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職場体験開始 親方の工房にて

 何であれ職業の自由はあれど、なかなかその門戸が開かれていないのが現状だ。手に職を付けるという事場もあるが、職業毎の適正とは別に各分野での専業技術というのは事の他重要視される。物を造る職人などではその傾向が高く、徒弟として自分の技術を教える代わりにほぼ囲い込みの従業員として働くことが多い。モノによっては婚姻という形で完全な家族にしてしまう場合もある。

 そんな例だけでも無いのだが、それだけ技術は大切という事だろう。 

 それに比べてアルバイトなる方法は、技術的な事は出来るだけ省いて基礎的な事に特化させて働かせて技術的な所は本職に当たる者が行う。

 なかなか面白いやり方だと親方も感心していたが、工房で運用するには難しそうだなとも言われた。それでも今回は特別にその方法でやってみてくれるそうだ。

 有難い話である。


 アルバイトに似た形式だと兵士の短期雇用がそれに当たるだろう。

 大体が兵士とは名ばかりの数合わせや砦の建築労働、開拓など単純な力仕事に充てられるが。



「という訳であるばいとで入るアルシェだ。立ち位置は雑用係のようなもんだから、特に今の所は難しい事は教え込む必要はねえ。知っての通り力仕事もできるからな手伝いに声を掛けてくれ」


「宜しくです」


 工房のメンバーの一応の紹介をされて挨拶をする。

 まあ顔見知りばかりだから今更何をと思うが、何事もけじめが必要であろう。


「じゃあ早速だけど、アルシェ。まずは親方の書類手伝ってやってくれ」


「まずはそこなのか」


「個々の所ダンジョン特需で依頼も増えてたからな、溜まってく一方だし親方もそれ見てイライラしてるから片付けてくれると助かるよ」


「何言ってやがるザップ、おめえが手伝わねえからだろうが!!」


 早速の仕事が書類整理とか、これは難しい仕事じゃないのかね?と思わなくもないが知り合いの所だとそんなものかもしれないのか。


「親方こそ何言ってるんですか、最近は俺もあっちに出ずっぱりじゃなんですから無理ですよ。アルシェが居る内にぱぱっとやっちゃってくださいよ」


「ちっ、仕方がねえか。悪いが頼むぞアルシェ」


「わかりましたよ」


 肉体労働だーと意気込んで来たのだが、事務仕事だったこの虚しさ。まあいいんだけど、いいんだけども。

 兎に角仕事は仕事なのでという事で、事務所に行って手伝う事に。

 しかし親方、溜め込み過ぎです。


 事務所で引っ張り出された書類はいつもの10倍ぐらいは厚みのある山になってた。

 一つの仕事に対しての書類量から考えると、ここの所で本当にかなりの数の仕事の受発注があったんだろう。家ひとつ建てるにも最近では色々と細かい書類が必要だからだ。

 一昔前までなら終わった後に届け出なんかで良かったのだが、最近では色々と法整備だなんだと細かい書類申請などが増えたんだとか。利点がいまいち解らないのだが、上の方からこういう事になったからやれとだけ降りてくる封建制度ならではの理不尽さだろう。

 昨今の領主は色々と難しい事を考えているようだ。

 風の噂によるとこの近辺を収める領主は夜中まで『ナイセイダ!!ナイセイダチートダ!!』と謎の叫びを発しながら働いているらしい。一部では働きすぎて壊れたとか、悪魔が乗り移ったのでは?と噂されたりもするが、その政策は一応は民の為になるものの様で暮らしが徐々にだが上向きになっているとかなんとか。


 そんなわけで、材料の発注に関する遣り取りや建設予定の建物についての報告書、依頼人と建築物の利用目的等々いろいろな項目を定型書式に書き直して処理していく。

 基本こういった書類は個々の店など様々な業種の兼ね合いもあり独自のまとめ方をしている。店同士の遣り取りに関しては問題なくても最終的な役所に出すときには定型書式に直す必要があるのだ。

 まあ正直この辺りが面倒くさいとは思うのだが、税金にも関わるもので昔はかなり横行していた脱税対策になるんだとか。個人での物になればそれほどでもないが店が大きくなればなるほど細かくなってくらしい。役人に文句を言うと、国の中枢になる財務を担当する部署ななどはこれよりも酷くなるからとか言われる事があるらしい。

 なんとも恐ろしい話だ。


「さて、親方こっちはこれで一応最後だよ」


「おう、助かったぜ。悪かったな初日からこんな仕事で」


「別にいいよ、これも慣れてる方だし。まあ体を動かしたかったってのはあるけど」


「明日からは現場で力仕事を主体になるだろうからな、今日と同じぐらいの時間にダンジョン前でザップの奴と合流してくれ」


 向こうで仕事か、家から近いからそれはそれで有難いかな。


「りょーかい」


「それじゃ頼むぞ」

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