面倒な依頼 前編
観光案内所に付いたらベリアが相変わらず空いた受付で待ち構えていた。なんとも用意が良い事だ。
「いらっしゃいませ、ライ様。何か情報がご入用ですか?」
あの路上演劇の事を問い詰めたいが、問い詰めたら負けな気がする。あれは他人なんだ。他人。
「実は欲しい情報がある」
「どの様な情報でしょうか?」
「この辺りで殺して良いワイバーン以上のモンスターの分布図。それと、南方観光に行きたいのでお勧めの場所などあるか」
ベリアの目が細まる。
「その件でしたら個室で話しましょう。モンスターについては広言出来ないものもありますので」
「分かった」
ここで話せないのは南方の件だろうと思うが、相手の話に合わせる。
別室に移ると、ベリアが一枚の地図を持って来た。地球の地図並に精巧だ。この世界の技術では作れないと思える程のものだ。
「本来は近寄ってはいけない場所を示す地図です。ライ様は逆の目的で使うみたいですが、くれぐれも注意してください」
俺は必至に地形を覚えようとする。
「この地図は差し上げます」
「なんだと!?」
驚いた。
地図は戦略上の機密だ。これ程精密な地図を他国人に渡して大丈夫なのか。
「小国ですので、他国が地形を知り尽くしても、こちらの目が常に光っています」
ベリアが自身満々に言う。
なるほど。進軍ルートが少ないなら、そこを重点的に守れば良いのか。ノーガードと見せかけて殺し間に誘導するスタイルだ。
それにこの地図が完璧に正しいかは俺には分からない。個人が参考にして動き回るのに適していても、数千人規模の軍隊が参考にすると途端に想定外の問題が発生する罠が潜んでいるかもしれない。水源が細くて千人規模だとすぐ枯れるとか。
「いかが致しました?」
ベリアが熟考している俺に話し掛ける。
「王国にもこれほど精巧な地図は無い、と思っていただけだ」
そうか! 公国は王国の精密な地図を持っている。攻めて来たらその地図を使う、と無言の脅迫をしているのか。間違って王国の地図が帝国に渡れば一大事だ。
「ありがとうございます。観光案内の皆が頑張ったのです」
「そうか」
「それと、南西のハーピーの巣を討伐する予定はありますでしょうか?」
「ハーピー? ただの五月蝿い鳥だろう?」
ウィンドシェイバー一発で落とせる。
「はい。ですが数百羽が巨大な縄張りを形成しています。本来は討伐したいのですが、公国軍が侵攻に使えるルートがありません」
「自然の要害となって、他国の進入を防いでいるなら、手を出さない方が良いのか?」
「いえ、出来れば討伐して頂ければ幸いです」
「近くに寄れば、討伐しよう」
「本当ですか! それなら依頼と言う形にします」
「依頼? 別に報酬に困っているわけでは無いが」
「ですが、新市街で屋敷を購入なされ、貴族付き合いもそろそろ始まるのでは?」
観光案内をする受付嬢の仕事の範疇では無い。
このハーピーの一件、討伐以上に何かあるのか?
「余り付き合うつもりは無い」
「なるほど。されど公国の爵位を固辞されるのなら、それ相応の後ろ盾が必要になります」
ベリアの雰囲気が変わる。どうやら依頼を受けるまで帰さないつもりか。
「このハーピーの一件でそれが手に入ると?」
「それはライ様次第です」
ちっ、面倒な。
「そうか。……まあ良い。貴様の姦計にのってやろう」
さて、誰がどう動く。
「姦計など誤解です。私はただの受付嬢です。明日の朝7時に屋敷の方に迎えの馬車が向かいます」
どの口がほざくか!
ベリアが無駄にデカイ乳を左右に振り回しながら言う。
中の詰め物が飛び出てこないか内心心配した。
迎えが来るなら情報部か? それとも公族か? やれやれ大事だ。
「それで南方はどうなっている」
「そうですね。混乱中です」
「それはいつもだろう?」
「ですが、いつもより悪いです」
ベリアが30分ほど掛けて、長々と説明してくれた。ポルルの父が率いる一族が雇っていた土豪に反旗を翻したらしい。情報部がポルルの一件を使って誘導したみたいだ。そんな事をするなら、俺にポルルと言うカードを握らせるな!
ここまで本来言わない内情をさらしたのなら、ポルル関係で公国から何か動きがあるのは明白。
「南方行きは当分延期だな」
「それが良いでしょう」
公国の思惑通りに誘導されているのは気に食わない。今は出来る事が無い。敵対するなら簡単に滅ぼせるが、それは選択してはいけない未来だ。
「世話になった。ハーピーは分からんが、数日中に狩りに出る。何かあれば帰ってから頼む」
「畏まりました。ご武運を」
ベリアに見送られ、俺は退出した。
外に出て溜息をつく。
情報戦においては2連敗か。やはり俺直属の隠密部隊が必要か? しかし公国で作ろうとすれば情報部とかち合う。王国に帰ってからの方が安全か。
明日の厄介事に備えて、俺は屋敷に帰った。




