表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/43

chapter 4 紅茶でも、飲みませんか? side:H

胸って素晴らしいと思わないかい?

 

大きさ、すべてを包み込む暖かさ、見ているだけで元気になれるその魅力!もちろん触ったことなんてないけどね!ないけどね!ないけどね!

 

違う、そんな話をしたいわけじゃない。いきなり脱線してしまった。

 

トラウマってありますか?

 

 まあ生きている人間なら、トラウマがない人なんていないんじゃないでしょうか。トラウマって言い方がきつすぎるとしても、ある特定の条件で嫌な思い出が頭の中によみがえることって、誰にでもあると思うんです。

 そんな僕にもトラウマはもちろんあります。それもかなり強力なやつが。ある物体を見るだけで拒絶反応が起きてしまうんです。日常生活に支障をきたすレベルの拒絶反応。そう、かなり重度のトラウマというわけです。

 

 なぜそんなことになってしまったのか?これに関しては完全に自業自得だから、あまり語りたくはない。若さゆえの過ち、といっておこうか。今でも「なんであんなことしたんだろう、あんなことになってしまったんだろう」と思わない日はない。

 

 では何がトラウマのトリガーになっているのか?それはもうお気づきかもしれないが。

 

 胸である。

 

 最初に言っておくが、男の胸じゃない。男の分厚い胸板でも、大きくプルプルしたやつでもない。


 もちろんこの場合の胸は、女性のものである。俗にいう、おっぱい。

 そしてさらに言っておくと、普通のやつではない。でかいやつである。俗に言う、巨乳。

 

 あの男の夢が詰まっているとか言われているやつ。もちろん大きくないのがいい人もいるだろうが、男性の多くが好きであろうでかいやつ。男が馬鹿みたいに追い求めるやつ。かくいう僕も、少し前までは男らしく、大好きだったやつ。

 

 そう、あの胸である。あれが今の僕の最大級のトラウマなのである。

 自分でも悲しい。あの頃は大好きだったのに。別に変態アピールをしたいわけではないが、そりゃもう大好きだったのに。死んでも触りたいものだったのに。もちろん今でも好きなはずなのに。


 体が拒絶してしまうのだ。見るだけで激しい反応が起きる。自分でも嫌になるくらい見たくなくなる。本当に最悪のトラウマなのである。自力では直しようがない。なぜだ、僕の体!なぜ拒絶するんだ!あんな夢のようなものを拒絶するなんて、どうかしてるぜ!カムバック、理性!


 ……………………今更だが、僕は今なぜこんなわけのわからないことをカミングアウトしているんだろう。なんだか急にトラウマのことを思い出してしまったんだ。いったい何故だろう、自分でも意識しないようにしているのに。

 そもそも今僕はどうなっているんだ?眠っているのか?どうなったんだっけ?車に襲われて、でもバンに助けられて、しかし今度は腕時計から声が聞こえてきて、それで急に痛みが走って、それで…………。

 

 そこで意識が覚醒した。自分の体が横になっているのを感じる。しかし背中の感触は痛くないから、どうやら路上で寝たままってわけではないようだ。ありがたい。

 そして周りの状況を確認しようと思って目を開けると…………。

 

 そこにあったのは、胸だった。


「お、お、お、お、お………………?」

 フリーズ。現状が理解できない。いやもちろん胸といってもちゃんと服を着ている人の胸である。カッターシャツを着て、その上からスーツをピシッと着ている、なんともフォーマルな服装。


「あら、目が覚めたようですね。予想よりも早くて助かります。」

 しかし、しかしだ、そんなにちゃんと服を着ているのに、それでも形がちゃんとわかるということは…………。


 こいつ、巨乳!


「お、おおおおお、おおおおおおおおおおおおお!」

 認識した途端に、体に拒絶反応が起き始める。体が震え始める、息が荒くなってくる。何とかしなければ、相手は見たところ初対面の女性、どうやら眠っている僕の顔を覗こうと身を乗り出したところのようだ。

 いやそんなことより、まず声を出すことを止めなければ!こっちとしては切羽詰まってる状況だが、事情を知らない人から見れば人の胸を見て叫び声を上げるただの変態ではないか!違う、俺は変態ではない!断じて違う!


 とりあえず力を振り絞って布団を頭からかぶって反対を向き、あの物体が視界に入らないようにする。無論そんなことでは収まらないが。一度見てしまうとしばらく発作が起きるのだ。それにあれが身近にあると認識しているだけでもかなりのダメージ!クソッ!


「おや、驚かせてしまいましたか、すみません。医師の話ではもうしばらくは目覚めないとのことでしたので様子を見させてもらっていました。お許しください。」


 どうやら僕が目覚めたらいきなり知らない人が目の前にいたことに驚いたように見えたらしい。ナイス誤解(いや普通はそんな風に考えるか)。医師という単語から、どうやら病院にいるらしいということもわかった。倒れた後運ばれたようだ。


「でも好都合です。いつまでも待っているわけにもいかなかったので。早速話を伺っても……凡人さん?凡人さん、聞いてますか?」


 この人、こちらの名前を知っているのか。まあ病室に入ってきてるくらいだから知っていて普通か。でもこちとらそれどころじゃあない。あの巨大な二つの物体が頭から離れない、襲い掛かってくる、襲ってくるううううう!

 

 落ち着け、取り乱すな、仮にも大人の女性の前だぞ、ここはしっかり対応しなければ。

「す…………すみません…………ちゃんと、きいてますよ……。」

「あら、それはよかった。にしてもまだ体調がすぐれないようですが、大丈夫ですか?医師の話では気を失っているだけと聞きましたが、もし体に異常があるなら、誰かを呼んできましょうか?」

「いや…………大丈夫です、大丈夫ですから。」

 

 まあ体には痛みはない。腕時計をまいていた左手には若干の違和感があるけれど。

 それに、医師を呼んだところで大して変わりはないだろう。なんせ今の時代、人間の医師なんて半ば飾りみたいなものだから。


 医学の機械化は、世界がすべてを機械にまかせようと考え始めたその時から進められていた。もちろん他の技術と比べて繊細な分野であり、何より人の命を扱うものだ、着手されたのが最初でも、実現するのはかなり順番が後ろになってしまった。

 それでも人間は全く恐ろしい生き物で、なんと実現してしまったのである。そして実現するとすぐにそれは世界に広まっていき、今では病院で働く生身の人間は、以前よりだいぶ少なくなってしまった。もちろん悪い変化ではない。人間のようにミスはしないし、実際成果は出ている。

 それでも、好きにはなれないんだけどね。


 また脱線してしまった。今はそれどころじゃあないんだ。なんとか会話して、様子がおかしいと思わせないようにしなければ。

「で…………あなたは?」

 とにかく相手がだれかわからないと話しにならない。

「ああ、申し遅れました、私、織上時子おりがみときこと申します。以後お見知りおきを。」

「はあ……近松凡人です。」

「存じております。」

 そうですか。そういやさっき名前言ってたしな。


「で…………織上さんは、僕に何の御用でしょうか?」

「いえ、実はですね…………あの、こちらを向いていただけないでしょうか?目を見てお話したいのですが。」

 無茶いわないでください、と言おうとしたが、さすがに背中を向けたまま話をするのは失礼だと思い、布団で視界を遮り、顔だけが見えるようにして、織上さんの顔を見る。


 ショートカットで黒色の髪、シルバーのフレームの眼鏡と、いかにもできるオンナって感じの人だ。男性が憧れる奴だな。おまけに胸まで大きいときてる、なかなか完璧じゃないだろうか?僕は完全にお断りなんですがね。胸のせいで。


「ありがとうございます…………職業柄、顔を見て話すことになれてしまっているので。すみません。」

「いえいえ、こちらこそ失礼しました。」

 顔を布団で覆っていることには突っ込まないようだ。きっといい人だ。

「あの…………とりあえず、僕が病院のベッドに横たわっている理由をきいてもいいですか?」

「ああ、それなら簡単です。路上で突然倒れてしまったあなたを、ご友人が担いで病院まで連れてきて、受付で『なんとかしろ、なんとかしないと俺がこの病院をどうにもならなくするぞ』と怒鳴り散らしたので、急いで検査、しかし気を失っているだけと判断されたので、安静にしておいた、ということです。」

「はあ………………そうですか。」

 頭が痛い。どんな感じだったのかは大体予想できる。なんで救急車とかじゃないんだ、バン!


「まあお友達の素行はともかく、病院に担いできたのは正解だったかもしれませんね。」

「?というと?」

 

 大人の女性がそんなことを言うとは。なにかあったのか?

「お友達の話によると、あなたは車に襲われたんですよね?」

「ええ、無人のやつに。」

「その無人の車に襲われたのは、あなただけではないんですよ。」

「え!?」


 謎の暴走車に襲われたのは、自分だけではない。ということは…………。

「そう、町のあちこちで、無人の車が暴走。大勢が被害にあっています。」

「そんな…………あんな恐ろしいことが、町中で?」

 そうそう起こることではない。先に述べたように、車のハッキングは非常に難しく、さらにそれを動かそうとなると、かなりの技術が必要になる。それを町のいたるところで?おかしすぎる。

「そう、どう考えても普通ではない。そこで我々が犯人探しに駆り出されたわけです。そしてあなたという存在にたどり着いた。」

「え…………僕ですか?」


 考えてみるとおかしい。それだけ被害が出たならば、被害者も大勢いるはず。そんな中で僕に、しかも目覚めるまでまって話を聞こうとするのは、なんとも変だ。

 

 それに、『駆り出された』…………?

「我々があなたに話を聞こうと思った理由。一つは、車に襲われた人はたくさんいますが、車に襲われた後、さらに何らかの攻撃を受けた人物は、あなただけ、ということです。」

 車に襲われた後?おそらく腕時計からの攻撃のことを言っているのだろう。


「あなたは腕時計から発せられた電気のショックで気絶した。そうですよね?」

「…………まあ、たぶんそうです。それぐらいしか考えられません。」

 事実、最悪の目覚めを毎朝迎える僕は、授業中でもねむることが多い。しかしそれでは成績が危険になる。そこで開発したのが、体の状態を把握して、寝てしまっている時は程よいショックで起こしてくれるという、無音目覚まし機能だった。まあそれを管理してくれるナビが大体不在だから、最近つかってなかったけどね。


「危険な改造は良いことではありません…………まあ今回はその件についてはふれないことにしましょう。」

「あの、話の腰を折るようで悪いですが、織上さんの仕事って…………。」

 

 どうしても気になってしまったので聞こうと思った、その時…………。

「むにゃ…………時子…………どうしたの……さっきから、うるさいわよ……。」

 

 別の声が聞こえてきた。誰だ、と思って部屋を見回すと(胸を見ないように)、部屋の隅で、椅子を並べた上に寝転んでいる人を見つけた。

「ああ、桃田さん、すみません、おこしてしまいましたか。」

 どうやら織上さんの知り合いのようだ。桃田と呼ばれた人物は、あくびをしながらゆっくり起き上がり、眠たそうにしながらこちらにむかって歩いてきた。


「何?やっと目が覚めたの?いつまで寝てんのよ、このボンクラ。」

 初対面の人にボンクラといわれるとは。いやそれ以前にアンタも今まで寝てたんでしょ、と思ったがいわない。


それにしてもこの人物、背がかなり小さい。織上さんの半分ぐらいしかない。ピンク色の髪の毛、頭にはよく探偵が被っている帽子。もしかして…………。

「織上さんの子供ですか?」

 そんなことを言うと、ぶちっ、という音が聞こえてきた(気がする)。

「ななな、なんですって!私が、子供!?ふざけんじゃないわよ、私は大人のレディよ!失礼しちゃうわ。このボンクラ!あんたの目は飾りか!脳みその代わりにカニみそ詰まってんのか!」


 ボロクソに言われてしまった。

「時子!こいつ、ボコボコにしちゃって!」

「了解しました。」

「ええ!了解しないでください!」

 なんだ、時子さんノリがいいのか、それともこのちびっ子に頭が上がらないのか?あんまりいい人ではないのかもしれない。


「今こいつ、私のことちびっ子だと思ったわ。射殺しなさい!」

「了解しました。」

「待って!ちょっと待って!理不尽すぎる!」

 心の中を簡単に読まないでください。命がいくつあってもたりない。

 

 それでも子の外見は、ちょっとなあ…………と思って、探偵っぽいコートを羽織っている体に目を移すと………………。

 

 そこにあったのは、巨乳だった。

「あ、あ、あ、あ、……………………………………。」

「あら、やっと気が付いた?そう、確かに身長に恵まれなかった私だけれど、その栄養はすべて!完璧なスタイルのために使われたのよ!」

「あ、あ、あ………………………………あああああああああああああああああああ!」

 完全に油断していたところに大ダメージ。何なんだコイツハ。バカだろ、なんでそんなところだけでかくなってんだよ!頭おかしいだろ!せっかく落ち着いて来てたのに、これじゃ意味がないじゃないか!ふざけんなよ!


「ふ…………感動しすぎて叫んでしまっているようね。でも気を付きなさい?私は心が広いからいいけど、普通に通報されこともあるわよ?人の胸を見て感動のあまり叫ぶのは。叫ぶのはやめなさい。」

 全くそれどころではないんだが。意識が飛びそうなんだが。呼吸困難で死にそうなんだが。

 

 そんな僕の様子を見て、織上さんがまた話始めた。

「どうやら大分お元気そうなので、場所を移しましょうか。」

 どこをみたら元気そうに見えるんだコイツは。口から泡を吹きだしかけているんだぞこっちは。

「病院で大きな声を出すのも良くないですし、何より込み入った話しになるので、セキュリティが万全のところの方が安全でしょう。」


 織上さんが立ち上がる。どうやらついて来いということらしい。こっちは目覚めたばかりなのに。どうやら急用のようだ。

 でも僕なんかに一体何の話を聞くつもりだ?


「ずいぶん興奮されているようですし、紅茶でも飲みながら、ゆっくり話しましょう。」

「ちょっと時子、あれ、忘れてるわよ。」

 興奮してねえよ、恐怖してんだよ。いやそんなことより、この人たちの職業って……。

「そうでした、忘れるところでした。すみません、しばらくの間、我慢してください。」

 そんなことを考えているうちに、織上さんがこちらに近づいて来て、そして…………。


 ガシャン。


「へ?」


 思わず間抜けな声が出てしまった。何事か、と音のした方を見てみると…………


 そこにあったのは、どうみても、どう見ても…………。

 手錠だった。


「はい、一名様、ごあんな~~い!」

 ピンク髪が憎たらしい表情でこちらを見ている………………。


 恐るべし、巨乳、恐るべし。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ