モツ煮が美味しい店
目的の店は町の中央通りから一本外れた路地裏にある店だった。立地は良くないが料理の味は間違いなく美味しいので、常連も多く繁盛している。
私も最近常連の一人に成ったのだが、この店ではモツ煮込みが美味いのだ。モツにある忌避される匂いや味が上手く除かれてタレの味と合わさって、病み付きになる味を出している。
店に入るとまだ混む時間では無かったようで、客は少ないようだ。これなら料理が出るのも早いだろうから待たなくていい。
荷物も有ったので出入りに不便の無さそうなテーブルを選んで着席する。それに合わせて店員のお姉さんが注文を取りに来てくれる。年は15歳だそうだが凹凸のはっきりした身体をお持ちだ。
私よりも立派だが、私はどわーふなので仕方がない。そうドワーフ体型なだけなのだ。
これ以上考えるのは危険なのでご飯に集中しよう。
「ご注文賜りますよ」
「モツ煮込みの定食でお願い」
透き通る声での注文は気持ちいい、流石は看板娘だけの事はある。見目も良いから色々とちょっかいを掛けられる事も多いらしいが、店主の親父さんと信奉者の常連が庇ってくれるらしい。
これが魅力の差というものだろうか?私は子供として庇われることはあるが女性として庇われた事はない。たぶんないと思われる。残念だ。
彼女は注文をカウンター越しから厨房の方へ伝えて、他の客からの追加注文の呼びかけに答えてそのまま確認にいった。なんとも忙しい事だが、笑顔で対応するあたりこの仕事が好きなのか生来の性格なのか。客に好かれるにはそれなりの理由があるのだろう。
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
私もまだ成長するに違いない、こう縦に伸びて更に出るとこが出るに違いない。まだ諦めるには早すぎる。
注文した料理が来るのを注いでもらった水をちびちび飲みながら無駄な事を考えながら待つ。待っている間にメニューを見るがこの店では固定メニューと日替わりのランチもある。ランチは食べる機会が無いが固定メニューを制覇中であるが、種類が多すぎて網羅するにはまだまだ通わなければ駄目そうだ。
基本最初食べたモツ料理が美味しかった為、偏って攻略中だがまだ一割にも満たない。肉類の他にも野菜や甘味などまでそろっている。こんなにメニューが多くて仕入とか色々赤字になるんじゃないかと心配してしまうが、調度品もきっちり整備されて味も悪くないから黒字なんだろう。
なんにしても、制覇出来るように稼いで通って味わおう。
そうこうしている内に更にお客が次々来店して席を埋めていく。それに伴い店の中も喧噪が増していく。日頃一人で食べる事が多いので、こういった喧噪は悪い気はしない。料理に添えられるスパイスのようなものだろうか、今日も美味しく食べれそうだ。待つ事も楽しみながらいるとまた客が入ってきた。
「おい、満席じゃねーかよ。ちっ、せっかく食いに来たってのに」
「申し訳ありません。只今満席で席が空くのにまだお時間を頂いております、椅子を用意致しますので宜しかったら外でお待ちください。空き次第および致します」
「あぁ?俺らに外で待ってろってのかよ!!」
何やら入口で揉めてるようだ、満席なんて見れば解るんだからちょっとぐらい待てと言いたい。待つだけの価値がここの料理にはあるのだから。
「どっか詰めさせて席を直ぐ空けさせろよ!!俺らがわざわざ食いに来てやってんだぞ!?わかんだろそんなもん」
「お客様には等しく快適に食べていただく為にその様な事はできかねます。ご不満であれば他のお店でお食事されることをお勧めします」
にっこりと笑顔で言ってるけどあれはちょっと怒ってそうだ。なんだか怖いのである。
「お待たせしました、モツ煮込みの定食です」
「おおう、美味そう」
入口の揉め事には感知しないように店主がささっと料理を置いて行ってくれた。
いい匂いが食欲をそそる、これはいい料理だ。
まずは一口とモツ煮込みに手を付ける。煮込みに使われている独自のスープが絡まりぷりぷりした触感と合わさってなんとも言えない味だ。とにかく美味い。これは酒と合いそうだが、食べたら家に帰るし酒は控えなければならない、残念だ。
料理を味わっているとまだ入り口でぎゃーぎゃーと揉めている。
まったく五月蠅いと思っていると、他の客も苛立っていたのか体つきのいい何人かの男が立ち上がり入口で看板娘ちゃんに絡んでいる連中に威圧感を放ってる。
おお、やるのは大いに結構だと思うが店の外でやってほしいなあ。埃がたつとせっかくの料理が台無しになってしまう。
「なんだてめーらやんのかこら!!俺らを誰だと思ってんだ、C級冒険者様だぞ!!畳んじまうぞ!!」
なにやら威勢のいいことを言っているんだが怒鳴り声がさらにでかくなったところで、立ち上がっていた男たちによって手早く店の外に連れ出された。
看板娘ちゃんも少し心配そうにしていたが、直ぐに外から客の男達はもどってきて安心させるためか看板娘ちゃんに声をかけ食事の続きをしにいった。
冒険者と名乗った連中は口だけだったようで店先に転がされてるんだろうな。
しかし、美味い!!
私はどうでもいいとばかりに残りの料理を胃の中に収めていった。




