斯く斯く然然
いろいろ考えて見たが、時間だけが過ぎて答えは出せずにいた。
今の時代は職業選択の自由が有るらしいが、幅が広すぎるのも考えすぎだ。
親方の工房で働く
ソフィアさんの家事全般を受け持って家政婦として働く
道具屋の手伝いをする
食堂の給仕として働く
自作の彫刻を売り出してみる
冒険者になる
などなど色々訪ね回った所選択肢は増えていった。
警備員に聞いたら『幼女を養う時がとうとう来たようだな!!』とか興奮していた。
度し難い変態である。
選択肢は増えたのだが、決め手に欠けていて決定できない。
決めあぐねていると更に追加で選択肢が増えていくので、ますます決めづらくなる。
そんなこんなで迷っているうちに2週間が経過してしまった。
当然樵仕事もストップしてしまい無職に突入だ。
「幼女よそこまで悩むならアルバイトで仕事を体験してみたらどうだ」
思い悩んでいる所に警備員が何処からともなく現れて、そう言った。
「あるばいとって何?」
「短期間のお試し雇用というところか、仕事の簡単な部分を任せる代わりに賃金を安くして適性を測る方法だな。段階的に仕事の難易度を決めてそれに合わせて賃金や待遇を上げるわけだ」
「普通に雇う方が楽でしょ?」
「簡易契約の様なものだからな、お互いに拘束力を低く設定する事でどちらかの都合が合わない時はすぐに解約するわけだ。雇用主側は代替の効く範囲で仕事させる事で辞められても補充が効くし賃金も安く抑えられる、雇用される側は自分に合った仕事か見極めて続けるかどうかを判断して努力できるわけだ。もっと簡便に言うとお手伝いとして働いてお駄賃をもらう感覚だな、それならお試しで色々やってみれるだろう幼女よ」
「警備員は本当に助言する時はまともな事言う時が有るよね」
「と言うわけでまずは俺に養われるとこから体験するといいぞ幼女よ!!」
「まずは親方のところで試しに聞いてみるかな」
戯言を言い始めた警備員をほって置いて親方の所であるばいとが出来るか聞いてみよう。
しかし、警備員はなんでこうも物知りっぽいのに残念何だろうか。
ちらりと見るがまだ何か言っている、本当に残念だ。
取り得ず行こうとシルクに声を掛けて、街に向かう事にした。
準備をして家を出る段階になっても警備員は何やら空中に向かって力説めいた何かを言っていた。
いつもと変わらずにダンジョン前からの馬車往復便に乗って、揺られながら町に向かう。そういえば最近は宣伝だとかで広告なるものが張られるようになった。首都の方から広まった新しい商売だとかなんとか。 この頃は何やら新しい事も増えた様で、国全体の経済が活性化中らしい。
一昔前なら、その活性化の波に乗り遅れる田舎になる処だがダンジョン経済のおかげで新しい技術も入手しやすくなっているらしい。新しく代替わりした領主も革新的な統治を始めたとかなんとか、色々と移り変わってるなと噂話では思う。
広告を見てみると商会の名前と新商品と紹介される道具が書かれている。
『新商品!! 家庭用 汎用魔道竈 登場!! 今までにない魔道具を低価格でご提供!! マルシェ商会』
その下に煤が出ないとか、台所の大革命とか売り文句が書かれている。
正直魔石で動く魔道具は魔石の産出量に左右される。一般家庭の薪や木炭も基本は変わらないのだが、算産出元がダンジョンのみとなっているのでダンジョンとの距離で値段が左右されるのだ。
最近は町にも魔道具専門の店が出るなど、燃料の移行が徐々に行われ始めている。いまだダンジョンでの産出量が供給量を追い越していないので値段はまだ高いが。
ダンジョンに近い場所ほど豊かになるというのは、現在どの国でも貧富の差の問題として取りざたされている事だ。問題には上がるが一向に解決はしないそんな面倒事だ。
人口の分布などにも関わったり、酷い状況では過疎化による廃村なども伝え聞く。
そのあたりの難しい事は国王か領主が考えればいいんだけども、ダンジョンが近いので今現在自分にも多少なりとも関わりがあるなと思った。
考え事をしながら過ごしているうちに、町に着いたようだ。
警備している衛兵に挨拶をして町に入り親方の元へ向かう。警備員の提案をまずしてみて可能であれば見習いを体験してみるのもいい。なんだかんだとお手伝いと見習いでは見えてくる物も違うので。
「親方いるー?」
「おうアルシェか、どうだ家で働く気になったか?」
「それについて、提案というかお願いというかをしに来たんだよ」
「提案?」
「斯く斯く然然?」
「それじゃ流石にわからんぞ」
伝統的省略方法では無理だったようだ。まあこれで伝わるとは思っていなかったので、一から警備員に教えて貰った方法を説明してみる。
親方も真剣に聞いてくれているので、説明下手でもなんとかきっと解釈してくれるだろう。




