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『罰するくらいは出来る』と、告げたクレハを全員が見る。
「…実はな、知られていないが、私はとある国の皇族なんだ」
「………え?」
フランシアはキョトンとした。
「待て。俺も初耳なんだが!」
「なんてこった…」
弟子時代に兄弟子として扱きまくった思い出が、走馬灯の如くフラッシュバックした一番弟子と二番弟子。
「此処から東に行った果て、地図に記せない程小さな国だが、この国とは国交がある。私が魔女に弟子入りした時からな。白夜皇国という」
「白夜皇国?皇族…?そんな…」
「私は白夜皇国セキサキ皇王が一子、クレハ。魔女の弟子の中で、一番権力が有ると自負している」
「そんな!」
「まぁ、私は権力争いが苦手で逃げ出してきたのだが。ヴァーニャ兄。正式な書面にするから、国王に渡してくれるか」
「国王陛下に!?止めて!わ、わたくしの家が!お父様に殺される!!」
魔女にお仕置きをされて以来、国王は魔女に頭が上がらない。それ所か、国を何度も救ってくれた魔女に、絶対の信頼を寄せていた。
貴族なら、たかが召使い一人と捨て置く罪だが、魔女をリスペクトする国王に知られたら、軽い罪でもさじ加減一つで重くなる。
『使用人は、雇用主の財産である。誘拐・殺人は窃盗・損壊罪に該当する。但し、誘拐・殺人の罪に問われている場合は、これに該当しない』
そんな法が、この国にある。まともな人間なら、殺人なら殺人の罪で裁かれる。だが、貴族にとっては、召使いなんて使い捨ての道具なのだ。使用人を殺したくらいで、殺人などと言われるのはお門違いなのだ。
『壊れたなら、新しいのを買えば良い』
それが貴族の本音である。
だが、今回はそうもいかない。召使いは召使いでも、至高の魔女の召使いである。無駄にハイスペックな人材である。財産の損壊罪として裁かれても、重いものになるだろう。
また、国王の不信を買うのは目に見えている。信用ががた落ちし、ローゼン家の威光を損ねるなんて事になれば、今度はフランシア自身がジャイアントオークの餌食になるかもしれない。実際、平民の子供を身籠った姉が、ジャイアントオークの巣に捨てられたばかりだ。
「財産なんて!あれは下賤な召使いよ!魔女の後ろ楯もない生意気なだけの…後ろ楯が、ない…?」
「あら、気が付いたの?貴女は根本的な事を間違えてるものねー?」
「そうか!現在、召使いに主人は居ない。再雇用もされてない!損壊罪では済まされないぞ!」
「それが…何よ?平民なんて…死んでも、お父様に言えば、揉み消して…」
「まだ、揉み消せると、思ってるの?」
「い、いや…いやぁああああぁあっっ!!」
ルシアの一言で、フランシアは絶望して、泣き崩れた。
フランシアを軍の憲兵に預け、四人は魔女の家に戻ってきた。
「ルシア、先生の家を丸ごと凍らせておけるか?クレハはその間に結界の魔道具を解除する」
「ん。先生が腐ったら悲しい」
「ああ…これか。この魔道具なら、3日あれば何とかなりそうだ」
「じゃあ、私は葬儀の準備をしておくわ。ヴァーニャはどうするのー?」
「国王の所に行ってくる。…来る時、半ば放置してきた」
ああ、これから説教か…と、三人が憐れみの目で、イヴァンを見た。
「で、どうする?召使いは助けに行くのか?」
「必要ない、気がする…」
「そうねー。でも、犯されそうになって、怖がってるかもしれないから、迎えは寄越した方が良いんじゃなーい?」
コロコロ笑うオートリィに、三人は苦笑いした。
「犯されそうにって…お前…」
「確かに有り得そうだが…いや、そうなったら二重にショックだろう?あの子は…」
「可愛いは正義。時に罪」
「誰が上手いこと言えと」
「何にしろ、ジャイアントオークの巣は、早めに潰してもらえ」
「それも、必要ない、気がする…」
「念の為だ」
結論、助けに行く必要はないだろうが、ジャイアントオークは殲滅隊を出そう。ついでに捜索もしてもらおう。
「まぁ、大丈夫だろう。あの子はハイスペックだし、可憐な外観をしてるが…」
男なんだし。
次から、召使い視点です!