表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

玉砕のあと

 朝、通勤で目の前を通り過ぎる、サラリーマンを見て、ふいに私は遠い昔、愛していた彼を思い出した。

 彼の、薄っぺらい痩せた身体や顔立ちが好きだった。

 趣味や嗜好が良く合う人だったと、私は思い返していた。

 バスターミナルでバスを待つ間、イヤフォンから流れる爆音のロックを聴きながら。目の前に見えるバスターミナルの白線を、ぼーっと見つめながらそんな事を思い返していた。

 車の趣味。

 ロードスターをオープンにして、夜空に広がる星空を見せてくれる、ロマンチスト。あの車も好きだった。私はいつも助手席に乗っていたが、運転席も楽しそうだなと内心、デートの度に思っていた。

 そのうち、彼は車を変えてしまい、ミニクーパーを選んだ時には、してやられたとさえ思った。私も、狙ってたんだ! と、思わず言ってしまった。ドライブで行き交う車を見ては、あの車いいねと言う車は、ほぼ趣味が合致していた。

 そんな事を思い出してしまい、苦笑いを浮かべた。

 バスはまだ現れず、乗車を待つ人の列が少し増えていた。埃っぽい空気と、他のバスが通り過ぎる排気ガスの臭いが鼻につく。

 ふと、視線を上げた先に見えた飲食店の看板には、イタリアの国旗が描かれていた。

 食の嗜好。

 イタリアンの美味しさを教えてくれた。そして、自分でパスタ料理を作っては、私にそれを振舞ってくれた。赤ワインとの組み合わせが抜群だったのを、今でも覚えている。

 イヤフォンから流れる音楽が、淋しげなバラードに変わる。

 何もかもが、一致していたわけでは勿論なく。

 ハッピーエンドの映画が好きな私に、悲劇を教えてくれた。けれど。哀しい結末を見終えた後、その隣に彼がいて、哀しげで穏やかな笑みを見せてくれていた。私は、彼の薄っぺらい身体にしがみ付き、少し泣いた。そうする事で、哀しい気持ちの胸の中が、少しずつ溶けるように温かく、穏やかになっていった。

 どうして、今日はこんなに彼の事を思い出すのだろう……。ノスタルジックな気分を誘うのは、秋から冬に変わっていく、どこか淋しく切ない気持ちにさせるのに似ているせいなのだろうか……。

 そんな事を、改めて思い返し私はまた、苦笑いした。

 8時30分。

 バスターミナルから、待っていたバスが滑り込んできた。

 

 散らばってしまった思い出の欠片達をきれいに集めて、私は前に進んでいる。少しずつ。

 大切な思い出だったから。忘れない。大事にしすぎてそこで腰を下ろして、それらに浸ってしまうこともある。過去を掘り返して、マイナス思考にもなる。

 それでも、それが私なのだから仕方ない。

 

 バスの座席から、窓の外を見上げた。すっきりとした鮮やかな青空。その中に見えた、白く薄い三日月。

 私は、小さく笑んだ。表に出さず、心の中で。

 

 

 

 

胸の中にしか残っていない思い出を、アルバムを見返すかのように、思い返したお話になりました。


今回で、『玉砕』シリーズはお終いとさせていただきます。

いかがでしたでしょうか……。

ここまで、ご覧くださいましてありがとうございました。m(__)m


また、次作お話書きましたら。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ