ってくださるのですね!さすがお優しい!』
『凡人さん、聞こえてますね?メルトさんからお話があるようですよ。』
完全にスルーされた男の人(麻次さんというらしい)はいいとして。
「メルト!?大丈夫だったんですか!?壊れたりはしてませんか?」
今の言葉からすると、大丈夫そうだが、まだ油断できない。しかしその質問に織上さんが答えることはなく、代わりに別の、懐かしい声が聞こえてきた。
『……残念ながら、くたばってないわよ。アタシはそんなに簡単には死なないっての。』
スピーカーから聞こえてきたのは、いつもの声で、いつもの憎まれ口をたたくナビの声だった。
「ああ、無事だったんだな。それはよかった。」
体の力が抜ける。よかった、とは思うが、一方でメルトが出ていった時のやり取りが急に思いだされて、なんとも言えない気分になった。両手を上げて喜んでもいいが、メルトは気味悪がるだろうし、僕だってそんなことはしたくなかった。
大体、彼女と僕はそんな関係でもないし、ここ数日で急に彼女のことが好きになった、とかそう言うわけでもないのだ。そこを勘違いしてはいけない。
今回彼女の帰りを待っていた理由はただ一つ、色々と改めて話をするためだ。
『他の奴が集まってくる前に、とりあえず会議室に来なさい。見せたいものがあるわ。いいわよね。織上?』
『ええ。まだ外部に出ている仲間もいるので、全員が集合するのには少々時間がかかります。それまでは自由に使ってください。』
いきなり呼び出しをくらう。残念だがこちらの話を聞いてもらうのは少し後になりそうだ。
「兄貴、俺達も行っていいですか?」
「まあ、秘密の話ってわけでもないだろうし、別にいいだろ。」
メルトの様子からしてロマンチックな内緒話というわけではないだろう。そういうことならこいつを連れていって損はない。バカだけど、重たい空気を換える力は持っているからな。
「じゃあ、行こうか。」
麻次さんが再び怒られているのが聞こえてきているが、そこはやはりスルーで。
少し前にも入ったはずなのに、会議室はなんだか懐かしい感じがした。しかし記憶の通りとても静かだ。今回のロボット事件が夢だったかのように感じる。もっとも前側のドアが壊れていているわ、不自然に一つ窓が開いているわで、夢だったとは到底思えないけれど。
メルトはモニターの一つに姿を映していた。そんなことをする余裕があるのだから、体の方はひとまず安心なのだろう。
「で、話ってなんだよ?」
そういうと、部屋に入ってきたバンと僕をみて、ため息をついた。
『はあ、バンさんまで来てしまったのですね。ウチのボンクラがいつも迷惑かけてます。』
「おう、メルトじゃないか。最近元気か?兄貴とはうまくやれてるのかい?」
ひとまず僕を無視してバンに挨拶するメルト。しかしこれはいつものことである。なんせバンは漢らしい男、らしいので、メルトはバンのことを尊敬しているらしい。同じような理由でトッコとも仲がいい。僕とは、いうまでもない。
『すみませんが、時間もないので本題に入りたいと思います。おい、凡人。』
「扱いの差が、ひどくない?」
『今更だろうが。とにかく今は黙ってこれを見なさい。苦労したんだからね、ここまで復元するの。っと、やっぱり少し待ちなさい。』
普段なら僕の突っ込みに対し罵詈雑言を浴びせてきそうだが、今は事情が違うらしい。とても険しい顔をしている。ふざけている雰囲気もない。真剣だ。ナビでもそれぐらい伝わってくる。
「心配したんだぞ。で、何か僕に見せたいのか。なんだい?」
犯人につながる手がかりだろうか。それなら早く見たいものだ。そしてさっさと誰かを突き止めるて、逮捕してもらって、それから話といこう。とりあえずこの時間を利用して、前回のことを謝るシュミレートをしよう。……言葉が浮かばない。ただ謝っても誠意は伝わらないよなあ……。
そんな風にして少し待っていると。
『準備できたわ。さあ、見てみなさい。これが何か、心当たりはあるかしら?』
「ん、どれどれ。」
思考を中断して、モニターに移されたものを見る。誰かの顔と体のようだ。人間の感じじゃないから、ナビのものだろうか。しかし僕に見せるとはいったい……。
モニターに移されたものを最初見たときは、わからなかった。ただ見覚えがあるな、とも思った。そしてしばらく眺めていると。
瞬間、体に衝撃が走る。息ができなくなる。
「な、こいつ、は……。」
『知っているの?』
画面に映し出されたナビの顔と姿。そう、これを僕は知っている。でもなぜ?なぜ今になってこんなものが?
心臓の鼓動が早くなる。急に頭がぐらぐらしてくる。手が震える。思いだすな、と体が命令してくる。だがもう止まらない。
『知ってるんなら、さっさと言いなさい。これは、誰?』
知っている。知らないわけないじゃないか。記憶の蓋が開かれる。だってこのナビは。
「……………………まさか。そんなばかな。」
このナビは。この白くて、無垢で、かわいらしい外見をしたこのナビは。
『聞こえないわ、はっきり言いなさい!』
僕この手で作って。
「……………………プリティ。」
この手で壊した、ナビなのだから。
その名はプリティ。
正式名称、プリティ・ジ・ワン。




