警備員からの預かりもの
「幼女よ、これを預かってほしいのだが」
「何それ?」
差し出されたのは一抱えある穀物用の袋なのだが、なにやら動いてる、ガサゴソしてる。得体のしれないものは受け取りたくないのだが。
私が受け取りを躊躇していると警備員はそれに気付いたようだ。
「ああ、心配するな」
言うが早い袋をひっくり返して中身を地面に出した。
ギャン!?となにやら声が出たのだが、出した元は。
「子狼?」
「うむ、まあ似たようなものだ。セイジュウにはまだ早いからな」
「で、これを預かれと?」
「うむ、飯を食わせてやってくれ。その分は上乗せで獲物を運ぶ」
「これ、私を襲ったりしないかな?肉食なんでしょ?」
狼と言えば肉食の筈だ、群れで動物を狩る。その牙は十分脅威である、生まれたばかりから一緒に育っていればなにやら仲間意識てきなものが芽生えるかもしれない。しかしこの中途半端な大きさまで野生で育ったのならもう人に懐かないような気がする。
「そこは言い含めてある、人を襲うようなことは無い。まあ人の社会に馴染んでいないから、家暮らしには少し難点があるかもしれないが幼女であれば問題なかろう」
「むしろ自分で面倒見ればいいんじゃないか、わざわざなんで私が面倒見なきゃいけなんだ」
餌である動物も警備員なら手配できるんだから、森の中で暮らした方がしっくりくる。こっちに預ける意味が解らないのだが。
「そんなんでもメスだからな、俺の手元には置けん。それといい加減この辺りも五月蠅くなってきているから番犬代わりととでも思っておくといいぞ幼女よ」
「微妙な理由だな、しかし大丈夫と言われても」
未だ打ちどころが悪かったのか地面に蹲っている子狼を見やる。毛並みは銀色でかなりきれいだ、森の中にいたにしては汚れもない。尻尾が結構大きい、ブラシで梳いたらふわふわになりそうだ。
「んー、どれどれ」
子狼の背中を触ってみるとビクっとした後に、ゆっくりこちらに顔を向けてきた。
「よしよし」
ゆっくり、優しくなでてやる。背中を触っても驚かなくなったところで頭を撫でてみる。
じっとこちらを見ては居るが警戒をするようには見えない、もちろん怯えているようにも見えない。
どちらかというとこちらを品定めしてくるようだ、例えると商人が商売相手を値踏みするような感じなんだろうか。
なにやら理性的な感じなんだけども、ふむ。
「問題ないだろう幼女よ、それもある程度人の言葉を理解するからな。トイレも覚えさせれるぞ」
そういった警備員に、ふざけるなとでも言うように子狼は噛みついている。平気そうな感じだから、まだ噛み千切る程の力はないんだろう。
しかし成長したら警備員の喉を噛み千切ったりできないだろうか。それはなかなか魅力的情景だ。
「子狼さん、私の元で預かっても問題ないのかな?」
言葉を理解するという事で警備員ではなく、子狼に確認を取って見る。
問いかけに対して、警備員を襲うのを辞めてこちらに向き直りウォンと返事をした。
「本当に言葉を理解してるんだね、頭がいいんだ」
「こんな姿でも一応は...いやいいか、それじゃ頼んだぞ幼女よ」
「はいはい、ちゃんと獲物は持ってきてよ」
「十全に持ってくるとも、楽しみにしておけ幼女よ」
別に楽しみではないのだが、本当に変人である。
「ああ、この子名前とかはあるの?」
「名前か、特にないと思うが確かに不便かもしれないな。それならばゲロ子とでも呼ぶといい」
「なんでゲロ子!!」
「うむ、拾った時に毒キノコを食べてげーげーしてたからだな」
だからってその名前はどうなんだ、子狼も不満があるようで再度警備員へ噛みついている。絶対嫌がってると解るのに撤回はしそうにない。
「こっちで名前付けてもいいかな、流石にその名前は無い」
「幼女が命名するのか、うむそれはアリだからその方向で頼む」
「スフィアさんとも相談して、この子が気に入るのを付けるとするよ」
「幼女がつけるのであればご褒美であろうよ、『ああああ』であろうとも喜んで受け取れ」
警備員が子狼にそういうが明らかに噛む勢いが増しているようだ。大変ご立腹のようだが、警備員はまったく気にしていない様だ。子狼も大分弱ってでもいるのだろうか、肉を一杯食べさせていつしか喉笛を噛み千切れるように強く育てよう。
じゃれた猫を扱うように子狼の首根っこをつかんで警備員はこちらに放り投げてくる。受け取ると私も下手すると倒れそうだったからさっと避けたが、器用に体を捻ってだかなんだかして子狼は着地できていた。
「とのかく頼んだぞ幼女よ、それではな」
「いつか、警備員を追い出せるようにしっかり預かっとくよ」
「ふむ、それもまた良しだな幼女よ」
それだけ言って警備員は出ていった、まあ数日もしないうちに飯を食いに来るのだろうが。
取りあえずは子狼と意志疎通を測って暮らしのルールでも模索するかな。




