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衛宮鈴葉の混乱

 ――小さくて柔らかくて細くて良い匂いがして頭の中が白かったり赤かったりダメになりそうな感じあうあうあうあうあー


「……で、なんの真似だ」

「あう、あうあうあうあうあうあうあうあー」

「せめて人の言語で喋れ」


 平坦な声に堂々とした命令口調。極めていつも通りの月城です。本当にありがとうございました。

 ちなみにわたくしめは率直に正気を迷走させている所存にござったりありますゼ?


「しかし意外だな。貴様に抱き付き癖があったとは」


 イヤイヤ、こんなコトあなたサマいがひのオナノコにできよーハズごぜーませんですはい。

 まあそれを何故か実行しちゃってるからぶっ壊れてるデスけど。


「……うそ」

「ほう」


 何故にとうとうのわたしが顔面ファイヤーで意識を焼け切れたの肉体を微動だにパクパク無断を喋る口。意味不明(カオス)


「分かんないけど、月城が泉水さんに言ってたコト……うそが混じってる、と思う」

「……それと、今の状況になんの関係がある」


 何故の成立が会話ですね。思考がはぐはぐで全くなに。興味深いと月城の吐息おいしい。


「月城が、多分それから、辛そうだったから」


……自分の口で喋った内容に頭が冷えてきました。

 体は依然コチコチですが、月城ですそう月城。

 なんか放っとけなくていてもたってもいられなくて、私が後ろからだだだだ抱き締めてる形に。なのですが月城、嫌がってるとかそういう感じには見えないけど、なにか目を見開いて角度的に見えない私を見ようとしていました。


「…………何処がだ」

「な、なんとなく」


 短い、刺すような月城の言葉に、直感か錯覚か、そうとしか言えない。


「……くく、今日といい昨日といい、俺様ともあろうものが、驚きの続く日だ」


 低い笑い声を、なんとなくらしくないと――そうだ、月城らしくないんだ。

 ついでに、チキンな私らしくもない。


「――しかし、くくく……所詮俺様も人の子、か。人の体温とは……――とは……心地いいものだな……」

「……月城?」

「何、ただの感傷だ。気にするな」


 囁くような儚い声。

 月城の華奢すぎる肩を後ろから回す私の手に、月城本人の手が添えられる。それに体を支配する緊張よりも、頭を白濁させる思慕よりも、その時だけは疑問が鎌首をもたげた。でもなんて言ったら……僅かばかりの迷い、それでもととりあえず口を開き――


「……あの、」

「――月城ちゃん、鈴葉が何かへまをしてな、」


 扉が開く小さな音と、途中で凍り付いた横手からの声に、私と月城はほとんど同時に首だけ回れ横。


「…………ごめん」


 即座に引っ込むお兄さんでした。

 さらに先とは違う意味なのか全く違わない意味でかわからないけど、硬直する私の耳にのみ聞こえるような、

「――ワタシの燐音さまニ何してヤガル……クソガキ……?」

 怨念や憎悪、呪詛といった言葉が優しく聞こえる、世の悪意とか奈落の塊みたいな囁きが鼓膜を振動させ、脳がこれ以上の内容や概要、首筋に感じる刺すような痛み等、理解するのを放棄しました。

 声は背後から聞こえる気がしますが振り向きません、てかできません。直視とか無理。


「……静流、何をしている」

「少々お待ち下さいませ燐音様。直ちに塵屑を片しますので」

「止めておけ。コイツの懐はなかなか心地いいんだ」


 ――つつ月城さん?! それは非常に異常に嬉しいというか幸せ過ぎて昇天しそうな勢いなんだけど! この人の、振り向かずとも誰か解るメイド魔王さまの嬉しさキャンセラーというかアンチ幸福オーラで何かが物理的かつ猟奇的に対消滅しそうな香りがプンプンするんですよォォぅっ!!


「………………こ、こちいい……ですか」

「うむ。親しい奴の体温やら心音――」


 魔王メイド長さまの心なし得体の知れないものにふるえるような声に月城が応えていたその時――すわっ?!

 月城が消えた!?


「――なら、これでどうでしょう」


 満悦を表現した声に色々忘れて振り返ると、居ました。相変わらずの長身メイド長さまに抱き抱えられた月城。その表情は月城にしてはあどけない、微妙に状況把握に困っているような表情。

 それにちょっと胸が高鳴ったのは内密です。


「……まぁ、貴様のも悪くは無いが」

「光栄です」


…………いいんですよー、どうせ私なんて……


「おい、なに部屋の隅っこで三角座りしてるか鈴葉。そして静流、今俺様の髪に垂れてる生暖かいのは鼻血か涎かどちらだ」

「両方です」

「拭け」

「御意に」


 ちらりと見れば、片手で月城を抱きかかえ、至福の表情で頬摺りしながら月城の髪についた赤っぽい汚れをハンカチで拭く鼻血垂れ流しメイド長サマと、それに抱きかかえられ、柑橘類を近づけられた猫みたいな微妙な表情をしている月城の姿。


……なんかもうグダグダだぁ。











「――播かれたね」

「ああ」


 少し息をきらした同僚の確認の言葉に、短く答える。

 息を吐く、疲労……というには全く、わざとらしい尾行、というのは逆に神経を使うものだ。



「それにしても誰が本命? 解る?」


 とりあえずの任務は終了した。一応逆尾行を警戒しながら月城家への、人通りまばらな道中。

 ちなみにこの同僚の"解る"、というのは気配を手繰れるかという意味。

 それに関しては、俺の方が秀でているからな。まあこの同僚よりはであり、樹さんや侍女長とは比べるまでもない程度だ。


「……いや、最初から気を張ってはいるのだが、俺では全く解らん。流石本命といったところか」

「……ふーん、誰なんだろうね」

「さてな」


 今回のような重要度が高めな任務の詳細な概要は知らされていない。

 必要無いと、或いは急ぐと判断されたのだろう。ついでに云えば今回のようなケース、俺たちのような末端の人員では、秘匿されている人員を知る権限は無い。


「……あいつ、大丈夫かな、雨衣」

「あいつ?」

「舞……泉水舞だよ。ちょっと話したんだ。バカっぽいし馴れ馴れしいけど、なんか憎めないというか」


 やや高級な通りのタイルを踏みしめる足は止めず、同僚の顔を覗き見た。

 猫のような勝ち気な眦は下がり、伏し目がち。少し、不安定な感じが見て取れた。


「情が移ったのか?」

「……友達、ってさ。仲間とか同僚は居ても、友達ってのは、初めてだったからさ」


 曖昧な表情で首を傾ける、その足は既に止まっていた。

 我々、月城の僕たちは元孤児や奴隷、平民などが多数だ。

 その特性上仲間意識は産まれやすいが、各々の境遇を進んで話す者は滅多にいないし、問い掛ける者はより少数。どうせロクなモノでは無いという、暗黙の認識が成り立っている。それは俺も、この同僚も例外ではない。

 ――親兄弟のいない、敵国生まれの同僚。

 そういった目で見た覚えは無いが、心許ない者も居たであろう事は想像に難しく無い。


「んー……」


 同僚は無理に普段通り明るく振る舞おうとして、失敗したような表情。気を張ってはいるものの、この同僚は身内に酷く甘い。そして存外に繊細だ。


「……なあ雨衣、あいつ大丈夫だよな? 燐音さまだって、なんのかんの言いながらあいつの事気にかけてたし」

「燐音様が?」


……確かに、樹さんも似たような事を言っていた。だが、ならば何故、最適とは云え餌に使ったのだ?

……助かるという保証があるのか、それともそれ自体がハッタリ……?


「……雨衣?」


 黙考していたらしい。同僚が不安定な表情で俺を見ている。

 嘆息。この普段強気というか、そう振る舞っている同僚は、稀に精神が不安定になり、どちらが年長か分からなくなる。


「――確たる保証はできない。けれど、燐音様は貪欲だ」

「……うん」

「あの方は、拾えるモノなら何だって拾う」


 平民だろうと孤児だろうと、貴族だろうと他国の人間だろうと捨駒だろうと。価値を見いだし利用し活用する。決して無駄にはしない。そして無駄な損失を毛嫌いしている。

 そんな人だ。


「現状で敵の情報が誘拐というだけ、直ぐにどうこうされる事は無いだろう。それで足らないなら、信じる……しか在るまい。それに足る主だと、俺は信じている」

「……そりゃあ、雨衣は特にそうだろうね」


 微妙に気は紛れた感じがしたのだが、何故膨れっ面に。


「特に、とは?」

「燐音さま燐音さま、だもん。雨衣は」

「……それは、」


 拗ねたような口調。

 されどその原因が掴めず、返しに詰まる。直後。


「……ロリコン」


……何故そうなる?

 言葉の前後繋がりが読めず、なにやら痛んできた頭を押さえ、そう背丈が変わらない年上の、豚に類似したうめきをたれながらそっぽを向いた同僚の頭を右手で撫でる。これをすればこの口が悪い同僚はなぜか赤面しながら調子を戻す。覚えのある、意外に柔らかい感触――は返ってこなかった。不思議に思うのは一瞬。

 ――そう、義手では当たり前だ。見かけでは生身と変わらないコーティングがされた右腕を見て、再認し、なんだか異様にその腕が重く感じた。


「……雨衣」

「なんだ」

「生意気」


 脊髄反射で返した返答に、そっぽを向いたままいつもの無礼な返し。

 相変わらずの反応。

 だから俺も、いつものように返すコトにした。


「――どうしろと」


 少しだけ、気が抜けたような感じがした。

 直後。

 俺の感覚器官が、危機察知能力が、最大の警鐘を鳴らした。




 ――それは、連中が餌を持ち巣にのこのこ引っ込み、巣を特定した後、オカマが報告と情報交換に向かおうとした時の事だった。

 オレが"風"を広域に巡らせ、広く浅く探知していたから訝った事。


「――アん?」

「どうしたの?」


 振り向き、首を傾げながら問うオカマに、鼻で"ソレ"を匂いながら答える。


「――血の匂いだ」






 月城の家へ向かう道中、何故か私も鶴の一声で動向を要求され、その月城の歩幅に合わせ進む最中の事。というか何しに戻るんだろうと思い始めた頃合。


「燐音様」


 ぶつぶつ小声で何か呟きながら一緒に歩いていた月城家のメイド長、深裂さんが、月城を呼び止めます。


「少々不味いケースが発生しました」


 いつもと変わらないような、けれど何か違和感のある態度でそう告げました。


「なんだ」


 月城の鷹揚な問い掛けに、深裂さんは即答します、

「――九咲雨衣、シェリー=アズラエルの両名も誘拐されたようです。そして現場には、大量の血痕が」

 ――そう、ものすごく意味の解らない事を、淡々と告げました。

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