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お兄さん再び

 ――全人類から見て極々一握りの存在。

 異能力者は、一部の感情を欠落させている。一般には知られていない事。


 例えば、マグナ=メリアルスは自信。


 例えば、衛宮の当主は恐怖心。


 例えば、衛宮鈴葉は――


 何故、異能力者は先天的後天的問わず、精神的な欠落が在るのか。

 それは、超常の能力を行使する代償とも対価とも誓約とも云われている。

 そうであるならば、もし、その欠落が埋められたらば。

 欠落が欠落でないとされたらば、その能力は消失してしまうのか。それとも、


 それは、唐突に湧いた憶測。

 確認できなければ、実証できなければ只の寝言に等しい。そんな願望混じりの憶測。可能性。


 ――俺様は、その答えが知りたい。




「――というわけで、期待しているぞ。下僕よ」

「……いや、何を?」


 月に五回、中央・帝国間を行き来する錬金列車に乗り、ガタタンゴゴトトトンと揺れされる中、間もなく目的地である帝都近隣の駅に到着するという最終アナウンス直後のことです。

 私に膝枕を要求し、小一時間程天使さまがごとき甘美な寝息を惜しげもなくたんの……げふんごほん、吐いていらっしゃり、私の神経をある一定方向に堕落させんと無意識に無邪気で無垢な寝顔をさらしていたさなか、唐突に起き上がりイイ表情でサムズアップし、謎な発言を零す月城。それに私は残念無念さも相まって胡乱な目つきを返します。

 彼女がこんな顔するとき、大概碌なメにあいません。


「良いか? 俺様は王侯連中に事情説明せねばならん」

「まあ、そうだよね」


 その事は錬金列車の中で聞いたんだけどなと首を傾げる。

 私はその当時途中で気絶しちゃったから、月城に曰わく。

 賢人会――賢人たちを狙った、周到で凶悪な犯罪に巻き込まれたらしく、賢人たちは何人か死亡、月城自身も大怪我、メイドさん達も大変な被害を被り、現場の"塔"にもいくばくかの損傷を齎すという、大変な騒動だった、らしいです。

 しかもそれは他国の、それも平和の調停民主国家にして、最強の軍事力、ではなく最強の戦力を保つ、中央国ヴェルザンドだったから問題はさらに深刻だそうで、現場に居た帝国の最重要人、月城による速やかな現場報告が必要なのだ、だそうです。

 場合に依っては、依らなくても多分、そんな事件が起き、要人を巻き込んだ中央に非を問うのでしょう。

 頭のよろしくない私ですら判る政治的思惑ってやつです。月城の受け売りだけどね。


「という訳で、俺様は直々に王室に出向き、説明せねばならん」


 月城は、私が思い返すのを見計らったようなタイミングで語りました。


「はあ、そうなの?」

「面倒かつ不快だが、現在の俺様の責務故に致し方ないのだ」


 やがて到着したらしい列車の出口に歩を進めながら。不遜な無駄の無い口調で、念をおくように月城は私の肩に手を置きました。身長の関係から背伸びしているのがかわいかったり。


「つまり、貴様の家にまで手が廻らん」


……ん?


「よって、貴様の親父と兄は貴様に任せた」

「……へぁ?!」


 ち、ちょっと待って月城!

 そんな大事件の説明と機嫌窺いを、お兄さんとお父さん相手に、私が?!


「――そういう事だ。じゃあな」

「ってちょっとカッコ良く立ち去らないで月城?!」


 開いた扉から片手を挙げ、颯爽と列車のVIP・ルームから、列車の中から駅に出ていく月城。

 それにすがるように追う私の肩に、覚えのある圧力の手が置かれます。

 反射的に縮みあがる私。


「――御帰り、鈴葉」


 すぐ後ろから、隠しきれない冷気を帯びた、何かを押し殺したような声が、私の鼓膜と歯と肩と両腕と両脚と胴とを震わせます。


「…………お、お兄さんっ……」

「帰国早々悪いんだけど、あの事件に巻き込まれた当事者に、色々聞きたい事があるんだ」

「い、いやあのその」


 穏やかな、いつも通りの声なのに、どこか有無を云わせぬ口調のお兄さん。

 チキンな私は、明確なわけもなく口ごもり怯える以外に選択肢はありませんでした。


「まさか、素性を偽っていたとはいえ衛宮の次男坊が、大した役にもたたず、虚弱体質で一つ年下の惚れた女の子より先に気絶して足を引っ張るなんて、幾らなんでもそこまで愚図で無能で役立たずでヘタレで糞以下な愚弟じゃないよねぇ、鈴葉?」

「あうあうあうあうあー」


 その幾らなんでもですごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 だからなんか微笑んでるっぽく襟首つかんでひきづるの止めてえええぇ!?


「さあ帰ろうか。お父さんも旅先で鈍ってるだろ、うはははははーって胴着で待ってるよ」

「胴着、って――、やだーー!? お父さんと組み手やだー!? 児童虐待てか死ぬ、今度こそ殺されちゃう!」


 条件反射で瞼に回想されるは、組み手訓練或いは稽古と称された、骨折流血失神失禁粉砕花畑当たり前の、凄惨な地獄の虐待の日々。

 其処に再度ぶち込んでやるゼアハハーと語る竜殺(ドラゴンスレイヤー)で有名なお兄さんは、半泣きでじたばた暴れる私を万力で掴み放しません。


「ヤダーヤダー!! 殺される?! 親と兄に殺されちゃう誰か助けてええぇ!?」

「はは大袈裟だなあ多分。大丈夫だってきっと」


 しかもなにかうっかり和やかとすらとれる平坦棒読みで私を安心させようと(多分)続けます。


「酒も少ししか入ってないだろうし、二日前に博打でスッた腹いせに私も内臓と首の骨を潰されたけど大丈夫。殺されはしないよ私も死ななかったしギリギリで」


 チキンで無能でヘタレな私などより遥かにお強いお兄さんさまの御言葉は、一ミリたりとも安心できる要素が含まれてませんでした。

 この、こっそりプライドが高く割と短気なアニウエサマ、どう考えても様々な要因――私の体たらくとか阿呆父の所業やらで――怒ってらっしゃいます。


「――てか二日前て絶対まだ機嫌悪いよねソレ! 死ねと言ふのですかおにいさまあああああ!!?」

「鈴葉。あんまり聞き分けがないと、私の方の組み手セットが百八から三百に増えるよ」

「ぃ゛ィぃいやあ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!」


 どうやら既に素手で竜を殴り殺した事で著名なお兄さんとの立ち会いも三桁程織り込まれているという、余りの恐怖に、私は半狂乱全泣きで、絶叫しました。

 暴れる事も喚く事も封鎖された身内からの虐待でズルズル駅内を引きづられるその最中、網膜に映った気がする月城のメイド長さんの嘲り楽しむような、微妙にある種の男前な邪笑は錯覚だと信じたいですはい。

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