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襲撃 中編

 少し前、月城家の使用人から十五名が選ばれ、主・月城 燐音様と共に中央国(ヴェルザンド)への訪問同行、護衛任務が言い渡された。


 名を挙げられた十五名の中に、私、九咲雨衣(クサキ ウイ)の名も有った。

 国外同行という事で、個人的に云うと、ほどほどに楽しみにしていたのだ。

 初めての他国だったし、彼の三柱の賢者搭。

 偉大な錬金術師達が築いたとされる、'理解の搭'、'変換の搭'、'英知の搭'。


 直に観て、実に壮大で、美しい色合いとシンメトリーが目に、脳裏に焼き付いた。

 太陽光や月光の反射で、数多の色彩と雄大さを観れると伝え訊いたが、本当に素晴らしい。


 これだけでも中央国(ヴェルザンド)まで来た甲斐が有ると断言できる。


 私は護衛中にも関わらず、街中から観れる三つの巨塔に魅入っていたらしく、同僚に小突かれるまで、そうなっている自分に気付か無かった。


 そんなのんびりした安息は、なんの脈絡も無しに終わるのが世の常である。


 件の襲撃は、ほぼ確実に有ると燐音様も予測されていたが、まさかこのタイミングで襲撃されるとは。


 ――この理解の搭内で……



 私は、通路の曲がり角の壁に背を預け、元居た空間に敵の弾幕が張られる中、一呼吸。

 ――連中は、黒尽くめの軽装甲服に、重火器――確認しただけでも突撃銃(アサルトライフル)、サブマシンガンを携帯。ガトリング砲で陣取っているのも居た――を装備、顔は、全員ゴーグルに歪な端末の付いたマスクを着用。

 身元は勿論、性別や年齢層まで判別不可能。

 判明しているのは、練度の高い武装集団という事だけ……考えられるとしたら、中央国(ヴェルザンド)の暗部組織か、皇国(ヴルダ)の特務部隊、異端審問会のタカ派か。

 どちらにせよ、連中が動いたという情報は入ってない。

 だというに、それに匹敵する手応えを感じる。

 その上、状況は最悪に近い。

 二百階を越える巨塔の最上階、地上直通の転移方陣は、真っ先に占拠された。

 突破し、地上に出たとしても転移先で無防備な瞬間を待ち伏せされていたら即アウト。徒歩での脱出も至難。

 その上、我等使用人の主、燐音様は……通路の先に消え、総勢十五の使用人を分断せざるを得ない状況――


 何者だ、連中は。


 ――今、この場にいない、衛宮の小僧に連れ去られた燐音様ならば、どう診るだろう。どう診ているだろう。


 ――、脳裏に蘇る、先の光景。


……あの、糞餓鬼。

 奴のおかげで、指揮系統がグチャグチャだ。


「……う、雨衣(ウイ)、あた、あ」


 何か言われた。

 回想に廻っていた脳が、即座現実に引き戻される。

 暴風の如き敵の弾幕で、良く聞き取れなかったが空耳ではない、掠れた声で、同僚の少女は言った。


「喋るな。――直ぐ片す」


 直ぐ隣、自力で立っていられない傷を負った同僚を横目に入れる。

 右足と左肩、脇腹を貫かれて座り込み、虚ろな瞳に涙を溜め、こちらを見上げていた。

 防弾性にも優れたメイド服は血で汚れ、希少金属(レアメタル)の床下は、赤黒く染まっていた。

 戦況以前に、このまま出血多量で死んでしまいそうな有り様。しかし、


「――あ、たしは、いい、から……置いて、先に」


 ――全く……


 嘆息し、同僚の小さな震える手、その指先が白く成るくらい、握り締められた鉄塊。

 それを、毟り取る。


「てきるなら、応急処置をしておけ」


 手元のそれに仕掛けを施しつつ、同僚に呟く。

 そして、

 間もなく、弾幕が止んだ。


 今だ。


 私は、動けない同僚から拝借したサブマシンガンの銃口を、曲がり角から突き出し、

 投げた

 同時に、少女を先と同様に抱え、T字路を抜ける為、走る。


 再び、ばらまかれる弾幕の直後。


 爆炎が、一瞬にしてT字路全体を撫で回し、黒尽くめの連中を灼いた。

 サブマシンガンに仕込んだ炸炎丸――僅かな火種で炸裂し、周囲の酸素を灼く握り拳サイズの錬金術製丸薬――が、狙い通り、連中の弾幕によって着火したのだ。

 月城家使用人の正規武装ではない、私が裏で独自に入手した物で、携帯運用は難しいが、その分強力……こちらにまで、少々火の手が届いたが、まあいい。

 このまま同僚を連れて、皆と合流せねば。


「……、なんで、あんな……」


 抱えられた同僚は、傷が痛むのか、意識が遠退いているのか、途切れ途切れの掠れた口調。

 俯いてるから表情は伺えないが、覗き込むと発汗が診られ、頬も少し赤い気がする。

 或いは、傷口から発熱し始めているのかも知れない。


「……喋るな、傷に障る」

「……年上に、……なま、いき」


 嘆息。

 どうしろと――人を抱えながら通路の曲がり角を二度抜け、考える。

 視界に映る通路は直線。

 その先から新手が現れても不思議ではない。

 それに加え、先の連中があれで生き残っていたら、前方と後方で挟撃されるだろう。

 逃げ場は無い。

 同僚を抱えながらの対応も至難。

 そもいい加減、腕が疲れ始めてきた。


 など、内心で冷や汗をかいていた直ぐ後。

 通路が直線から、緩やかなカーブに移った時。



 そこに、少年が居た。


 ひどくボサボサな薄い紫の髪に、同色の、邪気を感じさせない幼めな瞳を丸めて、こちらを視ていた。

 服装は、あの連中とはまるで違っッ――


「――っ?!」


 息を呑む。

 くすんだ色合いの、四肢を覆うサイズの外套にこびり付いた、赤黒い多量の染色。

 同じく、刀身を赤黒く染めた、一振りの剣……


 そして、少年の足元に転がる――


 大多数の血塗れた襲撃者達の姿。


 ――なんだ、これは。

 あまりに馬鹿馬鹿しい光景に、腕の中の同僚を落としかけた。

 唇は乾燥したように、引きつって動かない。


 ――これは、こいつは、剣で?

 独りで、重火器で武装した集団を――有り得ない。


「――誰?」


 十メートルは離れていた少年は、いつの間にか、眼前で赤黒い剣を突き付けていた。

 有り得ない。

 私は、少年から目を離さなかったのに……


 こいつは、此では、まるで――


「……キミ達は、誰」



 彼の、衛宮家の様ではないか――

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