道具屋と再会
二つのランタンを睨みながら唸ってしまう。なんとも悩ましい、懐さえ温かければ銀貨2枚の方になるんだが出来れば節約したいところ。どうしたものか。
「まあじっくり考えな」
おっちゃんはそう言って選別に漏れたランタンを片付け始めた。
良い物が欲しいとも思うし、あまり使わないんだから安物でもいいとも思う。悩ましい。
「いらっしゃい」
カウンターで悩みぬいていると、おっちゃんが声を掛けている。お客のようだ。
「これの買い取りを頼みます」
「はいよ」
棚から戻って商品を鑑定し始める。私は邪魔になりそうだったから、少し端にランタンと共に移動する。
ちらっと見るが、フードを被っている。こんな人どこかで見たな。
そう思っていると相手もこちらを見た様で目があった。
「貴方は...、この間は助かったわ。ありがとう」
人を助けた?はて誰だったか。女の人で、フードを被った...。ああ、あの時のか。
「冒険者に絡まれてた人だったか」
「思い出してくれたようね、まだこの町に来たばかりだしあの時は対応に困ってたのよ。下手に撃退しても面倒事になるかもしれなかったから、だから貴方が衛兵を呼んでくれて助かったわ」
撃退は出来たのか、腕っぷしなのかもしれない。
「助けになれたならそれでいいよ、ああいうのを野放しにしておくと町にも迷惑だし」
「どこにでも居るとはいえ、確かに野放しは良くないわね」
町が大きい程ああいった手合いは、いつの間にやら湧いていたりする。放置するといつの間にやら悪所が形成されたりするから困りものである。
「来たばかりって事は、旅人なんだ?」
「旅人というわけではないわ、これでも錬金術師なのよ私」
「錬金術師?えーとなんだっけ、石を金にする職業だっけ?」
「ふふ、そうね。それも錬金術の命題の一つなのだけど。様々な物を掛け合わせて、素材以上の価値のあるものを色々作る人という所かしら。今店のご主人に見て貰っているような、傷薬も作るし魔法の道具も作ったりするのよ」
「へえ、武器なんかも作ったりするの?」
「武器も作らないことはないけど、特殊な物が多いわね。私たちはその物自体の性質を変質させたり、かけ合わせたりしてより良い物を生み出すことを目標にしているから」
「なんだか難しそうというのはわかったよ。でもその錬金術師がこんな町まで何しに来たの?」
「おいおい、こんな町はないだろアル嬢ちゃん。お前さんだって町の一員なんだから、ほれ査定が終わったよ。この品質の傷薬なら一つ銀貨3枚で引き取れるけど、どうする」
「はい、それでお願いしますね。ありがとうございます」
「なーに、この手の薬は常時売れるからな。この品質なら在庫は多いに越したことはない。また作れるなら、卸してくれるとこちらも助かるよ」
おっちゃんが見ていたのはどうやら傷薬の用だ。銀貨3枚という事はかなりの品質のものなのだろう。凄い物だ。おっちゃんからお姉さんはお金を受け取り取引を終える。
「アルさん?良かったらお礼を込めて、ごはんでもご一緒しませんか」
「ごはんか、またお昼食べてないからいいんだけど...」
ランタンを選んでいる最中だったのだが、どうしようか。
「いってきな、これなら在庫はまだあるから品切れはないからな」
気をきかせてくれたおっちゃんがそう言ってくれた。まだまだ悩みそうだから、気分を変えてご飯でもいいな。
「喜んでお供します」
「それじゃあ、お勧めのお店が有ったら教えてもらえますか?まだまだ不慣れなので」
「いいですよ、えっと...」
「名前を言っていませんでしたね。私の名前はスフィアと言います、宜しくお願いしますね」
「私はアルシェだよ」
スフィアさんか、なんかパリっとしてるような気もする。気のせいか。
「それじゃ行こうか」
「はい」
スフィアさんを引き連れておっちゃんの店を出て、ご飯を求めて町を彷徨う。さて、どの店がいいだろうか?一応何が食べたいかで店が変わるからな。
「スフィアさんは、何か食べたい物ある?肉か魚か鳥とか」
「そうですね、どちらかと言うと魚が食べたいですね。なかなか他の町では食べれませんでしたから」
「なら焼き魚が美味しい店があるからそこにしようか」
連れだって路地裏を進み、目的の店を目指す。
「さっきの話だけど、スフィアさんはなんでこの町に?いっちゃなんだけど何もない田舎町だよねここ」
生まれも育ちもこの町ではないから評するのはどうかと思うが、客観的に見て観光に来る所でもない。自然豊かな牧歌的な町と言えばそれっぽいが、田舎町だ。
ダンジョンや王都からも遠く、それに伴う主要な販路からも外れる形になるので商業で潤っているわけでもない。避暑地なわけでもない。特色の無い町なのだ。




