町の店に
納品日になったのでその日も朝早くから家を出て伐採場区画に向かう。
伐採場区画に着くと運び込んでおいた丸太をロープで仮組して筏にする。なんでそんな事をするかと言うと町までこの丸太達を運ぶのに川を使っているからだが、筏で下れるように川を整備するのにひと手間かかったのを思い出した。
深さが無い場所や通れない場所など何か所か整備が入用で面倒だったなあれは。思い出はさておき組んだ筏を川に押し出し浮かべる。
安定を取りつつ筏に乗って丸太組みの筏に乗って川を下り始める。
川と言っても直線ではないので舵を取りつつ川に投げ出されないように気おつけながら下っていく。ここから町までまだ暫くかかるのだが、これも慣れた事なのでのんびりした気分だ。
歩いて運ぶよりは格段に早く町まで着いた。
「どっせーい」
掛け声を上げて気合を入れ、筏を岸に引き上げる。場所はいつも通り町の水揚げ場になっている所だ。
岸に完全に筏を上げきると水揚げ場の受付を探して歩き出す。
「アルシェじゃないか?」
「ようマッチョ」
担当者を探していると他の荷受けをしていた筋肉質な男が声を掛けてきた。この筋肉はこの水揚げ場を仕切っている事務仕事の担当者なのだが、筋肉をこよなく愛しているらしくそこらの冒険者や衛士よりも筋肉がガッチリしている。
その為、暑苦しさに尊敬の念を込めてマッチョと私は名づけて呼んでいる。ここで怒られるなら呼び名も変えるのだが、本人も気に入ったのか何故か笑みが絶えないのでそのままだ。
解せぬ。
「今日は親方の所の納品の日だったか?」
マッチョは受け取り用の書類を確認して処理しながら聞いてくる。
「いつも通りの納品だけど、ちょっと家の改装工事するんで前倒しで二回分の納品だよ」
「そうなのか?それなら少し待ってろ」
そう言ってマッチョは荷受け追加の証明用の木札を取り出し渡してきた。
「親方だから大丈夫だろうけど一応これ持って親方の所で説明してくれ」
「あいよ」
慣れたやり取りで木札を貰い証明書の換金先になる店を目指して町に向かう。このやり取りも当初は結構手間取っていたが、最近は流石に顔見知りになって手続きもすんなり終えれるようになった。
水揚げ場から少し歩くと町の入口にある詰所に到着した。詰所を警備している衛兵に、一応の確認を取られてから挨拶をして町に入る。
町に入ってからはまず目的の親方の店を目指す。門からはまず町の大通りを通って、立ち並ぶ店先を見ながら中央へ向けて歩く。
歩くのだが・・・、場所が遠いので自分の歩幅の狭さが怨めしい。多少は速足で歩いているにも関わらず、度々人に追い抜かれていくのだ。
まあそれでも王都なんかの人混みに比べれば歩きやすいのだろうが、あっちは人とぶつからずには歩けないのだから人口密度の違いが一目瞭然だ。まあ人混みを歩くのは庶民で、馬車を持っていてそれに乗れる人は馬車用の通路を使ってわりと快適に行き来が出来るようなのだが。
そんなこんなで歩き続けて目的の店に辿り着く。店の壁には、金槌の絵が描かれた木板が突き出た鉄柱にぶら下がっている。何の店なのか解りやすいようによく見かける看板である。それとは別に店名が入口上に掲げられている。
看板はなんでも商業組合に参加してる証も兼ねているらしいのだが、詳しくは知らない。組合に所属する商人には必須らしいのだが、いろいろあるのだろう。
これとは別に露店商なども組合許可証と許可されてる証にそれと解る布が店先にあるらしい。人口の多い町などでは商売の利権争いが酷いらしく、取り纏めとして商業組合があるらしいがモグリの業者もいて血を見る事も度々だとか。関わり合いになりたくないものだ。
面倒事を思い浮かべてちょっと気落ちしたが、直接関わらなければ問題ないので店に入る。まあ客じゃないので裏に回るんだけども。
裏口とかいかにも業者って感じがするので、胸を張れる気分だ(無い胸なんだけれども)。
表よりも裏の方が木材系の資材が置いてあったり、加工済みのものがおいて置いてあったり、作業用の工房があったりで客にはあまり見せないし入ってほしくない所だろう。結構大雑把な管理をしているのがその乱雑さから見て取れる。
それでも職人がいる店だけあって、雰囲気があるのだから不思議だ。家にもそのうち工房と言えるような作業場を作ってみたいものだ。
物を造るのは場所じゃなくて腕だなんだと言われるのだが、それでも専用の場所っていうのはなんかいいのだ!!形から入る的な感じもするがそれでもそんな部屋があるといいなと思ってしまう。
アルシェ「その筋肉、逞ましいですね。敬意を込めてマッチョと呼んで良いですか?」
マッチョ「ほう、嬢ちゃんのはこの筋肉の良さが分かるのかい。良いとも良いとも好きに呼べ」
アルシェ「(筋肉以外の特徴がきっと覚えられないな、きっと)」
マッチョ「そんなに筋肉を見つめても上げられないぜ、ははははっ」




