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異能力者

 ――辺境の少数民族、能力者には変人が多く。

 

 文明にとけ込んだ錬金術師には、変態が多い。

 

 前者は殆ど外部と接する機会が無いために、部族独自の価値観を発達させるため。

 

 後者は、通常の人間の中で通常の人間とは異質な眼を持つが故に、精神に変調を来しやすいがため。


 それと同じように。或いは、それをより悪化させて。


 ――異能力者には、人格破綻者が多い。



 錬金術師や能力者など問題にならないくらいの単純に強力な力。

 軍勢が動いても、竜種族が牙を剥いても、問題にしない程の力。

 異常な力。

 そんな力を保持して、しかも錬金術師や辺境の能力者以上に制御が緩い――ひどく容易く、普通の人間が指を動かす程度の手間、意識でそんな能力が行使できる、できてしまう存在。

 人間の軍勢を圧倒したという、城程もある巨竜を跡形もなく消滅させたという前例もある。 異能力は、使用者である異能力者の精神と、密接な繋がりがある。さらにとある境界と繋がり、其れを源とする、力。

 それと精神的に、チとニクに魂に、繋がりがあるのが――異能力者。

 故に――ヒドく歪み易い。

 人でありながら、人をかなぐり捨てる者が大多数。

 比較的理性的に力を振るえる現在の衛宮家や、温厚で知られる英雄・マグナ=メリアルス等は、例外にあたる。


 前者が、とある規格外が施した教育によって。

 後者が、至る以前に培った強靭な精神力によって、現行とりあえずは精神の破綻を防いでいる。


 希有な例だ。


 しかしそれ以外、例外を除く大多数の異能力者は、その殆どが天敵である異端審問官によって、異端審問という名目になっていない名目もどきによって抹殺されているだろう。それは少数派とて同じだが、目立つ者と目立たない者の差がある。 あるいは能力を暴走させ、周辺を巻き込んで自滅したか。過ぎた力を持った代償の一つなのか。異端者は、碌な最期を遂げない。


 例えば、砂漠に聳える小国を地図から抹消したという、熱砂の常闇。

 例えば、とある大規模な教団組織を、山脈共々に根絶やした暁光の使徒。

 例えば、竜種族の一つである彗竜を絶滅に追いやったとされる告死の風。

 そして、異能力者の天敵である異端審問官を殺戮し、戦争で敵味方を問わず虐殺した白雪の焔(ディープ・スノゥ)


 ――以上一人と余さず、暴走した末に異能力者殺しの代名詞でもある神器で抹殺された異能力者の代表例だ。


 一番最近なのは、西方の神器・聖剣で刺し殺された白雪の焔(ディープ・スノゥ)――雪深 春那(ユキミハルナ

 雪深 春那には一人だけ息子がいた。

 ――後天的異能力者の力を継いだ、先天的異能力者である、息子が。

 ――自身も異端審問官を殺害し、幾つもの村を潰し町を灼き、民間人とそうでない者を問わず殺戮した、虐殺者。

 親の二つ名と当人の外見的特徴及び、継承遺伝した異能力の在りようから、白濁の焔(ディープ・ホワイト)と呼ばれる異能力者であり、終戦の英雄であるマグナ=メリアルスと因縁浅からぬ少年。


 雪深 冬夜もまた、近年出現した異能力者'らしい'、狂人である。


 その異能力、真偽の程は定かではないが、裏の情報網ではひどく有名だ。

 全身に薄く、或いは厚く纏った、雪のように白い異能の焔――其れが灼くのは……ベクトル。

 彼の、全てを灰に変え、灰から何かを創るヴェルザンドの蒼魔の蒼炎とは違う、物質ではなく法則を燃やし、灰を遺さず、燃やしたベクトルを異能の焔に変換し、光の速さで放出する力。

 言葉にすればそれだけの力。


 だが、全ての概念にはベクトルが――指向性が存在する。

 斬る、殴打、撃つ、練成、果ては物質ではない火や水、異能力ですら、流れというベクトルが存在する。

 それが一切通らず、逆利用されるという異常。

 この異常の前には、どのような物理的殺傷力も通用せず、ただ一方的に蹂躙され、殺戮されるのみ。

 竜であろうと、人間であろうと、異能力者であろうと。

 人間が打倒も対抗もできない、ただ通り道に蹂躙された痕が遺るだけ……『災害』とは、そういうものだ。


 だから、雨衣のやってしまった行為――銃撃――は、『災害』に自ら飛び込むようなもの。

 未知の、或いは濃密な死の恐怖にかられ、錯乱状態に陥ったが故の自殺行為。

 その結果。

 九咲 雨衣と、とっさに間に入った泉水 舞が、倒れた。致死ではないが、倒された。


 ――直後。


 誰かの小さな悲鳴と――裂帛の怒号が、響く。


「ッっぁあ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 吼えたのは、災害と同じ先天的異能力者――どういうわけか人格が変容した、衛宮 鈴葉。

 余計な荷物(メグリ)を放り投げ、渾身の踏み込みによる、突きか蹴りか、少なくとも私の動体視力を遙かに超えた、嘲笑う災害への、背筋が凍るような突貫。


 ――まさか、知らない、のか。奴を!?


 多分に間違ってないだろう仮定と、眼前の光景に青ざめ静止を叫ぶ間もなく、結果が――目が眩む程の膨大な白光が、場に満ちた。


「――は」


 嘲る声が、眩んだ視界の向こうで聞こえる。


「衛宮の血筋、辺りか? さァて、衛宮に女は居なかった気がしたがよォ」


 眩みから正常になりつつある視界の先。

 白い災害が、愉快そうに頭を掻きながら独りごちる。その足元には、


「――鈴葉!?」


 私の胸でもがく燐音様が、肩まで灼け、火傷が露出した肩を押さえ膝をつく、衛宮 鈴葉を呼ぶ。


「……お、まえ…………っ!」

「睨んでんじゃねぇよ。加減してヤったんだからよォ」


 歯軋りでも聞こえてきそうな声と、高みから見下す者の声。

 両者の優劣が、明暗が、一瞬にしてくっきり分かたれた模様。


 ――衛宮の血筋に継承された異能力は、常軌を逸した身体能力・機能全般。銃弾を弾き返す皮膚に、拳圧だけで岩山を吹き飛ばす筋力、そして自己治癒力や体力脚力動体視力。生物が持っている全機能を極限まで、竜種族を凌ぐ程に強化したような、異常。

 それに対する雪深 冬夜の異常は、ベクトル焼却と放出。

 人間からはかけ離れた、白い焔の異能力……それを除けば、先に挙げた全ての点で衛宮の異常の足元にも及ばない能力値しかないだろう。

 だが、一芸――その一芸との相性が、最悪なのだ。

 衛宮は、圧倒的な(ベクトル)を、何の変哲もない殴打や衝撃波を相手に叩きつけるという――基本的性能が異常なために、小細工は不要。シンプルで率直を是とする。

 だが……それが、全て無力化され、拳や脚を突き出すと同時に変換され跳ね返されたら――?

 竜でも傷つける事ができるかという頑丈さと身体能力を誇る衛宮が、膝を屈している事が証明。

 その結果……

 同じ先天的異能力者といえど……相性が悪過ぎる。


 勝てない。

 ならさて……こちらにも注意は向けられてはいるが……隙を窺い、せめて燐音様だけでも連れて――


「――加減……と、いったな」

「あァ?」


 私諸ともに敵の機先を削ぐ、燐音様の声に、災害の視線が完全に此方に向いた。 

 ――テメェ糞餓鬼が私の燐音様をじろじろと見てんじゃねぇよ汚れるだろうがその白目抉り潰――げふんごふ、いかんいかん。嫉妬と憎悪が溜まり過ぎていたせいか、タガが外れかけてきている。自重せねば。


「……ああ、成程」


 燐音様を汚い目で眺め、何かを納得したように何度か頷く災害。


「月城 燐音か。は、マジで居やがった」

「……ほう」

「神器持ちとはなるたけヤりたくねぇからな……ソコの、」


 張り詰めた空気を気にする様子も無く。ある方向を顎でしゃくり、要求とも吐露ともつかない発言を続ける。


「糞能力者を回収して、あんま暴れる訳にもいかねェし、サッサと帰りてェんだがよォ」


 能力者。言うまでもなく、ミカナ メグリ(偽名)の事だろう。それを回収……こいつ、この組織に属して? だがならば、何故最初から……


「ンでもちっと、見てみてェっつうのもありだ。さっき灼いたのも残ってるしなァ」


 狂人らしく脈絡のない不可解で、不穏な発言。


「――神器で凌が無ェと、」


 淡々とした笑みを浮かべながら、おざなりに素人臭く――素人でもしない無駄の多い動きで、中途に開いた白い手を、此方に――燐音様に、伸ばす。

 一秒と経たず、その腕先に――白い異常が生じた。空間が揺らめき、空気が泡立ち、物理を超えた威圧感が汗腺を破壊する。

 だが異能力者は――神器――と言った。納得はできないが、起こる事を把握。燐音様が、動こうとした衛宮の名を叫び、止める。私に声が掛からないのは、指示を出すまでもないから。

 内心の反射を止める。下手に動く方が危険と、把握した予測に基づき、位置を固定。燐音様の期待。裏切る訳にはいかない。


「逝くぜ?」


 異能力者の宣告と共に――軍勢を灼き払う焔が振動し――縮み縮小し、同時に、


「ヤタノカガミ」


 燐音様が、その白く細い小さな手を伸ばし、朗々と言霊を紡いだ。

 燐光を放つ円形の後ろ姿。言霊に応じた神器――霊鏡・ヤタノカガミが、燐音様の腕の先から空間を揺らし、具現化する。

 異能力者が、災害が、顔を歪めて嘲笑い――塗り潰すような白を、光の速さで吐き出した。


 交錯。吸い込まれるように、ヤタノカガミと衝突。


 刹那。脆い硝子が崩落するような、小さな音。


 発光が、夜間でランプが消えたように、瞬時に収まる。

 霊鏡・ヤタノカガミ――神器に衝突した異能力は、圧倒的な破壊と災厄の根幹は、最初から存在していなかったように、役目を終えたヤタノカガミ共々に消えていた。


「――ッヒャァハッハハハハハハハハ!!」


 狂った者特有の濁った目で、外聞を考えず笑う。

 歪みきった顔で、歪みきった生の感情を曝した、笑い。自分の厄災を無に帰した事実に満足したように、災害が嗤う。


「ーッダよなァ! 神器は、異能力者(オレら)の天敵は、そうじゃなきゃよオ!」


 確認したような絶叫に、その高揚した威圧に、燐音様が荒い息を吐く。飛びかかろうとした衛宮 鈴葉が、能力も知らないだろう相手から、反射的に距離をとる。

 ――異様な重圧。異能力者の、悪意。

 そういった事に耐性がある私は兎角、並みの人間ならば、立っている事すら、呼吸する事すら辛いだろう。並みでない人間の錬金術師と司ですら、マトモな身動きがとれていない。この、天敵と遭遇した小動物が感じるような息苦しさ。生理的な膠着から抜け出すには、先程の雨衣や泉水 舞、衛宮のような、それを上回る突発的情動か――私や燐音様のように、精神力で打ち克つかだ。


「さぁて、ンじゃあさっさと糞能力者を渡してもらおぉか」


 ――状況は、頗る悪い。


 ヤタノカガミは燐音様自身の消耗が激しい上、修復も完全ではない。

 衛宮では相性上勝てないし、我々でも同一。というかそれ以前の問題として、私以外威圧で動けない。

 対する相手は――指先を動かす程度の感覚で、私達を抹消できる。


 というか災害を相手に、逃げる以上の対応は無い。

 だが、それすら至難。

 ――行き着いた行き止まりに、苦渋が満ちる。


「……もし、能力者を渡せば、見逃すか。雪深 冬夜」


 一つ嘲るような息を吐く異能力者の、爬虫類じみた視線以外に、咎めるような視線を感じたが、荒い息さめやらぬ燐音様の上昇した体温を感じつつ、無視(スルー)


「あァ……なんかテメェら、潰しちゃいかねェらしいからな。ソイツ渡したら、サッサと逃げりゃいい」


 適当に白い手を振りながら、面倒くさそうに語る異能力者の姿に、確信する。

 ――やはり。

 災害は、交戦の意志を――いや、殺戮をする意志が『今は』無い。

 それが仲間(テゴマ)を巻き込まない為か、それともより根本的に死なせてはマズい人間が居る為かは、先の台詞の信頼性共々未だ不明。だが、先程から威力を絞ったような事ばかり――まだこのボロ屋敷が原型を留めている程度の――していたから、手持ちの情報とギャップを感じていた。

 殺戮を快楽とするような狂人が、何故手加減をしている?

 勿論、目立ってはいけないというのはアリだろう。有象無象など歯牙にも掻けぬ異能力者でも、勝てない男が、少なくとも一人、この帝国に居る。

 だが、それだけか――?

 それだけならば、逃げれば良いだけの事。他の理由――大規模破壊に巻き込んではいけない者がいたから、とか。

 ――目的。能力者の回収……それだけか? 

 目的が在るから、そもこの場に現れた。

 疑問の余地は残る目的、確定情報は……やはり回収。

 目的があるなら、それを果たせば此処に居る意味などない。

 だが……猛獣が、連れ去られた我が子を手元に帰されたからといって、猛獣から見逃される保証は無い。最早これは、降伏に近い。だが、これ以外に手は――


「却下、だ」


 否を示し、明確な怒りを訴える声は、すぐ傍で響いた。


「あァ?」

「災害、暴力の白、屈しようがない異常……そう呼ばれるだけの業を重ねてきた虐殺者」


 俯いて荒い息を吐いていた燐音様は、顔を上げ――表情が見えないのが極めて残念――続ける。


「――自惚れてんじゃねぇぞ、雪深 冬夜(クソヤロウ)

「……はっ」


 唐突に発せられた、罵倒以外に受けとりようが無い発言に、燐音様の情報を――虚弱体質持ちである事を知っているだろう異能力者は、初めて余裕や喜悦、狂気以外の要因で、口元を引きつらせた。

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