森の食事
肉の焼き上がり具合を確認し、食べごろになった所でフライパンから皿に盛りつけていく。自作の皿に盛り付けられた料理はなかなか良いものだ。
出来上がった料理に満足しながら次の準備に移る。
「警備員これテーブルに運んでくれ」
「これはまた、前衛的な皿だな」
仕上がった肉をテーブルに運ばせる間に温めたスープを椀に盛りこちらは自分でテーブルに運ぶ。
しかし、人の傑作に前衛的とは妙な評価を付けてくれる。
「前衛的とはなんだよ。私の力作に文句言うなら今すぐ全力で謝罪して、己の感受性の無さを悲嘆しながら出ていけ。そして死ね!!」
「なんでそんな事をせねばならない。皿がどうだろうと上の料理の味には関係ないだろう。幼女の手料理に罪は無いのだ」
文句を言ってやったが全く堪えた様子もなく小声で幼女万歳と祈りを捧げた後、食事に手をつけはじめた。
祈りの言葉が明らかにオカシイのだが、まあ変態のやる事かと納得する。
「大体この均等な五角形をだすのに、人がどれだけ苦労したと思っているんだ。切り出して削って綺麗な直線を表現するのに苦労するんだぞ」
凝り始めたらついつい止まらなかったのは認めるが、決して悪くない形状のはずだ。こう綺麗な五角形というのは良い物なのだ、前衛的などと言われると作品の出来を悪く言われたようで苛立ってしまう。むしろ殺意が湧く。
「皿なんだから実用性も考えるだろう?わざわざ使い難そうな形だから皿としたら前衛的だと思ったんだよ。いわゆる鑑賞用みたいな?別に悪く言ったつもりはないんだから機嫌を直せ幼女よ」
確かに言われると一般的な皿とは形状が違っている。
木製食器はその傷みやすさから基本消耗品だ。手間暇をかけた物だと保護作用がある薬液を着けたりして長持ちするのだが、それは専門の職人位だ。
だからこそ作り易さと収納の利便性から形状は、単純で似通った物になりやすい。不揃いだと重ねて置くのにも不便だったりするし、細かい装飾など費用対効果に見合わないからだ。
上流階級では見栄が優先されるからまた別であるが。
それでも私の作った皿は五角形なだけで、細工してある訳でもなく実用的なものだと思う。
皿は上に乗っている料理だけが大事だと思っている警備員には、きっと作り手の拘りが分からんのだろう。皿の上の料理が上手ければいいと思うのには、若干の同意なのだがな。
体を動かす事が主体の狩人や農夫といった仕事人は、逆に味か量にこだわる傾向があるから物の見方は人それぞれなのだが不愉快なものは不愉快だ。
この男も森で取れる薬味に使える野草に詳しく肉の臭みを取ったり、食欲を唆る匂いを出すのに使える物に詳しかったり別方面では拘りがある。
調味料の入手が難しい森の中での代替品と言うやつだろうが、一手間で肉もより一層の旨さに成るのだから拘りにも感謝だ。
その代替品も馴染みの無い物ばかりで、中には加工前の物を見て思わず大乗化と思った事もある。美味いのは認めるが、食べるのを躊躇する食材は飢餓でもなければ遠慮したい物だ。
「まあ勘弁してやる。感性は人それぞれだし無駄に疲れそうだ。そういえば教えて貰った中ではこのネギと言う奴が便利だな。大体の料理に合うし味も良い、こんな草が食べれると良く知っていたな」
「俺の故郷では簡単に手に入る食材だが、一部では万能と歌った品種もあったぐらい幅広く使えるものだからな。有名人の標準装備としても紳士には有名だったよ。病気の薬としても認知があったぐらいだ」
「寡聞にして知らんが良い物なのは確かだ、自家製栽培に挑戦してみるかな。それ用に今度取ってきてくれるか?」
このネギが栽培出来れば毎日の料理が一層うまくなる。家の裏庭菜園に新たな区画を追加するだけの価値がこのネギにはあるだろう。畑拡張もいい汗を流せそうだし一石二鳥だろう。
「うむ幼女の頼みなら断る訳にもいか無いな。また幼女飯一回で手を打とう」
「なんだその幼女飯とは、いい加減人を幼女呼ばわりするのをやめろ。しかし飯一回食わせるのか・・・肉を狩ってくるならその条件でいいだろう」
ネギを探す労力と飯一回では、こちらが損をした気分になる。貴重な食料をこの変態に食べさせるのもあれなので肉辺りは提供してもらって、保存用の干し肉の消費を抑えよう。
「幼女の手料理が食べれるのならその条件で問題ない。今年は森の実りが多いから狩る獲物にも困らないからな、美味い肉を期待しておけ」
こんな残念な男だが、狩りの腕は良いので期待外れとなることは無いだろう。
本当になんでこんな言動を常日頃から言うのに狩人としての腕がいいのか?
世の中は本当に不思議な事であふれて過ぎているし、なんか理不尽だ。
警備員「ネギというのは、風邪の時にも使える」
アルシェ「使える?」
警備員「俺の故郷では、こう尻にな・・・」
アルシェ「お前の故郷は、変態しか居ないんだな」




