プロローグ
「お兄様!」
俺の可愛い妹の声がする。俺の妹レーダーは彼女が200メートル後方にいるのを的確に察知する。妹について知らぬ事は無い。世界は妹を中心に回っている。そうで無いなら、間違っているのは世界の方だ。そう広言できる程に俺はただのシスコンだ。
そんな俺だが、妹と直接話すのは久しぶりだ。両親の勧めで遠方の高校に入学した。妹と離れるのは断腸の想いだったが、妹の「最難関の高校に受かるお兄様格好良い」と言う一言を受けて猛勉強した。入学試験でパーフェクトな点数を叩き出し、高校始まって以来の麒麟児と持て囃された。
くだらぬ。試験に妹を褒め称える自由解答欄が無い高校など、しょせんその程度。俺の真髄に触れる事は適わない。高校生活は至って普通だ。クラス代表をやりながら座学では首位を直走り、野球部のエースとサッカー部の10番を兼任する程度。相手が妹愛の無い高校レベルでは当然の結果だ。
「危ない!」
俺は咄嗟に駆け出した。妹にトラックが蛇行しながら近付いているのがタイヤがコンクリートを擦る音で分かった。このままでは交差点で激突する。確定した妹の悲劇を回避するために俺は走った。100メートルを5秒で駆け抜ける。また世界記録を更新したが、詮無き事。
ギリギリ妹を安全圏に押し出すのと同時に居眠り運転のトラックが俺を弾き飛ばす。くっ! 流石の妹愛をもってしても、これはきつい。そして俺は意識を手放した。