商会巡り 前編
風呂から出て、俺は貴族が外出に使う洋服に着替える。略式なら陛下との謁見にも使える本格的なものだ。伸びきった髪を整え、見た目だけはどこぞの貴公子風になった。
ニコルのやつはさぞ驚くだろう。
風呂屋を出ると、ニコルが待っていた。
「待たせたか?」
「えっ?」
「私だ、ライだ」
貴族がどこぞのお姫様にする大げさなお辞儀をする。
「ラ、リャイ様?」
余りの事に呂律が回っていない。浮浪者風の男が風呂に入ったら、貴族風の美青年が出て来たのだ。全て、予想通り。
周りも俺に注目しだしている。白髪赤眼は珍しいが、その上に貴族となれば全世界でも一人か二人だろう。
「さて、次の場所に向かいましょう」
そう言って笑顔で手を差し伸べる。
「は、はい」
雰囲気に圧されたニコルは俺の手を取る。
この手。ニコルは本当に女か。
荒事の経験は少ないが、多少の修羅場は潜っている。俺のガイドに選ばれた事を含め、見た目通りの子では無い。
「や、宿屋でしょうか?」
「そうだな、最初は公国を代表する大きな商会の場所が知りたい」
ニコルの案内で俺は商会巡りを開始する。モンスターの死体を売りたいと伝えると、4つ候補を出してくれた。
最初の冒険者ギルドはもっとも買い取り金額が安いので却下した。真っ当な商会に売れない人や事情有りのモンスターを黙って買い取ってくれるのがメリットだ。俺に取っては何のメリットも無い。
「ここか?」
「はい。モンスター買い取り専門の老舗です。創業はなんと200年前なんです!」
こじんまりとした門構えの店だ。中に入ってみると古いが掃除は行き届いている。ただ、顧客が少ない。
「いらっしゃいませ。ここはモンスター買い取りの専門店でございます」
「ゴブリン系とウルフ系の死体を売りたい」
「そうですか! では奥の部屋にどうぞ」
「ニコルも来るか?」
「いいの?」
「構わん」
ニコルが興味深そうに見ていたので、誘ってみた。
奥の部屋は大きかった。端の方にカウンターがあり、店員1名、作業員2名、護衛2名がいた。何せモンスターの死体を扱うのだ。安全を期すために護衛は必要だ。
「では、確認しますので、部屋の中央にお願いします」
俺がアイテムボックスに相当するものを持っていると確信した店員が支持を出す。この服装で尚且つ荷物がなければ当然だ。
俺は指輪を操作するフリをして、ゴブリン3体、ウルフ4体、ウルフの毛皮2枚、オーク1体を出した。ゴブリンとウルフはまだたくさんあるが、ここでは出さない。
ニコルが声を失った呆然と立ち尽くす。オークなんて滅多にお目にかかれないモンスターだ。それを一人で倒せる者なんてそう多くは無い。
店員が素早く鑑定を開始する。流石はプロ。手際が良い。作業員も動作が洗練されている。専門店の名は伊達では無い。
「買い取り金額10G200Sになります。いかが致します?」
安いな。
一見だからか? それとも専門店だからか?
俺は了承した。
「ありがとうございます」
俺は次の店に向かった。
今回手に入れたSは主に平民が使う。1,000Sで1Gになる。俺はもっぱらGしか使わないのでSは邪魔でしか無い。露店で買い食いするには役に立つかもしれない。
「さて、次の店は新進気鋭の総合店です。モンスター、武器防具、魔法道具の売買で一気に公国を代表する商会になりました」
門構えは派手の一言に尽きる。呼び込みをしている店員も声は大きいが、詫び錆びの心を理解していない。
店内はごった返していた。安売りが目玉のスーパーにでも迷い込んだのか、と一瞬錯覚した。
俺がフリーズしている間にニコルが店員を引っ張ってきた。
「モンスターの死体を売りたいと窺いました」
「そうだ」
「それはありがとうございます! ささっ、こちらへ」
そして店員は俺を2階に案内した。
寄りにも寄って2階だと!
正気か?
ワイバーンを出せば、床が抜けるぞ。オークまでならたぶん大丈夫だろうが、モンスターは基本的に重たい。だから地盤のしっかりした場所で出すのが常識だ。
俺は前回と同じ物を出した。店員がやたらテンション高く、俺の腕を褒めちぎる。査定額も14G400Sとかなり高い。どんぶり勘定だ。
「お客様、是非とも当店の武具の品揃えを見ていってください。きっと素晴らしい出会いが……」
「すまん。実はこの後に行く場所がある。次の機会には必ず」
そう言って、逃げるように店を出た。




