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イヴァン・クロードは、至高の魔女と名高いエリーゼ・シンディアの一番弟子で、現在は国のお抱え魔法士として、王国を守護している。
彼は魔法使いの中で、魔法剣士という戦闘向きのタイプである。魔法で己を強化し、前衛で戦う魔力内向系特化型で、それ以外は基礎を学んだ程度。つまり、彼は魔法を放つといった魔力外向型の魔法が苦手なのだ。
同じ国のお抱え魔法士であるルシアは、逆に魔法外向系が得意で、それ以外がてんで駄目という正反対だが似た者同士の魔女である。
二人は魔法使いの中で、最高峰の存在として、国内はおろか国外でも絶大な人気を誇る。そんな二人でさえ、至高の魔女の後継者にはなれなかった。
魔力内向系を極め、魔力外向系を極め、魔道具や魔法薬を作り出す魔法細工系を極めた、まさに至高の魔女である彼女の後継者など、一つの系統が特化しただけの人間がなれるはずもない。
もっとも、魔女の仕事を手伝う為に、総ての系統を難なく扱い、本人は雑用しか手伝っていないと本気で宣う、召使いなんて存在がいる所為でもあるのだが。
至高の魔女ですら、『あの子の立ち位置はしくじったねぇ』と、ぼやいていた事があった。弟子は要らないと宣言して、召使いとして拾った手前、今更弟子には出来ないのだとか。
魔女が体調を崩してからは、更に召使いとしての役割が必須になってしまったし、弟子として扱おうにも無理だったのは詮ない事だった。
ピピ…と、通信用の魔道具から着信を知らせる音がなった。
モニターには『先生』という表記。イヴァンが少し緊張しながら出ると、相手は召使いだった。
「…ああ!リヴか。吃驚したよ。先生のお加減はどうだい?」
『魔女様は…先程お亡くなりになりました…』
「………え?」
絶句。茫然自失とはこの事か。召使いが何を言っているのか、一瞬分からなかった。
『イヴァン様は国王陛下に御連絡を。葬儀の手続きもお願いします…』
「ま、待ってくれ!亡くなった?先生が!?」
『私は…遺品の整理を………します…』
淡々と話を進めようとする召使い。だが、魔道具の向こう側で、ガタンッ…と、大きな音がして、イヴァンは我に返った。
「リヴ!大丈夫か!?」
『私は…大丈夫です……大丈夫……ですからっ…』
召使いの声は震えていて、泣いている。
無理もない。召使いにとって、先生は主人であり、育ての親でもある。その方が亡くなったのだから、泣き崩れても可笑しくない。
それなのに、気丈に振る舞い、悲しみに耐えようとしているのが、痛いくらい伝わってきた。
「直ぐにそちらに向かうから!」
国王に魔女の訃報を手短に報告し、確認しに行くと言って、直ぐに城を飛び出した。大臣がもっと詳しく話せとか怒鳴っていたが、知ったことではない。
ふと、背後に人の気配が近付いてくるのに気付き、振り返ってみると、先生の二番弟子だったルシアが、箒に乗って追ってきていた。
「ヴァーニャ、状況は」
「先生が亡くなったらしい。もう長くはないと、聞いていたが…」
「そう…仕方ない…ね。死期が近いのは覚悟してた」
「ああ。問題は召使いと弟子達だ」
恐らく、魔女は弟子達に遺産を残していないだろう。傲慢な弟子達が嫌いだから…と、いうのもあるだろうが、未熟者には渡せないという理由もあるはずだ。それに引き換え、召使いは何かしら相続している可能性がある。
「ん、把握。あの子、やたらとハイスペック」
手伝いなんて言いながら、市場に出ている魔道具や薬の半数は、召使い作だっりするのだから、何で本気で『弟子じゃない』なんて言えるんだろう。弟子より優秀な召使いなんて、弟子にしてみれば堪ったものじゃない。
「どうするの?」
「取り敢えず、身柄を保護しなきゃ。弟子の八つ当たりで怪我でもしたら、先生に祟られそうだ」
「ん。可能なら、そのまま私達の弟子にする」
「あー。それ良いかも。既に越えられてる気もするが」
二人は話ながら、全速力で魔女の屋敷に向かった。