コボルト
次の日は荷物を空間収納で仕舞い、軽装で動けた。近寄る敵に苦戦する事も無く、平穏に進む事が出来た。
「もはや、敵無しだ。しかし、レベルが上がらない」
俺は失念していた。雑魚相手にいくら無双しても、レベルは上がらない。そもそもレベルと言う概念は勇者専用なので、ライの記憶もあてにならない。なら何故レベルは99まで上がるのか?
次の日、面白いものに出くわした。
「ゴブリンとコボルトの集団戦か。観戦するか。《スキル解析》の出番だ」
これまでの少ない経験でモンスターのスキルは基本的に解析出来ない。しかし、人型モンスターのみある程度解析出来そうだ。今の所、唯一手に入った《斧術》はライが基礎教養の一つとしてある程度かじっていたからだ。敵に《槍術》か《弓術》持ちがいれば、狙い目だろう。
ゴブリンとコボルトは双方陣形を組んで、集団戦を開始する。前衛同士がぶつかり合う中、後衛同士が弓矢と魔法の応酬を開始する。回復魔法を使えるモンスターはいないみたいだ。回復魔法は《光魔法》スキルに分類されているので、モンスターなら使えても不思議では無い。
ほぼ同数で開戦したが、徐々にコボルト優勢になってきた。スキルの割合はコボルト3:ゴブリン2みたいだ。槍を持ったコボルトがゴブリンのリーダー格を貫き、それで趨勢が決した。相手がゴブリンの敗残兵を処理している間に、攻める。
「ライトボール!」
光の玉をコボルトの後衛にぶつける。突然の乱入者に驚くかと思ったが、コボルトは取り乱さなかった。コボルトは嗅覚が鋭い。俺が隠れていたのを知っていたか。頭の中で相手の脅威度を1ランク上げておく。前衛4、後衛3だから、殺しきれるはず。
俺のライトボールと相手の土属性のロックスピアの打ち合いが始まる。魔法の発射速度は勝っているが、相手の方が手数が多い。コボルトの前衛がゴブリンを始末して参戦したら一気に不利になる。
多少無理をして、後衛の一人を倒す。想定よりMP消費が激しい。このまま魔法戦で勝つのは無理か?
犠牲が出たことで、前衛の4人が攻めてくる。魔法戦の射線軸に無理矢理誘導して、一人倒す。もう一人は味方のロックスピアで腹を討ち抜かれた隙に俺が頭をライトボールで吹き飛ばした。残るは前衛2、後衛2。
ゴブリン戦を勝利に導いた槍持ちコボルトが捨て身の特攻をする。俺はギリギリ交わす。その時、腕に激痛が走る。
「痛ぇ!」
コボルトのロックスピアが俺の右腕に当たり、その衝撃で腕が切断された。肉体が強化されていなければ、激痛で気を失っていた。コボルトは俺が右手で剣を持っているのを見て、そこを狙った。
「くそっ!」
俺は悪態を付きながら、俺に纏わり付いている槍コボルトの顔を左手で掴み、零距離ライトボールで吹き飛ばす。血と肉が飛び散り、相手の視界を塞ぐカーテンとなる。左手を残っている右腕にあて、回復魔法で無理矢理止血する。これで出血多量で死ぬ事は無いはず。
流れは完全にこっちに来た。しかし、コボルトの1人が魔力を込めだした。恐らく全力でロックスピアを放つのだろう。そんな事はさせない!
しかし、残り2人が身を盾にして俺を阻む。
「邪魔だ!」
叫んだ所で引いてはくれない。相手の思惑通りだが、最初にこの2人を処理する。最後のコボルトがヒィヒィ言いながら、強固なロックスピアを放つ。俺のライトボールを幾らぶつけても相殺は無理だ。
「ロックウォール!」
俺は意を決して、《スキル解析》で手に入った《土魔法》を使う。大地の壁が俺の目の前に出来る。同じ土属性なら相殺出来るはず!
ドゴォォン! グサッ!
壁はロックスピアを減速させ、狙いを逸らした。しかし、威力が強い分だけ壁を貫通して俺の脇腹に深く刺さった。
「グハァッ!」
盛大に血を吐きながら、俺はロックスピアを無理矢理引き釣り出す。矢みたいな返しがあったら、確実に死んでいた。残り少ないMPで止血をし、コボルトを睨む。彼もMPが枯渇したのか、動けない。
俺が確実に撃てるのは2発。遠距離からの攻撃では仕留めきれない。俺はコボルト目掛けて走った。
コボルトが臨戦態勢を取るが、しょせんは後衛。前衛の俺の敵では無い。俺は全力でボディーブローを食らわせ、ライトボールで内臓を吹き飛ばした。
「勝った! 勝ったぞ!」
俺は雄叫びを上げた。想定外の大苦戦だが、俺は勝った。俺は生き残った。
俺は落ちている右腕を拾って、《光魔法》で無理矢理くっつける。多少違和感が残ったが、指が動く程度には回復した。
激戦の疲労、更にHPとMPが0に近い事もあり、意識が朦朧とした。だが、ここで倒れれば、血の臭いを嗅ぎ付けた魔物の餌になる。ズタボロの体に渇を入れ、《空間魔法》で仕舞った回復薬を飲む。子爵家が窮地に陥った時の保険として買った上等な回復薬だ。ステータスを見る限り、HPは回復した。
離脱したい。しかし、体が持たない。
俺は《土魔法》でL字の入り口があるかまくらを作り、土製の鉄格子で入り口を固めた。これで何かが来ても、多少時間が稼げる。MPが枯渇した事もあり、俺はそのまま意識を手放した。