第4話 なげき
保険外交員という仕事について3年目。
生命保険や自動車保険を必要な方にお届けしてきた。
契約いただくのがお仕事であると思われてるけど、違うわ。
お客様がトラブルの時がとても大変なの。
すぐに対応してあげないと……。
律ちゃんの事故も大変だったわ。
可愛い娘さんだったけど、早くからご両親を亡くしていた。
お姉さまと暮らしていたから、早くから働いていたの。
将来のために生命保険も……。
それがお付き合いの始まりだった。
美人じゃなけど、可愛い娘さんだった。
運動が好きで、伸び伸びとした明るい娘さんだった。
お料理をつくってくれるとお姉さまも自慢の妹だったのに……。
猫が好きだった。
猫を飼っていた。
まさか、こんな事故に……。
言葉がなかったわ。
相手が72歳の老人。
無免許、無保険、しかも、破産されている年金生活者。
最悪の相手だった。
近くのお店に買い物にいくという、それだけの……。
自動車損害賠償責任保険。俗に自賠責がすべてだった。
その保険以外なにもない人が事故の相手というケースだった。
120万円が払える金額の上限だった。
警察の事故担当者の方も、地元の市役所の介護担当者も、お手上げだった。
お姉さまが弁護士に相談した。
「それは仕事にもならない」とはっきり言われるケースだった。
つらかった。
それでも本人に会わなければならない。
記憶障害、意識障害がある。
医者の言葉に、警察も、私たち外交員も話しを聞くことができない。
もし、その言葉が誤っていた場合……。
泣き叫ぶ、それが、できることのすべてだという。
事故から2週間が過ぎた。
お姉さまから連絡があった。
お見舞いとお話を聞きに……。
「なにも覚えていないの」それが、律ちゃんのお話しのすべてだった。