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chapter 8 漢達の鎮魂歌 side:M 前編

 ハンサムが宣言すると、突如彼の周りから新たなパーツが現れ始め、彼の体を覆い始めた。彼の体はもともと青いアーマースーツを着ているような外見なのだが、更にゴテゴテになったのである。

 再三言っているが、外見は機能面に影響を与えない。しかし体積、つまり容量が増えるとなると話は別だ。ハンサムは確実に一回り大きくなった。あれは能力も変化したことを現していることに他ならない。

「ほう、ほうほう、これはこれは、ナンとも楽しそうじゃないか!」

 白野郎はハンサムのその姿を見て急に興味が湧いたようだ。先ほどまでは相手をするのがめんどくさいという顔をしていたというのに。血は争えない、というやつ?

「ご期待には十分添えると思うよ。むしろこちらが物足りないかな?」

「言うじゃねえか、あん?手加減なんて端からなしだぜ?いいな?」

「こちらのセリフ。」


 その短い会話が終わった瞬間に、両者は動き始めた。いや、早すぎて良く分からなかったが、少なくともそう見えた。

 だって次の瞬間には、白野郎のナイフと、ハンサムの拳銃が、つばぜり合いの状態になっていたから。

「おおお、ついてくるか!イや、見えているのか?」

「もちろん。君の動きも、予想よりもはるかに早いがね!」

 二人はすぐに離れる。するとハンサムは銃本来の使い方、球を白野郎に向けて連射する。そのスピードもすさまじいものだ。まるで一発しか打っていないように聞こえる。

「そんなものでは、オレは抜けない!」

 だが敵も超強化の力をいかんなく発揮してくる。その振り回すには大きすぎるナイフで、全弾をはじいているのだ。いや、受け流しているというべきか。ともかく人間業じゃない!ナビだけど。

「チキン野郎には、手痛いお仕置きが必要だな!ああ!・」

 そこでまた敵が消える。正確には超スピードで移動する。私がさっき(まことに遺憾ながら)全く手が出なかったやつだ。今は見ることだけに集中しているから、その動きをぎりぎりとらえることができる。

「そりゃ、さすがにアタシでもあれは無理だわ。」


 一人納得した瞬間に、ハンサムの背後に敵が回る。完全に死角。ハンサムは振り向いていない。このままではマズイ、と思った時には敵のナイフがハンサムの首を……。

 飛ばしていなかった。ハンサムはその小さな拳銃の片方でその刃を受け止めた。後ろを向かずに。

「なっ………………!」

 敵も驚きを隠せない。しかしそんな隙をハンサムは与えない。同様の超スピードで振り向きざまに、敵にキックをお見舞いする!

「がっ……………………!」

 その蹴りを白野郎は瞬時にガードする。だがそんな(言葉を話す余裕もない)敵のガードも虚しく、ハンサムの蹴りは衝撃で相手を吹き飛ばした。さながらサッカーボールのように。

「ふむ、なかなかだ。だが今の私に敵う術はないな!」

 ハンサムは攻撃をやめない。先ほどの私がされたように、敵がどこかにぶつかる前に追撃を加えようとする。もちろん敵も黙ってはいない。

「な、舐めんなクソ野郎が!」

 迫るハンサムに再びナイフを振るう。そしてそれをハンサムが止める。良く見るとあの銃、上の部分に刃もついているようだ。だからあのナイフとも切り結べるのだろう。近距離ではさながら二刀流である。

敵がナイフを振り下ろせば片方の拳銃で受け止め、もう片方ですかさず攻撃。しかし敵も体をずらす、蹴りを繰り出すなどして攻撃を受けまいとする。まさに両者一歩も譲らない戦いというやつだ。あんまりよく見えないけれど。


 だが余裕そうなハンサムの顔と、必死に嚙みついている白野郎の顔を見れば、どちらが優勢かは見てすぐわかる。

「にしてもあのクソハンサム、流石警察といったところかしら。本気出せばあんなに強いなんて。強いうえに美形とか、かなり無敵じゃない。性格さえなければ完璧よね。」

 目の前の壮絶な戦いを前にして、何もすることができない私は、素直に感想を述べた。もちろん独り言ではなく、ある人物に向けていったのであるが。

『ええ、今の彼はトリプルネームの中では最強といってもいいレベルの戦闘力を誇ります。いいえ、その力はすでに四つ名の域にまで達しているでしょう。』

 四つ名……クアドラプルネーム。よく略されてクアドラ・ネームと呼ばれるそれは、並みのナビでは名乗ることを許されない名前だ。政府の機密情報を守るナビや、兵器などの管理を任されるナビなどがそれに該当するらしい。トリプルネームですら昔では考えられない技術だというのに、クアドラ・ネームはその先を行く。まさに最強のナビだ。


「でもそんな最強ナビが何で日本の小さな町の警察なんかにいるのよ?おかしいじゃない?」

『もちろん彼はトリプルネームですよ。しかし一時的に能力を爆発的に向上させる力を持っている。それだけです。』

「あの白い奴もそうだけど、トリプルネームのナビは一つずつ必殺技を持ってないといけないのかしら?」

 なんだっけ……『戦の境地ハイ・コンセントレーション』?機能のほぼすべてを戦いに集中させる力、だったかしら。ばかばかしい。ちょっとかっこいいけど。

『必殺技、というわけではありませんが、トリプルネームはすべての能力において高い力を持つナビのことです。しかし様々な場所で働くことになるので、その仕事に合わせて一つぐらい突出した能力を持たせるのが望ましい、と考えられているのですよ。』

 まあ確かに。平均的な能力しかいらないのなら、全部同じ型のナビを作り続ければいいだけだしね。器用貧乏になられても困る、というわけか。

『彼の能力は一時的な能力の強化。限られた時間の中でしか強くなれないので、彼は自分でその能力をこう呼んでいますよ。『限りある栄華リミテッド・エンハンス』。かっこいいかは知りませんが、名前の一つも付けたくなるのでしょう。』


 織上はあまり楽しくなさそうに語る。そのあいだにも、激しい戦いが続いている。ハンサムの二丁拳銃が火を噴き、その銃弾を刃の上で滑らせることで起動を変えて回避する。次の瞬間には両者の間合いは一気に縮まり、再び斬り合いが始まる。全く衰えることがない。

「で、その時間ってのはどのくらいなのよ?まさかすぐに電池切れ、なんてことはないんでしょう?」

『そうですね。決められた時間はありません。端的に言うと、彼が機能をオフにするまで、でしょうか。それまではずっとあの状態です。』

「自分で切る?それって、言ってしまえばいくらでもできるってことじゃないの?」

『まあそうですね。ただし問題なのは、あの能力の発動中は、彼の体は常に蝕まれ続ける、というとこrでしょうか。』

 ……なるほど。何となく話が見えてきたぞ。つまりは、体に負担がかかる能力ってわけだ。本人が我慢する限りは、使い続けることができるけれど。

「じゃあずっと使い続けたらどうなるの?」

『無論、ハンサムは壊れますよ。死ぬ、といってもいいですね。』

 織上はきっぱりと言い放った。しかしその言葉を発した織上は、今まで感じたことがないくらい、悲しそうだった。どれだけ冷静な女でも、感情は隠しきれないようだった。「死なないでください」という言葉の意味が、初めて理解できた。


 そんな彼女の心配をよそに、ハンサムと白野郎の戦いは激しさを増していく。

 ハンサムはまず両手の拳銃で球をばらまき、敵がもたついたところに一気に攻め込んで攻撃する、というスタイルである。単純であるが、それを何度も繰り返されると、敵も疲れてくるというものだ。何より敵の反撃のチャンスがかなり少なくなる。

「ちょこまかと、動いてんじゃねえぞ!このチキン野郎!」

「残念ながらこれは仕事なんだ。卑怯な手だとしても、勝たせてもらうよ!」

 白野郎が近づいてきたハンサムに向けて超速で大型ナイフを振り下ろす。しかしハンサムは体をひねってそれを避け、瞬時に距離をとりながら銃を乱射する。

 そこでとうとう銃弾が敵の体をかすり始め、傷をつけた。やはりあのナイフは振り回すには大きすぎるのだ。振り下ろした瞬間にまた振り上げるのは楽ではない。


 深い傷ではないが、確実に敵にダメージを与えていく。時間がないからといって焦ってはいけない、ということだろうか。まあ二人の動きは滅茶苦茶早いため、現実時間は大して経過してないんだけれども。

 その他の場所では、ダブルネーム軍団がウイルスと攻防を繰り広げていた。力はこちらが勝るが、なんせ奴ら分裂しているようなので、きりがない。ファイアウォールさえ破られなけれべば、大丈夫ではあるが。

 でも、そんな悠長にしていて、アンタは大丈夫なの、ハンサム?


「これぐらい、ナントモないなあ!」

 かすり傷程度では白野郎の動きが止まることはなかった。なおも激しい戦いが続いている。ハンサムの動きに対応するため、ナイフだけでなく全身も使うようにしたようだ。

「そろそろ、倒れてくれると、ありがたいんだけどねえ!」

「マダマダ、まだまだこんなもんじゃねえぞ!もっと楽しませろ、ああん!?」

 ハンサムが接近して切りかかろうとしたとき、敵は完全にナイフを手放したのである。ナイフの振り下ろしを予測していたハンサムは、不意を突かれ一瞬動きが鈍る。

 そのチャンスを逃すはずはなかった。そしてハンサムの両手首をつかみ、繰り出したのは……。

「おらああああああああああああああああああああああ!」

 なんのひねりもなく、ヘッドバッドだった。そしてそれは、ハンサムの頭を直撃する。


「なっ……!がはっ……!」

 頭への突然の衝撃(頭が重要ではないんだけれど)で、ハンサムがよろける。その動きは、こちらから見てもわかるほど遅かった。それは少しおかしな感じだった。そしてその隙を敵は逃さない。

「ずいぶんヘロヘロしてんじゃねえか、ああん!?」

 ハンサムの体に拳を飛ばす。無論超速で。ハンサムはそれをブロックする。しかし次の拳が飛んでくる。それもブロックする。それが繰り返される。。つまりは、防戦一方のボクシング選手のような状態になりつつあるのだ。


 しかしその様子を見ていて違和感を感じた。ハンサムの顔から、余裕そうな雰囲気がなくなってきているのだ。だいたい先ほどまでのハンサムは、この状況でもクロスカウンターを決められる勢いだったというのに。というかまずヘッドバックなんてくらいそうにないのに。まさかこれは……。

『まずい。まさかこれほど早くに限界がきてしまうとは……!』

 焦っている織上の声を聞いて確信に至る。ハンサムは、体の限界が近づいているのだ。そしてそれは早すぎる限界だった。だって敵に致命傷を与えられていないのだから。

「どうした?さっきまでの勢いがまるでないぞ!そんな苦しそうに、顔歪めちゃってサア!」

 あまりに突然消極的になってしまったハンサムの異変に、敵も勘づいてしまったようだ。先ほどまでの焦りが消えていっている。楽しそうに、いつもの気に入らない笑みが戻りつつある!


「君に心配されるほどでは、ないね!」

 それでもハンサムは諦めてはいないようだった。苦しそうにしながらも、敵が拳を引いた瞬間に、その長い脚でリーチの長い蹴りを繰り出す。

 しかしそれは敵を捕らえず、再び両者の間が空くことになった。

 ハンサムはすでに肩で息をしている。先ほどまでの余裕が嘘のようだ。対して敵は余裕そうだった。まああの猛攻をしのいだだけでも、ハンサムは十分すごいのだが。敵はやはり無尽蔵のパワーのようだ。

「どうした?もうやめておこうか?今なら特別に、顔だけ残してやるぞ?」

「ふ、君だって、強がってはいるが、体の内側はボロボロなんだろう?戦えばわかるさ。」


 その言葉に白野郎は顔をしかめる、どうやら図星、みたいだ。無尽蔵パワーは体を犠牲にして得ている力、というわけだ。ならこの二人、似た者同士である。本来の能力を超える力を出すには、何かを犠牲にする必要がある、そんな感じか。

「ふん、そうさ、この体、いつ壊れたっておかしくない。だがそれがどうした?俺は戦うためにこの力を得たんだ、戦って散れるならそれは本望ダロウ?」

 気丈に白野郎は笑う。その言葉に嘘はないだろう。もはやそれだけが生きる意味だといわんばかりの態度だからな。今までずっと。心底楽しそうにしている。

 そこで少しハンサムの言葉を思いだす。彼女にとって使命とは、なんなのだろうか。戦うこと?まあ町を混乱させたい悪者がつくったのなら、納得だが。悲しい運命のような気がする。もし最初からそういう目的で生まれたのであれば、他人からは口出しなんてできないが。


 二人はしばらく動かなかった。もう動けないのか、動きたくないのか、それともチャンスをうかがっているのか。互いに黙ったままだった。

「さあ、そろそろ終わらせようか、お前のアイテもそろそろ飽きてきたよ、クソ警官さんよ。」

 先に動いたのは白野郎のほうだった。大型ナイフを持ちあげ、構える。

「それはそうだ。そろそろ帰らないと、待ち人を心配させてしまう。」

 ハンサムも銃を構える。戦闘態勢。もはやどちらもあまり余裕はなさそうだった。次の攻防で決まる、そんな感じがしている。

 そして二人は同時に動いた。疲れなど微塵も感じさせないスピードで。持てる力を使い果たすような勢いで。


「しゃああああああああああああああああああああああ!」

 白野郎の攻撃方法はなんら変わりはない。大型ナイフを振り上げて一気に近づき、振り下ろす。

 ハンサムも同じように右手の銃でそれを受け止める。両者ともにシンプルな動きだったが、それは二人の余裕のなさを現しているのだろう。

 問題はここからだった。先ほど殴られたハンサムは敵の肉弾戦作戦を警戒したのか、今までのように近づいて左手の銃で相手を斬ろうとはしなかった。あえて敵の剣を高い位置で受け止め、左手は右手が剣を受け止めた瞬間に、相手に銃口を向けていた。ほぼゼロ距離射撃。白い野郎はそれに気づきナイフを瞬時に手放し、格闘に持ち込もうとする。

 しかし、もう照準はついているのだ。ハンサムがやることは引き金を引くだけ。その過程の差が、絶対的な時間さになる。

「これでえ!」

 放たれた銃弾は、見事に敵の腹に命中した。白野郎の目が見開かれる。だがハンサムは攻撃をやめない。ありったけの弾丸を、打ち込んだ。弾切れなどない。その銃弾が止むのは、ハンサムが満足したときだ。


「あ、ああああああああ、ああああああああああああああああああああああ!」

 鳴りやまない銃声。白野郎はもはや自力では動いていない。衝撃で体が揺れているだけだ。悲鳴も段々と小さくなる。なかなかにえぐい光景だ。少なくとも私が百八回殴った時よりはひどいはず。

 しばらくして、ハンサムは打つのを辞める。もう十分のようだった。なんせ、敵の腹には、大きな穴ができていたのだから。小さな弾丸であれほどの穴を作るのには、いったい何発必要なのか。見当もつかなかった。

「本当は、女性に、こんなことは、したくなかったんだがね……。」

 絶え間なく発砲していたハンサムもかなり疲れているようだった。息が荒い。両腕もだらんと下ろしている。

 一方白野郎は、腹に大きな穴、全身に細かい傷ということで、すがにもう動けないようだった。たったまま静止している。いや、もしかして死んでいるのか……?


 まあそれでも何らおかしくない。あんな大きな穴が腹部に開いていたらさすがに……。腹に、穴?

 壮絶な戦いを目の当たりにして思考回路が鈍くなっていたのか、今になってようやくその違和感に気づく。いや、違和感というよりは、既視感、というべきなのだろうか。とりあえずこの光景は、そう、デジャヴ、だ。

 そしてそれを思いだした瞬間、私は叫んでいた。

「ハンサム!油断するな!前を見なさい!まだ終わってないわ!」







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