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目が覚めたら、

 どうも。

 最近、好きな女の子に女装を強要され、メイドさんとして服従を強いられているものです。


 ――いや、賭けに負けたわたしが悪いんだけどね。

 しかし、罰ゲームの相殺を狙って再び賭けに挑んだわたしは、きっと錯乱状態に陥っていたのだろうと思う。

 彼女に、わたしのような凡人が知能戦を挑むのは、子供が自作した剣で、腹ペコのドラゴンさんにケンカを要求するくらいに無謀なこと。


 例えそれが、直前まで彼女がルールも知らなかった将棋という、チェスと似て非なる磐上戯でも――ワンサイドゲームと化すのは、道理なのに……


……そして、女装した上での追加罰ゲーム。

 メイドさんとして鍛えられ、働かされるという内容だったけど。

 一体、どの様な超多角的自己中解釈を重ねれば、戦闘訓練という名目で、血に飢えた魔物さん達の直中に放り込まれるのか考え倦ねる今日この頃。  


「ヘルハウンドの大群と、アクシデントで襲来して来たワイヴァーンとを素手で挽き肉にした奴が考える事か?」

「……なんで、考えてる事がわかったのさ。月城」


 月城は、二重の大きな目を細め、口元を悪っぽい笑みの形に歪めました。


「貴様の考え事など、分かり易く顔面に露出している見世物だろうが」


 が〜ん……


 今明かされた驚愕の真相。

 打ちひしがれたわたしは、見知らぬ一室の埃ひとつ無い綺麗なフローリングに膝を着けます。

 ――という事は、わたしの、あなたに対する気持ちも……?



「さてな。知っているという事と、知らされるという事は、似て非なるもの。

同様に、其処に至る過程が異なれば、行き着く結果さえ異なって往くだろう。

そもそも歴史を紐解いて視ても――」



 わかんない。

 一つ年下とは信じられない想い人の言ってる事がまるで理解できない。

 その一方で、彼女の方には、わたしの殆どが思考や性格、行動パターン等――筒抜けであるという。あまりに認め難く、信じたくない現実に、わたしは絶望してうなだれます。

 間近で見る、床下の素材は、わたしの知る帝国では、とんと見ない澄んだ色合いで……



「……ところで、ここ、どこ?」

中央国(ヴェルザンド)のホテル・ノルニールだ」


 成る程。

 それで月城は旅人風のマントを羽織って――



 ――拝啓、

 お兄さん。目が覚めると、其処は異国のスィート・ルームでした。



………月城さん説明を要求します。


「ここでか」


 てか何その微妙に嫌そうな声。


「早急に」

「却下だ」


 にべもないね。

 アア、わたしの人権は何処に……?



「……地べたに突っ伏してすすり泣くな。常識を考えろ」


 人に女装させてそのまま他国にまで拉致って来た君にだけは常識を問われたくないよ!

 と、恨まし気な目で月城に語ります。

 思考が読まれるのって、こういう時に便利だなぁー。


「単細胞が」


……鈴葉です。

 好きな女の子は、わたしをいじめる時、とても生き生きとしてて楽しそうにしているとです。


「ああ、貴様がそう哀れで惨めな顔をしてるのを見ると、こう……胸の奥が穏やかに、健やかになっていく気がするのだ」

「なにその病的見解?!」


 わたしの悲痛な絶叫にも、月城は堪えた様子もなく、只曖昧に邪笑するだけ…


「それよりいい加減、さっさとその見苦しい様を直せ、下僕」


……しぶしぶと同意します。

 この様な望まぬエプロンドレス姿のまま、惨めな格好で好きな女の子に呆れた目で観られて平気で居られる男は、頭がアレな人くらいかと。


「――でも、説明くらいはしてよ」


 移動手段は、帝国ー中央国間で繋がれている錬金列車だろうけど、何故眠らせている間に。

 私の当然の問い掛けに、月城は淡々として。


「事後承諾って知ってるか?」

「最悪の返答だねっ!?」


 何?

 事前に説明してもどうせ嫌がるからさっさと連れてきて否応無しにしてしまおうと?!



「ちなみに、貴様の父も許可している。死なない程度にならこき使って良いとな」

「おとうさんがっ?!」


 な、なんで!?

 あの、厳格で豪放磊落な性格を装うのが得意な、遊び人にして、帝国の守護神なおとうさんが!?



「なんか、

未来のお前の嫁さんに、ここいらで得点を稼いどくのも良いんじゃね? ま、ヘタレはヘタレなりに気張れや――

と貴様に言っていたぞ」

「なんで当人置いてきぼりで一番言っちゃいけない人になんて言付けしてんだあのオッサンはあああああぁァぁァっ!!?」


――慟哭にも近い、魂の絶叫(ツッコミ)……

――終わった。阿呆な父親のせいで知られた、わたしの初恋終わった…………



 ――絶望の余り、崩れ落ちて灰になったわたしの肩に、誰かが。


「――鈴葉」


 穏やかな優しい少女の声に、わたしは、涙と鼻水でグチャグチャの面を挙げた。


「……つきしろぉぉ…」


 わたしの八分泣き声に、月城は、書物で伝えられる天使さまの様な慈悲深い微笑みを浮かべて……



「――そんな事より、お待ちかねの状況説明といこうか」


 強引に軌道修正(スルー)されました。


 まあ、嫌われてないならいいや――



「まず、貴様は衛宮家の鈴葉ではなく、俺様の身辺警護担当のメイドで、女性だ」


 いきなりツッコミ所満載な……身辺、警護?


 この格好で……?

 いや、それ以前に、女性て。


「中央国に入国する際、パスポートにはそう記入され、そういう事になっている」



……あの〜、それって偽造なんじゃあ…?


「貴様の素性が明るみに出たら、国際問題になるからな。

ぼろを出すなよ」

「り、理不尽だっ!?」



 ――かくして、生まれて初めての他国――強制――訪問では、好きな女の子とおとうさんのおかげで、半ば以上強制的に国際犯罪の片棒を担がされる事に成りました。

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