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出来れば無双したい…
至高の魔女の召使いリヴは、転移先に居たものを見て、嫌悪感をあからさまにして、死んだような目をした。
巨大な二足歩行の大豚が数体、突然現れたリヴに、警戒心は微塵もない…寧ろ、歓喜している様子で、掴み掛かろうしてきた。
体臭か口臭か、酷い臭いがする。下半身の一物が勃っているのは、見たくなかった。冷静に状況分析してしまった自分を、小一時間責めたい。
正直、気持ち悪いの一言であり、思わず目の前のオークを蹴り飛ばした。華奢な体躯のリヴに蹴り飛ばされたにも関わらず、オークの巨体は宙に浮き、軽く3メートルは吹っ飛び、地面に落ちた時の打ち所が悪かったのか、そのまま動かなくなった。
仲間を殺られて、オーク達は警戒…することも無く、我先にとリヴに襲い掛かった。知能が低い為、か弱そうな外見だから、勝てると思っているのだ。一体殺られたくらい気にしない。実際、負けたことは殆んどない。
だから、規格外の相手が目の前に現れても、気が付けなかった。
リヴは冷静に、攻撃魔法の魔法文を書きあげる。
ゴウッ!と爆発するように燃え上がるオーク達。瞬く間に燃え尽きたオーク達を後目に、リヴはすたすたと歩き出す。
どうやら、オークの巣にいるようだ。否、大きさから言って、巨大種のオークと言った所か。まぁ、違うのは大きさだけで、普通のオークと変わらないから問題ない。
余談だが、一般的なオークがE級、ジャイアントオーク単体がA級、ジャイアントオークの一群はS級である。
普通のオークとジャイアントオークに、天と地ほどの階級差がある事に、物申したい人間は此処に居ない。
そんな事は、露知らず…リヴは別の問題に頭を悩ませていた。
オークの類いは、例え異性の格好をしていようとも、本来の性別を見抜くという。オークは雄しか生まれない為、一人でも多くの人類種の雌が必要だからだ。
目的は言わずもなが、子供を産ませる為である。
そう、聞いた事があった。ならば何故、ジャイアントオークは興奮しながら、自分に襲い掛かってきたのだろうか?
リヴは体も心も男である。服装がメイド服なだけで。
なのに、性的な意味で襲われそうになった。これは明らかに女性と思われていたという事だ。
襲われそうになった事もショックだが、性別を判別出来るものに、性別を間違えられた事もショックである。
「いやぁああああっっ!!」
叫び声が聞こえた。
まさか、ジャイアントオークの巣のど真ん中に、他に人が居るのか?
リヴは駆け出す。叫び声は女性のものだった。
悲鳴が木霊する洞窟に飛び込むと、身重の女がジャイアントオークに足を掴まれ、胸元の服を引き裂かれていた。
女に覆い被さり、事をなそうとしているジャイアントオークに、リヴは即座に飛び蹴りを食らわせる。
ジャイアントオークは洞窟の奥に吹っ飛んだ。
襲われていた女は、状況についていけなかったらしく、ぽかんとしている。
「まったく…身重の女性に暴行なんて、非道極まりないですね。地獄に堕ちやがれ、です」
リヴは良い事をした!と、清々しい笑顔で、かいてもいない汗を拭ってみせた。
「大丈夫ですか?」
リヴは何処からともなく毛布を取り出して、女性の肩に掛けて、服が破られ露出した肌を隠してやる。
リヴがメイド服の胸元に着けているブローチは、至高の魔女お手製の魔道具なのである。機能として、『万能収納』や『防御結界術式』等に加えて、『盗難防止機能』も付いている。その内の『万能収納』から、毛布を取り出したのだ。
「あ、ありがとう…」
まだ困惑しているのか、女性は上の空で礼を言った。