白の者
「ようこそ、アウグローリアへ!」
俺が次に目を覚ました時、目の前には白のローブを纏まった存在が眼前に居た。部屋全体が白く、地球の物理法則にしたがっている風には見えない。
「ここは?」
「異世界。正確には異世界の神界にある私の空間だ」
俺達が宙に浮いているのもそのためだろう。妹が絡まないなら適当で良い。
「神様なのか」
「人間基準で言うなら、神様だ」
信者には白の者、と呼ばれているらしい。簡単な自己紹介が終わり、本題に入る。
「それで、俺に何用だ?」
「異世界に行って欲しい」
「妹がいない世界など興味が無い」
妹は大丈夫であろうか。ショックを受けても、必ず立ち直るはずだ。何せ、俺の妹なのだから。そう考えると、こんな異世界に興味すらわかない。
「じゃあ、その妹が数年後にこの世界に来るとしたら?」
「なんだと!」
神の話を要約すると、アウグローリアはこのまま行けば5年後に魔王に滅ぼされる。リガンティス神聖教国がそれに対抗するために数年後に勇者召喚を行う。神は神聖教国の準備具合と未来視で判断したが、正確な日時は分からない。
召喚される勇者に神は力を与え、人類は魔王を倒したい。神の思惑と人類の思惑に微妙なずれがある。あえて詳しく聞かないでおく。
「ぶっつけ本番は怖いから、勇者システムのテスターを探していると」
俺がぶっちゃける。
「その通り。勇者が負けようが世界が滅ぼうが私には無関係。されど、私の名前で召喚されるのがまずい。私の勇者があいつの魔王に負けたら色々問題だ」
「問題?」
「神様事情」
「はい」
これは暗にこれ以上聞くな、と言う事だろう。主神交代とか、色々あるのだろう。
「基礎ステータスの増強、アウグローリア語の読み書き、そしてスキルポイントによるスキルの取得が出来るようにする」
「ゲームっぽいな」
「異世界に突然来た勇者が理解しやすいように調整した。スタータスの数値化とスキルポイントは勇者特権だ」
「なるほど。それならいっそ、勇者を最初から最強にすれば良いのでは?」
「神様事情で一定以上の介入は禁止されている。スキルポイントはその穴をついたシステムだ」
「色々あるんですね」
神様事情は複雑怪奇。
「まったくだ。私が直接動けば魔王は一撃だ。その余波で惑星が粉砕されて、恒星系ごと崩壊するが、作り直せば良い」
「ここは、大人しく勇者に任せましょう」
神となるとスケールが違う。
「分かってくれたようで嬉しい」
「では、なんで俺なんです?」
妹に再会出来るのは嬉しい。しかし、俺を選んだ理由としては乏しい。神は意外と下界の動きに詳しい。何か、別の事情がある。
「……気紛れだ。それと違うタイプのテスターは一定数欲しい」
「違うタイプですか?」
気紛れの件は無視だ。犬にかまれたか宝くじに当たったんだ。それに一瞬の沈黙があった。神様事情だろう。
「未来視で勇者召喚は分かった。だが、どういう形かは不明だ。そこで勇者がどういう形で来ても対応出来るようにしたい」
神が長ったらしい説明をしたので適当に纏める。最初の分岐は神との対話タイムの有無。事情説明無しの召喚は面倒そうだ。その場合は最悪、テスターの誰かが説明に動くらしい。
次の分岐は単独か複数、本体か複製、生者か死者になるらしい。単独、本体、生者が一番簡単。戦力と考えるなら複数、複製が一番。本体だと転移時に余り弄れないため、どうしても複製に劣る。死者の場合は複製より再構築に近いらしく、かなり好き勝手に弄れる。
神の話からテスターが複数なのは判明している。俺は複製、死者のテストケースなのだろう。
「最初から勇者扱いなのか?」
「基本的に秘密だ」
秘密? 国家に大々的に協力して貰った方が良いのでは? 俺の疑問を感じたのか、神が説明を開始した。
「勇者の待遇が分からん」
神は静かに言った。短いながら、様々な思いが詰まった言葉だった。
「三顧の礼でお願いされて、酒池肉林の日々では無いのか?」
これは大げさとしても、厚遇するのではないか?
「魔王を倒すために使い潰され、生き残れば奴隷として酷使されるだろう」
「なんだとっ!」
俺の妹になんて事を! この世界の人類など駆逐してくれる!
「落ち着け。そうなら無いように手を打ちたい」
「当然だ。妹は俺が護る」
なんとか見えてきた。俺なら必ず妹を助けるために動く。神としてはその方が都合が良いのだ。
「勇者に与える勇者システムを通じて生存率を大幅に上げたいが、上げるだけではその後が無い」
「勇者が勇者の役目を終えても、使い捨てられないようにするのか」
「その通りだ」
それを聞いて、俺の決意は固まった。
「そうなると、事前に魔王を倒すのは無しか」
「召喚には莫大な金額が動いている。魔王がどうなろうと、召喚は止まらぬ」
くそっ! なんて事だ。この世界の人間は異世界の血筋や知識が欲しいだけだ。魔王はおまけでしか無い。それ処か、その存在すら?
「気に入らん」
「それなら、もう一つ手を打つか?」
神は始めて笑みと分かる表情を浮かべる。
「何かあるのか?」
「破壊神の復活だ」
「破壊神?」
かつて、世界には様々な神が居た。その中でかつて最強と君臨していたのが、破壊神だ。破壊神は2千年前に封印された。その時から最高神の力添えで使える光魔法スキルが世界から消えた。
勇者が召喚されるのも、この光魔法スキルを高確率で持っているからだ。破壊神が復活すれば、光魔法もまた世界に溢れかえる。そうすれば、異世界から勇者を呼ぶ理由も無くなる。
「回りくどい」
「急がば回れだ」
「……分かった。この件、俺があたってみる」
成功するかは不明だ。それでもこの依頼を受けても損は無い。どっち道世界とは敵対する可能性が高いのだ。世界の敵を味方にするのに遠慮はいらない。
「さて、こちらで適当な体を用意した。問題が無いなら、このまま進める」
俺は神の提示する情報を注視する。メリットとデメリットを天秤にかけ、了承を伝える。多少記憶の混濁があるらしいが、俺は俺で有り続ける。それなら、このチャンスを最大限に活用する。
そして、俺の意識は再度落ちた。