ゲラルド戦 後編
俺達4人と追随した騎士4人は後数秒でゲラルドに接敵する。
「ご主人様、公女様はまだ無事です!」
俺のすぐ後ろを走っているサリスが皆に聞こえるように言う。
間に合ったか!
100対150だから持ち応えると期待していた。
今は12対80か?
将軍と思しき騎士が片膝をついている。騎士数名がどう動けば良いのか迷っている。
後ろに幼い公女が毅然と立っている。
公女の周りにはメイドが慣れない短剣を取り出して構えている。
顔は見えないが190センチで体中に刺青をしているのがゲラルドだろう。
「ロックスピア! 打ち漏らしは任せた!」
俺はロックスピアを全力で放つ。公国軍を巻き込まない射線を確保出来た最大数の50発を打ち込む。
ロックスピアの着弾と俺がそれを追い越すのはほぼ同時。ゲラルドに真っ直ぐ突撃する際に近くにいる10人ほどを斬り捨てる。
俺は本能的にアダマンタイトの剣を取り出す。山賊相手には過ぎた武器だ。だがゲラルドは明らかに異常だ。
ガキィィィン!
ゲラルドの大剣と俺の剣がぶつかる。
馬鹿な! 俺の腕力で押し切れないだと!?
驚愕しながらもバックステップで距離を空ける。あのまま鍔迫り合いをしていたら、俺の剣が先に折れていた。
「雑魚とは違うじゃねぇか!」
ゲラルドが涎を垂らして叫ぶ。
「そっちこそ、山賊の腕では無いな」
返事をしながら状況を確認する。
どうやら、ゲラルドを除いて山賊は倒せたみたいだ。
俺の後ろに7人が集結する。
「クローディア様、今助けます!」
「残るは貴様一人!」
騎士が勇ましく言う。ただ、この二人ではゲラルドには勝てない。
「雑魚が何人いようが俺様の敵じゃねぇ!」
ゲラルドが大きく振りかぶって剣を大地に打ち付ける。
「散開!」
俺が言うか早いか、大地が抉れながら俺に迫った。
俺は左に一歩動いて回避した。
大地が100メートルほど抉られた。
騎士の4人が唖然としている。戦意はほぼ喪失。
ポルルは俄然やる気になった。ニコルは恐怖で震えている。
「精霊が……」
それだけ言ってサリスが沈黙する。十分だ。なんとなく分かった。
「ひゃあ! 見たか!」
「ゲラルドは俺がやる。全員下がれ」
俺がそう言って一歩前に出る。
ゲラルドを殺せるのは俺だけだ。
「すぐ忘れるが名前くらい聞いてやるぜぇ」
「ライ。《ドラゴンスレイヤー》のライだ」
家名は名乗らないが称号は名乗る。称号は言霊であり、周りの人間は何となく称号が本物か理解出来る。
騎士の中から感嘆の声が上がる。
クローディアとメイド達が頬を赤らめる。
《ドラゴンスレイヤー》。それは《勇者》を除いた人類最強の称号。数多の冒険譚で主人公がドラゴンを倒し得る称号。そして助けた姫と幸せに暮らす。今の俺はまさしく、吟遊詩人が歌う英雄そのもの。
目立つ事は既に避けられない。なら全力で目立つ。
世界よ、活目せよ!
英雄はここにいるぞ!
「竜殺しかぁ! 殺すに不足無しぃ」
ゲラルドが強力な一撃を放つ。俺は剣で受ける。
数合打ち合う。
剣風で周りに被害が出る。幸い、クローディア達は範囲外に退避している。
純粋な《剣術》では俺の勝ちだ。
俺の《剣術 7》に対してゲラルドは《剣術 4》。ゲラルドの《剣術》はそこらの騎士より高いが、本来なら俺と打ち合えるはずは無い。だが、実際は互角か俺が少し不利だ。
ゲラルドの動きが《剣術 6》と俺より高い基礎ステータスの合わせ技なら理解出来る。ゲラルドの筋肉や体の動きから見て、それはありえない。
ポルルより弱いはずだ! 何がこいつをここまで強くする?
「どうしたぁ!? 手も足も出ねぇのかぁ!」
ゲラルドが涎を垂らしながら叫ぶ。
「黒幕の正体が気になっていただけだ」
時間稼ぎと情報収集を狙って言う。
俺とサリスの仮説。そしてゲラルドの姿を見る限り、そろそろか?
「それはぁ、おぅれだぁ!」
滑舌がいよいよ怪しくなってきた。
「それは無い」
こいつはもう長くない。
クローディアを殺しても、襲撃の反動で死ぬ。
誘拐した所で、それは変わらない。
ゲラルドは捨て駒だ。
黒幕の最終目標は不明。
公国の権威失墜の先にあるものだ。
公国を滅ぼす事か?
それとも何か違う結末を描いているのか?
……今はゲラルドに集中するか。
「ぬぁにぃ」
「今回の襲撃は念入りに準備されたものだ。それもより大きな作戦の一部でしか無い。貴様の頭ではこんな作戦指揮する処か考える事すら出来ん!」
「ほぉぉざぁけぇ!」
ゲラルドの大振りをかわす。
「貴様の剣、もはや打ち合う価値も無い!」
「うがぁぁぁ!」
声にならない怒号で俺を容赦無く攻める。しかし、掠りもしない。
《剣術》は俺の方が上。剣筋を見切るなど朝飯前だ。
アダマンタイトの剣が砕けそうだから回避優先と言う訳では無い。
それに、ゲラルドは既に限界だ。
「その刺青、誰が与えた?」
「てんめぇにぁ、がんげぃ……ねぇ……」
ゲラルドは肩で息をしている。
大剣を持ち上げる事すら出来ない。
「《闇魔法》の呪いで超人化の反動が来た様だな」
サリスの言葉が答えだった。
精霊を燃料に超人的な力を発揮する。
サリスが残った精霊を遠ざけた。
遠ざけないでも、精霊はほとんど残っていなかった。
精霊がいなくなれば個人の生命力で代用する。
簡単に言えば、ゲラルドはガス欠だ。
「あぁぁん?」
頭の方も逝かれたか。
俺はゲラルドに接近し、一気に首を刎ねた。
死んだか? 首を落としたんだ。死ぬはずだ。
少し待つ。
どうやら死んだみたいだ。
刺青も霧散した。
解析対策か!
黒幕は用意周到だ。
しかし、黒幕がいると俺と公国にばれた時点で2流だ。
俺の敵では無い。
呆気に取られる皆を見渡し、俺は声高らかに宣言する。
「クローディア様の勝利だ! 勝ち鬨を上げろ!」
一瞬の沈黙、そして大歓声。
後片付けが遅れるが、まあ仕方が無いか。




