chapter 6 乙女心は、ショーの後で side:H
今外の世界はどうなっているのだろうか?もしかしたら浦島太郎のように、次外に出ていったら、周りは知らない人だらけで、文明もさらに進化しているのかもしれない。
いや、もしそうなら、そろそろ架空の世界のものを具現化できる技術が開発されているのではないか?それならもう苦労する必要はない、理想のヒロインをアニメの中から連れてくればいいのだから!万歳、科学の進歩万歳!…………ふう。
そんなこんなでこの建物(窓が少なく、黒くて四角い建物なので、『黒箱』とよばれているとかなんとか)になかば幽閉されてから二日たった。
最初はもちろん帰りたかったのだが、再三狙われているだとか、次合うのは葬式になるとか、死んでから炙っても意味がないだとか言われて、結局保護という形でこの施設にいることになったのである。
まあ居心地が悪いわけではない。ちゃんと広い部屋と、三食のご飯と、その他生活に必要なものは手配してくれているので、死にそうだとかそういうわけでもない。学校にも話をつけているらしいので、安心だ。
ただ問題があるとすれば、電子機器に全く触らせてもらえないということである。
物心ついた時から機械に接しており、今では家にいるときは大体いつも触れているものに、全く触らせてもらえないのである。この苦痛がわかってもらえるだろうか?
触れせてもらえない理由はもちろん危険だから。
「今回は腕時計からの攻撃でしたが、次は何を仕掛けてくるか分かりません。ここのセキュリティは万全ですが、すでにあなたのお持ちの機器の中に侵入されている可能性もありますので、とりあえずこちらで預かります。」
「それとここにいる間は、機械いじるの禁止ね!ここにあるものはどれもそこら辺にあるのと一味違う特別なものだから、素人にいじられると困るのよ!あとネット接続も無理だからね!安全に配慮して、この建物内からのネット接続は電課メンバーにしか認められてないわ!」
織上さんと桃田さんに散々注意を受けた。そして我が電子機器たちは二日たっても帰ってこない。というかもともと返す気ないんじゃないの、とか今では思ってたりする。
そんなわけで、現在滅茶苦茶暇である。勉強しようにも、オンライン教材が主流の今ではやることはほとんどない。暇つぶしがなにかないか織上さんに聞いてみると、
「暇つぶし…………少々お待ちください。」
そんなこと言ってもってきたのは、六法全書だった。
「勉強になるのではないでしょうか?昨今あなたのような学生さんは、こういうのに興味がないと聞いております。良かったら、この機会にぜひ。」
なんて言っていたが全く読む気になれないのでスルー。
「は?暇つぶし?アンタみたいな阿呆に潰せる時間なんてこれっぽッちもないわ!まず煩悩を払いなさい!雑念を払いなさい!そして最後は成仏するのよ!さあ!」
桃田さんに聞いた僕が間違いだぅた。
『暇なのかい?そうだね、僕は忙しいから相手できないけど、君が望むなら僕のイケメンになれる秘訣を教えてあげるよ!プリントアウトするから、とりあえず実践するといい!気にするな、友達だろ!?』
顔はハンサムなんだが、中身が残念すぎる気がする、このナビは。
ちなみにプリントアウトされたものに書かれていたのは、おおよそ人前でやると友達がいなくなる系のものばかりだったので、やめた。何を考えているのだろうか?イケメンの考えは理解できない。
この建物には後何人か電化のメンバーがいるらしいが、忙しいのか何なのか、全く見かけない。よってやることはないのである。
さらにここでの生活を苦にしているものは、もちろん我がナビの存在である。
メルトも何故かは知らないがここにいることになったらしい。そしてここではネットワークに接続できないので、もちろん彼女も暇なのである。暇だが電課のメンバーは忙しくて構ってくれない。
ならやることは?僕に突っかかってくることである。
『なんでアタシまでこんな目に合うのよ!?全く、アンタといるとロクなことにならないわ!懺悔なさい!死ぬまで!』
「俺だってなんで狙われてるかもわかんないのに、謝るところがないよ。」
『アタシに!謝れといっているの!』
いつもこんな感じである。特に最近は機嫌が悪いというかピリピリしている。こちらの精神力は減るばかりだ。
自分なりに考えてはいるのだが、やはり人に命を狙われるレベルのことをした記憶がない。いったいどこの誰がこんな平凡な高校生の命を狙っているというのか。
『そんなもん女に決まってるでしょ?女の敵のアンタには、そのくらい当然じゃない?男には見向きもされないでしょうし。』
「女っていっても、友達はいるけれど、そこまで付き合いが深い人はいないぞ?」
いたらお前もつくってねーし。作る必要ねーし!
『体から出るオーラがすでに、女には耐えられないものなのよ。殺人衝動を引き起こしてしまっているのよ。理由は問題ではないわ。』
どんな奴だよ。そんな人生悲しすぎる。やはりこのナビに話を聞いても、百パーセントねじ曲がった意見しか出てこないんだろうな。
「大体、お前いつも僕のこと女の敵とか言うけど、そんなにお前にひどいことしたか?」
最近の攻撃は、メルトがどうしようもなく反抗的でいうことを聞かないようになってから行っているものである。しかしメルトは少々反抗的になり始めた、つまりこちらがまだ何も手を出していない時からそんな言い方をする・
つまり原因は最近の嫌がらせではないということだ。では何?何が悪いのだろうか?
メルトはその質問を聞くと、少し声のトーンを下げて答えた。
「…………理由がわからないってことは、アンタはやっぱり女の敵ということよ。自分の胸に聞いてみなさい。気づけないなら、もう終わりよ。」
どうやら機嫌を損ねたらしい。まあいつも怒っているから、あんまり変わらないといえば変わらないのだけれど、なんだか雰囲気が違う。
悲しいような、諦めているような、憐れんでいるような、そんな感じがする。あまり見たことがないメルトの表情だ。哀愁を帯びているというのか、ミステリアスというか…………。
…………しまった、ついつい魅入ってしまう所だった。ここがやっかいなところである。もちろんメルトを作ったのは僕なんだから、僕の好きな顔のタイプになっているのは当然。今までの七人だってそうだった。もちろん感じは変えてあるけれど。
まあつまり、黙っていれば美人ってわけだ。
しかししばらくの沈黙の後、メルトは再び怒っている顔に戻ってしまった。
「アンタとしゃべってるとやっぱりイライラするわ。はあ、ほんとにいや。まだ自分で瞑想している方がましよ!」
「キレんなよ!お前が話しかけてきたんだろ!」
そしてメルトはどこかに行ってしまった。ここ二日こんなやり取りの繰り返しである。まあ家と違ってメルトが攻撃する手段がこの部屋にはないので、その分マシではあるが。
…………さっきの顔は、少し気になるな。もちろん可愛かったからとかじゃなくて。
『ん?犯人は考えても思いつかないから、暇な時間は女心を理解することに死力を尽くすことにしたのかい!?素晴らしい、一日中語ろうじゃないか!』
ついに三日目に突入した軟禁生活の暇な時間、ハンサムが僕の顔を見に来たので、とりあえず聞いてみることにした。聞いてみたらこのざまなのだけれど。
「にしてもこんなところで時間潰してていいの?今は特に忙しんじゃないの?事件が起こってるんでしょう?」
『それが、君が倒れた事件を期に、とりあえず新たな事件は起こらなくなったんだよ。まあこの二日は後処理とか、犯人の行方を追うのに忙しかったんだけどね、とりあえず情報を整理して今後の方針を決めることになって、トキコ達は今お偉いさんたちと話をしているよ。』
「その会議には参加しなくていいのか?」
『ああ。捜査方針とかは、トキコ達にある程度任せているのさ。それに警察のお偉いさんたちは、ナビとかの技術に頼ることを嫌う人もまだいるんだよ。頭の固い人たちだ。』
年齢が上がるほど、すべてをテクノロジーに頼るのを渋る人は今でも多い。僕のお祖母ちゃんも、最新設備の病院に入れといわれた時は随分嫌がっていた。しかし時代の流れには勝てないので、結局入院したけれど。
『何より、ハントの様子を見るのが今の僕の仕事さ。拘束していないとはいえ、建物の中に三日もこもっていると気も滅入るだろ?特に高校生なんて複雑な時期はね』
つまりは僕が変なことしないかどうか見張っているわけだ。
『さすがに活発でないハントも、欲求不満なんじゃないか?メルト君のことが気になってしまうなんて。あんなに仲が悪そうだったのに。彼女の凹凸の少ない体が気になるなんて!それならトキコ達には秘密で、僕の秘蔵コレクションを……………………。』
「そこら辺に関しては気にするな。ていうか俺がメルトに発情したみたいな言い方をするな!」
あと小さいほうが好きな人に謝れ。
『冗談だよ、まあ君の気持ちもわかるよハント。実際この僕も様々な女性の心を見抜いてきたけれど、メルト君の考えていることはあまりわからないんだ。』
こんな女慣れしてそうなやつにもあいつの考えは分からないというのか。それなら恋愛経験が実質上ない僕にわかるわけがないのではないか。
『彼女は、普通に考えると、君のことが嫌いで、見たくもなくて、早くこの世から消えろと思っているようにも見える。』
心が痛いぞハンサム。ホント男には容赦ないのな。
『しかしそれにしては君に突っかかりすぎている。これは簡単に考えるなら、そう、ツンデレというやつかもしれない。好きだからいじめちゃう、みたいな。』
「あいつにそんな可愛いところがあるとは思えないけど。今となっては。」
それに自分に優しくしてくれる彼女を目標にしていたので、ツンデレの性格は組み込んでいないはず。その属性がどこかで芽生えてしまったというなら話は別だが。
『そうなんだ、ツンデレにしては全くデレない。君に一切の容赦はないし、やりすぎちゃったみたいな雰囲気もゼロ。あれはそんな感じではない。』
「とすると、一体なんなんだ?」
ハンサムは少し考えた後、答えた。
『まあ真相は本人しかやはりわからないが、一番近いものがあるとするなら、そう、すごく厳しいお母さんのような感じではないだろうか?』
「お、お母さん、か…………?」
『そう、自分の息子を叱りまくり、優しさも見せないが、心の中では我が子の成長を祈っており、つらいけれども我が子のためと罰を与える母親さ。どうだろう?』
「うーん………………。」
言いたいことは分かる。メルトは僕の成長を祈って、あえてひどい態度をとっているということだ。まあそんな気はしないでもないけれど。でもやっぱりあたりが強すぎる気がするんだよなあ。
『それも違うというのなら、やはり原因は君の過去の行動にあるんではないだろうか?』
「うーん、どれが悪かったのやら………………やっぱりわかんねえや。」
『考えることを放棄するのは良くないぞ。乙女心も、命を狙われる理由も、しっかり考えてみたまえ』
確かにハンサムの言う通りだ。物事には何らかの原因が絶対あるというものだ。まあ生理的に無理だったとか言われたらどうしようもないが。まさかそんなことは……ないよね?ないよね?
『そろそろ会議が終わる時間かな………………失礼するよ、ハント。まあここ三日敵に動きがないから、もしかしたら家に帰してもらえるかもしれないな。見張りぐらいつくだろうけど。』
「それはあんまりうれしくないな……………。」
そう言いながらハンサムは画面から消えた。
………………心がすっきりしない。結局何も解決していない。
もし仮にここを出られたとして、その後メルトとはどうやっていけばいいのだろうか?
メルトが誕生してから、もう結構日にちがたつ。今まで作ってきたナビ達の中でも最長の記録だ。それは、メルトがこの長い日数を経過しても、機能面にも、精神面にも全く問題が生じていないことが大きな要因である。まあ性格は悪くなったけれど、それだけである。
今までやむをえず廃棄してしまった彼女達の大半は、精神面で異常が生じてしまった。もちろんそれは僕の腕がまだまだ未熟だったからである。
一番目に生まれた彼女は、彼女というより子供のような感じであった。自分で思考し、考えて、なおかつ人間のように感情があるものにするのは、当初の僕には不可能だった。よって初めはロボットのような性格であったが、こちらが色々教えていけばいいなんて考えていた。
しかしそう簡単にはいかなかった。ようやく少しは人間らしくなってきたかと思うと、まず言語を自分で考えて発する機能に不具合が生じ、まともに会話できなくなった。
さらには物事を覚えることの刺激が強すぎて、暴走するようになった。好奇心旺盛になったといえばそうであるが、人が子供の時になんでもやりすぎるように、歯止めが聞かなくなったのである。
また、子供が積み木を崩して喜ぶかのように、とりあえず攻撃してみると面白い反応が起こる、と学んだようで、何でもかんでも壊すようになったのである。
ここまでくると、さすがに当時の僕では修理することは難しかったので、泣く泣く廃棄した。
それから七人目までも、それぞれに違いはあるものの、大体似たような理由で廃棄してきた。
ならメルトはどうするというのか。
メルトは性格こそねじ曲がったものの、暴走することはない。他人に被害が及ぶようなことも(僕以外)しないし、当の僕だって被害にはあっているけれど死に至るようなことにはなっていない。
そもそもメルトは誕生してからかなりの日数が経っている為、成長している。最初は大体僕のいうこときくだけだったのが、今はこのありさまだ。……このありさまなのはいいとして。
メルトは自我が成長して、もう人間と大差ない存在になっているのだ。
そんなメルトを、自分の気に食わないからといって、なかったことにしてもいいのだろうか?それは人殺しと大差ないものになってしまったのではないか?
ならメルトは生かしたまま新しいナビを作るのはどうか、という話にもなるが、それではメルトがあまりにかわいそうではないか。(一応は)僕の世話をしつつさらに彼女になるという使命を背負って生まれてきたというのに、その使命がほかのナビに奪われるのである。彼女の存在理由をすべてなくしてしまうのは、あまりにも残酷だ。
まあそれ以前に、メルトの妨害があるから、新しいナビなんて作れないんですけどね。
いったいどうしたものか。やはり答えはでないまま、うなっているしかなかった。
そしてハンサムがいなくなってからしばらくすると、部屋に織上さんがやって来た。ご飯の時間ではないことから、とうとう釈放の日が来たのかな、と思って起き上がると、そこには険しい顔をした織上さんが立っていた。
「ど、どうしたんですか?そんなに怖い顔をして?」
「ついさっきまであなたを一度家に帰す話しになっていたんですが、事情が変わりました。説明は歩きながらするので、とりあえずついて来てください。」
そう言ってもう歩き始めてしまう。僕は慌てて織上さんの後を追いかけた。
「いったい何があったんですか?」
まさかメルトがなにかやらかしたのだろうか?いやそれとも今回の事件はあいつの独断によるものだったのか!?そうすると、戦闘狂とハッキング野郎なんてどこで知り合いになったんだ、そんな悪い友達とつるむような子じゃなかったのに!いったいどこで育て方を間違えたというの!
「つい先ほど、警察に向けて犯人からメッセージが届きました。」
「え?メッセージ?」
予想が外れていたのはいいとして、なんだメッセージとは。犯行予告のようなものか。
「『今から町でとっても楽しいことが起きる。止められるもんなら止めてみろ、止められないなら死人が出るぞ……』そんな感じです。」
「な………………。」
それは完全な犯行予告。そして新たなるサプライズショーの始まりの合図だった。




