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地の底ニ

「――ホムンクルスは、不完全な人工人間……大本の人間自体が不完全な生命体だと云うに、不完全呼ばわりする資格が在るかは――まあ、置いておこう」

「……何をいきなり受信なさっているのですか?」


 唐突に意味不明な講釈らしきを語り始めたアルマキス=イル=アウレカ様に、困惑する皆を代表して突っ込みを入れます。


「まあ聞け。伏線を語らずして、説明役が如何にして勤まろうよ?」


 本格的に意味が解りません。どうやら、本当に受信なさっていらっしゃるようで。


「――というか、あんたが言って良いのか。伏線とか」


 ――雨衣? あなたまで何逝って……何言ってますか?

  私は部下の精神状態を訝り、心配そうに目を向けました。


「……メイド長。私が何をした? なんだ、その殺気だった目は」

 

 失敬な。只少し目玉等を抉ったら治るかなと思っただけです。なのに何です、その脅えに近い目は。

 ――もし、何故に距離をとりますか。微笑みを返しただけなのに。


「不完全故に、欠けた部分を必要とする。死体解剖から解ったのは、臓器に魔物のそれを流用しているという事」

 

 講釈はまだ続いていたらしい。

 何が可笑しいのか、半笑いを浮かべている。


「そして面白い事に、流用された魔物の臓器。その魔物の特性が、移植先のホムンクルスに見られるのだ。例えば、野蛮で凶暴なオーク種のを移植されたホムンクルスは筋力の向上がみられ。飛行の為に無駄な肉をこそぎ落としたハーピュイア種のが流用されたホムンクルスは、体重の軽減が確認されている」

「何ですって?」

 

 それは、聞き捨て成らない情報。

 そういえば、私が最後に仕留めた奴も、異様に頑丈でしたね。頭蓋を飛ばす手応えで、首が折れただけでした。

 銃撃戦の最中には気になりませんでしたが、個体差――それも魔物に属する特性を持っていると。


「ホムンクルスという人工生命自体、個体として薄く、染まり易いのだ。流用された魔物の臓器から、生態情報を吸収できる程に。そも敵対・作戦行動を取れているのも、精製機自体の設定に戦闘・連携パターン、対象服従概念をインプットされ――人工的だが、鳥でいう、刷り込みに近いものを植えられていると推測できる」


 それで、造られたてでも我々に対抗し得る戦闘能力……厄介、いや、尋常ならざる脅威ですね。

 ――しかし、その様な技術が存在して、悪用する者が……或いは、遺失文明器具――オーパーツの解析に……?


「――かくて、錬金術で云う所の"魂"無き出来損ないの肉なる器は、異物に依ってさらなる異形と化す、が……連中も気付いていよう。それだけでは、異能者には勝てんと」


 ――異能者、異端者――数多の人間が銃火器で武装した所でその一人に対抗すら出来ない、常軌を逸した化物……


 それに対し、ある魔物の詳細が頭に浮かんだ。

 

 ――それは、けして人と交わらない。

 それは、銃火器という、魔物に対する絶対的な牙を保ってして尚、揺るがない最強。

 一目見れば誰もが恐怖し、畏怖し、心折られ抵抗する気すら無くす。

 

 圧倒的な存在。


「――まさか」

 

 掠れた声。最初、誰のものか判らなかった。

 私の声が。


「成算は低いだろうが、少数ならば――恐らく、投入してくるだろう」


 ――鋼鉄のゴーレムを砕く顎。

 砦を容易く切り裂き蹂躙する爪。

 対物(アンチマテリアル)ライフルすら弾く鱗。

 蒼空を疾駆する巨大な翼。

 縦に開いた、王者の如き眼光。

 吼えれば大地が震え、息吹は国を灼く。

 人々に無力を植える、圧倒的に巨大で、攻撃的な威容――

 魔物と呼ぶ事さえ疑問視され、神聖視する者すらいる――最強の、魔物――


「――竜種(ドラゴン)。それの特性を保った――いや、侵されたホムンクルスが投入されている可能性が有る」










「――ぎゃあアあああああアぁ!?」


 ――変な奴だとは思った。

 変わり映え無い一方通行の先、ようやく見えたでんと聳える大きな扉。施錠もされてない。罠かと警戒しながら開き、薄暗い、大きな飾り気の無い部屋の真ん中。

 呼吸器も、ゴーグルも付けてない。

 黒尽くめの男が居た。

 幽霊みたいに立つ男に、一瞬、人間かと思ったけど顔も背格好も他のホムンクルスと同じだ。けど良く見れば瞳孔が縦に開いてるし。

 なんだこいつと思った瞬間だよ。


 ――口をぱかって開けて、ドラゴンみたいに破壊的な息吹(ブレス)を吐いてきたのは。


「――な、にいイいいっ?!」

 

 部屋に飛び込み、紙一重で回避しつつ、絶叫。片方は恐ろしく軽いと云え、流石に少年少女二人は重く、挙動がワンテンポ遅い。直ぐ傍で空気が灼け、何かの物質が蒸発する音。

 ――地下(ここ)の通路も模造オリハルコン製だよな?


「おい、前!」

「解ってる!」


 背中のリンネの声に応えながら、突進紛いに距離を詰めて来るホムンクルスらしき男に、体制を整え剣を向け――って何ぃ!?


 ――ボゴン、ビュグォンと耳に不快な音をたて、肉が蠢き黒服が裂け、一瞬にして男の右腕が異形の大爪と化したあ!?


 ――なんなんだこいつは?!

 勢いを削がず、瞬時に接敵してきた男は、その大爪を大雑把に振り回す。

 受けるのは危険と直感、後ろ跳びで回避。観察、風切り音が尋常じゃない上――回転も速い。もう腕を持ち直して、即座に踏み込んできた。無造作に腕が振るわれる。

 それを剣で切断までは往かずとも深く切り裂く。

 ――次の瞬間、再生した。

 驚愕する間もなく、深く裂いた筈の異形の腕が空気を弾き、それをとっさに剣で防ぎ。


 ――結果、とんでもないバカ力で、背負ったリンネと括られたスズハごと吹き飛ばされた。


「――うええ!?」

 

 凄い勢いで飛ばされ、一度も地に着く事無く、垂直に対面に激突する――って背中からぶつかったらリンネが潰れる!

 焦燥に動かされ、強引に体を捻り、体勢を変える。

 抜き身の剣も危ない、牽制も含めて男の気配の方に投擲し――ってスズハがいるう?!

 驚きつつもとっさの判断で関係ない方向に投げ捨てる。


「――莫迦者ォ!」

 

 聡明なリンネはおれの意図に気付いたのか、怒声をあげてくる。

 その次の瞬間には、おれは壁に激突していた。



 ――いっっ!


 一瞬、目の前に電流が流れる。

 リンネは、庇えた。

 スズハは顔面から激突したが、まあ大丈夫だろう……おれは、右肩からヤな角度で激突した。


「――ぐぅ、あ?!」

 

 激痛に呻き、ある感覚に血の気が引く。

 腕に力が入らない……

 やばい。

 取りに行ってもこれじゃあ、剣がもてない。


「――の、戯けが! 謂わんこっちゃない!」

 

 リンネの怒声に耳も痛めつつ、顔を上げると。





 眼前に、異形の大爪が見えた――





 

 

 

 

 

  

 

 


  

 

  

「――何を急ぐ、深裂・静流」

 

 解説の直後。

 呼吸困難に陥ったような顔で駆け出して行ったメイド長とその部下を見送り、私は薄く笑う。

 単純な狗だ。

 ここ地上と、転移地点百八階までどれだけ掛かるか判らない筈も無いだろうに。

 ――あれで、非常時の瞬間撃退童子(エミヤスズハ)まで機能してないと知れば、どうなることやら。

 まあ、後続は必要だろう。

 その為に急かしたのだ。

 マグナや燐音に心配は不要だが、スパートを駆けねば逃げられる。

 どうせあの馬鹿は、力加減を誤って足止めをくらっているのだ。


「――ドラゴン等より、お前の方が強いだろう……?」

 

 それで燐音に害を及ぼしてみろ。

 また悪夢を見せてやる。





 

 

 

 

 

 

 

「――っ」

 

 迫り来る、異形の大爪を眺めながら、リンネが息を呑む音と、スズハの呻き声を訊いた気がした。


 ――やめろよ。



 ――蒼炎が、脳裏で、それよりも奥底、根底で煌めいた。

 

 肉が裂かれ、血が吹き出る。

 大体、ゴーレムとかドラゴンとか、その辺りの手応えだ。

 今し方、捻り潰した異形の腕は。

 痛覚は無いのか、直ぐにホムンクルスは口を開け、ブレスを――


「――駄目だッ!!」


 ――今、おれが死んだら、リンネやスズハが危ないだろうが!!

 吐かれる前に蹴りを入れ、激烈なまでに吹き飛し。

 ホムンクルスは、あらぬ方向にドラゴン級のブレスを放ちながら、対面の壁に叩き付けられる。――その隙に。


「――蒼炎は創炎とも読み

  灼かれ残りし灰は杯にて蘇る

  我、言霊(コトノハ)紡ぎて望む再臨

  彼の、古に災禍撒きし魔なる龍王(ティアマト)滅せり、歪な循環断つ、福音の一振を此処に――」


 ――遠い遠い昔の御伽噺。

 世界に仇なす悪竜を束ね、界を呑まんとした、無限に再生する魔竜王ティアマトと、それを打ち倒した英雄の剣――

 手元の、捻り切った異形の腕を"蒼炎"で灼き、"灰"で再構成。

 手元に、蒼炎を纏った優美な剣が具現化する。

 ――永くは保たない、彼の伝説の剣!


「――フェアル・グラム!!」


 ――無限再生を滅ぼした剣が、再生能力に通じん道理無し!

 再び凄まじい勢いで接敵してきたホムンクルスに、投擲。

 異形のホムンクルスは、僅かに微動したように見えた。回避しようとしたのか。

 しかし、鈍い。

 投擲された剣が対象を貫き、

 

 刹那の間に目標の五体が四散――というより爆散した。


「……貴様、莫迦だ」

 

 呆気なく血と肉片が飛び散り、具現化した剣も"蒼炎"共々消失していく中、耳元からリンネが――って断定?!


「それだけの力を保ちながら、先までの無様は何だ。"蒼炎"を使ったら、瞬殺だったではないか」


 尤もな指摘だけどさ……


「蒼炎って、結構疲れるんだよ。それに特性やらパターンやら調べるのって、重要でしょ?」

 

 他の誰かが同じ奴と闘う時、参考に成るだろうと――ヒメサマ、なんで呆れた風に嘆息しますか?


「……貴様、こちらが追撃側だと忘れてるだろ。下らん時間稼ぎにハマりやがって」



…………、


「――ををッ!」

 

 ポンと手を叩く。

 わかったから、頬摘むのやめて。

 君の力でやられても、こしょばゆいだけだから。


「罰だ。このまま進め」

「ひろいらぁ……」

 

 まあ、これもリンネなりのコミュニケーションの取り方なんだろうと思い、微妙な心地で、歩を進めた。

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