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初投稿なので、優しくしてあげてください。宜しくお願いします。
一人の優れた魔女がいた。
類稀なる才能と、誰もが見惚れる美しい容貌に、人々は『至高の魔女』と褒め称えた。
若い頃は、王国を襲おうとしたドラゴンを、咆哮が煩いと言って魔法で消し飛ばし、国に仕えろと権力に物を言わせてきた国王を、氷付けにして謝罪させたり…割かし自由奔放な人物だったが、壮年の頃になると、流行り病を完治させる治療薬を作ったり、便利な魔道具を作って人々の暮らしを豊かにしたりしている。
『身内に煽てられただけさ』
人々に感謝された際、彼女はそう言って柔らかな目で笑っていたとの事。因みに、それに驚愕した国王が、折檻されていたとかいないとか。
晩年は、乞われて渋々ながら弟子をとったが、箔付け目的の貴族の子女が押し掛けた所為か、『ろくな弟子がいやしない』と愚痴り、彼女が持つ秘術を習えた弟子は、彼女が亡くなるまで終ぞ現れなかった。
至高の魔女の秘術は喪われてしまったのである。
…と、思われているが、事実は違うと申し上げたい。
時は魔女が亡くなる少し前に遡る。彼女の今際の際に、側に居たのは召使いただ一人だった。側に居ない弟子が薄情…という訳ではなく、魔女が召使い以外を追い出してしまっているからだ。『身の回りの世話など、召使い一人で事足りる』と。
「リヴ…伝えておきたい事がある」
「…はい」
寝台に横たわる魔女が、召使いを手招きした。側に控えていた召使いは、魔女の手を取って優しく握る。
「お前さんは良く尽くしてくれた。感謝しているよ」
「勿体無いお言葉です…」
「あたしの遺産は、お前さんに譲ろう。この家も魔法書や道具も全てね」
え、と、召使いは言葉を詰まらせる。至高の魔女は『至高』と言われているだけあって、魔法使い達にとって最高峰の頂にいる尊敬の的である。その人物の遺産となれば、どれだけの価値があるのか…想像も出来ない話だ。
それ以前に、召使いは召使いであって、魔女の弟子として扱われた事はなく、魔女の身の回りの世話の合間に、少し雑用を手伝ったりした程度だ。
「私の身には余ります…御弟子さんには譲られないのですか?」
「あの強欲な弟子連中にかい?渡す気は微塵もないよ。乞うだけ乞うて、自分で努力しない奴は嫌いなんでね。ああ、イヴァンやルシアなんかのまともな弟子には、相応のものをくれてやったから、お前さんが気にする必要はない」
「左様ですか…」
まともな弟子は今、王国のお抱え魔法士になってますよね?そんな扱いで大丈夫ですか…と、苦笑する召使い。魔女もけらけらと笑う。
魔女は徐に、召使いの二つに結って胸元に垂らしている黒髪を撫でながら、「もう…真似をしなくても良いんだよ」と、優しく微笑んだ。
「魔女様を敬愛していますから…駄目ですか?」
魔女に拾われて、十余年。まともな生活を送らせてもらい、生きていく為の知恵を与えてもらった召使いは、魔女の望んだ姿を、魔女が喜んだ姿を維持し続けている。
「駄目ではないけどねぇ…お前は………なんだから…」
「…魔女様?」
「ふふ…どうやら、お別れの時間…のようだねぇ…」
「っ!魔女様っ…」
召使いは魔女の最後を悟り、泣きたいのを堪えて、しっかりと魔女の手を握った。
「最後まで…側にいてくれて、ありがとう…幸せ…だった…よ…」
「私もです。魔女様…」
「愛しい…子に、幸福あれ………」
そう言い残して、魔女は生涯の幕を下ろした。