精鋭部隊 後編
俺が用意した個室に来た冒険者はがっちりとした体格をしていた。30歳は余裕で越えているが40歳に届きそうなのかは見た目では分からなかった。未だ衰えてはいないみたいだが、ここからは下り坂なのは明らかだった。
「良く来てくれた。私が司令官のライ・エルトールだ」
「冒険者のグレッグです」
「個室と言いつつも戦場なのでこの程度しか用意出来なかったが、飯の方は期待してくれ」
「俺達には勿体無いお心遣いです」
個室と言っているが、実際は厚手の素材を使っているテントだ。そこそこ防音加工されており、普通に話す分には外に音が漏れない。遠くから見たら見通のテントと見分けが付かないので密談しているとは思われない。
一緒に居た妻の紹介も滞りなく終わった。グレッグと同年代で、若い頃から一緒に冒険者をやっている。多少ぼかされたが、グレッグが冒険者になったのは彼女のためだ。他の道を選んだ方が生活は楽になったと思うが、妻のほうに色々柵があったのだろう。
昼食の間はグレッグの苦労話を聞き、相槌を打った。冒険者が過去の武勇伝を語るのは自分を売り込む際の常套手段だ。倒したモンスターがそのまま履歴書となる。モンスターの種類、室内か屋外、パーティーメンバーの戦闘方法などかなり多岐に渡って知る事が出来る。グレッグのパーティーは屋外で中型の四足歩行型を狩るのが主な仕事だ。
『実力はあるし室内アンデッド戦の経験もあるが、最適からはほど遠い実績だ』
『他に任せる?』
『それは出来ない。グレッグにやって貰う』
レイラと話ながらグレッグをどう活用すべきか検討する。俺が動ければ問題無いが、それは駄目だ。グレッグのパーティーを単独で送れば勝てるだろうが被害が出る。俺が裏からリアルタイムに支援するしか無いかもしれない。それにグレッグには退けない事情がありそうだ。
「閣下、こんなおいしい昼食は久しぶりです」
「私の料理人が王軍に対抗意識を燃やした結果だ」
「あちらに誰か来ているのですか?」
「聖騎士の部隊が朝方到着した」
「聖騎士!?」
グレッグが気まずそうな顔をする。聖騎士がいるのなら冒険者に仕事を回す必要は無いと思ったのだ。そうなるとグレッグはここに来るだけ時間の無駄と言う事になる。幸い王都が近いが、それでも先方の勝手な事情で呼び出され、いざ到着したら仕事が無かったでは面子が潰れる。潰れた所で泣き寝入りしか出来ないが、グレッグは法衣子爵だ。法衣貴族派閥が騒ぐかもしれない。
「心配は分かるが、地下制圧はグレッグに任せる予定だ」
「よろしいのですか!」
「司令官権限の内だ。それに陛下が聖騎士が動くのを良しとしていない。政治の都合で二番手にするしか無いが、逆に一番手からは外しても大丈夫だ」
「分かりました、お任せください」
「それはそうと、この手の依頼を受けるのは珍しいのでは?」
「閣下にだから話しますが、今回は俺の父からの頼みです」
「なるほど」
「俺も妻も良い歳です。レブナントを片付けたら余った土地を報酬として貰えます」
法衣貴族では将来に不安がある。扶持だけで生きていくのは大変で子供に爵位を継承する事も出来ない。それが小さいとはいえ土地持ち貴族になれば事態は大きく変わる。扶持に依存しない生活と子孫代々継承出来る爵位が手に入る。多少面倒な手続きはあるが、労力に見合う結果になる。
ただグレッグの実家では無く俺の侯爵家が土地を出すと言い出せば面倒になる。相手はそれを期待している節があるから更に厄介だ。
『どうして?』
『俺が土地を提供すると言う。グレッグは断る。グレッグの実家が当初の予定より大きい土地を渡す。俺が何も言わないと土地の約束が反故になる可能性はある。少なくても良い土地は渡さない。ここまでは普通のやり取りだ』
『そうなの』
『だがグレッグは実直過ぎる。俺が渡すと言えば受け取るだろう』
『派閥を跨がない?』
『グレッグが俺の派閥に入る。悪くは無いが、グレッグの実家が嫌がらせをするだろう。ここはグレッグの実家がグレッグに土地を渡す様に動くべきだ』
『どうするの?』
『……考えている』
貴族同士のシーソーゲームだ。俺やグレッグみたいな実直な男には時間の無駄にしか思えないが、相手のルールで遊べないと遠ざけられる。俺は幼少の頃から教育を受けているから問題無いが、グレッグは完全にアウェーだ。
「グレッグ、土地の事は何か聞いているか?」
「いえ、何も」
「そうか。なら俺が土地を出す事にして、断れ」
「えぇ? そんな事に何の意味が?」
「貴様の実家がこれを聞けば、俺に負けない良い土地を出す。今のままでは、どんな土地が貰えるか分からない。詳細は詰めなかったのだろう?」
「いえ、実家に任せてあります」
「レブナント退治は大役だ。この程度の手助けはするが、土地持ち貴族になるなら貴族同士の意味不明なやり取りを理解出来る部下を見つけた方が良い」
「あ、ありがとうございます!」
グレッグ夫妻がしきりに頭を下げて礼を言う。これについても何か言うべきかと思ったが、長年の冒険者時代の癖が染み付いているのだろう。余計な事を言って不興を買うのはやめておいた。




