行商人
馬車の旅は余り良い物では無い。雪路のおかげで衝撃が少ないのが救いだ。俺はルベルと談笑しながら時間を潰す。
「この時期に行商か?」
「本当は一週間前に通るはずでしたが、品物の入手に手間取りまして」
「それで馬車一台で」
「ええ。本当は帝国からキャラバンを組んで行くのです」
雪溶けを待って大キャラバンが帝国から公国に向かうのは恒例行事らしい。このキャラバンが通る際、山賊連中は粗方片付けられる。賢い山賊はこの時期は南に退避する。
ルベルは一週間遅れなら山賊も帰って来ていないとふんで、単独で進んだ。しかし、予想外の大雪に合い、車輪が壊れてピンチになった。
荷物を持っての移動は不可能だ。護衛に追加料金を払っても拒否される。そもそも量からして、全員で持っても3割程度しか持てない。
そこで俺が現れた。応急処置をした車輪は後3日程度なら持つ。俺からすると、反対側の車輪が持つか心配だ。この馬車は修理に出すより新調した方が安いかもしれない。
「帝国の工業品と公国の海の幸を交換か?」
「それが一般的です。他には農奴と魔法道具の仕入れも盛んです」
帝国は農奴と鉱山奴隷のみを特例で認めている。アルドスタン王国と同じく奴隷禁止派に属する。基本的に北は奴隷禁止で南に行くとほど奴隷を重用する。公国の真南辺りが一番悲惨だ。
「となると南の品は特に良い物が無いのか」
「そうです。公国は陸上貿易の要衝ですから、様々な物が手に入ります。ただ、売れ筋となるとかなり候補が狭まります」
「そんな中で上手く稼いでいるルベルは中々の者だろう?」
「いえいえ、そんな事は」
商売の話もそこそこで切り上げる。商人が飯の種を明かす事はしない。一般的に知られている情報だから教えてくれたのだろう。
「そう言えば、公国は政治的に安定しているのか?」
「そうですね。公王陛下は名君です。第1公子が継ぐと目されています」
「なら大丈夫か」
ライの持っている情報とも一致する。普通ならルベルの言う通りだ。
しかし、魔王と勇者が数年後に本格的に暴れ出す。公国上層部はこの事を知っている。そうなると、他の公子は勇者を味方にして公王の座を望むかもしれない。
経済力で中規模国家扱いだが、領土と家臣を見ると小国の範疇を出ない。一人二人鳴動すれば、引っ繰り返る。
最初の2日はそんな感じで進んだ。公国の首都まで後1日の距離に迫った時に異変が起きた。
「ルベル、囲まれているぞ」
「な、なんですって!」
魔法を使ったソナーで相手の構成を調べ、音を拾い会話を脳内で再構築する。どうやらこの馬車を襲うみたいだ。
「どうする?」
「迎撃します!」
ルベルの冒険者もやっと武器を取る。剣が凍って抜けなかったり、弓の弦が切れたり、本当に本職か?
「俺に任せておけ」
俺は馬車から飛び降り、足を雪に取られながら不器用に迫る山賊を視界に入れる。
「ウィンドシェイバー!」
風の刃が山賊数人と後ろにある木々を切り裂く。馬車の右から来た山賊はこれで片付いた。左側から来た山賊は逃げようとするが、逃がしはしない。
25人規模の山賊団を軽く潰した。護衛の仕事を取ったのは気まずいが、俺が動かなければ全滅していたので許して欲しい。
「ライ様、ありがとうございます」
「この程度の雑魚、本職が出るまでも無かろう」
この山賊達が偶然襲ってきたのか、ルベルのライバルにけし掛けられたのか、それとも豚が雇ったのかは分からない。偶然の可能性が一番高いが、滅多な事を言われる前に皆殺しが一番安全と判断した。
ルベルも偶然の遭遇と結論付けた。
そうして、俺達は公国と同じ名前を持つ首都、カッタルイに到着した。




