詰所にて
モツ煮込みの定食を味わい尽くしてから一息つく。今日もとても美味しかったです。
空腹を満たして、さらに味でも満足させてくれた。良い店だ。
「ご馳走さま、また来るよ」
料理を受け取った時に支払は終わっているので、声だけ掛けて席を立ち店を出る。
「ありがとうございました」
店の出入り口を抜ける時に、看板娘のお姉さんから遅まきの返事をもらった。こいった細かい心配りもこの店の魅力の一つで、常連をふやしてるんだろうな。
得に競争のある飲食店の客商売では、ああいった気遣いも大切だ。その気遣いも一方的に感受するだけになると勘違いする客も増えるんだけど。
店の外に出ると出入りに邪魔にならないように、道の脇に先ほど騒いでいた連中が転がされている。C級冒険者だったそうだが、あっさり畳まれたようだ。
C級と言うと冒険者と呼ばれる荒くれ者の中でも中堅所にあたり、なかなかの腕っぷしになるはずなのだがこの有様。店の常連が強かったのか、この連中が弱すぎたのかどちらかなんだろう。ランクを騙ってる可能性もあるのだが、ギルドにばれると処罰が厳しいからよっぽど馬鹿でなければやらないだろう。
なんにしても直接関わった訳ではないので、見て見ぬフリをして上げるのが大人の対応。さっさと家に帰るとしよう。出来るだけ転がっている場所を避けるように、道の逆側を通っていくことにする。
その場を後にして、店から離れたのだが店の方からまた怒鳴り声がする。ちらりと振り返って見ると、寝転がっていたのが起きた様なのだが今度は店先で誰かに絡んでるようだ。フードを目深く被っているみたいで顔は解らないが、道具屋で擦れ違った人だろうか?おそらく、のされた腹いせに絡んでいるようだが一対多だから部が悪そうだ。
私は状況を見て、急いでこの場を離れる。走ると言っても歩幅のせいで小走り程度になってしまうのだが、それでも急いではいる。
走って向かった先は、この町に駐屯する衛兵の詰所だ。町の治安を維持する為に派遣されているので、町中も巡回している。しかし町も割と低いので直ぐ会えるか解らない場合は、詰所に行って直接お願いする方が早いのだ。
町の中でも区画で分散して幾つかの詰所が建っているので、わりと早く近場の詰所に辿り着いた。出入りがし易いように扉の無い広い入口と、常駐の衛兵が詰めて居られるようスペースがある。
「お嬢ちゃん、慌ててどうしたんだ?」
走るのには特化していないのに、出来る限りの全速力を出してきた為息が切れ切れだ。呼吸が荒いものだから余程慌てて見えるようだ。
「通り無効のモツ料理の店先で揉め事です、冒険者風の人達が女の人に絡んでて。助けてもらえませんか」
出来るだけ聞き取りやすいようには心がけて、それでも早口になりつ場所と状況を告げる。衛兵と言っても多少の事では動いてくれないのだが、女性に絡んでるとなると色々危ないと判断したのか、慌てて壁に立て掛けていた槍を手に駆け出す。
「お嬢ちゃんはそこで待っててくれ」
詰所には4人居たが、二人が連れだって出ていった。流石に鍛えられているだけあって、見る間に姿が小さくなってしまった。あの脚力は羨ましい。
通報は終わったので私的には帰りたいところだが、確認が取れるまでは居てほしいと残った衛兵の人に言われてこの場に留まる事にした。待っているだけだと退屈なので最近の情勢を聞いてみる事にした。
「この町では冒険者とか珍しいのですが、活動範囲が広がるような何かがあったんですか?」
「確かに冒険者は珍しいかな、でもつい最近山向こうのダンジョンが一つ完全に攻略されたらしくてね。その影響で仕事にあぶれてきたんじゃないかな?」
「山向こうのダンジョンというと、階層が深い割に儲からなくて攻略されてないってやつでしたか。物好きが居るんですね」
「なんでも最近売り出し中の冒険者らしくて、そいつがまた凄腕なんだと。そこ以外にも、既に二つ攻略しちまったって噂だな」
それはまた、凄いな。ここ数十年、新たに攻略されたダンジョンは無いって話だった筈。それが合わせて三つともなれば大騒ぎだろう。
「腕も凄いですが、それって結構な問題になって無いですか?」
「まあ攻略された所が、枯れかけていた所らしくてそこまでは問題になって無いらしい。新たに生まれる予兆のダンジョンが五つ確認されてるから、管理面からでは丁度良かったらしいからね」
「そんな状況なんだ今」
「ここぐらいの町だと、直ぐ近くにでもダンジョンが生まれるならともかくそれ以外ならほとんど影響ないからね。町中でも大して噂にも上ってないみたいだよ」
確かに町でそんな話聞いたこともないので、本当に関係ないポジションなんだろう。
遠すぎると良くも悪くも影響がないという事だな。
実際ダンジョンが近くにある場合は、冒険者が集まるから景気が良くなる。その分様々な危険も伴うけど、儲かるから受け入れてたくましく暮らす場合が多い。
町に暮らす人にすると、それが日常になってるからそのダンジョンが無くなると逆に町が寂れると言った事も近年は問題になってるんだよな。ダンジョン保護団体だったけか、あれはあれで面倒というかなんというか困った人の集まりだったな。




