山賊
40対1か。ライなら負けていた。しかし俺はライでは無い。敵の顔を確認する。中心にいる男の顔は覚えている。馬車襲撃の指揮官だ。彼がボスで間違いなさそうだ。余り賢そうでは無い。参謀役は不在か。別行動か、最初からいないのか。期待出来ないが、情報収集を試みるとしよう。
「何処の山賊だ? 俺をフリージア子爵家の次男と知っての襲撃か?」
俺は山賊に声を掛けてみる。山賊は王国統治の必要悪として、ある程度目溢しされている。人が住まない僻地で魔物や敵国のスパイの監視には役に立つ。貴族を襲う場合は殺さず身代金を要求する決まりになっている。今回の様に全力で殺しに掛かる事は無い。貴族が本気で報復に出れば、山賊団に未来は無いのだから。
「殺れ!」
ボスが俺を無視して号令を掛ける。槍を持った山賊が3人突っ込んでくる。他の山賊にも動揺が見られない。全員俺の正体を知っての襲撃か。
突っ込んでくる3人の槍を剣で切り捨て、そのまま3人の命を奪う。ドワーフの名工が鍛えたアダマンタイト製のショートソードの前には、木製の槍や人体は抵抗無く両断出来る。この剣は成人祝いに父上から貰った。子爵家の懐事情では到底買えない業物だから、侯爵が用意したのだろう。これをライに与えるとは、侯爵の複雑な心情が手に取るように分かる。
「ビビるな! 次行け!」
ボスが叫ぶ。俺が予想以上の手練で冷静さを失っている。今度は6人。槍4剣2の集団。戦力の逐次投入は愚作と言うが、戦力の過剰投入もまた愚作。剣を持つ二人が攻撃の間合いに入れず、遊兵になっている。特に語る事も無く、6人は絶命した。
9人死んで腕に自信が無いやつが震えだした。弓を持った後衛が8人いるから、前衛は残り23人。10人斬れば壊走するだろう。しかし、俺は生存者を残す気は無い。逃げる前になんとか全員仕留めたい。
「どうした? この程度か? 首謀者の名を吐くなら見逃してやる」
「うるせぇ! 全員突撃だ!」
ボスが俺の言葉をかき消すように怒鳴る。全員で攻めれば弱気の虫に取り付かれた山賊も前に出ると考えたのだろう。結果的にそうなったが、20人が一気に詰め寄ったために渋滞になった。槍は突く事しか出来ず、槍と槍の間に挟まった剣や斧持ちは俺の斬撃を回避出来ずに真っ二つになる。リーチを生かせない槍持ちは敵にすらならない。
ボスと取り巻き二人が残った。後衛の8人は既に数歩下がって、いつでも逃げる準備をしている。残念だが、逃がしはしない。
「どうする?」
「俺の作戦通りだぜ! あれだけの数を倒せば体が限界だろう? それに数が減れば一人あたりの分け前が増える! ありったけの矢を射掛けろ! 俺が止めを刺す!」
言い訳が必至すぎて泣ける。余りの事に、一瞬「強すぎてごめんなさい」と言いかけた。矢が数発飛んできたが、適当に叩き落した。それにあわせて取り巻き二人が突っ込んできた。俺が剣を二回振って殺した。この程度の敵だともはや脅威にすらならない。
最後にボスが奇声を発っして斧を大振りした。俺は斧の軌道を読み、最短距離でかわし、カウンターでボスの首を落とした。あのスィングは凄かった。ボスをはるだけの事はある。俺が《斧術》を手に入れたから、ボスも同じスキルを持っていたのだろう。
弓使いは半分が逃げだし、半分が震えながら矢をつがえている。逃げるやつ、抵抗するやつ双方とも瞬殺した。これだけ矢の軌道を見たのに《弓術》は手に入らなかった。敵にスキル持ちがいなかった、と思っておく。《弓術》があれば山賊などやっていないから、ある意味当然かもしれない。