舌戦
それはそれは、世にも稀な光景だろう。
見かけ、抱きしめて頬擦りしたくなるような愛らしい女の子が、
軍勢も竜も都市も、片手を振るう程度の手間でなぎ払える、人間の形をした災禍に――喧嘩を売るというのは。
「なんだ、テメぇ。見逃してやるッつーてんのに、わざわざ殺してください宣言か?」
「ふん。できるものならさっさとやってみるが良い、負け犬」
「……ン、だとォ?」
予測もしてなかったろう単語に、面食らった様子で言葉を詰まらせる場の支配者。害意を持つだけで、他を威圧する異常。異能力者。
「出来もしない事を吠えるな。程度が知れるぞ、貴様より力の無い者を虐殺するしか能がないゲス畜生」
「……調子こイてンじゃねェぞ糞餓鬼。テメェなんぞ、この場じゃ神器使って防ぐ以外に使い道ねェ癖に」
「……くく」
嘲るような笑い。
さっきまでの、奴と同質でいて微妙にズレた表情だろう燐音様の零した声。
燐音様の発言罵倒一つ一つに場の緊張、圧迫感は水増しされていくが、何故か不思議な安心感というか、悪くはない何かがある。
だが、挑発している意図は不明。少なくとも、私にはわからない。
よって、この場の誰もがわかってないだろうと断言する。
警戒は怠らず、ちらっと横目で確認すると、口をへの字に曲げて静観する衛宮の餓鬼、あんぐりと間抜け面を晒す司と錬金術師。されども病人というよりは死人に近い少女を移送する簡易担架を落とさないのは賞賛に値するかも知れない。
そう言えば、あの露出した霊体はどこに消えたのか……消えたのか。成仏だろうと消滅だろうとどうでもいいが、燐音様が哀しまれるのはいただけない。精々に生きていることを適当に祈って忘れておこうどうでもいい。
どうでもいいついでに、傍らに伏す雨衣と泉水 舞は頭でも打って気絶したか、コレといった――雨衣の方は義腕が無くなってはいるものの――外傷は無いようだが、最初から気絶していたシェリーと一緒くたにピクリとも動かない。役立たず共め。
まあこの状況下で起きていたとて役にたっていたか――論ずるまでもないか。いざとなれば、見捨てる他無い。最優先は、燐音様だ。
「……何、笑ってンだ」
私に言ったのか糞餓鬼。と視線を戻すが、異様な白い目の先を辿ると、さらに赦せない事に燐音様にほざいた様だ、このク(閲覧禁止)。
「何故、負け犬と言われたと思う?」
私の意図諸ともに気にくわない、とでも言外に語るように、おぞましい圧力を放つ異常に対し、燐音様は不適で不敵な挑発を続ける。
「あァ?」
「いや、失言だったな。わざわざ問うまでもない――唯の、分かりきった事実だからな」
――因みに、戦争の影で暗躍していたこの白い異能力者は、異能力に『至った』ばかりのヴェルザンドの蒼魔、マグナ=メリアルスに敗北したことは、記録に新しい。
それをどうとったか。少なくとも、好意的にとらなかった事は確実なようで、表情を完全に消した奴が、そのまま腕を伸ばし――同時に、私は燐音様を抱えたまま、身を逸らすと。
発光。
一瞬前まで体が在った空間が、通常の法則からは外れた異常によって灼かれる音。
木造の床が、焼却を通り越して蒸発する音だ。
燐音様を狙った弾道が代わりを灼いた音だ。
燐音様を狙った…………上等だ、陵殺してやるぞこの糞(閲覧禁止)……
「――そう云えば先程、銃撃のベクトルの余りを放出したと語ったが」
災害じみた白焔が間近を通り過ぎたというのに、気にした様子も無く、嘲るような変わらぬ声音を淡々と続ける我らが主、燐音様。
「――灼いたベクトルはある程度の蓄積が可能。だが別に、わざわざ攻撃を受けた際のベクトルを瞬間的に流用させずとも――貴様は、風の流れや重力からくるベクトルという、灼いて白焔に変換するエネルギー源を、常に得ている。だろう? そこら辺は情報がぼかされていたんだが、ちょっとした知識を基に頭を捻れば、馬鹿でも直ぐ解る事だな」
「……なンの事だか」
「……くく、まあ己の能力概要が他者に知られ、良い事はと云えば、戦意の喪失くらいしか無い。後はデメリットだらけだ」
「…………関係ねェな」
鼻で笑いながらも、威圧感は微塵も緩めない。燐音様以外の誰もが口を挟めない程に、挑発への不快感が透けて見える。
「オレの力は知ってンだろ? ベクトル焼却……刃物も銃弾も、竜の吐息も、衛宮の拳も――体中に張り巡らした白焔が、ベクトルを灼きゃア届きャしねぇんだよ。それをどぉォやって智恵捻くればどうかなるってんだぁ? なァ、智恵の国守サマよォ!」
挑発に乗り、知ってか知らずか場の支配権を明け渡す異能力者。
挑発に乗る必要など無い。
奴からすれば、さっさと目的を――ミカナ メグリ(偽名)の回収を果たせば良い。それを直接止める術など無い……というに、何故だ?
何故に奴は、ああも、口元を引きつらせながらも辛抱強く……先程の白焔も、辛うじて燐音様の急所を避けた所を貫くコースだったが……
――何故コイツは、本気で我々を――燐音様を殺そうとしていない?
「そうだな。例えば、貴様の母――雪深 春那は、どうやって殺された?」
私の思案をよそに、挑発を続ける燐音様。それに奴の引きつったような笑みが、固まった。
――西の神器・聖剣エクスカリバー。
その保持適格者にして、当時、異端審問部最強と謳われた剣聖は、白雪の焔を、討ち取った者。
先天的より、遥かに強力な後天的異能力者であった白雪の焔は、異能力者でもなくば能力者でも錬金術師でもない、神器を持っただけの、只の人間に敗北した。
その事実から発展した、推測。
――ベクトルを灼くという異常は――異能力は、神器には適応されない。
その推測を――燐音様は、細かくゆっくりと、脳に浸透するように詳しく、説明した。
暗黙の了解で解りきっていた法則を、論理的に一つ一つ。
――それが終わる頃になって漸く、私は燐音様の意図を、おおよそながらに理解した。
――ご主人……っ! 何をやろうとしてんですか!?
喉から吐きかけた言葉は、カラカラに渇いたように何も出ない。
正直、絶叫しながら逃げたい。
天災に遭遇した時、竜巻や地割れが眼前に迫った時、通常の人間ならばそうする、というかそうなるしかない。
誰だって、人間、動物に魔物に錬金術師――みな等しく、わけの解らないモノは恐ろしい。
大小の差はあれど、理性的や感情的どうこうでなく、生物としての本能的にだ。
ましてそれが、自分自身を死に追いやる事が出来そるモノなら、尚更だ。
災害に見舞われたなら、まず先に自分の身の安全を計る。そこに、他者を助けるだの庇うだのどうこうするとかいう余裕は、無い。
まずは本能的な保身。
それが、生物として当然の反応だ。
この、西方のサーガルド王国近隣の氷原地帯辺りに、裸で放置されたような精神的寒気をプレゼントしてくれた、"らしい"異能力者の前では、それが適応される状況だというのに――何をやっているんだご主人は!?
異能力者同士――何故か女装した衛宮 鈴葉が居る以上、この場は彼に任せて撤退するのが安牌。
相性は悪くとも、同じ第二世代の異能力者。勝てないまでも、足止め程度は可能なハズ。脇に転がっている能力者を引き渡せとか、そういう餌も在った。
とかく、逃げるなり煙に捲くなりする方法は在った筈だ。実際、メイド長も異能力者という猛獣に餌を投げようとしていた。逃げる場合、動けない少年少女は放置する事になるが、仕方のない犠牲だ。
僕――もとい、燐音様や僕ら諸ともに死ぬよりは、彼らとしても本望だろう。
なのに、なのに――
「……で?」
「ん、以上だ。理解できたか――いや、できていなかったら此方の落ち度だ。犬畜生に、理論展開を聞かせた所で理解できよう筈もないからな。フハハハハハハハ!」
「……随分と舌が回るじゃねェか? ナンっだアレか、智識の国守サマッてぇノは、首から上だけ他のトコの分回して発達しテんのかあ゛?」
「首から上も全く成長する余地が無いと本能で気付いているとは云え、僻むなよ――吼えるしか能がない負け犬」
――何でさっきから挑発してんのこの人オオオオオオオォッ!?
脳内で絶叫。
しかし声には出さない。出せない。例えば、何かしらの刺激を感じたならば閉じるだろう、魔獣の口の中に頭突っ込んだとして。
そんな状況下で、声を発せるまともな人間がどこにいる?
目の前にいるような気がするのはきっと気のせいだと思い込んでおきたい。そんな自分は、自分の命が一番可愛い多数派。
しかし、ご主人はどう考えても少数派。例え自分にリスクが架かろうと、荷を下ろさない。大愚は大賢に似たり……か。
あれ、逆だったかな?
まあそれは兎の角、と書いて兎に角、命は惜しい。 まだ、まだアレもコレも研究が足りない、K・モデルもまだ開発してない。
それに、死ぬ時は研究中の事故と決めている。
だからこそ……脅えている場合ではない。
頭を回せ僕。生き残って、日陰でこそこそ研究する為に。
大賢と大愚を合わせ保つご主人のする事だ……意味は有る、筈。
矛先をずらすでもなく挑発して、目線を自分に向けさせる。指先一つ動かす要領で自分を殺せる異常に、ヤタノカガミを保持しているとはいえ、気軽に使えるモノじゃないというのに。挑発、よりにもよって精神が不安定な異能力者に………………
…………待てよ、待てよ待てよ……不安定、異能力者、異能力=精神……まさかまさかッ…………そういうことなのか?!
――異能力は、詳しい事はまるで解ってないが、異能力者の精神と密接な繋がりを保つという。
そも異能力とは、異能力者の始祖に当たる後天的に至った異能力者の真相心理を色濃く移し、疑似具現したモノ、とされる説も有る程に、異能力者にとって自らの精神状態は重要だ。それを巧いこと乱す事ができれば、異能力の精度もおちる可能性がある――が同時に、
「……テメェ、それ以上口開いたら、潰すゾ?」
異能力が暴走・暴発する可能性が、飛躍的に上がるという事。流石に其処までは往かずとも、確実に、機嫌が悪くなる。
通常の人間とは違う錬金術師でも、辺境の能力者でも、人格破綻者であろうと、その辺は同じだろう。野蛮な喩えを云えば、喧嘩を売られて愉快な奴は極少数。
「だから、出来るものならやってみればいいさ。負け犬――いや、」
つまり挑発は……噴火寸前の火山口の入り口を岩盤で塞ぐ為に爆弾を投げ入れるとか、村を襲撃する竜種族を追い払おうと投石するとか、そういうレベルの無茶だ。
失敗したら、辺り一帯を巻き込み、自分も周りも確実に死ぬ。
そんな事を把握していないご主人ではないだろう。
「――今は、首輪の付いた飼い犬か?」
「………………」
――『飼い犬』……その、かなり意味有り気な単語に、怒りに引き吊らせていた表情を凍らせる異能力者。
ご主人、あなた一体、どこまで深く読んでるんでスか?
「それはさて置き、異能力者よ……そこに転がる、俺様のメイドの名を知っているか?」
と、唐突に話題を変換させ、少年少女たちが転がる一点を指差すご主人。できれば、視点を此方に移すような真似は控えて貰いたいンですが。その白いのの視線、一瞥だけでも真面目に恐いから。衛宮の女装少年がコッチにいるから防いではくれるだろうけど、恐いは恐い。
「知らねェな、人間の名なんぞ」
「シェリー=アズラエルという――元、異端審問官の娘だ」
「――な、……に?」
再びご主人に白い視線を戻した白い異様は、僅かに口元を引きつらせた。
「異端審問部――貴様ら、異端者とも呼ばれる異能力者の天敵……何故、"只の人間"の集団が、そう呼ばれているのか――?」
そこで間を空け、三呼吸分くらいの後。
「それは、構成員である異端審問官全員が、異能力者殺しの典型である神器・聖杯の加護を受ち、異能力をある程度無力化するからに他ならない」
異能力者からすれば、常識以外の何ものでもない事を威圧的に語りながら、ご主人は、そのほっそりとした白い腕を、異能力者に伸ばす。
「――さて、ここで問題だが、」
伸ばした手に握られていたのは、白く、か細い手にはヒドく不似合いな――黒い、玩具みたいな小型拳銃。ご主人の、幼児並みの手のひらにおさまりきるサイズの、異能力者からすれば玩具以外の何物でもない文明の利器を向けながら、
「――聖杯の加護は今、誰が保っていると思う?」
異能力者にとってのみの、天敵の名を口にした。
「……ハッタリだな。てか、本物でも大した効果はねェよ。雑魚異能力者じゃねェンだからな」
返す異能力者も、大した問題ではないと、不敵に笑う。
白濁の焔が、らしい異能力者であるのと同時に、只の異能力者とは一線を画すと言われている理由。
天敵である神器以外、対処対応のできない能力と、並みの異端審問官では弟二世代以上強力な異能力を無力化しきれないというのと――殺す為の、狡猾さ。それで過去、両手両足の指の数を超える異端審問官を抹殺してきたという。
「ンで、その玩具……アレが入ってたトコで、大した弾数無ェだろ? ちゃっちゃと撃ってみろヨ、それとも――」
「誰が、俺様が保っている……と言った?」
余裕の表情に返されたのは、幼い筈なのに全くそう思えない、嘲り笑い。
「人の話はよく聴く事だな。鼻程でなくとも、耳もいいだろう。いや、理解する脳も無いか。犬畜生ではな。悪かったよ、説明の仕方が悪かった。俺様とした事が、流石に頭の程度が違い過ぎる犬畜生に合わせるのはなかなかな」
「………………」
遠回しと見せかけて露骨な罵倒に、白い異能力者が犬歯を剥き出し、嘲笑おうとして失敗したような凄絶な表情になった。気持ちは解る。
「例えば――そこで間抜け面している無精髭錬金術師とか、実は案外キレ者な司辺りがコッソリ狙っていたら、割と不意を突けるだろう?」
コッチに矛先向けないでええええ!?
「……いや、それともやっぱり俺様の、もう一つ隠し持っている小型拳銃に装填してあったり」
か弱い弱者の願いが通じたのか定かではないが、いっそ優し気とさえ錯覚させられる声音のご主人。
「それともそれとも、最初から聖杯の加護なんてものは無く、我が下僕たる鈴葉が、再び貴様に飛びかかる機会を伺わせていたり」
白い異能力者が、視線だけ周囲を巡らせる。
……いや、何ていうか、
「いやいやそれともだ、やっぱり全部が全部ブラフ、ハッタリで、俺様の手駒がコッソリ帝国最強の国守にこの現場を報告しに向かわせる為の、只の時間稼ぎだったりするのも有りだ」
機先を制するように、ゆったりと先を続けるご主人の発言に、異能力者は目を大きく見開いた。そして腕を動かそうとして――
「――果ては、それさえもやっぱりハッタリで、時間が無いと焦らせ、俺様の後ろに立つメイド長が、聖杯の加護製の物で貴様の頭を飛ばそうとしているのやも知れない」
………………何て云うかさ。
「…………テメェ……」
「いやいや、それともそれとも――それら全ては今思いついた嘘っパチで、貴様を煙に撒こうとしている。さあーてその反対側として、実は全て本当で、サッサと逃げる時間すらもう既に無い…………さぁ、」
なんて云うか、この人に喋らせるべきじゃなかったね……異能力者。
「――どれが、本当だと思う? 親切に、犬畜生にも分かり易く説明してやった状況だ……解るよなぁ、……負け犬?」
大胆や不敵を通り越し、脇目で観る僕ですら、いけない嗜好に開眼しそうなほどのサディスティックに笑うご主人。
その表情が語る通り……空気は、流れはコッチに向いている。
――ご主人は、どういう段階でか知らないが、幾ら挑発しても自分や誰かが殺されはしない事を――雪深 冬夜に、誰かを、特定個人か不特定かまでは分からないが、殺してはいけないという枷がある事を、途中に中途半端に威力を絞った砲撃を受けて尚、確信していたようだった。
その条件下ならば、大規模破壊に特化した異能力をあまり使用せず、力の誇示と脅しに努めていたのも合点はいく。
そして、相手が大規模破壊や虐殺などの得意技ができない事を利用し、罵倒して挑発して口車に乗せ――その過程で我々に、確保の手順を堂々と、そして多岐に渡る手順をハッタリ交えて語る事で選択肢を増やし……相手の混乱をも誘う。
とっさに思いついただろう策……流石はご主人。最悪だ。この人の口車に乗ってしまったら、もうアウト。つまりこれは――
「さぁ、どうした異能力者。随分と険しい顔をしているではないか」
「………………流石、最年少で神器保持適格者は伊達じャねェってか……畜生」
「俺様か、確保対象のメグリか、誰かを殺そうとしていない。だがそのクセ改心したようにも見えん――指示を出した、貴様の飼い主の名は?」
小型拳銃を構えたまま、口先だけで優位に立ったご主人が詰問する。
物理的に軋む音が聞こえても可笑しくない空気。
それに、軽く肩を竦める異能力者。浮かぶ色は……戦場を悦しむ者の、不敵な笑み。
「……口じャ勝てねェらしィからなア、もォ率直に言うわ。名は明かすな、誰コレを死なすな、暴れるな……ッつー指示だがョ」
表情を歪める。薄い唇を片方だけ凄絶に歪めた、笑み。
白い異能力者の、笑み。
「――迎え撃ツ場合だけ、殺戮オッケェだとよ」
「成る程、それで死にたくなければ、殺されたくなければ、黙って能力者を渡せ、と」
「あア」
「盗人猛々しいんだよこの糞野郎」
ナチュラルに一蹴するご主人。はい交渉決裂。
「盗人ッ、ヒャヒャヒャっ、傑作だなぁ! テメェが言うかあ゛、月城燐音ェ?!」
狂笑を浮かべながら、腰を落とし、スタンスを広くとる。どの方位にも対応できるような、素人くさい構え。異能力の概要から考えたら、無駄とは言わないが余り必要な体勢ではない。インドア派の僕にも解る。けれどそういうものなのかも知れない。
異能力者は、強大な異能力を持つ反面、無駄が多い。という。
「……口にしたろう。俺様が言ったのだよ、異能力者」
宣誓するように、戯れ言に近い悪態を吐くご主人。掲げた銃は、そのまま。
「……ヤる気みてぇだな、人間!」
過ぎた異常を保った"らしい"異能力者が、愉悦に歪んだ表情で傲慢を吐く。
「イイぜェ、来いヨ! 神器だろォがカケラだろォが神術だろォが! 所詮ゴミ虫の吐くモンだ!」
異能力者の周囲に、雪のような燐光が――おそらくは異能の焔が――舞う。
「――小賢しい策もゴミ虫の集団も気にクワねぇガキも力のねェ人間も! 纏めてオレ様に踏み潰されるタメにあンだョ! それを、テメェらの死で味合わせて、証明して実感シテやるァア!!」
鬱憤を晴らすように腕を掲げ、振り下ろす。異能力者が――
「――来ィやァ、糞虫共ォ!!」
この場の最強が、口車と罵倒と枷で傷付けられた尊厳と傲慢を取り戻さんと、吼えた。圧力が、不快感が、目眩がする程に跳ね上がる。明確な悪意を保った異能力者の、圧迫。
「……牙は抜けてない様だな、飼い犬」
胃がねじきれそうな圧力の中、幼いながらも――最早色々な意味でそうと思えないが――明朗でいて、妙な頭に浸透するような声が響く。
「上等だ。ただし、思い通りになると夢想するな、白濁の焔。
異能力者のその傲慢、へし折ってくれる」
玩具じみた黒光りを向けながら、小さな体で覇気に溢れた啖呵を返すご主人は、
「――俺様の下僕共がな!」
――そう、身に余り過ぎて押し潰さんばかりの重役を、そりゃもう清々しいまでの力一杯強引に、我々に押し付けた。