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友達

「――網の件だが、」


 ぱちん。軽い音をたて、時折極僅かに揺れるテーブルの上、木製の駒が木製の盤上を進む。

 その駒に触れられた手は、新品の人形か処女雪のように白く、同時にか細い。


「無駄だった。奴らと繋がりの有った有力者共は予定通りに退席させたが、肝心の連中にまんまとな」


 たおやかに、駒を動かした手を戻し、華奢な肩をおどけたように竦める。


 一目見たら網膜に焼き付き逃れられないような、余りに美麗な少女。極上の絹糸のような銀髪が華奢な肩に流され揺れる。青石(サファイア)のような瞳は獲物を狩る猫のように細められ、形の良い唇は片端だけ歪められている。

 退席、と言った。どのような意味合いでの退席だろうか。少女は語らず、その美貌と相俟って静かに冷たい空気を自然に放っていた。


「……ふん、」


 それに相対するは、少女以上に幼く小さな、されど少女と比べても遜色ない、相反する美貌を保つ、絶世のと形容しても誰もが納得する美しさと愛らしさを兼ね揃えた少女。


「厄介な連中だ。ホムンクルスに、木原八雲を抱えた組織……それと繋がりの在る、ハルカと名乗った者」


 ぱちん。相対する少女が自陣の駒を進め、偽悪的な笑みで花の蕾のような唇を歪めた。

 透明で重厚なテーブルがまた揺れる。

 純黒の美しい髪を小さく揺らし、鋭利な刃物のように鋭い黒耀の瞳を、盤上から相対する銀髪の少女に向ける。



 ――銀髪の少女の名はアルマキス=イル=アウレカ。



 ――黒髪の少女の名は月城燐音。



 方や大陸一の大国、中央国(ヴェルザンド)の裏側の知恵であり、方や帝国(ステイト)の知恵の国守。


 共に幼くして常軌を逸した知恵を保つ少女。

 二人は盤上戯を挟み、容姿とは全く違う、華々しさとは無縁の情報交換が続く。


「変貌した木原八雲の詳細はマグナから聞いたが、そのハルカとやらはどんな奴だった?」

「自分の快楽を中心に考えるゲスに思えた。要は単独の愉快犯だな。単体で快楽を追求し、場を掻き回す能力を持っている以上。連中と本格的に繋がっているとは考え辛い」

「衛宮鈴葉が負傷した要因も?」

「ハルカ単体にそれだけの破壊力があるかは確認してない。鈴葉を負傷させ、ナゥスラに致命傷を与えたのは、神器に拮抗した金色の大鎌だ。尤もその大鎌自体は俺様の"ヤタノカガミ"で対消滅させ、抹消に成功させてはいるが"ヤタノカガミ"も駄目に為った」

「ふぅ……む。神器に、ね」

「ああ」


 神器とは、錬金術師によって精製される名ばかりの劣化模造とは異なる、真なるオリハルコンで構成された、それぞれが唯一無二にして最強の武具。

 異能力者ですら破壊不可能。錬金術師ですら理解も錬成も不可能な、未知の絶対不可侵たる貴金属。 有史来、幾度となく暴走する、または反逆する異能力者を打ち破ってきた、現存する伝説。

 大国が幾らか保有している事がわかっているが、その中に大鎌などない。

 それは燐音もアルカも判っている。だが、神器に拮抗する……そんなものは、古き竜の王か後天的異能力者くらいだ。物質ならば……それこそ一つしかない。

 燐音とアルカは、二人揃ってニヤリと人間が曲がった笑みを浮かべる。

 まるで、必要な事は伝えた。よし承ったとばかりの笑み。

 ばちん。木で木を叩く音が、さして広くない、狭いと言ってもいい部屋に木霊する。その中央、二人が挟む大きめなテーブルが小刻みに振動する。二人は気にした様子もない。


「まあいいが、五番目(ナゥスラ)というのはもしや私と同じ容姿をしてた少女か」

「、ああ」


 矛先の変わった話題に、ほんの一瞬だけ燐音の視線が不自然に揺れる。

 感情の操作に長けた友人の、僅かにまろびでたソレに、聡明で目敏いアルカが気付かない筈もないが、僅かに湯気のたつブラックコーヒーをすすりつつ、わざと流した。


「……アイツは、自分も貴様も大元のコピーから外れた存在だと言った」

「ほう」


 自分の素性の真実かもしれない事を友人から告げられても、困惑も呆然も不快感も表さず、アルカが面白そうに笑った。

 それに燐音が数回のまばたきの後、そういう奴だなコイツはとばかりに嘆息した。

 

「それで、会話したんだろう? 個人(パーソナル)に相違点と同一性はどれだけ見られた」

「知識に欲求が集中してる以外、貴様と違って迂闊な奴だよ。口ごもりもすれば泣きもした」 

「泣く?」

「死にたくないと、泣かれた」


 アルカがからかうように肩をすくめた。


「それはまた随分と人間臭いことだ。私と根幹を同じくする同類とは思えん」

「そうだな。貴様より余程好感が持てる」

「好感か。人は自分との同一性、または相違点を持つ者に好意か嫌悪を抱き易い。お前は前者だな」

「確かに、泣いたり妬んだり。そういう素直な所は俺様に無いからな」


 いつもの堂々とした笑みとは違う。少しだけ自嘲を含んだ薄い笑い。


「アイツのそういう所を気に入ったから、使えそうだから手にいれようとした。其処に漠然とした好意……"好き"という感情が挿まれていかった訳ではない」

「お前にそう想われて、そいつも幸せだったんじゃないか?」

「……あんな諦観など、俺様は認めん」


 極小さく、表情を消して瞳に鋭い意志を宿し、憤怒を唾棄する燐音。

 聞き取れない程の囁きに薄い眉を細めるアルカ。

 それに気付いた燐音は何でもないといいながら、誤魔化すように盤上に手を這わせる。


「――王手」

「ふむ」


 隠蔽するように口元に手を当て、感心したように呟く。


「なるほど。将棋とチェスの相違点、ギャップを突き順当に行けばこのまま積みだな。私より僅かに聡い奴ならば、あと五手くらいで読み切る。上手い手だ」

「……解っている癖に賞賛するとは、むしろ嫌みだ」

「お前もよくやる手だろう」

「まあな」


 燐音には解っている。終局まで手を読まれているという事は、対策もあるのだ。アルカならば確実に。

 不機嫌そうに目をそらし……テーブルを支える柱と、目が合った。

 交錯は一瞬。表情を変えず、すぐさま視線を戻す燐音。

 わざとらしく笑うアルカと目を合わせる。


「ん、害虫でも居たかね?」

「いや、哀れな中型犬だ」

「ぃんん゛ーーっ!?!」


 第三者の、悲しげにくぐもった哀愁漂う声が響く。

 外面妖精内面外道の二人は、気にした様子無し。


「所で、例の義腕の事なのだが」

「あの錬金術師を連れて帰るらしいな。本人の了承が有るなら、」

「む゛ーーーー!!!」


 またも違う話題に移行した二人に、テーブル下の人型四脚柱が真っ赤な顔で怒声をあげ、お役目後免とばかりに火事場のなんとやらに二本脚で立ち上がる。無駄に重厚なテーブルと将棋盤がけたたましい音をたてカーペットにぶちまけられる。重い音。

 外見だけはか弱い少女二人に当たらないように立ち上がったのは、無意識以前の習慣か。

 そのまま涎に塗れて湿り変色した猿ぐつわを思い切りむしり取り、ちょっと涙目でアルカ、燐音、アルカの順に視線を当てる。その動きは、イジメっ子を前にしたいじめられっ子が耐えかね、逆ギレしたような感じに見えなくもない。


「何をする。面白い局面だったのに」


 立ち上がったエプロンドレス姿の元土台に、不満そうな目を向けるアルカ。

 口元が引きつり、薄い紫色の瞳に激情がたぎる。


「お・ま・え・らあああああああああ!!!」


 ボサボサな薄い紫色の髪を揺らし、絶叫した。

 燐音は、如何にもおかしそうにわざとらしく眉をひそめる。


「何をそんなに怒っている女装男」

「怒るわぁあああああアアアア!! てゆうか女装男って言うなリンネ!」


 と、燐音を指差して絶叫した後アルカに移す。


「そして何っ時間も無駄にこんなもの着せて重いもの乗せてこの体制で放置しやがってェ! 挙げ句無視したまんま長時間話し込むは将棋を始めるはリンネまで無視するは、お前らどんだけサドスティックなのか!!?」


 そう怒鳴ったのは、普段温厚で草食動物的な少年。何故かどこかの女装メイドと大差無い姿をしたマグナ=メリアルスだ。薄い化粧に、元々の整った童顔。

 ボサボサながらも方向性は見失ってない足し毛だろう長い後ろ髪は真っ赤なリボンで結わえられている。

 体格的にも、男性からすれば細身に近く平均よりやや低めの身長。白を基調としたエプロンドレスと相俟って、可愛いと云わざるおえない女装(デキ)になっている。

 そんな彼は涙目で地団太踏みながらキレていた。

 どれだけ放置されていたのかと燐音は首を傾げる。女装についてはスルーだ。自分とてやらせているし。

 加害者であろう銀髪少女は、不機嫌そうな表情を装った愉し気な感じで可愛らしくなった被害者(マグナ)を見下す。見上げているのに見下す。


「良いじゃないか似合ってるし。マグナのイニシャルは○ゾヒストのMなのだろう?」

「似合ってるとかうれしくないやい! そしておれは○ゾじゃない!」

「誤りがある。俺様は別に貴様を無視した訳じゃない。楽しそうな友人を尊重したのだ」

「人が女装して四つん這いで糞重いテーブルの柱ん成ってたんだぞ?! そこはおれを尊重してくれ!?」

「おい。尊重だと? もう一度勝手に暴走したら当分奴隷だと約束したろう」

「……ぐっ!」


 マグナが呻く。余りの理不尽な拷問に逆上したものの確かに、以前にそんな約束をしているのだ。それを指摘されたら、相対する双方共に年下なハズの銀髪腹黒少女や黒髪謀略少女より余程純粋で馬鹿正直な女装少年は、反論できない。


「……貴様、あのアルカ相手に……正気か?」

「うううううぅぅーー」


 燐音の、合成獣(キメラ)の人体実験希望者を見るような眼差しに何にも言い返せないマグナ。半ば強引に交わされた約束だったし、どえらいメに遭うと読めてもいた。けれど約束は約束と逆らえないマグナは極度のお人好しなのか只の阿呆なのか。


「阿呆め」

「……ううぅ」


 アルカは一言で切り捨てた。

 仰け反るマグナ。


「折角の対局が台無しだ。相応の罰を覚悟しておけよマグナ」

「ぐクくくうウぅぅぅぅ……」

「貴様、やはり○ゾの気が?」

「ち、違!」

「口ごもると、なぁ?」

「うむ」

「な、なに」


 アルカと燐音は類友同士底意地の悪い笑みを浮かべ、頷き合う。言い知れぬ悪寒を感じ、後ずさるマグナ。

 その、得体の知れない怪物に脅える少女のような姿は、終戦の英雄とか中央国(ヴェルザンド)最高位の実力者とかの面影はない。

 というよりそんなものは元からない。


「時に、あの女装は貴様コーディネートか?」

「肯定だ。感想を伺おう」

「似合っている。流石だ」

「……ぐっッ!」


 親指を見せ合う少女二人に、いつの間にか話題の中心になったマグナが、主に心にダメージを受けたように仰け反る。


「しかし当分奴隷の罰とは、思い切った事をする」

「ふ、私としても勢い半分であったのだよ。まさか本気で従うとは思っていなかったが」

「おいコラ」


 流石に聞き捨てならない事を云われていると気付き、致命的に引きつった顔でマグナ。

 燐音と顔を合わせていたアルカは、澄ました顔でマグナを見る。見慣れたマグナからすれば半笑い半爆笑な顔に見えた。


「ん、約束は、約束。だろう?」

「――ぅるぐりゅぁおぉぇおおおおぉおおぉいおおおおぉォォ……?!!」


 その言霊に如何なる意味が有ったのか。マグナは耳まで真っ赤になり奇天烈な絶叫をあげ、再び四つん這いで床に沈む。

 永きに渡る戦争を、半ば力業で止めた英雄は。今、二人の非力な少女に、弁解のしようがないくらい打ちのめされていた。

 悲しみの余りメソメソと擬音じみた幻聴が聴こえかねない感じのする女装少年の肩に、小さな小さな手が置かれた。

 マグナが小動物じみた早さで振り向くと、天使のような微笑みを浮かべた燐音の姿。


「気にするな、マグナ」

「……リンネェェェェ」


 涙目で、母にすがる子供じみた顔をするマグナに、燐音は慈母のような微笑みを湛えたまま、優しい声音で続ける。


「例え、貴様が英雄を隠れ蓑にした女装趣味で被虐趣味で年下の奴隷志望のド変態だろうと、俺様は貴様の友人だぞ?」

「ふっ、照れるではないか」


 表情を凍らせてわなわなと小刻みに震えだしたマグナをほったらかして、どう見ても涼しい無表情で燐音に続いたのはアルカである。何故貴様が照れるのだと燐音が疑問に首を傾げた時。

 ガバッと、半泣きというか九部泣きの面を上げ、


「……、アルカとリンネの、うんこタレェェェェーー!!!」


 年下の少女二人相手に、完全無欠に負け犬な捨て台詞を吐き、脱兎の勢いで退室して行った。

……エプロンドレス姿のまんま。


「……子供か」


 冷たい目で見届け、もし本人(マグナ)が聞いていたら精神に致命的な損傷を与えそうな声音でぼやく燐音。


「やれやれ。あんな格好で何処に逃げるのやら」


 他国ならば兎も角、ここ中央国で英雄・ヴェルザンドの蒼魔の顔を知らない者は極めて少数。あんな格好で外にでも出たら、人伝で囁かれる恐怖とか羨望とか威厳とか尊厳とかが失墜し、明後日の方向に流されるかねない。嘆息しながら呟いたのはその種子(げんいん)を花まで育てた、燐音から見てやや不機嫌そうなアルカ。口元がうっすらざまみろ的な笑みの形に歪んでいるのは言うまでもない。


「貴様……アルカ、何故に怒っている」

「いや、何かあいつが誰かと親しくしているのを見ると腹がたつのだ」

「そうか」


 相変わらず嫉妬深い奴だと肩を竦めた燐音は適当に返す。


 以前。アルカに聴くところによれば、高い戦闘能力と誰彼構わず優しくする性質、悪くはない容姿、更には停戦の英雄という肩書きでやたらと発情した女共が寄ってくるのだとかで、害獸駆除に躍起に為っているらしい。

 貴様も容姿だけは良いんだから言い寄られてるんじゃないかと問うと、虫螻(ムシケラ)に興味は無いという平坦な返答。

 燐音はその時も適当に返した。


「ところで燐音。よもやお前もマグナに手を出そうとしてないだろうな」

「少しはな」


 割と尋常じゃない障気を放出し始めた友人に、臆面もなく地雷に等しい爆雷で返す鋼の精神、月城燐音。


「あれは、私のだぞ」


 声音そのもので人とか呪い殺せそうな狂気を滲ませるアルカ。目なんかは流石に燐音も見る気になれない。


「解っている。貴様に全身全霊で怨まれるのは、幾らマグナの戦力が入るとて割に合わん」


 いつもより心なし言い訳がましく語る燐音。

 友人の性質上、マグナに対する友愛は有っても恋慕ではないだろうと理性が囁き訴え、最終的に打算を働かせて狂気を引っ込めるアルカ。



「……ならいい」

「ん。しかし、どうしたものか」

「まあ、構わんだろう」


 さりげない風に口数少なく語り合い、不気味な表情で何度か頷き合う二人。


「そうか、ならば頼んだ」

「友人の頼みとあらばな」


 手の動き、足の運びに顔の諸々。監視されていようと、聞かれては不味い情報を多種多様な方法で互いに伝え合う。

 この二人ならば可能な事。


「それと、燐音」

「なんだ」

「名前くらい考えてやれ」


 発言の真意を二秒で理解した燐音は、ほんの僅かに驚き目を見開く。まさか冷淡でマグナと燐音以外に興味関心を持たないアルカが思慮を見せるとは。

 それに構わず、アルカは無表情のまま。


「名前は、重要だ。ましてそれが初めて拾い上げた者からの命名ならば尚更」

「……いいだろう。しかし貴様からそのテについて語られるとはな」


 確か、アルカという略称はマグナに名付けられたという。あるいはこいつも重ねているのかも知れん。と燐音は推測した。



「ん、そろそろ時間か」

「そうだな」


 秒刻みに正確な燐音の体内時計が、スケジュール的に差し迫っていると警鐘をならす。

 頭脳方面で燐音とほぼ同等のオーバースペックを持つアルカも同意見のようで、首をミリ単位で上下させ頷いた。


「今日、中央(ここ)を発つんだろう」

「ああ、今度は貴様が帝国に来るがいい。歓迎してやるぞ」

「マグナと一緒になら考慮にいれるが」

「結局それか、引きこもりめ」

「私は研究熱心なだけさ」


 この友人は余程の必要性が無い限り、またはマグナと一緒じゃない限り外出しない。

 同じもやしっ娘でも、見聞を広めるという名目で頻繁に外出する燐音は、嘆息した。



 ――この二人は、よく似ている。


 共に異端じみた知性に精神力、完全記憶能力を持ち、それを生かすように好奇心旺盛。

 身長の低い、華奢な美少女。

 虚弱な体質なれど、独特な存在感。

 身近にいる異能力者。

 不明瞭な出生。

 存在しない両親。


 されど、



 ――(マグナ)が在れば総て不要なアルカ。


 ――(せかい)を欲し、その実何が在らずとも構わない燐音。



 根幹に根ざすものがまるで違う。


 似通っているのに異質。


 同質にして、真逆。


 燐音とアルカは、互いと自己をそう認識し、理解している。


「なあ、」

「ああ」


 しかし、結局は気心の知れた友達(きょうはんしゃ)

 互いに伝えるべき情報は、表情で動作で動きで仕草で尚総て複雑に暗号化しフェイクまで交え、総て言葉以外で伝えた。

 二人以外は理解不可能な、そんな情報交換(やりとり)は、とりあえず終了した。

 どちらが先と言うでもなく、どちら共が同時に不敵に不遜に攻撃的に笑う。

 それは、互いが互いに意志疎通が完全であると、目的も約束も見失ってないという、二人なりの証明であり、確認である。

 

 

 片や、理不尽な法を腐った国を狂った世界をぶち壊す、新たなる支配者たりえんが為に。


 

 片や、愚かな程に優しい少年の為に、世界を調停し少年の傍に居続ける為に。



 相反する目的を持ちながら、共感も友愛もある。


 けれども彼女達は、目的の為に互いが互いを抹消する事も辞さないだろう。

 覚悟と、狂気。執念、渇望。

 それは、どちらかが精神的に崩れればいずれ起こり得る闘争。けれど今は、互いが互いの目的の為に、友人という共犯者であり続ける。互いが互いを利用し合い、高め合う。暴走の抑止力にも。


 理想は、そのままの共存。

 太極で云うところの陰陽のような、空に浮く太陽と月のような、相剋であり相生。

 それは理想。

 いつか些細な破綻で崩れうる砂上の楼閣。

 それが崩れても、自らトドメを刺してでも、目的を。砂上の楼閣を守護しつつ、そんな覚悟を再認し合う。


 

 ――互いの目的達成のために。

 


 火傷しかねない冷たい氷の目と、視線そのもので物質を両断しかねない目が交錯し、やがてどちらからともなく、力を抜く。


「また逢おう」

「ああ、またな」


 目的も過程もどうあれ、少なくとも彼女たちがこの時最後に見せた微笑みは、年相応の、遠く離れた友達を見送り再会を祈る、そんな少女の笑顔だった。

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