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共謀

 

 ぱらぱら、ぱら……

 塔が揺れる程の衝撃で、粉々になった外壁の成れの果てが重力に敗北し、落ちる音。

 その真ん中で、手の中にさっき見知ったばかりの女の子抱え、仰向けでぶっ倒れてるおれ。


 ――ぶはッ!


 し、死ぬかと思った……

 身を起こし、手の中、小柄なアルカより小さい女の子が無事か確認し、床にゆっくり寝かし、大穴の空いた外壁を警戒する。

 まさか、この子が居るのにブチ切れてぶん殴って来るとは……


 おれが避けなかったら、この子ごと肉片に成ってたぞ!


 まあ、その一撃で出来た穴に逃げられたんだけど。

 ――地上まで落っこちても、直ぐ来るよな……あいつ。



「かなり、ヤバい所まで暴走してたからなあ……」


 呟き、あいつの、何故かエプロンドレスを着た年下の少年の眼を思い返す。


『――りんねちゃんっっ!!!』


 あれは、大切なヒトを奪われ、


『――お、まぇェえええェェェええエエぇぇっッ!!!』


 そして、狂った者の眼だ。

 見境をなくし、奪われた大切なヒトを取り返す事以外、何も頭に無い、目に入らない。

 無垢で真っ直ぐに行き過ぎて、暴力的な狂気を宿した眼。魔物が如く鬼気迫る形相。

 何度見ても見慣れる事の無い、身震いせずにはいられない純粋な狂気と殺意。

 全く、あのままおれが放っといたら、その大切なヒトは死んでいた。という事も解らんくらい暴走してる癖に……!


「――ァァァァアアアアアアっッ!!」


 猛き、魔獣の如き叫び声が、二百階建ての巨塔を揺るがす足音と共に、凄いスピードで近づいて来る。


「ふう」


 嘆息をひとつ。叫び声に掻き消され、消える。

 床に寝かした少女は、リンネとか言ったっけ?

 可愛い、すごく綺麗な顔立ちの子だ。アルカとは違うタイプだけど、それは間違いない。

 気を失っているのに何故微笑んでいるのかは解らないけど、アルカが妖精と呼ばれるなら、リンネは天使、聖女と形容されても納得できる、そんな寝顔をしてる。


「――この子を護りたかったのか?」

「アあああアあアああアあアああ!!!」


 呟くと同時に、青空が一望できる大穴から姿を表した――スズハ、だったか。

 再び、いや、最初とは別人のように感情を剥き出しにした眼と、交錯する。


「――りんねちゃん、りんねちゃんを、」


 やりづらい、やる気を殺がれる位幼い、舌っ足らずの口調で、繰り出されるはオリハルコン砕きの拳。


「りんねちゃんを、」

「――護りたいんなら、」


 駄々をこねる子供のようなしぐさ、けれどその拳のキレは悠に殺人の領域を超える。

 それを、血で濡れていて、内部に異端の蒼炎を宿す以外、なんの変哲もない、ただの長剣の腹で受け止め、おれとスズハは、同時に口を開く――


「かえせっ!!」

「もうちっと頭使え!!」


 ――剣と拳で数合打ち合う。

 気を抜いたら、一撃でおれの剣を弾き飛ばすだろう拳圧。その隙間に剣を突き刺す。

 スズハが上半身を沈め交わし際に上段回し蹴り。

 判断せず――する隙などない――首を引き、交わすも風圧で鼻先が少し切れた。

 間を置かず、流れるように突き出された蹴りを剣で逸らし――半歩踏み出す。

 カウンターのタイミングで迎え撃つ拳を片手で流し、


「朝飯だあ、目え醒ませぇッ!」


 顔面目掛け、裂帛の気合いと共に、剣の腹を叩き込ん――?!

 まるで、本物のオリハルコンを金槌で殴ったような感触(てごたえ)

 驚愕と反動で数瞬、動きが止まって――


「――アアアアアアッ!!」


 神速の横薙が、わき腹に直撃。

 勢いのまま、頑強な壁に叩きつけられる。

 肋骨がへし折れ、内蔵の潰れる音を聴いた。


 ――強化外套の上から、これか!?


 一瞬で咳込み、血を吹く。くっ、直ぐに動けっヤバい!?


「――い、なくなれ」


 霞みかかった眼前に、腕をふりかぶったスズハ。

 ッソ、使うしかないのか――



 '蒼炎'が、頭をよぎった時。


「――めろ、鈴葉ああっ!!」


 ――弱く、強い言霊が、場に浸透した。

 固く握られた拳が眼前で静止した。硬直した面持ちで、スズハの動きは、止まっていた。


「――り、んね……ちゃん………」


 そのままゆっくりと。まるで、おれの事なんてどうでもいい、とでも云うように、後ろを向いて背中を見せ、かすれた声で喋る。

 リンネ、アルカの友達で、スズハが――


「……お前は、誰だ」


 スズハが壁になって、リンネの姿は見えない。そんな中、凛とした中でも硬い、けれども中に芯の通ったような声が響く。


「……?」


 一瞬、おれに言ったのかと思った。

 けど、それは違うと直感。

 なら、何をいってんのか。疑問が霞んだ頭をよぎる。直後、

「――あ、ぁア、」

 スズハの身に、明らかな異変がおきた。


「――あ、ああ? ああ・アアア! アアあアあアアぁアアァァアアアアアアっッ!!」


 スズハが、目に見えてごまかしの効かない位に動揺し、狂乱していた。

 激痛からくる眠気も消し飛ぶ、絶叫という言葉ですら生易しい、心に直接叩きつけるような、さけび。

 言葉をなくす。そんな中、リンネは――


「お前の名を、言ってみろ」


 さらに意味の解らない事を語る。

 しかし、スズハのさけびは止まった……効果が有った、のか?

 状況が掴めない。

 どういう事が、何が起こっている?


「――あ、うあ? いうあ……」


 スズハが、困惑――というよりは、迷子になった子供が、待ち望んでいた大好きな親に殴りつけられたかのような、悲哀に満ちた声。


「――己の名を、言ってみろ!!」


 恫喝するような、小さな少女のものとは思えない位激しく、荒々しい一喝。

 スズハが、一歩下がる。


「……わ……、たし、は――ぼ・く、はわた……しで、あな、た……――」


 つたない口調で何か呟いてる最中、空気が抜けたような音がして、

「――のわっ?!」

 スズハが、背中からおれの方に倒れてきた。

 おれよりも一回りくらい小さな身体は、まるで糸の切れた人形のような無機質さで、ピクリとも動かない。気絶、してる?


「――下僕が、迷惑をかけた」


……下僕?

 馴染のない単語に胡乱な視線をやると、そこには壁にもたれて片手を負傷してるのか不自然に垂らし棒立つ、子供のように華奢で小さな、けれども人間離れした容姿の、リンネの姿。

 ――その空いた手には、おもちゃのように小さな、けれどリンネの容姿にはまったく似つかわしくない、命を奪う漆黒……銃が、構えられていた。


「……君が、撃ったの?」

「ああ」


 リンネが、どうとでもないように肯定する。

 スズハを見ると、安らかとは程遠い顔で、完全に気絶していた。

 嘆息する。


「君が、なんで撃ったの?」


 スズハは、暴走していたとは言え、君の為に戦ってたのに……君の……


「――確認するが、貴様、アルカの使いだよな」


……妹分の使いに成った覚えは――……うん。ないさ。

 そう変わらない気がするのは、気のせいだろう。

 ちょっと内心で凹みかけるおれに、気付いてるのかいないのか、同じ小柄でもリンネはアルカよりややハスキーな、凛とした声で言葉を続ける。


「身体的特徴からして、ヴェルザンドの蒼魔、マグナ=メリアルスだな。アルカに、俺様の命乞いをされたのだろう」


 ――ああ、やっぱりアルカの友達。

 変わった子なんだろうと思ってたけど、想像以上だ。俺様って。


「そも、暴走した以上は止められる者が止めねばならない」


 小さな少女は、誰かさんにそっくりな、確かな口調で。


「それは其れだけの事だ。それより、歩きながら話そう。急ぐんだろう? 下僕はお前が、多少手荒にして構わん、持て。俺様では無理だ」


…………アルカと意気投合する訳だ。

 状況把握が早過ぎるし、適切だ。年下とは全く思えない。こんな小さいのに。


「……君は――ッげほっ、げほ」


 立ち上がり、言いかけた途中、下から込み上げてくる感覚。

 咳込んだ口から手を離すと、手のひらは血でべっとり真っ赤に塗れていた。


「鈴葉に、やられたのか?」

「君を、護ろうって、必死だったよ。こいつ」


 力の入ってない、少女と間違えそうな小さい体躯を軽く叩く。


「まさか、本当に負傷する程手加減していたとはな」


……うん?

 '本当に?'

 どういう事かな?


「アルカ曰わく、お前と下僕の彼我戦力比は、圧倒的にお前に傾いているらしい。理由を訊いた後、俺様もそれを認めたのだ。下僕では、暴走していようとお前に傷一つ付ける事はできず、一方的に八つ裂きにされるだろう、と」


……物騒な単語を顔色一つ変えず言わんでください。本当、アルカと気があいそうっすね。

 あと、一体、君たちの連絡網(ネットワーク)どうなってんの?

 そこまで意思疎通がとれるって。

 おれでも、君がアルカと友達って事自体、今まで知らんかったのに。

 などという疑問を挿む間もなく、妙な威厳と風格溢れる女の子は解説を続ける。


「なのに、お前は負傷している。これはお前が、余程に手を抜き、加減を誤った証拠だ」


……まあ、あの勢い相手に、戦い難かったことはそうだけど。


「そりゃ、全力は出してなかったけど。それはスズハの気合に気圧されたってのもあったんだよ。それだけ、君を護りたかったんだよ、スズハは」

「解っているさ。曲がりなりにも恩人に該当するお前の意見だ。考慮に入れておく」


 リンネは大人びた曖昧な表情で、片方だけ肩をすくめる。


「で、そろそろ回復――いや、再生か。したか?」


 その台詞に驚き、改めてリンネを視る。余裕の顔でおれを眺める、リンネと目が合う。 

 ――アルカ、よっぽどこの子が好きなんだな。おれの能力の詳細まで教えてんだから。


「今回の共謀にあたり、持ち札を共有する必要があったのだ。拗ねるな、蒼炎の」


 いや、別に拗ねてるわけじゃあ。

……共謀?


 おれの疑問符を読み取ったのか。

 リンネは、アルカによく似た偽悪的な笑みを浮かべ、悪魔じみた曲線を描く、整った唇を開いた。整った可愛い顔立ちでそれをされると、怖いものがある。


「――さあ、この連続する賢人襲撃事件の首謀者に逢いに行こうではないか」

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