四面楚歌 中編
3人が会議室に集う。
「して、何故メイリーズ嬢がいるのですか?」
胸をチラ見しながらフィリップが言う。
「義兄上、メイリーズは留守が多い私に代わって政治案件を一手に引き受けているのです。公国と王国に関係する話には彼女の知恵が必要です」
俺が説明する。
実際は2対1の状況を作るためだ。
「両国の調整をするのでしたら、私の力はきっとお役に立ちますわ」
メイリーズが体を乗り出して言う。
ポヨンっと凶器がテーブルの上で跳ねる。
「そうですか。なら仕方ありません」
フィリップが折れた。
彼は王国貴族のプライドのみでギリギリ会議に参加している。本来なら寝不足と過度のストレスでそのままベッドに直行している。
倒れない限界を見極め誘導したメイリーズの作戦勝ちだ。
「義兄上はなんのために来たのですか?」
「当然、君を迎えに来たのさ」
「王国へ帰る理由がありません」
帰るしか無いが、それを言う必要は無い。
大幅な譲歩を引き出させる。
「何を言う! 君はフリージア子爵家の次男だぞ! そんな勝手が許されるとでも思っているのか!?」
「ならば、何故ディーン様はまだ生きているのです?」
「何を言っている?」
「私を暗殺しようとしたディー」
「やめろ!」
フィリップは俺の発言を遮ろうと叫ぶ。
「だ・ま・れ」
俺はフィリップを殺す気で威圧を放つ。
常人なら死ぬが、フィリップは腐っても貴族。
まだギリギリ気絶していない。
「ディーン・エルトールの暗殺未遂は私の誇りに掛けて真実だ」
俺が宣言する。
もはや一切の後戻りは不可能。
「……」
フィリップは冷や汗をかくも反論出来ない。
俺の威圧の中で反論出来る存在なんて魔王くらいだ。
「何故、フリージア子爵家はエルトール侯爵家に弓を引いていない?」
「……証拠が無い」
フィリップが辛うじて言う。
「疑惑があれば十分だ」
貴族とは面子が全て。
例えあの豚が無実でも、誰かを血祭りに上げないといけない。
なんのために無駄に寄り子の子爵や男爵が多いのか。
代理で責任を取らせるためだ。
現在まで誰一人として責任を取っていない。
「フィリップ、俺が貴様を斬らぬ内に王国へ帰れ」
俺自身、びっくりする程冷酷な発言が飛び出した。
そして理解した。
ライ・フリージアも俺の一部なのだと。
転移した時はライ・フリージアの体と記憶を引き継いだと思った。豚への復讐を約束した時に真に一つになったと信じた。
俺はライの想いも継承していた。
ライの家族愛と愛国心。
家族はフリージア子爵家の人々。愛国心はフリージア子爵領そのもの。幸い、寄り親の侯爵領や王国は範囲外だ。
愛故に責任から逃げた家族の事が許せない。
愛故に逃げた家族の責任が災禍としてフリージアの領民に降りかかる事が許せない。
愛故に斬る!
俺が剣に手を掛けると同時に、メイリーズの手が俺を抑えた。
「もう十分ですわ、ライ様」
「メイリーズ……」
威圧も自然と止まった。
『宿主様、落ち着きなさいよ』
レイラにまで叱責されたか。
「さてフィリップ様、どうされます?」
メイリーズが問う。
「どう、とは?」
「ライ様の味方として、ディーン・エルトールを処断するか」
「……」
フィリップは何も言わない。
「ライ様がカッタルイ公国軍とともに王国に宣戦布告するのを見守るか」
「な、何を言っている!?」
フィリップが驚く。
「クローディア様との結婚の条件の一つです。公国は持てる力の全てでディーン・エルトールの抹殺を支援します。公国はついでに領土拡大を企むでしょうが、ライ様には関係無いです」
ハッタリだ。
だが、俺が結婚の条件として提示すれば、ほぼ確実に通る。
大事なのはディーン個人が狙いだという事。
王国はディーンを切り捨てる。一個人のために戦争はしない。
ディーンがエルトール侯爵になっていれば、国を挙げて守るかもしれない。その前に動く。その前に殺す。
最低でも2国を巻き込んだ壮大な兄妹喧嘩だ。
片や勇者。片や魔王の手先。
暴れるだけの黒龍よりはスケールが大きい戦争になるだろう。
「義兄上。俺はしょせん貧乏子爵の次男だ。家から放逐すれば良い」
少なくても侯爵家と戦う理由は無くなる。
後はまだ幼い義弟に家督を譲れば侯爵が上手く支援してくれるだろう。
俺を子爵家の一員としたまま、侯爵と戦わない選択だけは認められない。
「今はそうだ。だがおまえはディーン様の双子の弟! ディーン様に何かあればエルトール侯爵家を継ぐ身だ!」
「知っている」
「ならば!」
「俺とディーンの争いは侯爵家の継承争いだ。俺が王国に帰るのなら、もはや引けない。学園が始まる前にあの豚は斬る!」
フィリップは椅子に項垂れる。
俺もディーンも引く事は無い。
俺が公国で余生を過ごす、とフィリップが思い込めば、侯爵領での内乱は発生しない。子爵家も巻き込まれない。家族の事を考えると、それが一番だ。
ライ・フリージアもきっとそれで満足した。あえて背水の陣を敷いたのも、なあなあで帰って、不意打ち気味にディーンと戦端を開きたく無かったからだ。そうなったら家族が多大な迷惑を被った。
「私の負けだ」
「義兄上」
「これからはライ・エルトール様を唯一の主君として忠誠を誓おう」
その答えは俺の予想を遥かに超えていた。




