確認とメン
親方から預かった図面を手に家に戻る。
昼過ぎに到着したが、スフィアさんはおそらく工房に籠っているんだろう。
図面をもって工房に向かう、私の家と違って部屋の広さの割合が大分違う。
自宅兼工房なので屋根が高く作ってある。
窯やらなにやらいろいろあるようなので、ほぼ二階建てぐらいはあるだろう。
排煙用の煙突がそれより更に高く作られている。
「スフィアさんいる?」
扉を叩いて声を掛けるが返事は無い。まあ作業中は大体何時も返事が無いので、そのままお邪魔する。
玄関からあまり使っていない寝る部屋と調理場を挟んだ廊下を奥に行き、作業場になっている工房内で一番広い部屋に入る。
作業場ではスフィアさんが何やら鍋を掻き回しているようだ、ポーション作成だろうか。
「スフィアさん」
「ああアルシェちゃん、どうでした?」
鍋をかき混ぜる手は止めない様だ。
「手が離せないみたいだし、後にした方がいいかな?」
「そうですね、もうしばらくしたら手を止めれそうですからこちらから声を掛けますよ」
「解ったよ、それじゃ後で」
取り敢えず撤収撤収と、そのまま工房を出て家に戻る。
少し早いが夕食の準備を始める。いつものレシピだとスープとパンと肉になりそうだが、今日はひと手間かける事にする。
先日教えて貰ったメンというものだ、小麦を水でこねて糸状にしたものだ。
小麦に少量の水を混ぜつつこねていく、ある程度固まったら更にこねて空気を出すらしい。
ある程度伸ばして平たくし折りたたんで細く切っていく。上手くやれると糸のように細長くなるらしいが私がやると太くなる。
まるでウドンのようだと警備員は言っていたが、細さに満足しているでこれがいい。歯ごたえもあってなかなかいいものだ。
出来上がったメンを湯がく。茹で上がった所で湯からだして、濃いめのタレに絡めて炒める。
あまり火にかけすぎるとカリカリしてしまうので、弱火で水分が飛び過ぎないように注意して上げる。
仕上がる頃にはスフィアがこちらに顔をだしてテーブルに着いてご飯を待っている。
これはわりと言い料理なのだが、いろいろ手間がかかるのが難点だ。
気分転換に食べるための料理だろう。
更に盛ったものをテーブルに持っていく。
「さて食べますか」
「この間作っていたものね」
「メン料理って言うらしいよ、いろいろ種類が有るらしいけど今の所作れるのはこれだけ」
「こんな料理が有ったのね、それでは頂きますわね」
「はい、召し上がれ」
私もフォークを使って口に運ぶ、ソースの味が歯ごたえのあるメンに絡まっていい感じだ。
難点は急いで食べるとタレが飛んで服が汚れる事だが、注意深く食べれば問題ない。
がつがつ食べるのもあれなので、上品に上品に。
「ご馳走様でした」
「はいよ」
食器を洗い場に持っていき水に漬けて置く。
洗い物を少し後にして、先に打ち合わせの確認を終わらせてしまう事にした。
「それじゃ、冷蔵設備の石器系図だけど親方が書いたのがこの図面」
「これね」
大雑把なサイズとその他注意点が書いてある。割と解りやすいと思うが判断材料になってるだろうか。
「設計は問題ないようだわ、後は石の厚みを少し上げて欲しいぐらいかしら」
「了解、それじゃ親方の方にはそれで見積もりと納期をまた聞いてくるよ」
「お願いね」
「了解」
これで一応の準備が出来たから、あとは親方の方に合わせてこっちも手伝うだけか。
「そういえば、薬作りは捗ってる?」
「そうね、そろそろ調合用の窯と鍋を追加か大型しないと追いつかないかも」
「そうなの?あの鍋だけでもかなり大きそうだったけど」
「最近冒険者が増えたらしくて、需要が多くなって品薄状態らしいのよ。そのあたり冒険者ギルドと錬金ギルドあたりで調整できるようにするんだけど、この町ってもともと錬金術師が居なかったから普通の薬ぐらいしか調合出来る人がいないのよね。一応手配はしているらしいんだけど、応援が来るまでまだまだ忙しそうよ」
「そうなんだ、材料とかは大丈夫なの?」
そこまで消耗すると薬草とかが足らなくなりそうだけど。
「原料の方は冒険者ギルド経由で準備して貰ってるわ。ダンジョンで採取場に丁度いい所が見つかったらしいから、人手が多い分結構供給量が安定してるらしいの。それでも、薬草を取りにいって怪我をする人もいるらしいから悪循環な感じもするんだけど」
「そんなに危ない所なんだ?」
「そうでもないんだけど、今居る冒険者の内初心者がかなりいるみたいなの。今まで剣も持った事ない人ばかりだそうだから、冒険者の心得みたいな教訓もないまま行って怪我をするというところね」
「このあたりはもともと冒険者なんていないもんね」
「一応ギルドの方でも訓練を付けるように対応するらしいけど、まだまだ人手も場所もないから」
「まだまだこれからか」
ギルド職員も大変そうだと思いながら、洗い物に向かった。




